比較宗教学講義Ⅰ 九州の比較宗教学 201400607 第8回福岡の宗教④個人投資家 [email protected] 飯嶋 秀治 Ⅰ.前回の続き 1.小さなまとめ 『玄牝』の吉村医院 血縁 イエスの方舟 非血縁 「死を超える」「永遠のいのち」 殺生与奪 「鬼を払う」「福を招く」 血縁 檀那寺・氏神社への参詣 非血縁 年中行事 内的には自明だが、外的には不明な事態→「信じてる」言説へ 2.銀座の神々 3.高度経済成長期以降 [小松2002] • 神なき時代の民俗 ①行事の主体(共同体の顔見知りから見知らぬ個人へ) ②ハレのケ化(消費社会におけるハレの衣食の常設化:都市 の飲食店、映画館、劇場、遊技施設、百貨店等) ③ケのハレ化(コンビニ、ふるさと、テーマパーク、旅行、イベ ント、まちおこし) Cosmos(宇宙) ハレ Caos(混沌) Nomos(規範) ケガレ ケ 4.試図化 個人 個人信 仰者 人格(自 己)崇拝 百貨店 他称 自称 信仰集 団 銀座の神々 集団 表敬(品 行)実践 Ⅱ.個人投資家の研究 1.マクロ経済学からミクロ経済学へ [以下、10まで飯嶋2011] • マクロ経済学的現象 ①グローバル経済学 [ウォーラーステイン1997(1995); Wallerstein,1991(1990);ガルトゥング1991(1971)cf.マルクス] ②国際機関経済学 [ブルデュー2001(2000) ;スティグリッツ2002(2002)cf.ケインズ] ③先進諸国経済学 [ベック、ギデンズ&ラッシュ1997(1994);ブルデュー2000(1998)cf.ウェーバー] ④グローバル・シティ経済学 [フリードマン1997(1986);サッセン2003(2001)cf.スミス] グロディヴィヂュアル (Global + Individual) ⑤グローバル集団経済学 [ポランニー1980(1977);サーリンズサーリンズ1984(1972);宮崎2002;田中&A SEED JAPANエコ貯金プロジェクト編2008cf.ヴェブレン] ⑥個人経済学 [ハイルブローナー2001(1999):7章cf.ノイマン&モルゲンシュタイン] • ミクロ経済学的現象 2.対象と方法 • 対象 • 方法 個人投資家 インタヴュー(200612~200701の各 2時間) KJ法で分類→考察 ①条件:関心、学習 ②どのように世界とつき合うのか? 人 家 生 生 年 性 続 学 職 名 庭 年 地 齢 別 柄 歴 業 A さ ん 会 北 社 九 員 州 B さ ん C さ ん 会 新 社 宿 員 一 九 七 五 三 男 長 修 非 一 男 士 常 勤 一 九 八 三 二 男 三 一 九 七 三 三 男 長 学 運 三 男 士 送 業 学 バ 士 イ ト ③装置:語彙、四季報、テクニカル 分析、理論 ④何が変わってしまったのか? ⑤世界:投資仲間、投資先の変化と 安定化、人間性 ⑥自然的表象の力 3.条件:関心の背景、学習 • 関心の背景 A さ ん 2004年、職場の駐車場で車をぶつけ、保険を20 万円支払うことになり、「お金って何だろう」と経済 一般に興味を持始め、ある日、朝のテレビ番組で 株特集があり、「好きな仕事をやっていて稼げる」 ことが重要だが、心理職は「好きな仕事」だが、年 収1千万さえ無理があり、現在「独身」だったとい うこともあり、「稼げる」方法と思う B さ ん チャップリンの『殺人狂時代』、黒澤の『天国と地 獄』やダグラスの『ウォール街』を見、小説でも モームの『人間の絆』や、『月と六ペンス』の登場 人物などに「株」が人生を左右する不可解な要因 として登場しており、大学に入学後「アルバイトを やれるけど、何も買いたいものがなくて、…で、「2 年になったらやろう」と。その頃株ブームがあって、 あと『金持ち父さん、貧乏父さん』がベストセラー になってて下地ができた C さ ん 3年前ぐらいからかな?