第12回

契約法各論講義
労務提供契約(その2)
明治学院大学法学部教授
加賀山 茂
2014/12/16
Lecture on Contract
1
請負契約,委任・準委任契約
目次(下枠の




解除
適用除外
存続期間とその伸長
特別法による売買と請負の担保責任との接近
免責特約

2014/12/16
注文者による契約の解除
注文者の破産と請負人の解除
任意解除権





専門家と素人の協働の実現
解除の将来効
委任契約の終了事由



Lecture on Contract
報酬支払い
費用の前払
立替費用償還義務
代弁済・担保供与義務
損害賠償責任
委任契約の終了


善管注意義務
報告義務
物の引渡義務,権利の移転義務
金銭消費の責任
委任者の義務





請負債務の同時履行と先履行
仕事の完成と所有権の帰属
請負契約の終了


受任者の義務




請負人の担保責任






委任契約の意義と性質
委任契約の効力
請負の意義
製作物供給契約
下請契約
請負契約の効力





役務提供契約の比較
請負契約の意義と性質




をクリックすると,この目次に戻る)
当事者の死亡
当事者の破産手続の開始
受任者の後見開始の審判
委任契約終了後の処分
委任契約終了の対抗要件
参考文献
2
無償
(返還不要)
財産権を
移転する
典
型
契
約
の
体
系
2. 売買
対価が物
3. 交換
返還必要
物の利用
典型契約
4. 消費貸借
無償
5. 使用貸借
有償
6. 賃貸借
従属的
(時間決めで)
役務の提供
独立的
(財産権を
移転しない)
7. 雇用
仕事の完成
8. 請負
事務の処理
9. 委任
物を預かり
返還する
10. 寄託
団体形成
11. 組合
年金事業
12. 終身
定期金
事業を営む
紛争の解決
2014/12/16
対価が金銭
有償
返還必要
→請負の冒頭条文
→所有権の帰属
1. 贈与
Lecture on Contract
13. 和解
3
典型契約の当事者の呼び方
贈与
請負
贈与者
受贈者
注文者
売買
委任
売主
買主
委任者
交換
交換当事者
寄託者
消費貸借,使用貸借
貸主
借主
組合員
組合員
終身定期金
終身定期金債権者
終身定期金債務者
賃借人
雇用
2014/12/16
受寄者
組合
賃貸借
使用者(雇主)
受任者
寄託
交換当事者
賃貸人
請負人
和解
労働者(被用者)
和解当事者
Lecture on Contract
和解当事者
4
役務提供契約の比較→体系図
契約の種類
契約の内容
債務の種類
雇用
使用者の支配の下
で,時間決めで労務
を提供する。
手段債務
請負
独立して,仕事を完
成する。
結果債務
委任
独立して,事務を処
理する。
手段債務
寄託
物を一定期間預かり,
その後返還する。
手段債務
2014/12/16
Lecture on Contract
5
請負契約
 第1節 請負契約の意義と性質
 第2節 請負契約の効力
 第3節 請負契約の終了
2014/12/16
Lecture on Contract
6
請負契約の意義と性質
1.
2.
3.
4.
5.
2014/12/16
請負契約の性質は何か?
役務提供契約の中での請負契約の特色は何か?
製作物供給契約とはどのような契約か?
下請契約とはどのような契約か?
注文者と下請人との間に直接の関係は生じるか?
Lecture on Contract
7
請負契約の意義と性質→体系
 役務提供契約
 第632条(請負)
 請負は,当事者の一
方がある仕事を完成
することを約し,
 相手方がその仕事の
結果に対してその報
酬を支払うことを約す
ることによって,
 その効力を生ずる。
 諾成・有償・双務契約
 冒頭条文だけで明確
2014/12/16
 結果債務(請負が典型例)
 特定の結果を達成する債務
 手段の債務(委任契約な
ど)
 履行につき,最善の努力を
する債務(→最一判昭41・9・
8民集20巻7号1325頁)
 報酬の支払
 同時履行(引渡の場合)
 後払い(引渡なしの場合)
 役務の提供は,先履行
Lecture on Contract
8
製作物供給契約
 製作物供給契約の定義
 請負人が材料を提供する場合には,請負
人から注文者へと財産権が移転するため,
売買と解され,
 契約当事者の一方が相手方の注文に応
じて自己の所有する材料で製作したもの
を供給することを約し,注文主がこれに対
価を払うことを約して成立する契約。
 製造物供給契約・請負供給契約ともいう。
 注文者が材料を提供する場合には仕事
の完成が目的となるので,請負と解される。
 実質的には,前者につき注文者の瑕疵修
補請求権・解除権など(民法634条,641条,
636条)の適用(準用)は肯定されてよく,
後者についても代金の支払や果実に関す
る規定(民法573条~575条)の適用があ
りうる。
 典型例
 請負人が材料を供給して行う家屋建築や
注文服・注文家具,印鑑の製作など。
 性質
 注文に応じての制作は,仕事の完成を目
的とする請負的要素を含み,
 立法の動向
 製作物の供給による所有権移転は売買
的要素も含む。
 通説は請負と売買の混合契約と解し,特
約がない場合には製作には請負の規定
を,供給については売買の規定を適用す
べきであるとする。
2014/12/16
Lecture on Contract
 住宅の品質確保の促進等に関する法律
第94条,95条は,建売住宅(売買)と注文
建築の場合にも,同様の担保責任を負わ
