(写真:国立感染症研究所HP) 蚊の調査・防除について 一般社団法人 埼玉県ペストコントロール協会 副会長 村田 光 2016.5.9 (40) ペストコントロール協会とは? • 国内唯一の有害生物防除 を専門とする企業団体 • 目的:正しい防除技術の構 築と啓発 • 事業:各種研修会開催、海 外協会との連携、関 連学会への支援、啓 発図書発行 • 東京に本部。47都道府県 に地区協会(加盟900社) • 全地区協会で無料害虫相 談所を常設 埼玉協会への相談件数 年度 総数 18年度 2,456 19年度 2,824 20年度 2,801 21年度 2,840 22年度 2,569 23年度 2,148 24年度 2,011 25年度 2,012 26年度 2,366 27年度 2,768 1.飛翔昆虫(蚊)対策の基本 【幼虫対策=発生源対策】 最も効率的・効果的!防除対策の基本! 産卵場所(水溜り)を与えない、または 成虫にさせない対策が最も重要 【成虫対策=潜み場所対策】 あまり効果的では無いが、患者発生時には 不可欠! 緊急事態では殺虫剤を用いて素早く駆除 2.感染症対策の基本 【平常時対策=感染症発生自体を抑制】 ・ 媒介蚊(幼虫・成虫)の生息状況把握 ・ 万一の患者発生時の防除計画策定 ・ 防除に必要な物品の備蓄 ・ 予行訓練 【緊急時対策=感染症蔓延を抑制】 ・ 薬剤処理範囲への通告 ・ 緊急防除班出動 ・ 防除効果判定 ・ 市民、マスコミ対応 3.媒介蚊(ヒトスジシマカ)の調査 3-1 幼虫調査 (5~10月、月1回以上が望ましい) ① 平常時から、発生源となりやすい箇所の位置・量を把握しておく 区域ごと、施設ごとの見取図に上記の情報をプロット ② 平常時から 発生源の幼虫の有無・位置・量を確認しておく ボウフラを採取し、ヤブカ類の有無とその量を調査票に記録 ①発生源となりやすい箇所の把握 道路沿い雨水升、排水溝 遊歩道の雨水升 *このような小水域が発生源となりやすい 発生源となりやすい箇所で調査時に水の溜まっていた部位(赤) ゼンリン住宅地図 1/1500 3.5ha 発生源となりやすい箇所(例) 雨水升 排水溝 停留水無し 41(57%) 380m(70%) 停留水有り 31(43%) 160m(30%) 合 計 72ヶ所 540m長 *雨水升 幅40㎝×奥行50㎝×深さ30~60㎝ *排水溝 幅30~40㎝×深さ20~45㎝ ② 発生源の幼虫有無などの確認 目視で10㎝四方に50頭以上確認 *柄杓、バット、ビーカーを用い一定量を取水して観察する <幼虫の種類判別> ヒトスジシマカ幼虫 呼吸管が太く短い アカイエカ幼虫 呼吸管が細く長い *関東地区の雨水升等で確認される蚊幼虫の殆どはこの2種 (写真:大阪府ペストコントロール協会HP) 媒介蚊 発生源 調査票(例) 施 設 名 〇〇〇〇市民公園 調査日時 第〇回調査 2015年05月04日(火) 12~14時 天候・気温 晴れ・26℃ 調 査 者 調査太郎 調査方法 水面に浮かぶ幼虫を柄杓で1回、水ごと500㏄採取 No 場 1 入口雨水升 有・無 有・無 2 入口雨水升 有・無 有・無 11頭 落葉多い 3 北入口排水溝 有・無 有・無 3頭 水深5㎝ほど 4 入口水飲場 有・無 有・無 0頭 ゴミ容器多い 5 駐車場排水溝 有・無 有・無 3件・2件 2件・1件 合 計 所 停留水 印 イエカ幼虫 ヤブカ幼虫 備 考 土砂多い 落葉多い 3件 14頭 *Noは見取図上にプロットし、停留水量も記録できればなお良い 3.