①指定された課題論文を読んでくること。 › 秋山正幸・榎本義子(2005)「比較文学とは何か」秋山正幸・榎本義 子編著『比較文学の世界』南雲堂 › 石原千秋・他(1991)「比較文学―起源へのこだわり」石原千秋・他 『読むための理論―文学・思想・批評―』世織書房 ②影響関係があると考えられる2つ以上の 作品を指摘し、それらの間にどのような影 響があるのかを具体的に提示してください 【注意1】メディアは問わない。 文学・映画・音楽・芸術・漫画・アニメ・ゲームなど、何でもよ い。(『源氏物語』と白居易、『攻殻機動隊』と『マトリック ス』) 【注意2】地域は問わない(中・日に関係なくてもよい)。 秋山正幸・榎本義子(2005)「比較文学と は何か」秋山正幸・榎本義子編著『比較文 学の世界』南雲堂 1.比較文学の歴史と現状 2.影響の研究 (1)発動者 (2)受容者 読書による影響 外国体験による影響 受容と変容 (3)媒介者 3.対比研究 4.比較文学の新しい視点 (1)文学と非言語的芸術 文学と絵画 文学と映画 (2)ジェンダーと語り直し (3)越境する文学 (4)今後の課題 本を読むときは、目次を活用しながら読み ましょう。 1816年、フランソワ・ノエル『比較文学講座』(フランス) 1886年、ハッチスン・M・ポズネット『比較文学』(イギリス) 1889年頃、坪内逍遙、ポズネットの著作に基づき、「比照文学」を講 義(日本) 1917年、高安月郊『東西比較文学評論』(日本) 1922年、土井光知『文學序説』(日本) 1932年、阿部次郎『比較文学』(日本) 1934年、野上豊一郎『比較文学論』(日本) 1943年、ポール・ヴァン・ティーゲム/太田咲太郎訳『比較文学』出 版(日本) 1948年、日本比較文学会設立 1953年、島田謹二『比較文学』(日本) 1953年、マリウス=フランソワ・ギュイヤール/福田陸太郎訳『比較 文学』(日本) 1955年、太田三郎『比較文学―その概念と研究例』(日本) 「比較文学とは、国際的、学際的視座から文学 現象や文学関係の歴史を研究する学問である」 (p.23) 「影響」研究―フランス学派 › ある国の文学が他の国に与えた「影響」を証明する ような実証的な研究 「対比」研究―アメリカ学派 › 直接に影響関係はなくても、なにか共通項を手がか りに国籍の異なる作家や作品をつき合わせて比較し、 類似点や相違点を指摘して、国民性と国際性、独自 性と普遍性を考える 影響を与える側 発動者 (源泉) 影響 媒介者 (仲介) 影響を受ける側 受容者 ○発動(者)の研究 =影響を与える側に主体を置く。発動者である作家 の世界観、人生観、また芸術観が他の国でどのよう に受け入れられ、理解され、解釈されたかを研究す る。 (例)ウォルト・ホイットマン(1819―1892) ■亀井俊介(1970)『近代文学におけるホイットマンの運 命』 › ホイットマンが、本国アメリカ、ヨーロッパ、そして日本の文 化にどのように受け入れられ、どのように退けられ、またどの ような影響を与えたのかを検討したもの ホイットマン ↓(影響) ハート・クレイン、ジョン・A・シモンズ、D・H・ロレ ンス、アンドレ・ジッド ヨネ・ノグチ、内村鑑三、岩野泡鳴、武者小路実篤、千家 元麿、有島武郎、etc. ○受容(者)の研究 › =影響を受けた側に焦点を置く。ある作家が 「源泉」となる外国の文学や文化や風土からど のような影響を受けたかを解明する。 › →読書による影響/外国体験による影響/受 容と変容 「他の作家や作品から摂取したものを十分 に咀嚼し、それをもとにして自分独自の何 かを身に付けること」(p.28) 「創造的な刺激を受けて自分独自の内部世 界を創りあげること」 › →「そうなればもはや模倣ではない」 「影響の証拠」を探す(作家のエッセイ、日記、 書簡、創作ノート、メモ、蔵書の書き込み) 作家に創造的な刺激を与えた源である「源泉」 を特定し、どのような形で読んだかを突き止め る 作家が「源泉」となる作品をどのように読み、 そこから何を取り入れ完全に吸収して独自の世 界を作り上げているか、を解明する 作家がある概念にどのようにして出会い、何に 共感し、何を排除してそれを発展させ、自分独 自の世界を創り上げるかを見ていく 異文化体験 →自己や外部の世界に対する認識を深める契機 › ○外国体験によって訪れた国の文化に心酔する作家 →永井荷風 › ○自国の文化の特質を再認識する作家→横光利一 外国に滞在しなくても、ある国に関する情報や その国からもたらされた産物が作家に影響を与 え、その結果として作品が生み出される場合が ある。 ある主題が、作家により、国により、どの ように受容され、時代の移り変わりと共に いかに変容していくか、その経緯を研究す ること 外国語の原作→媒介者(翻訳)→読者 どのような作品がいつ、誰によって、どの ように訳され、それがどのように受け入れ られ、またどんな影響を与えたのかを探る こと Ex.) 近代日本の翻訳家=森鴎外、堀口大学、 永井荷風 アメリカ学派 ニュークリティシズム (文学作品それ自体の研究に重点を置く)の立場から › › →フランス学派の実証的研究の目的や方法を厳しく批判 →「対比研究」:二つの作品をつき合わせて、類似点や相違点を調 べて文学の特色を解明する (人物や主題に焦点があてられる場合が多く、こうした共通項を 手がかりとして、作品の持つ普遍性と独自性、国際性と国民性を 明らかにする) (例)A・オーエン・オールドリッジ『比較文学―日本と西洋―』 (秋山正幸編訳、1979) 三島由紀夫の『金閣寺』の放火犯の主人公の行動をサルトルの 『エロスとラート』の主人公と対比し、その原型を古代ギリ シャに求める→共通項:不条理で反社会的な行動をとる人物 文学/絵画・彫刻・建築・音楽・映画 ■文学と絵画 作品中で絵画がどのようにあらわれ、どんな働 きをしているかを探る ■原作(文学)と映画化された作品(映画) 文字によって表現され、細部の意味を読み手が 補っていく文学の世界と、見るものの視覚や聴 覚に直接に訴えかける映画の世界を技法的な視 点から比較して、それぞれの特徴を明らかにす る フェミニズム批評:1970年代に、男と女と いう生物学的差異を表す「セックス」に対 して、社会的文化的性差を表す「ジェン ダー」という概念を導入。文学作品に描か れたステレオタイプ化された女性のイメー ジや役割を問い直すことから始まり、女性 作家の作品に見られる女性独自の見方や表 現に注目する 海外居住者:祖国を離れることを余儀なく される者、自発的に自らの意思で生まれ 育った故郷を後にする者 →複合的なアイデンティティの形成 (帰属感の欠如、故郷喪失の意識、コスモ ポリタン的生き方を肯定的に捉える) (例)カズオ・イシグロ =「ホームレスな作家」 日本/西洋の関係→日本/アジアの関係 日本の大衆文化のグローバル化 グローバリゼーションの中でのナショナリ ティ、アイデンティティ形成の問題 「ディアスポラ」 「影響研究」=「文芸思潮の伝播、素材や主題の移 動・流入、新しい様式の摂取・借用、強い個性を持っ た大作家の作風・文体の模倣の検証」(小堀桂一郎 「〈影響〉研究をめぐる諸問題」『講座 比較文学八 比較文学の理論』東京大学出版会、1977) ↑ 「一見価値判断から離れたこうした基礎作業も、与 えた側(特に西欧の側)の優越性という先入観、影 響とは一種の同化作用という発想に基づいた序列化 がなされ、与える側の論理によって裁断されがち」 (p.297-298) 「一八世紀以来の「独創」崇拝の弊が横たわってい る」(p.298) 「材源」・「典拠」の発見・指摘 ↑ こうした探求は、 〈文学作品〉の探求たりえるのか ○典拠例 『今昔物語』、「ポンチュー伯の娘」、ブラウ ニング「指輪と本」「尻軽女」、ビアス「月明 かりの道」、ゴーチェ「カンドール王」、レニ エ「復讐」、O・ヘンリー「運命の道」、ハク スリー「恋愛対位法」、メーテルリンク「モン ナ・ヷンナ」、ピランデルロ「御意に任す」、 コンラッド「秘められたる分身」「七つの島の フレイヤー」、など 「これらの典拠となる小説を右に置くことに よってわれわれはどれだけ〈作品〉の深層まで 下りたっていけるのか。