せるようにしており,売買と請負との区別
は薄れてきている。
9
下請契約
下請契約
下請人
 定義
下請債権
 請負人(元請人)が請け負った仕事
の全部又は一部を,第三者(下請
人)にさらに請け負わせること。
移転
前
適
払
法
の
抗
抗
弁
弁
 典型例
 家屋の建築を請け負った大工が,
内装を専門業者に請け負わせる場
合など。
 下請の許容の理由
 請負は仕事の完成を目的とするか
ら,下請負が許される。
請
請
負
負
料
料
債
債
権
権
請
負
契
約
注文者
 ただし,一括下請負(丸投げ)につい
ては,注文者の承諾が必要とされる
ことがある(建設業法第22条)。
 通説批判
 直接の権利・義務関係
 下請負は元請人と下請人との間の
請負契約であるから,請負人が下
請人を利用しても,注文者と下請人
との間に直接の法律関係が生ずる
わけではない(通説)。
2014/12/16
請負人
(元請人)
Lecture on Contract
 請負人が下請代金債務の履行のために,
請負代金の支払いを自らではなく,下請
人に支払うように約束することができる。
 この場合,下請人が受益の意思表示をす
ると,下請人は,注文者に対して直接に請
負代金を請求することができる。
 民法613条を類推することも可能である。
10
請負契約の効力
1.
2.
3.
4.
5.
2014/12/16
仕事の完成と報酬請求とはどのような関係にあるか?
完成した目的物の所有権は誰に帰属するか?
請負人はどのような担保責任を負うか?
特定履行,損害賠償,解除のそれぞれの要件は?
担保責任の存続期間は?
Lecture on Contract
11
請負上の債務の
同時履行と先履行→図解
 第633条(報酬の
支払時期)
 報酬は,仕事の
目的物の引渡し
と同時に,支払わ
なければならない。
 ただし,物の引渡
しを要しないとき
は,第624条第1
項〔報酬の支払
時期・労務の提
供の後〕の規定を
準用する。
2014/12/16
 同時履行か先履行か
 同時履行の関係
 請負の目的は仕事を完成することで
あり,仕事の完成と報酬の支払いと
が広い意味で同時履行となる。
 請負の目的物を引き渡す場合に,引
渡と報酬の支払いとが同時履行とな
るのはその理由に基づく。
 先履行の関係
 しかし,請負人の立場からすれば,報
酬を受け取る前から,役務の提供を
はじめるわけであるから,役務の提供
が先履行となる。
Lecture on Contract
12
同時履行と先履行との統合→条文
目的物引渡
仕事の完成
(広い意味での同時履行)
仕事の開始
(先履行)
報酬支払なし
(後払い)
報酬支払
請負契約の締結
2014/12/16
Lecture on Contract
13
完成した目的物の所有権の帰属
→契約の体系図
 特約がある場合
 通説・判例に対する
批判
 特約に従う
 特約がない場合(通説・判例)
 注文者が材料の全部または主要部分を提供した場合
 所有権は原始的に注文者に帰属する(大判昭7・5・9民集
11巻824頁)。
 請負人が材料の全部または主要部分を提供した場合
 所有権は請負人に帰属する。
 引渡によって,所有権が注文主に移転する(大判明37・6・
22民録10輯681頁)。
 注文者が代金全部または代金の大部分を支払ってい
る場合
 所有権が注文者に帰属するとの特約の存在が推認され
るため(大判昭18・7・20民集22巻660頁),
 特段の事情がない限り所有権は原始的に注文者に帰属
する(最二判昭46・3・5判時628号48頁,最二判昭44・9・
12判時572号25頁)。
2014/12/16
Lecture on Contract
 請負人の報酬債権を確
保するための手段として
は,拙劣
 請負人帰属説は,建築許
可を注文者名義でとり,注
文者名義で所有権保存登
記をするのが通例である
実務に適合していない。
 請負人は敷地利用権を持
たないため,注文者から建
物収去・土地明渡しを求め
られると対応ができない。
 請負人は,登記をすれば,
抵当権に勝る先取特権を
有しており(民法339条),
これを活用すべきである。
14
請負人の担保責任
 第634条(請負人の担保責任1)
 ①仕事の目的物に瑕疵があるとき
は,注文者は,請負人に対し,相
当の期間を定めて,その瑕疵の修
補を請求することができる。ただし,
瑕疵が重要でない場合において,
その修補に過分の費用を要すると
きは,この限りでない。
 ②注文者は,瑕疵の修補に代えて,
又はその修補とともに,損害賠償
の請求をすることができる。この場
合においては,第533条〔同時履行
の抗弁権〕の規定を準用する。
2014/12/16
Lecture on Contract
 特定履行としての修補請
求権の性質
 売買契約における売主の
担保責任との相違点
 特定履行の要件としては,
合理的な理由があること
が要求されるようになって
いる。
 「瑕疵が重要でない場合
において,その修補に過
分の費用を要するときは,
この限りでない」という規
定は,その意味でも重要
な意義を有している。
15
請負人の担保責任と解除権
 第635条〔請負人の担
保責任2〕
 最三判平14・9・24判時
1801号77頁
 仕事の目的物に瑕疵が
あり,そのために契約を
した目的を達することが
できないときは,注文者
は,契約の解除をするこ
とができる。
 ただし,建物その他の土
地の工作物については,
この限りでない。
2014/12/16