先物[取引]をやっている 友人がいて…わからんかったけんが『そうしたらい いかね』って訊いたら、『今じゃったら、インター ネットがいいだろうね』ってことで[勧められた] • 通過儀礼(投資会社、 投資学校、書籍) A さ ん 一月の間に1万円分位の書籍を購入し、購入 した本には、バフェツトの『投資の王道』『金持 ち父さん、貧乏父さん』があり、それには影響 を受けた。仕組みを調べた後はネット証券の 口座を開設するが、「イー・トレード」「カブドット コム」「楽天」「マネックス」「松井証券」がある中 で「評判が良い」のと「取引手数料の安さ」で 「イー・トレード」を選び、開設当初は30万円振 り込んだ B さ ん インターネットが普及して、株式売買の手続き が自由化されるんですよ。[彼の知識は後に 彼が参加した投資学校の講座の中で聞いた]。 当時開設した口座は「イー・トレード」と「カブ ドットコム」で、その後「楽天」。「イー・トレード」 は業界の中でも安い。「カブドットコム」「楽天」 は[情報表示の]ソフトが良い C さ ん 「今じゃったらインターネットがいいだろうね」っ てことで、当時、松井証券を勧められて口座を 開いたんだよね。最初に資料が来て署名をし たりして申し込んで、OKがでたら、振り込んで、 その時30万円くらいいれて 4.どのように世界とつき合うようになるのか? A さ ん 最初に「買」ったのは「レオパレス21」(2004年3月)で、選んだ理由は「敷金・礼金0」の「単身者向け住 宅」は将来性があり、「藤原紀香のCM」イメージ、インターネットを調べたところ「老人向けマンションを作 る」等のビジョンが書いてあり、「いいな」と思い、17万円購入した。Aさんの場合株式投資では「『信用』 が大切」ということで、ソフトバンクの株を購入したのも、[当時の]社長の北尾さんが、あるところで「強い 企業から強くて尊敬される企業」を目指している等の発言を聞いたことに依ったという。なので逆に「買 い」を回避する時は、「[ライブドアのホリエモンは]言っていることが『何だかな』と思って買わなかった。 B さ ん Bさんに関しては最初に買った株は覚えていないとのことで、沈黙があり、「あ、でも、どうしようかな、 言っても分からない、皆知らない会社なんですよ…あ、まぁゼミでも言ったことのある会社として、ずっと 見てるのは例えばカルピスとかですね。あそこは財務が良好ですし、冬は低くて春は高いっていうリズム もよかったんでよく売買しますね。[今まで1000弱位の売買をしてきた]大体僕の場合は『会社四季報』を 見てですね僕の場合は秋から冬の3ヶ月だけしかやならいですね。この時期以外はウマが合わないん で。[Bさんの場合インフォーマントの中でも突出して売買を行っているが]売る理由は「ずっと保有してい る株というのはないですね。自信があんまないって言うか、ずっと持っているのを「塩漬け」って言うんで すけど、気分が悪いんですよ C さ ん 知らんかったから、最初、知ってるところにしようと思ってMr Maxがあったから、しかも当時、3万円くらい だったかな、安かったんだよね。それとかほっかほっか弁当?美味いから[今まで全部で10社位に投資 をしてきた]。[ライブドアの場合]新興市場で、まだ海のものとも山のものとも分からんちゅうのがあったね。 それに、何をやってる会社なのかもよく分からなかったもんね。ホリエモンの手法は怪しかった。[売らな い理由は]2~3万儲かったけど、普通に下がり目で5万円下がったところで売って、もう投げ捨て。それ と高値違いで、[ある会社の株価が]上がって一番高い値で買ってしまって、下がっていったりね。…(中 略)…売るに売れない 5.装置:語彙、四季報、テクニカル分析、理論 • 語彙 e.g.「単元株数」「ディトレード」etc • 『会社四季報』 • テクニカル分析 e.g.トレンド系/オシレーター系指標 • 理論 e.g.サザエさん指標 6.何が変わってしまったのか? • インタレスト(関心、利益) • ギャンブル性 • リスク(恐さ、危険) A さ ん B さ ん C さ B ん さ ん B さ C ん さ C ん さ ん 今までで焦ったのは、「レオパレス21」の社長が 最初の頃は、毎日ギャンブル気分なった。