媒介蚊(ヒトスジシマカ)の調査 3-2 成虫調査 ① 目視調査 平常時から、成虫の多い場所・潜み場所となりやすい場所 を目視で確認しておく *区域ごと、施設ごとの見取図に上記の情報をプロット ② 捕獲調査(5~10月、月1回以上が望ましい) 「人囮法」・「ファン式トラップ」により捕獲成虫の数と場所を 記録しておく ① 成虫の多い場所・潜み場所となりやすい場所と量を確認 *歩道近くの 低木植込に潜みやすい *雨水升近くの雑草地には 特に潜みやすい 成虫の潜み場所となりやすい箇所を見取図へプロット 成虫の潜み場所となりやすい箇所(例) 公園面積 想定潜み場所 35,000㎡ 5,000㎡(14%) *とある公園では約1/7の面積が潜み場所適所と推定 ② 捕獲調査 「人囮法」(吸血に来た雌成虫を捕虫網で人力捕獲) 2015.04.20 代々木公園にて 東京都PC協会 手袋、防虫ネット 着用が本来望ましい *適所で1ヶ所につき8分間実施が目安(網は飛来時のみ振る) *1ヶ所10頭以上捕獲されれば「多い=防除後では効果不良」と判定 *一般にCDC型より良く捕れ、コストも低い⇔捕獲量に個人差が出る 「人囮法」(捕獲した成虫は吸虫管に移して種類を判定) 吸虫管:2,000円ほど *捕虫網:直径40㎝前後 6,000円ほど ②成虫捕獲調査 「CDC(アメリカ疾病予防管理センター)型トラップ」 *乾電池で数日作動。1台3万円ほど *適所に最低でも1日設置し毎日点検(ファン停止すると逃げる) *ドライアイスや専用ボンベ等、CO2発生装置併用が効果的 *多数設置でも小人数で設置・回収が可能 <成虫の種類判別> 【ヒトスジシマカ】 胸部背面にヒトスジの白線があり 脚に白黒のシマ模様 【アカイエカ】 全体的に薄茶色 *ヒトスジシマカには近似種としてヤマダシマカがいるが、普通捕れない (写真:大阪府ペストコントロール協会HP) 媒介蚊 成虫 調査票(例) No 施 設 名 〇〇〇〇市民公園 調査日時 第〇回調査 2015年05月04日(火) 12~14時 天候・気温 晴れ・26℃ 調 査 者 調査太郎 調査方法 CDCトラップ(〇日間〇台設置)・人囮法(1ヶ所8分〇箇所) 場 所 印 他の蚊成虫 ヒトスジシマカ 備 考 1 北側入口 有・無 0 2 北側遊歩道 有・無 3頭 雑草高50㎝ 3 南側トイレ前 有・無 3頭 ゴミ容器多い 4 南側遊歩道 有・無 7頭 地表にツタ多い 5 西側こども広場 有・無 0 3件・2件 3件 13頭 合 計 除草直後 アカイエカ2頭捕獲 *Noは見取図上にプロットしておく 4.媒介蚊(ヒトスジシマカ)の防除 平常時対策 (発生患者無し) 緊急時対策 当該地区の蚊により 感染した疑いが強い 幼虫対策 環境的対策 成虫対策 化学的対策 幼虫対策 環境的対策 成虫対策 化学的対策 4.媒介蚊(ヒトスジシマカ)の防除 4-1 平常時の防除(発生数減少が主題) 4-1-1 幼虫対策 <環境的対策>=雨水溜りを解消 or 雌に卵を産ませない ・竹切株は地表面より下で割って覆土 ・雨水が溜まる放置容器などは清掃除去 ・古タイヤは水抜き穴を開ける ・除去できない大型品は雨水が溜まらないよう仮屋根設置 ・排水不良の雨樋、排水溝はクリーニング ・雨水升は浸透型に改修、または防虫網(16メッシュ)を設置 4-1-1 幼虫対策 <化学的対策>=昆虫成長制御剤で羽化阻止 平常時から発生予防として、雨水升などには昆虫成長制御剤 (錠剤)を用法・用量に従い投薬(月1~2回)しておいても良い 