Lecture on Contract
 建築請負の仕事の目的
物である建物に重大な
瑕疵があるためにこれ
を建て替えざるを得ない
場合には,
 注文者は,請負人に対
し,建物の建て替えに要
する費用相当額を損害
として請求することがで
きる。
16
請負人の担保責任の規定の不適用
 第636条(請負人の担保責
任に関する規定の不適用)
 第716条(注文者の
責任)
 前2条の規定は,仕事の目的
物の瑕疵が注文者の供した
材料の性質又は注文者の与
えた指図によって生じたとき
は,適用しない。
 注文者は,請負人が
その仕事について第
三者に加えた損害を
賠償する責任を負わ
ない。
 ただし,請負人がその材料又
は指図が不適当であることを
知りながら告げなかったとき
は,この限りでない。
 ただし,注文又は指
図についてその注文
者に過失があったと
きは,この限りでない。
2014/12/16
Lecture on Contract
17
請負人の担保責任の存続期間
 第637条(請負人の担
保責任の存続期間1)
 第638条〔請負人の担保責任の存続期
間2〕
 ①前3条〔請負人の担
保責任〕の規定による
瑕疵の修補又は損害
賠償の請求及び契約
の解除は,仕事の目
的物を引き渡した時
から1年以内にしなけ
ればならない。
 ①建物その他の土地の工作物の請負
人は,その工作物又は地盤の瑕疵につ
いて,引渡しの後5年間その担保の責任
を負う。
 ②仕事の目的物の引
渡しを要しない場合に
は,前項の期間は,
仕事が終了した時か
ら起算する。
 ②工作物が前項の瑕疵によって滅失し,
又は損傷したときは,注文者は,その滅
失又は損傷の時から1年以内に,第634
条〔請負人の担保責任〕の規定による権
利を行使しなければならない。
2014/12/16
 ただし,この期間は,石造,土造,れん
が造,コンクリート造,金属造その他こ
れらに類する構造の工作物については,
10年とする。
Lecture on Contract
18
担保責任の期間の伸長
 第639条(担保
責任の存続期
間の伸長)
 第637条及び前
条第1項の期間
は,第167条
〔債権等の消滅
時効〕の規定に
よる消滅時効
の期間内に限
り,契約で伸長
することができ
る。
2014/12/16
 品確法 第97条(瑕疵担保責任の
期間の伸長等の特例)
 住宅新築請負契約又は新築住宅の
売買契約においては,
 請負人が第94条第1項に規定する瑕
疵その他の住宅の瑕疵について同項
に規定する担保の責任を負うべき期
間又は売主が第95条第1項に規定す
る瑕疵その他の住宅の隠れた瑕疵に
ついて同項に規定する担保の責任を
負うべき期間は,
 注文者又は買主に引き渡した時から
20年以内とすることができる。
Lecture on Contract
19
売買と請負の担保責任の接近
→製作物供給契約,期間の伸長
 第94条(住宅の新築工事の請負人の
瑕疵担保責任の特例)
 ①住宅を新築する建設工事の請負契
約(以下「住宅新築請負契約」という。)
においては、請負人は、注文者に引き
渡した時から10年間、住宅のうち構造
耐力上主要な部分又は雨水の浸入を
防止する部分として政令で定めるもの
(次条において「住宅の構造耐力上主
要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐
力又は雨水の浸入に影響のないもの
を除く。次条において同じ。)について、
民法 (明治29年法律第89号)第634条
第1項及び第2項前段に規定する担保
の責任を負う。
 ②前項の規定に反する特約で注文者
に不利なものは、無効とする。
 ③第1項の場合における民法第638条
第2項の規定の適用については、同項
中「前項」とあるのは、「住宅の品質確
保の促進等に関する法律第94条第1
項」とする。
2014/12/16
 第95条(新築住宅の売主の瑕疵担保責任の
特例)
 ①新築住宅の売買契約においては、売主は、
買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新
築請負契約に基づき請負人から当該売主に引
き渡されたものである場合にあっては、その引
渡しの時)から10年間、住宅の構造耐力上主要
な部分等の隠れた瑕疵について、民法第570条
において準用する同法第566条第1項 並びに同
法第634条第1項及び第2項前段に規定する担
保の責任を負う。この場合において、同条第1項
及び第2項前段中「注文者」とあるのは「買主」と、
同条第1項 中「請負人」とあるのは「売主」とする。
 ②前項の規定に反する特約で買主に不利なも
のは、無効とする。
 ③第1項の場合における民法第566条第3項の
規定の適用については、同項中「前2項」とある
のは「住宅の品質確保の促進等に関する法律
第95条第1項」と、「又は」とあるのは「、瑕疵修
補又は」とする。
Lecture on Contract
20
請負人の担保責任の免責特約
 第640条(担保責任を負わない旨の特
約)
 請負人は,第634条又は第635条の規定
による担保の責任を負わない旨の特約を
したときであっても,知りながら告げな
かった事実については,その責任を免れ
ることができない。
 ②前項第五号に掲げる条項については,
次に掲げる場合に該当するときは,同項
の規定は,適用しない。
 消費者契約法 第8条(事業者の損害賠
償の責任を免除する条項の無効)
 ①次に掲げる消費者契約の条項は,無
効とする。