毎日 企業を応援している感じがする。[また、株の世 の株価の上がり下がりを見ていると、「これを お金を不正流用していたというニュースが流れ 界が分かってくると]経済に興味があるため、つ やっていたらギャンブルをやる必要はないな」と た時で、その時は夜のニュースで知った。翌日 ながりが分かってくることが面白い。例えば中 思った になると株価がバーッと下がり、「ストップ安」に 国でデモがあった時、株価がガクッと下がった なり、また翌日も同じように下がったため、当初 ことがあったし、自民党が勝つと株価が上がる 面白いとは思うんですよ。お金が増える増えな 17万円購入していた株が一時は50万円になっ などが経験的に分かってくると小泉は好きでは いっていうのは。ピンボールやってるような気 ていたのが、この時の下落で30万円代にまで下 ないが、自民党は応援したくなったりする 分というか、スコアっていうか、ギャンブルです がって、現在もプラス20万円で「マイナスには 何だかんだいって、世の中に興味が出てくるよ からね。ギャンブルなんだけど、それほど楽しく なってない」が一時は「どうしよう」と思った ね。特にニュースを聞いてて面白くなるよね。 ないのは、ホラ、「ディープインパクト走れ~!」 『今日の平均株相場』とか『日経平均』とか、そ とかないじゃないですか。盛り上がりって言うか やっぱり、こう金銭感覚が違ってくることですか れまで何の事だかさっぱり分からない暗号だっ ですね。むしろパチプロ何かと同じで地味です ね。だって、時給750円の世界と数秒で何百万 たのが意味を持ってくる からね。デイトレードなんて、朝から晩まで機械 の世界とですからね 的に売買しますし。…まぁ存している人ほど面 白いですよ。ショックはデカイですけど、「あぁ、 ・・・でそうしたら、1週間に1日の給料が手に入 俺はダメ人間だぁ」っていうのが面白いんです るような感じになる訳ですよ、月曜から金曜ま よ やっぱり損をすることだよね で。一番最初は全体としては損をしてたんです よ。30万から50万で、まぁ0になるっていうのは 先物をするときは何だかんだ言って手が震える 会社が潰れるって事ですから大体、週に1~2 こともあった。株をやっている人間の間でも、 万儲けて、で、最初の年の秋から冬にかけては 「先物をやっている」と言うと「こりゃぁいかん」 大きく儲かったんですよ。400万円弱かな 「頭がおかしい」と思われる 7.世界:投資仲間、投資先の変化と安定化、人間性 • 投資仲間 A さ ん • 投資先の変化と安定化 • 人間性 B B さ さ ん ん B さ C ん さ C ん さ C ん さ ん 自分が株をやっていることは、特に心理の同業 結局デイトレードは一日株式情報に張り付ける訳 飲食店でのインタヴューであったが、飲食物の 者には積極的に話しているが、これには仲間 ではないし、スイングでも時間がなかったり、翌日 注文をしてくれ、話の最中も、臨床家らしく、話に 探しの側面と、心理の人にはこうしたことに疎 の仕事があったことなどもあったが、いずれは上 のめり込むでもなく、かといって、覚めて引くわけ がると考え「損きり」はしたことはない。[株の面白 い人が多いのではないか、ということを考えて でもなく、同じ距離感覚を保って淡々と話をして 味を]企業を応援している感じがする[地点に求め いた そうしている。そうしても実際にやっている人は たため、]悪いニュースが流れても、それほど簡単 殆どおらず、身の回りでは一人か二人で、一人 には動かないようになっていた の女性はおばさんがやっていたのでやりはじめ たが、余り人に積極的には言おうとしない感じ ハイパー・イー・トレードを始めた。