有効成分:ジフルベンズロン 有効成分:ピリプロキシフェン スミラブ発砲錠 定期的に雨水升に 投入するだけ 4-1-2 成虫対策 <環境的対策>=潜みにくくする or 刺されないよう自衛する ・定期的な除草により下草を除去する ・ツタ類は特に重要な潜み場所なので、できるだけ除去する ・定期的な清掃により落葉も除去する ・エアコンを活用し、窓の解放を控える ・解放する窓には網戸(16メッシュ)を設置する ・外出時、長袖・長ズボンなどを着用し、肌の露出を少なくする ・緑地等への長時間滞在時にはネット帽を活用する (携帯用蚊取り器、防虫スプレーなどの併用が効果的) 4-2 緊急時の防除(素早い駆除が主題で環境的対策は不向き) 4-2-1 幼虫対策 <化学的対策>=殺虫剤で駆除 or 昆虫成長制御剤で羽化阻止 ・幼虫の確認された雨水升などに殺虫剤を散布する *比較的環境負荷の低いピレスロイド系薬剤を用い、用法・用量に従い 手動噴霧器などで散布する(有効成分:エトフェンプロックス等) ・幼虫が見られない小水域などは昆虫成長制御剤(錠剤)を用いる *殺虫剤散布に比べ即効性には乏しい <殺虫剤:エトフェンプロックス3種> レナトップ乳剤 サニタリーEP 水性乳剤 ベルミトール水性乳剤 *いずれも100倍程度に 希釈して散布 4-2-2 成虫対策(緊急対応が必須) <化学的対策>=殺虫剤で媒介蚊を素早く駆除する ・成虫の潜み場所と推定される箇所に向け殺虫剤を散布する *比較的環境負荷の低いピレスロイド系薬剤を用い、用法・用量に従い 狭域は手動噴霧器、広域はエンジン式噴霧機 or 炭酸ガス製剤が簡便 *エトフェン以外は魚毒性が高いので、周辺魚類や河川流入には十分注意 *一定の立入禁止時間を設け、入場者・近隣住民等には事前通知する *潜み場所を的確に選んで処理する(成虫のいない場所に撒かない) (写真:感染研,2017 他) 媒介蚊対策に必要なもの <ソフト> 1)デング熱・ジカ熱対策の必要性の共通認識(職員一丸) 2)具体的調査法の検討 3)平常時、緊急時に分けた具体的防除法の検討 4)利用者、市民に向けた啓発活動 <ハード> 1)最低限の調査用具、調査書式 2)最低限の防除薬剤、散布器具 3)管理区域、施設ごとの幼虫発生源、成虫潜み場所見取図 4)作業者用防護用品(網帽子、手袋、長靴、忌避スプレー) 蚊の退治といわれても自分にできるかしら? ウエストナイル熱やマラリアを媒介する 大水系で発生する「イエカ」の防除は困難 しかし、デング熱・ジカ熱を媒介する小水系で 発生する「ヒトスジシマカ」は人の努力で 効果的な防除が可能な珍しい蚊! <参考図書> 「蚊の観察と生態調査」 国立感染症研究所 津田良夫 先生 (北隆館 A5版 350P 3,800円) <詳しい対策手法> 国立感染症研究所 (27年4月発表、28年2月12日改訂) 「デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症対応・対策 の手引き 地方公共団体向け」 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkakukansenshou19/dl/dengue_fever_jichitai_20150428-01.pdf (国立感染症研究所・デング熱 トップページ A4版36ページ) ご清聴有難うございました
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