2014/12/16
五 消費者契約が有償契約である場合にお
いて,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕
疵があるとき(当該消費者契約が請負契約で
ある場合には,当該消費者契約の仕事の目
的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)
に,当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠
償する事業者の責任の全部を免除する条項
Lecture on Contract

一 当該消費者契約において,当該消費
者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき
に,当該事業者が瑕疵のない物をもってこ
れに代える責任又は当該瑕疵を修補する
責任を負うこととされている場合

二 当該消費者と当該事業者の委託を受
けた他の事業者との間の契約又は当該事
業者と他の事業者との間の当該消費者の
ためにする契約で,当該消費者契約の締
結に先立って又はこれと同時に締結された
ものにおいて,当該消費者契約の目的物
に隠れた瑕疵があるときに,当該他の事業
者が,当該瑕疵により当該消費者に生じた
損害を賠償する責任の全部若しくは一部を
負い,瑕疵のない物をもってこれに代える
責任を負い,又は当該瑕疵を修補する責
任を負うこととされている場合
21
請負契約の終了
1. 請負契約はどのような場合に終了するか?
2. 注文者の無理由解除権とはどのようなものか?
3. 注文者の破産の場合,請負人は契約を解除できるか?
2014/12/16
Lecture on Contract
22
注文者による契約の解除
 第641条(注文
者による契約
の解除)
 請負人が仕
事を完成しな
い間は,注文
者は,いつで
も損害を賠償
して契約の解
除をすること
ができる。
2014/12/16
 第651条(委任の解除)
 ①委任は,各当事者がいつ
でもその解除をすることがで
きる。
 ②当事者の一方が相手方
に不利な時期に委任の解除
をしたときは,その当事者の
一方は,相手方の損害を賠
償しなければならない。
 ただし,やむを得ない事由
があったときは,この限りで
ない。
Lecture on Contract
23
注文者の破産
 第642条(注文者についての破
産手続の開始による解除)
 ①注文者が破産手続開始の決定
を受けたときは,請負人又は破産
管財人は,契約の解除をすること
ができる。
 この場合において,請負人は,既
にした仕事の報酬及びその中に含
まれていない費用について,破産
財団の配当に加入することができ
る。
 ②前項の場合には,契約の解除に
よって生じた損害の賠償は,破産
管財人が契約の解除をした場合に
おける請負人に限り,請求すること
ができる。
 この場合において,請負人は,そ
の損害賠償について,破産財団の
配当に加入する。
2014/12/16
 破産法 第53条(双務契約)
 ①双務契約について破産者及びその相手方が破産手
続開始の時において共にまだその履行を完了していな
いときは,破産管財人は,契約の解除をし,又は破産
者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求する
ことができる。
 ②前項の場合には,相手方は,破産管財人に対し,相
当の期間を定め,その期間内に契約の解除をするか,
又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告
することができる。この場合において,破産管財人がそ
の期間内に確答をしないときは,契約の解除をしたも
のとみなす。
 ③前項の規定は,相手方又は破産管財人が民法第
631条 前段の規定〔使用者の破産の場合の労働者の
解約申し入れ〕により解約の申入れをすることができる
場合又は同法第642条第1項前段〔注文者の破産の場
合の請負人の解除〕の規定により契約の解除をするこ
とができる場合について準用する。
Lecture on Contract
24
練習問題
身長160cm,体重が60kgなので,少しスリム
になりたいと思い,3カ月で10kg必ず痩せる,
しかも,リバウンドしないというエステティック
サロンで,痩身のプログラムを実施することに
した。
3カ月コースで,10万円を支払ったが,全く効
果がなかった。
エステティックサロンに対して,10万円の損害
賠償を請求できるか。
2014/12/16
Lecture on Contract
25
請負人の債務(結果債務)と
受任者の債務(手段債務)との区別
 UNIDROIT Article 5.4 - 特定の結果の達成義務(結
果債務),最善の努力義務(手段債務)
 (1) 結果債務
当事者の債務が,特定の結果を達成する債務とかか
わる場合には,その限りにおいて,その当事者は,そ
の結果を達成するように義務づけられる。
 (2) 手段の債務
当事者の債務が,ある行為の履行につき,最善の努
力をする債務とかかわる場合には,その限りにおいて,
その当事者は,同種の合理的人間が同じ状況におい
て為すであろう努力をするように義務づけられる。
2014/12/16
Lecture on Contract
26
結果債務と手段の債務の判断基準
 UNIDROIT Article 5.5 - 関連する義務の種類(結果債務か手
段債務か)の決定
 当事者の債務が,どの程度まで,行為の履行における最
善の努力債務または特定の結果の達成債務とかかわる
のかを決定するに際しては,とりわけ,以下の各号の要
素が考慮されなければならない。
 (a) 契約の中でその債務がどのように表示されているか
 (b) 契約の価格,および,価格以外の契約条項