例えば2000円 がするし、もう1人の男性は、学生時代に経済 私が生協のカードを渡して「好きな物でも買って で100株単位だと20万から何ですけど、デイト 学部であったことがあってか、普通に話をする おいてくれ」と言い渡して会ってみると、彼は2人 レードで1000株から10000株になれば、200万か が、心理の同業者という枠組みを外しても、身 分のみたらし団子、うまか棒、串カツ(合計279 ら2000万になる訳でしょう。普通は2000円で10円 の回りでやっているのは3人くらい。[自分も]家 円)を購入して待っていた。話し方はとつとつと 単位ですから、2010円、2020円、2030円て増える 族には当初は話してなかったが、やや順調に 話をして、保有株や株の話の共有のところでは んですけど、100株を1単位とすると、1000円、 伸びてきた数ヵ月後に話題にした やや躊躇う場面もあったが、それ以外は笑い話 1000株で1万円、10000株なら10万円ですから、 にもってゆくことが多かった [投資学校を介して、41歳無職の男性、50代不 戻ってくることもありますけど、1分で100万円損 動産業の男性、63歳投資学校講師の男性など することもあるんですよ。マイナス100万を抱えて 彼の部屋でのインタヴューになったが、6畳一間 と知己になっているが]仕手株って言って、皆で 生きるのがどれだけ苦痛かですねぇ… の部屋には様々なのもが散乱した部屋の真ん 口裏を合わせて株を売り買いするって、違法行 流行り廃りをいじったことはないから。そういうと 中に炬燵があり、その上にコンピューターが1台 為なんです ころは意外と高くてね。それに種金が30だから。 あったが、話の間中、コンピューターはYahoo 50万あると信用取引ができるんだけどね[但し、 掲示板だね。同じ趣味をもっている友人はなか Financeから株と先物を表示するのに駆使された。 なか見つからないし。[これまで話をしてくれたこ そこまで行くまでに信用取引や先物取引で]トウ Cさん自身はいつも通り、素朴な人柄の合間に笑 ともかなりは]ネット、ネット、ネットの掲示板でや モロコシに100万円、次にコーヒー豆の先物を い話が噴き出すトーンで話をしてくれた りとりしてるんだよね やったことがあった 8.考察 • 3人の株を始める背景には、共通の属性が幾つかあった。家庭に関しては、 3人共に父親の職業はいずれも第三次産業のサラリーマンで、本人は高度経 済成長期以降に都市で生まれ、年齢的には23歳から33歳、いずれも男性で あるのみならず、長男であった。生育を見ると、3人とも高学歴であったが、そ の職場は対人関係がやや安定しない職場であった。 • 株を始める背景を見ると、2人はマスメディアが人生を決める判断材料を提供 しており、あとの1人も人生を決める判断材料が周囲の動きであり、これと いった目的を喪失しているようなところがある半面、知的な関心が高いことも あり周囲に適応する力をもっているというところがあった。また3人とも独身で あったが、当該の職場だけでは安定した収入が十分に得られない環境にあっ た。個人投資に手を出す時、その一面を支えたのは、個人投資の仕組みを理 解する教養であり、3人は上述の背景から、これを乗り越えたし、他面を支え たのは投資会社の歩み寄りの結果もあった(『金持ち父さん、貧乏父さん』は マスメディアの中でも彼らに特に影響を及ぼしたようだ)。 9.考察② • 株の個人投資は、3人とも利益を得るために始めるのであるから、3人ともその前 提を破棄することはなかったが、それに抵触しない限りでの選択肢には個性が認 められた。最初に見知らぬ環境に足を踏み込んだ3人は、「知っている会社」、「将 来性のある会社」を選ぶ傾向にあったが、その後、余裕が出てくると特に「買い」 では各人の対人関係が反映しているような個性的選好が観察された。 • 株式市場は基本的に予測不可能な変動性に支配された両義的環境である。それ ゆえ、3人はそれぞれのやり方とペースに沿いながら『会社四季報』、テクニカル 分析、理論などを用いて、変動する環境を飼いならす語彙を獲得していったので あった。 • そうして入った株の個人投資の世界では、「インタレスト(関心、金利)」と「リスク (恐れ、危険)」との間で動揺することになり、その感覚は3人に「ギャンブル」を思 いつかせるものであった。 • ならば、語彙意外にも不安を飼いならすためになんとかしたいはずだが、株の ギャンブル性はむしろ、仲間以外には打ち明けられない構造を作り、かつ、仕手 株は違法行為なので、個人投資を通じて他人と深い関わりはできないという構図 が見て取れた。ならば投資先を安定したものにせざるを得ないはずであり、Aさん は投資の相手と長期スパンを姿勢にすることで安定化し、Bさんはハイパー・イー・ トレードの後にウマの合う取引方法を身につけ、さらにCさんは信用取引、先物取 引に手を出した揚句、種金30万円にまで戻った。 10.呪術と自然的表象 • こうした両義的環境の中で、自らを安定化させる諸装置が、世界の相関性を 読み解くことであり、その世界は殆ど、電気ショックの徴候を読もうとするラッ トのような速さで、スタニスワフ・レムのSF小説『枯草熱』[レム1979(1976)] のような思いもかけない結びつきにさえすがりつくのであった。 • こうした人々の漂着点が、チャートに表象される「波」であったことは興味深 い。「波」はリズミカルに、上がる時もあれば下がる時もある。しかし、それは 絶えることはない。それに自らを重ね合わせることで、世界と自己との関係 を飼いならすその技法は、世界中に見られる、動植物の循環リズムに自らを 重ね合わせる呪術の技法[竹沢1987]と殆ど同じであると言いたくなるほどで ある。呪術の不思議を研究するのに、遠い海外に行く必要はなく、あたかも この後期資本主義の中央の、最先端と思われる金融市場の中に、それは顔 を見せているかのようである。 Ⅲ. 宗教としての資本主義 1.新約聖書 • 「旧約聖書」 • 「新約聖書」 マタイによる福音書 マルコによる福音書 ルカによる福音書 ヨハネによる福音書 使徒行伝 ローマ人への手紙 コリント人への第一の手紙 コリント人への第二の手紙 ガラテヤ人への手紙 エペソ人への手紙 ピリピ人への手紙 コロサイ人への手紙 テサロニケ人への第一の手紙 テサロニケ人への第二の手紙 テモテへの第一の手紙 テモテへの第二の手紙 テトスへの手紙 ピレモンへの手紙 ヘブル人への手紙 ヤコブの手紙 ペテロの手紙 ヨハネの第一の手紙 ヨハネの第二の手紙 ヨハネの第三の手紙 ユダの手紙 ヨハネの黙示録 2.カトリックからプロテスタント、プロテスタン ティズムの倫理から資本主義の精神へ [ウェーバー1905] • 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 キリスト教プロテスタント派 ①Catholic「免罪符」 ②Protest(異論) ルター、カルヴァンetc 堅信の証:教会→信仰 救済の決定者:神 確信の不在:不安 →(A)天職、(B)世俗内禁欲 →プロテスタンティズムの倫理 →「脱魔術化」「合理化」による資本主義の精神から生 まれた「精神なき専門人、魂なき享楽人」 3.資本主義の物質的起源 • 歴史的資本主義 [ウォーラーステイン1997(1983) ] ①15c末ヨーロッパ:近代資本主義システム誕生 ②16c~18c資本を最大化する方法 (A)生産コストの切り下げ →家族全員への賃金>家族1人への賃金→中核=第 二次産業(工業)化と周辺=第一次(農林漁)産業 間での「人種」差別 →女性>男性→再生産・受動的女性像と生産・能動 的男性像による「性」差別 (B)資本家間の競合勝利(予測、労働管理、独占市場 等) →多民族労働>一民族労働e.g.17cのオランダ・19cのイ ギリス・20cのアメリカ→民族紛争と「民族」差別 (C)中核(国)の(軍事)強化と周辺(国)の弱体化 →世界帝国>世界経済→学問の「普遍的」「真理」に よる「合理主義」「能力主義」という言説生産 e.g.アダム・スミス(1723-1790)等の経済学:「需要と供給に よる価格決定」「自由市場」 cf.