企業 契約 金融構造 chapter. 3 原泰史 Contents • • • • • • • • 非人的資産の役割と権限の特性 従業員のインセンティブ 権限移譲およびその他の中間的所有権形態 残余コントロール権と残余所得 評判の効果 物的資本への投資 資産の形成 統合・情報の伝達・協力 非人的資産の役割と権限の特性 • 非人的資産とは? – 「有形」資産: 機械・在庫・建物など – 「無形」資産: 特許・顧客名簿・書類資料・既存の契約・企 業の看板あるいは評判 -> 「企業を企業であるように繋ぎとめておく接着剤のような もの」 • 非人的資産の支配は、人的資産の支配をもたらす – 非人的資産はいかなる企業にも存在する • • 「もし存在しない場合、人員の交替ないしは解雇も意味を持つこ とが難しくなる」 Case: スピルバーグのMCA からの離脱 Apple とスティーブ・ジョブズ 従業員のインセンティブ • 従業員Wによる技能習得インセンティブ – 第1日目に、γの分配を企業M1 とM2の両者と交渉する • このときの、Wが投資を行うための必要十分条件 – M2 が所有権を持つ場合 (このとき、M2 は資産 a2 を所有する, W はこ の資産を保有することができない) 𝛾 ≥𝑥 3 – M1 が所有権を持つ場合 𝛾 2 ≥𝑥 – M1 に所有権があったほうが、投資インセンティブが強い。 「重要な人的資本を持つものに資産所有権を集中させることの利益は、従 業員のインセンティブを改善させることにもある」 「強い補完性を示す資産を持つものに資産所有権を集中させることの利益 は、従業員のインセンティブを改善させることにもある」 権限移譲および その他の中間的所有権形態 • 「所有と経営の分離」のデメリット – “とくに、経営者には、経営者固有の論理に基づ いて、利益にそれほど結びつくわけではない合併 を志向する傾向がある。” – Aghion and Tirole [1995] • 実質的権限と形式的権威の違い – 情報の非対称性をあえて取り込むことで、下位管理職もパ ワーを行使することができる。 – 優れた情報を保有するものは、法的にはパワーを持っていな い場合でさえも、パワーを有効に行使しうる。 残余コントロール権と残余所得 • 残余所有請求権と残余コントロール権は必ずしも一対一の関係で はない 1. 2. 3. • 株式公開されているが、議決権がクラス分けされている場合 JV のように、コントロール権と利益分配が異なる 従業員にインセンティブスキーム (ボーナス) が与えられている 残余コントロール権をもつことが、なぜ十分な残余所得請求権を 持つことになるのか? 1. 2. 3. ホールドアップ問題 すべての資産についてその収益の流れを立証することができない から 両者を区別できない可能性 「残余所得請求権を残余コントロール権から切り離してしまうと、企業コ ントロール権の市場取引が非効率となってしまう。」 評判の効果 • 「本書で機会主義的行動とされている問題の多 くは、評判の機能によって解決される」 • 評判が取り扱いにくい理由 1. ファーストベストの達成のみを考える場合、最適な 状態の達成が、組織形態に依存しなくなる 2. モデルが繰り返しゲームになったとしても、静的モ デルに似た形で機会主義的行動に起因する問題 が発生しうる • 協力解を得るには、利子率が低い必要がある (See Thomas and Worrall [1994]) 「静的モデルでは統合が最適となり、一方動的モデルでは統 合が最適となる可能性が少なくなる」 物的資本への投資 • 単一の資産 a* • 主体 M1, M2 • 投資決定は離散的 – M1 は費用 i をかけることで、a* の価値をR だけ高めることができる – M2 は費用 \hat{i} かけることで、a* の価値を \hat{R} だけ高めることができる • R > i, \hat{R} > \hat{i} を仮定 [first best] • M1 が a* を所有する状態を想定する – このとき、M1 は投資するが M2 は投資しない – ナッシュ均衡に基づき共同所有を行う場合の、双方が投資を行うための必要 条件は、 1 𝑅 2 ≥ 𝑖. , 1 𝑅 2 ≥ 𝑖. ※. 同様の結果は確率的所有構造によってももたらされる。 資産の形成 • 資産が構築される場合 – 建設費用が立証可能な場合 • 資産を価格P で、製造業者から購入できると考える • 建設費用をどのように分担するか? – 資産 a1 の存在と、第0日目におけるM1 と M2 の相対的な交 渉力に依存する – 建設費用が立証出来ない場合 • 物的資本の投資と良く似ている • 分担することが不可能だから 統合・情報の伝達・協力 • 企業の統合=「情報の非対称性の解消に寄 与すること」 – 不完備アプローチ • 雇用者が従業員に対して行使できる影響力は、ある 請負業者が他の請負業者に対して行使できる影響力 よりも強い • 従業員は残余コントロール権を持たないため、従業員 の企業内でのインセンティブは弱い傾向がある 「(従業員間で)情報を開示したり協力したりするインセン ティブは、統合によって促進されるのではなく、変化する だけである。」
© Copyright 2024 ExpyDoc