 (c) 期待されている結果を達成する上で通常見込まれるリスクの
程度
 (d) 相手方がその債務の履行に対して及ぼしうる影響力
2014/12/16
Lecture on Contract
27
委任契約
 第1節 委任・準委任契約の意義と性質
 第2節 委任契約の効力
 第3節 委任契約の終了
2014/12/16
Lecture on Contract
28
委任・準委任の意義と性質
1. 役務提供契約の中で,委任契約はどのような特色を有
しているか?
2. 委任契約と準委任契約とはどこが違うのか?
3. 委任契約の内容(委託)にはどのようなものがあるか?
2014/12/16
Lecture on Contract
29
委任と準委任の意義と統合→体系
 第643条(委任)
 委任は,当事者の一
方が法律行為をする
ことを相手方に委託し,
相手方がこれを承諾
することによって,そ
の効力を生ずる。
 第656条(準委任)
 この節〔委任〕の規定
は,法律行為でない
事務の委託について
準用する。
2014/12/16
委任と準委任との区別
 委任
 法律行為をなすことを委託すること。
 準委任
 法律行為でない事務を委託すること。
区別の必要性
 委任と準委任とは,委託内容が違う
だけである。
 準委任には,委任の規定が準用され
るため,区別して取り扱う必要はなく,
委任の中に準委任を含めて考えるこ
とができる。
Lecture on Contract
30
委任と準委任の例
委任
→例
委任
(広義)
準委任
→例
2014/12/16
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弁護士への
訴訟委任
司法書士への
登記手続の委任
幼児の
監護養育の委託
医師への
治療の委託
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委任契約の効力
1. 受任者はどのような義務をどの程度で負うか?
2. 委任者はどのような義務をどの程度で負うか?
3. 受任者の権利移転義務と委任者の代弁済義務と
はどのような関係にあるか?
2014/12/16
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受任者の義務(1/5)
善管注意義務
 第644条(受任者の注意
義務)
 受任者は,委任の本旨に
従い,善良な管理者の注
意をもって,委任事務を処
理する義務を負う。
 善管注意義務
 抽象的軽過失のこと
 民法400条(特定物の
引渡の注意義務)
 自己の財産に対する
のと同一の注意義務
 委任の本旨
 具体的軽過失
 債務の本旨と同じ
 民法415条(債務不履行)
 民法493条(弁済の提供)
2014/12/16
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 民法659条(無償受寄
者)
 民法827条(親権者)
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受任者の義務(2/5)
復委任の場合の受任者の責任
復委任の許諾
 復代理の規定の
類推
第104条(任意代理人
による復代理人の選
任)
委任による代理人は,
本人の許諾を得たと
き,又はやむを得ない
事由があるときでなけ
れば,復代理人を選
任することができない。
2014/12/16
復委任の場合の受任者の責任
第105条(復代理人を選任した代理人の責
任)
①代理人は,前条の規定により復代理人
を選任したときは,その選任及び監督につ
いて,本人に対してその責任を負う。
②代理人は,本人の指名に従って復代理
人を選任したときは,前項の責任を負わな
い。
ただし,その代理人が,復代理人が不適
任又は不誠実であることを知りながら,そ
の旨を本人に通知し又は復代理人を解任
することを怠ったときは,この限りでない。
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受任者の義務(3/5)
報告義務
 第645条(受任者による報
告)
 受任者は,委任者の請求がある
ときは,いつでも委任事務の処
理の状況を報告し,
 委任が終了した後は,遅滞なく
その経過及び結果を報告しなけ
ればならない。
 商法 第27条(通知義務)
報
告
義
務
 代理商は,取引の代理又は媒
介をしたときは,遅滞なく、商人
に対して,その旨の通知を発し
なければならない。
2014/12/16
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終
了
前
終
了
後
委任者
の請求
により
民法
645条
前段
受任者
自ら
商法
27条
受任者
自ら
民法
645条
後段
35
受任者の義務(3/4)
受取物・果実の引渡し,権利の移転義務
 第646条(受任者による受
取物の引渡し等)
 ①受任者は,委任事務を処
理するに当たって受け取った
金銭その他の物を委任者に
引き渡さなければならない。
民法646条2項の権利移転
第三者
(債務者)
 その収取した果実についても,
同様とする。
 ②受任者は,
 委任者のために自己の名で
取得した権利を
権利 権利
譲渡通知
受任者
(譲渡人)
抗弁
権利
譲渡
委任者
(譲受人)
 委任者に移転しなければな
らない。
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受任者の義務(4/4)
金銭の消費に対する責任
 第647条(受任者の金
銭の消費についての
責任)
 受任者は,委任者に
引き渡すべき金額又
はその利益のために
用いるべき金額を自
己のために消費した
ときは,
 その消費した日以後
の利息を支払わなけ
ればならない。
 この場合において,
なお損害があるとき
は,その賠償の責任