医学・生物学・心理学:「母性本能」「ヒステリー」等「女性 特有の本質」の創造 cf.エドワード・タイラ-(1832-1917)等の人類学:「人種」「社 会進化」論 4.生産と消費の現場 バナナ・エビ・コーヒー・マグロ等 [鶴見1982;村井1988] 「ダバオの生産の現場では、二つのこと が起こっている。その一つは、いうまでも なく、農家、労働者が搾取され、貧しく なっていることだ。もう一つは、クリス チャン・フィリピノ、モロ族、バゴボ族など、 どのような集団であれ、その自立的・能 動的な主体としての成長が、麻農園から バナナ農園へという外国企業の進出に よってぼろぼろに傷つけられていること だ。かれらの自己主張は、さまざまな暴 力装置によって、封じ込められている。 /かれらの主体性回復、解放は、つき つめていえば、かれら当事者のみが果 たせる問題だろう。しかし、当事者と書い たが、バナナについては、それを受け入 れ食べている私たち日本人も、その限り においては当事者である。」 [鶴見1982: 224] 消費社会の神話と構造 [ボードリヤール1995(1970)] 「今日、われわれのまわりにはモノやサー ヴィスや物的財の増加によってもたらされ た消費と豊かさというあまりにも自明な事 実が存在して・・・いる。すなわち、豊になっ た人間たちは、これまでのどの時代にもそ うであったように他の人間に取り囲まれて いるのではもはやなく、モノによって取り巻 かれている」[11-12]「消費社会が存在する ためにはモノが必要である。もっと正確に いえば、モノの破壊が必要である」 [46] 「今日必要とされており、また実際かけが えのない個人とは、消費者としての個人に ほかならない」 [105]「欲求とはけっしてある 特定のモノへの欲求ではなくて、差異への 欲求(社会的な意味への欲望)であること を認めるなら、完全な満足などというもの は存在しない…ということが理解できるだろ う」 [95] 5.身近な消費 [2009年文化人類学講義受講者より] • 植物 • 動物 ①リョ―ユー食パン(-)←アメリカ、カ ナダ、オーストラリア ②有機たけのこ水煮(アルク小倉東 店)←中国福建省厦門市集美 ③マルキン食品有機とうふミニ4パッ ク入り(ルミエール箱崎店)←中国 吉林省敦化塔拉農場 ④マルキン食品納豆(-)←アメリカ合 衆国ミネソタ州ダーウィン、プラトー、 ブースアー、イーブルレイク地域等 ⑤タリーズ本日のコーヒー←グアテマ ラ、ブラジル等 ⑥明星一平ちゃんの小麦粉(-)← オーストラリア、カナダ ①レトルト・ビーフカレー(-)←アメリ カ、オーストラリア ②たっぷり具材のミートソース(ローソ ン)←オーストラリア ③森永製菓牛乳ゼリーのクックゼラ チン(-)←タイ・インド ④とり天定食(九大理農食堂)←ブラ ジル ⑤よせ鍋のトラウトサーモン(-)←チ リ ⑥フィッシュバーガーの白身魚[ホキ] (モスバーガー天神北店)←ニュー ジーランド ⑦エビ焼グラタン(ポプラ)←インド ⑧エビチリのブラックタイガー(-)← スリランカ 6.小売りと投資の接点としての岩田屋 [友枝1957;岩田屋編集史経営委員会編1986;「闘い続けた55年の記録」編集委員会編2001 ] 岩田屋経営略史 1754呉服商創業(中牟田藤兵 衛) 1935百貨店を企画し、資本金 50万円で株式会社岩田屋 設立 1946岩田屋労働組合設立 1949福岡証券取引所に上場 1957労働争議 2005伊勢丹の連結子会社に 2009最後の有価証券報告書 7.国際貿易と投資の連鎖構造 紙・鉄・鉱物と投資の接点とし ての貿易会社[NHK取材班1990 ;細 川1999;2001;2003;伊藤2000;二宮編2006] 戦争・国債・貯蓄の連鎖構造[田中& A SEED JAPANエコ貯金プロジェクト編2008] 8.情報と投資の接点としてのメディア会社 • 全国放送と全国紙の関係[本郷 2001cf.