例えば、互いが互いの 話を打ち消すような独白が投げだされ、一見読 者の物語化の欲望を宙づりにしながら、最後に はそれも全体を支える意味(物語)の一部と理 解させてしまうという「藪の中」の不思議な喚 起力、いわばこの小説の内にある〈文学的〉特 質を解き明かすことができるのだろうか。」 (p.298) テクスト:〈作品〉という概念を差異化し、 読書行為によって引き出される意味の〈生 産性〉 クリステヴァ「どのようなテクストも さまざまな引用のモザイクとして形成 され、テクストはすべてもうひとつの 別なテクストの吸収と変形にほかなら ない」 一つのテクストが他のテクスト群とは無関係に、完 全なオリジナルとして書かれることはありえない。 換言するなら、テクストは、ルソーが無邪気にも可 能と考えたような執筆行為――「これまで決して例 のなかった、そして今後も決して模倣する人がない ような仕事」――から生成されることは絶対にあり えないということだ。つまり、一つのテクストが誕 生する時、そのテクストは既に存在している、ある いはそのテクストと共時的に存在している、そして さらに言うなら、その後書かれることになる不特定 のテクスト群によって不可避的に横断されていると みなされねばならないのだ。ロマン主義的な審美観 が想定したような「オリジナリティ」(起源=独創 性)といった概念はもはや意味をなさない。 ……カラーはH・ブルームの提唱する独特の「影響理 論」(これは、従来の比較研究が問題にしてきた意味 での「影響」に関わるものではなく、「間テクスト 性」の理念に通底するものである)を「アプリケー ション」という言葉で置き換えているが、彼はこの言 葉を「エネルギーを解き放つために、二つのテクスト を擦り合わせること」と定義している。つまり、「二 つのテクストを擦り合わせる」とは、二つのテクスト を比較検討したり、相互間の影響関係を云々したりす ることではない。それは、互いに異なる複数のテクス トを同一の磁場に並べ置いた時、その磁場からいかな るエネルギーがほとばしり出るかを確認しようとする ことである。換言するなら、同一のレベルに置かれた 複数のテクストが互いの内に浸透し合い、対話的な交 通を実現する時、そこにいかなる「読み」の可能性が 現出するかを検討しようとする試みである。 ……/伝統的な比較研究は先行テクストが後続テク ストに及ぼす影響を一方的に特権視することで、そ の逆方向のヴェクトルを完全に無視してきた。時間 的な先行関係が、そのままテクスト間の位階関係を 決するものとして理解されてきたわけである。確か に、……自分の研究テーマは「シェイクスピアに与 えたT・S・エリオットの影響」であるなどと公言 すれば、狂人扱いされかねないだおる。しかし、 「間テクスト性」の理論とは、まさにこのような発 想を重要な問題意識として引き受けるものなのであ る。これは決して、不条理で非論理的な主張ではな い。後続テクストが先行テクストの「読み」を変質 させたり、そのイメージを作り変えるといったこと は、ごく普通に生じていることだからである。 指定された課題論文を読んでくること。 鈴木貞美(2009)「「日本文学」とは何 か」『「日本文学」の成立』作品社
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