を負う。
2014/12/16
 第419条(金銭債務の特則)
 ①金銭の給付を目的とする債務の不履行
については,その損害賠償の額は,法定利
率によって定める。ただし,約定利率が法定
利率を超えるときは,約定利率による。
 ②前項の損害賠償については,債権者は,
損害の証明をすることを要しない。
 ③第1項の損害賠償については,債務者は,
不可抗力をもって抗弁とすることができない。
 第190条(悪意の占有者による果実の返還
等)
 ①悪意の占有者は,果実を返還し,かつ,
既に消費し,過失によって損傷し,又は収取
を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
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委任者の義務(1/5)
有償委任の場合の報酬支払義務
 第648条(受任者の報酬)
 ①受任者は,特約がなければ,委任者
に対して報酬を請求することができない。
 ②受任者は,報酬を受けるべき場合に
は,委任事務を履行した後でなければ,
これを請求することができない。
 ただし,期間によって報酬を定めたとき
は,第624条第2項〔報酬の支払時期・期
間経過後〕の規定を準用する。
 ③委任が受任者の責めに帰することが
できない事由によって履行の中途で終了
したときは,受任者は,既にした履行の
割合に応じて報酬を請求することができ
る。
2014/12/16
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 第624条(報酬の
支払時期)
 ①労働者は,そ
の約した労働を
終わった後でな
ければ,報酬を
請求することがで
きない。
 ②期間によって
定めた報酬は,
その期間を経過
した後に,請求す
ることができる。
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委任者の義務(2/5)
費用の前払義務
 第649条(受任
者による費用の
前払請求)
 委任事務を処
理するについて
費用を要すると
きは,委任者は,
受任者の請求
により,その前
払をしなければ
ならない。
2014/12/16
 弁護士に訴訟委任する場合の
着手金
 弁護士に事件を依頼した段階で
支払う費用の前払いであり,事
件の結果に関係なく,たとえ不成
功に終わったとしても返還されな
い。
 着手金の相場は、離婚で20~30
万円,刑事事件で30~40万円程
度。民事訴訟の場合は、訴訟額
によって着手金の額が変化する。
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委任者の義務(3/5)
受任者の立替費用償還請求権
 第650条(受任者によ
る費用等の償還請求
等)(1/3)
 第702条(管理者による費用の償
還請求等)
 ①受任者は,委任事務
を処理するのに必要と
認められる費用を支出
したときは,
 委任者に対し,その費
用及び支出の日以後に
おけるその利息の償還
を請求することができる。
 立替費用償還請求権
 事務管理で準用されて
いる。
2014/12/16
 ①管理者は,本人のために有益な
費用を支出したときは,本人に対し,
その償還を請求することができる。
 ②第650条第2項〔受任者による費用
等の償還請求〕の規定は,管理者が
本人のために有益な債務を負担した
場合について準用する。
 ③管理者が本人の意思に反して事
務管理をしたときは,本人が現に利
益を受けている限度においてのみ,
前2項の規定を適用する。
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委任者の義務(4/5)
受任者の代弁済請求・担保供与請求権
 第650条(受任者による費
用等の償還請求等)(2/3)
 ②受任者は,委任事務を処
理するのに必要と認められる
債務を負担したときは,
債務の代弁済・担保供与
第三者
(受益者)
 委任者に対し,自己に代わっ
てその弁済をすることを請求
することができる。
 この場合において,その債務
が弁済期にないときは,委任
者に対し,相当の担保を供さ
せることができる。
2014/12/16
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受任者
(要約者)
債権
債権
抗弁
債務
引受
(指図)
委任者
(諾約者)
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委任者の義務(5/5)
受任者の損害賠償請求権
 第650条(受任者による
費用等の償還請求等)
(3/3)
 ③受任者は,委任事務
を処理するため自己に
過失なく損害を受けた
ときは,委任者に対し,
その賠償を請求するこ
とができる。
 損害賠償
 主として無償委任の場
合を想定して,受任者
が不慮の損害を受けた
場合に救済を与える規
定である。
2014/12/16
 旧民法 財産取得編 第245条
 ①委任者は,代理人に対して,左の義務を
負担す。
 第一 代理人が代理の履行の為め支出した
る立替金又は正当の費用の弁償及び其支
出したる日以来の法律上の利息の弁償
 第二 合意したる謝金の弁済
 第三 代理人が其管理に因り又は其管理を
為すに際し,自己の過失に非ずして受けた
る損害の賠償。
 但予見したる損害にして,其全部又は一分
に付き特に謝金を諾約する理由と為りたる
ものは此限に在らず。
 第四 代理人が其管理に因りて負担したる
一身上の義務の解脱又は其賠償。
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受任者・委任者間の相互の法律関係
受任者の権利移転義務
(民法646条2項:債権移転)
第三者