ブルデュー2000(1996)] ①日本テレビ ←読売新聞 ②Tokyo Broadcasting System ←東京放送ホールディングス(←元毎 日新聞) ③フジテレビ ←フジテレビホールディングス(←元日 本放送) ④テレビ朝日 ←朝日新聞 ⑤テレビ東京 ←日本経済新聞 • 福岡のメディア圏構造 言語メディア圏 日本語 ↑ 映像メディア圏 テレビ局(FBS福岡放送、RKB毎日放 送、TNCテレビ西日本、KBC九州 朝日放送、TVQ九州放送) ↑ 文字メディア圏 新聞(西日本新聞) ↑ 大株主 9.個人投資と自然的表象内外の格差 • 前半で見た個人投資家の行為は、金融市場を通じて、地球の裏側まで影響 する。実際、個人投資の中核国、アメリカのウォール街を拠点とした投資は、 1980年代から90年代にかけて、IMF(国際通貨基金)と足並みをそろえて、 世界的な猛威をふるったことを経済学者スティグリッツが告発している[ス ティグリッツ2002(2002)]。 • 象徴的なのが1997年のタイ・バーツの下落であり、この余波はマレーシア、 韓国、フィリピン、インドネシア、ブラジル、中国までに至り、この時、失業率 が韓国で4倍、タイで3倍、インドネシアでは10倍に跳ね上がり、韓国では都 市の貧困層が3倍になり、人口の約1/4が貧困層に転落、インドネシアで は貧困層が2倍になった[スティグリッツ2002 (2002):146-7]。 • こうして、内なる人間性を守り、あるいは育てたかもしれない個人投資の企 ては、しかし、別の次元で人間性を確かに失わせているように思われる。そ の界面にあるのがモニター上の「自然的表象」であり、その内での人々は守 られるのだが、その行為が実際には、外への作用があるにも関わらず、そう した作用を知らずに済ませられてしまうという事態である。それゆえ「自然的 表象」は、内なる安定化に作用すると同時に、外なる不安定化にも作用しう る表象であり、ここが、一つに、いわゆる呪術とは異なる点なのかもしれない。 10.投資の図式化 IMF 日本国債☆ アメリカ国債☆ 第三世界☆ 中央銀行・中央郵便局△ 広告・電力・鉄・製紙会社△ 銀行・郵便局□ 会社□ テレビ局□ 個人○ 新聞社□ Ⅳ.まとめ 1.福岡の宗教での試図化 カトリック 知識・信仰 集団 プロテスタント 自称 他称 個人 自然宗教 行動・実践 2.宗教と非宗教の領域 イエスの方舟 年中行事 個人良投資家 都市 百貨店 中核国 周辺諸国 プロテスタンティズム倫理と資本主義精神+アフリカ・アジア・ラテンアメリカの物質 参考文献 飯嶋秀治2009「アクションを待つフィールド」、『九州人類学会報』第36号:1-4 飯嶋秀治2011「経済学と人類学―個人投資家の事例から」、『九州人類学会報』第38号:103-112 伊藤孝司2000『日本が破壊する世界遺産』風媒社 Wallerstein, Immanuel 1991(1990)“Culture as the Ideological Battleground of the Modern World-System”., In Mike Featherstone ed. Global Culture: Nationalism, Globalization and Modernity; A Theory, Culture and Society Issue, SAGE Publications.:31-55 ウォーラーステイン、イマニュエル1997(1995)『新版 史的システムとしての資本主義』川北稔訳 岩波書店 NHK取材班1990『NHKスペシャル[シリーズ21世紀]地球は救えるか1 熱帯雨林消滅 国境を越える公害』日本放 送出版協会 ガルトゥング、ヨハン1991(1971)「帝国主義の構造理論」、『構造的暴力と平和』高柳 先男、塩屋 保、酒井 由美子 訳 中央大学出版局:67-139 サッセン、サスキア2003(2001)「都市に内在する新たな不平等」 