(債務者)
権利 権利
譲渡通知
受任者
(譲渡人)
委任者の代弁済義務
(民法650条2項:債務引受)
第三者
(受益者)
抗弁
抗弁
債務
引受
権利
譲渡
(指図)
委任者
(譲受人)
委任契約には,受任者が得た権利を委任
者に譲渡すべきであるとの合意(第三者
のためにする契約)が含まれている。
2014/12/16
受任者
(要約者)
債権
債権
委任者
(諾約者)
委任契約には,受任者が負った債務を委
任者が引き受けるべきであるとの合意(第
三者のためにする契約)が含まれている。
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43
委任と代理との関係
 委任契約
 委任に代理権の授与が伴わない場合
は,権利移転(民法464条2項)と代弁
済(民法650条2項)の法理で個別に対
応せざるをえない。
第三者
(相手方)
契約交渉
受任者
(代理人)
 代理権授与(委任状による)
 委任状によって委任者が受任者に代
理権を与えると,委任者(本人)と第三
者(相手方)との権利義務関係を一挙
に解決することができる。
 委任契約と代理関係の無因・有因
 受任者による債務不履行があっても,
代理から生じる法律関係には影響を及
ばさないのが原則である。
 ただし,受任者による債務不履行(代
理権の濫用)を相手方が知っている場
合には,民法93条の類推によって,本
人と相手方の法律行為は無効となる。
2014/12/16
Lecture on Contract
代理
権授
与(委
任状)
委任者
(本人)
44
委任契約の終了
1.
2.
3.
4.
2014/12/16
委任契約の解除の要件は何か?
解除の効力は遡るか?
委任契約はどのような場合に終了するか?
委任者の死亡の場合はどうか?
Lecture on Contract
45
委任の終了(1/5)
任意解除
 第651条(委任の解除)
 ①委任は,各当事者が
いつでもその解除をする
ことができる。
 ②当事者の一方が相手
方に不利な時期に委任
の解除をしたときは,そ
の当事者の一方は,相
手方の損害を賠償しなけ
ればならない。
 ただし,やむを得ない事
由があったときは,この
限りでない。
2014/12/16
 無理由解約が認められる理由
 受任者の保護
 素人が専門家と対等の立場に立つた
めには,素人に,いつでも,理由を述
べることなく,専門家を解任できるとい
う権利を与えておく必要がある。
 委任者の保護
 特に無償委任の場合,委任者の負担
を軽減する必要がある。
 民法641条(注文者による無理由解
約),および,民法628条(やむを得な
い事由による雇用の解除)も参考にな
る。
 当事者対等の原則
 当事者の一方に認められる権利は,
当事者双方に認められるべきである。
Lecture on Contract
46
素人と専門家と協働の実現のために
一つの分野で専門家になる
 現在社会の重要課題の一つは,専門家と
素人との協働をどのようにして実現するか
である。
 どのような努力によって専門家への道
が開かれるのか?
 人は,全ての分野に通じることはできない
ので,専門家と素人がよい関係を結べるよ
うにする環境を整える必要がある。
 一方で,専門家に素人が事務処理を委託
する委任契約において,素人が,受任者を
無理由で解雇できるという制度(民法651
条)は,素人を専門家の横暴から保護され
るための不可欠の前提となる。
 他方で,専門家の質を見極め,専門家ま
がいの人に騙されないようにするためには,
一人一人が,ある分野で専門家になる経
験を踏むことが大切である。
 専門家との協働によって,人生の困難な
問題を乗り越えていく上で,シーナ・アイエン
ガー(櫻井祐子訳)『選択の科学』文藝春秋
(2010)は,よい手引きとなる。
2014/12/16
Lecture on Contract
 1つの分野で,世界の専門家並みの理
解度に到達するには,平均してのべ1万
時間、つまり毎日3時間ずつ,約10年間
にわたって、訓練を積む必要があると言
われる。
 それだけではない。医師や政治専門家
は,職務経験が豊富だからといって,
様々なバイアスを免れるとは限らない。
 ただやみくもに何かを毎日3時間ずつ、
10年間続けたからといって、その分野の
世界チャンピオンになれるはずもない。
 向上するためには,たえず自分の行動
を観察し,批判的に分析し続けなくては
ならない。何がまずかったのか? どうす
れば良くなるのだろう?と(アイエンガー
『選択の科学』(2010) 162頁)。
47
委任の終了(2/5)
解除の将来効
 第652条(委任の解除の効力)
 第620条〔賃貸借の解除の効
力の不遡及〕の規定は,委任
について準用する。
 第620条(賃貸借の解除の効
力)
 第630条(雇用の解除の効力)
 第620条〔賃貸借の解除の効力の
不遡及〕の規定は,雇用について
準用する。
 第652条(委任の解除の効力)
 賃貸借の解除をした場合に
は,その解除は,将来に向
かってのみその効力を生ずる。
 この場合において,当事者の
一方に過失があったときは,
その者に対する損害賠償の
請求を妨げない。
2014/12/16
 民法620条が準用される規定
 第620条〔賃貸借の解除の効力の
不遡及〕の規定は,委任について
準用する。
 第684条(組合契約の解除の効
力)
Lecture on Contract
 第620条〔賃貸借の解除の効力の
不遡及〕の規定は,組合契約につ
いて準用する。
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委任の終了(3/5)
解除以外の委任の終了事由(1/3)
 第653条(委任の終了事
由)
 委任は,次に掲げる事由に
よって終了する。
 最三判平4・9・22金法1358
号55頁(葬儀用等寄託金返
還請求事件)
 一 委任者又は受任者の死
亡 〔号の新設〕
 二 委任者又は受任者が破
産手続開始の決定を受けたこ
と。 〔号の新設〕
 三 受任者が後見開始の審
判を受けたこと。 〔号の新
設〕
 民法653条は任意規定
 明示又は黙示で死後も存続
する「死後委任」を肯定する
ことが認められている。
2014/12/16
Lecture on Contract
 自己の死後の事務を含めた
法律行為等の委任契約が成
立したとの原審の認定は、
 当然に、委任者の死亡によっ
ても右契約を終了させない旨
の合意を包含する趣旨のも
のというべく、
 民法653条の法意がかかる
合意の効力を否定するもの
でないことは疑いを容れない
ところである。
49
委任の終了(3/5)
解除以外の委任の終了事由(2/3)
 第653条(委任の終了事由)
 委任は,次に掲げる事由によって終了する。
 二 委任者又は受任者が破産手続開始
の決定を受けたこと。 〔号の新設〕
 最二判平21・4・17(株主総会等決議不存
在確認請求事件)判タ1295号124頁,判時
2044号74頁
 民法653条は,委任者が破産手続開始の決
定を受けたことを委任の終了事由として規定
する。
 これは,破産手続開始により委任者が自らす
ることができなくなった財産の管理又は処分
に関する行為は,受任者もまたこれをすること
ができないため,委任者の財産に関する行為
を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終
了することによるものと解される。
2014/12/16
 会社が破産手続開始の決定を受けた
場合,破産財団についての管理処分権
限は破産管財人に帰属するが,役員の
選任又は解任のような破産財団に関す
る管理処分権限と無関係な会社組織に
係る行為等は,破産管財人の権限に属
するものではなく,破産者たる会社が自
ら行うことができるというべきである。
 そうすると,同条の趣旨に照らし,会社
につき破産手続開始の決定がされても
直ちには会社と取締役又は監査役との
委任関係は終了するものではないから,
破産手続開始当時の取締役らは,破産
手続開始によりその地位を当然には失
わず,会社組織に係る行為等について
は取締役らとしての権限を行使し得ると
解するのが相当である。
Lecture on Contract
50
委任の終了(3/5)
解除以外の委任の終了事由(3/3)
 第653条(委任の終了事
由)
 委任継続の特約が存在
する場合
 委任は,次に掲げる事由
によって終了する。
 三 受任者が後見開始の
審判を受けたこと。 〔号の
新設〕
 受任者の後見開始
 委任契約を継続する特約
がある場合には,受任者
の後見人が委任事務を継
続する。
 委任者の後見開始
 受任者が財産管理権を失
い,委任者との信頼関係
が破壊されるために,委
任終了事由とされる。
2014/12/16
Lecture on Contract
 委任者には事務処理能力
は必要とされないため,
 委任の終了事由とされて
いない。
51
委任の終了(4/5)
委任の終了後の処分
 第654条(委任の終了後
の処分)
 第700条(管理者による
事務管理の継続)
 委任が終了した場合にお
いて,
 急迫の事情があるときは,
 受任者又はその相続人若
しくは法定代理人は,委任
者又はその相続人若しく
は法定代理人が委任事務
を処理することができるに
至るまで,
 必要な処分をしなければ
ならない。
2014/12/16
Lecture on Contract
 管理者は,本人又はその
相続人若しくは法定代理
人が管理をすることができ
るに至るまで,
 事務管理を継続しなけれ
ばならない。
 ただし,事務管理の継続
が本人の意思に反し,又
は本人に不利であること
が明らかであるときは,こ
の限りでない。
52
委任の終了(5/5)
委任終了の対抗要件
 第655条(委任の
終了の対抗要
件)
 委任の終了事由
は,これを相手
方に通知したと
き,又は相手方
がこれを知って
いたときでなけ
れば,これをもっ
てその相手方に
対抗することが
できない。
2014/12/16
 相手方への意思表示による終了原
因(民法651条等)の場合
 常に相手方に通知されるので(民法540
条1項),本条は適用されない。
 代理権の消滅の場合の対抗要件
 第112条(代理権消滅後の表見代理)
 代理権の消滅は,善意の第三者に
対抗することができない。
 ただし,第三者が過失によってその
事実を知らなかったときは,この限
りでない。
Lecture on Contract
53
参考図書
 コンメンタール
 現行民法の立法理由
 我妻・有泉『コンメンタール民法
-総則・物権・債権-』〔第2版〕
日本評論社(2008)
 広中俊雄『民法修正案(前三編)
の理由書』有斐閣(1987)
 法務大臣官房司法法政調査部
『法典調査会民法議事速記録3』
商事法務研究会(1984)
 教科書
 我妻栄『債権各論中巻二(民法
講義Ⅴ3)』岩波書店(1962)
 半田吉信『契約法講義』〔第2版〕
信山社(2005)
 加賀山茂『契約法』日本評論社
(2007)
2014/12/16
 松岡久和・中田邦博『新・コンメ
ンタール民法(財産法)』日本評
論社(2012)
 債権法改正
 民法(債権法)改正検討委員会『詳
解・債権法改正の基本方針Ⅴ-各
種の契約(2)』商事法務(2010)
 教養書
Lecture on Contract
 シーナ・アイエンガー(櫻井祐子訳)
『選択の科学』文藝春秋(2010)
54
契約法各論講義
請負,委任・準任契約
ご清聴ありがとうございました。
2014/12/16
Lecture on Contract
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