尾麻子訳、『現代思想』5月号:86-103 佐藤研編訳2005『福音書共観表』岩波書店 サーリンズ、マーシャル1984(1972)『石器時代の経済学』山内 昶訳 法政大学出版局 スティグリッツ、ジョセフE.2002(2002)『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』鈴木主税訳 徳間書店 竹沢尚一郎1987『象徴と権力 儀礼の一般理論』勁草書房 田中麻美2008『フェアトレードの目的を達成するために~販売の現場をフィールドにして~ 』九州大学比較宗教 学研究室卒業論文 田中優&A SEED JAPANエコ貯金プロジェクト編2008『おカネで世界を変える30の方法』合同出版 鶴見良行1982『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ―』岩波新書 Davis,Charlotte Aull2008(1998) Reflexive Ethnography: A Guide to Researching Selves and Others.Routledge 東京証券取引所ほか2005『平成17年度株式分布状況調査の調査結果について』東京証券取引所ほか 二宮健二編2006『データブック・オブ・ザ・ワールド2006 年版世界各国要覧と最新統計』二宮書店 徳永俊史2005「個人投資に関する統計資料」、三菱信託銀行『視点』2005年6月号:1-11 日巻寿夫2007『個人投資家のエスノグラフィ~株と契ってみえるもの~』九州大学比較宗教学研究室卒業論文 ハイルブローナー、ロバートL.2001(1999)『入門経済思想史 世俗の思想家たち』八木甫ほか訳 ちくま学芸文庫 フリードマン、ジョン1997(1986)「世界都市仮説」、ポールL.レノックス&ピーターJ.テイラー共編『世界都市の論理』 藤田 直晴編訳 鹿島出版会:191-201 ブルデュー、ピエール2000(1998)『シリーズ社会批判 市場独裁主義批判』加藤晴久訳 藤原書店 ブルデュー、ピエール2000(1996)『メディア批判』櫻本陽一訳 藤原書店 ブルデュー、ピエール2001(2000)『新しい社会運動―ネオ・リベラリズムと新しい支配形態』ピエール・ブルデュー 来日記念講演2000 加藤 晴久編集・構成/訳・解説 藤原書店 ベック、ウルリッヒ、アンソニー・ギデンズ&スコット・ラッシュ1997(1994)『再帰的近代化―近現代における政治、 伝統、美的原理』松尾 精文、小幡 正敏、叶堂 隆三訳 而立書房 細川弘明1999「先住民運動と環境保護の切り結ぶところ―オーストラリアの事例を中心に」、福井義・秋道智彌・ 田中耕司編『環境の豊かさをもとめて―理念と運動』講座 人間と環境 第12巻 昭和堂:170-188 ポランニー、カール1980(1977)『人間の経済Ⅰ 市場社会の虚構性』 玉野井芳郎・栗本慎一郎訳 岩波現代選 書 本郷美則 2000『新聞があぶない』文春新書 宮崎広和2002「改革と希望―証券トレーダーたちの転職」、小馬徹編『くらしの文化人類学5 カネと人生』雄山 閣:268-280 村井吉敬1988『エビと日本人』岩波新書 モーリス=スズキ、テッサ2002『批判的想像力のために―グローバル化時代の日本』平凡社 アーガイルピンクダイアモンドセンター http://www.argylepinkdiamonds.com.au/ja/pink_diamonds_tender.asp (最終閲覧2012年6月7日) アジア太平洋資料センター http://www.parc-jp.org/ (最終閲覧2012年6月7日) EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork) http://info.edinet-fsa.go.jp/ (最終閲覧2012年6月7日)
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