pubpol2_12

国と地方の役割分担
公共政策論 II
No.12-14
麻生良文
内容
• 国と地方の役割分担
• 地方公共財の理論
– Tiebout仮説
– Henry George Theorem
– 足による投票の失敗
• 地方税の原則
• 補助金の効果・役割
• 財政調整制度
国と地方の役割分担
• 政府の役割  市場の失敗
–
–
–
–
–
公共財
外部性
自然独占
情報上の失敗
所得再分配
• 中央政府の仕事か地方政府の仕事か
– 地方政府で対処できないことは
– 地方政府に任せることの利点は
地方政府で対処できないこと
• 全国的公共財の供給
• 地域を越えた外部性への対処
• 財政的外部性
– 支出面
– 収入面(租税輸出,望ましくない租税競争,地方債)
• 住民や企業の立地が必ずしも効率的ではない可能
性
• 所得再分配
地方分権の利点
• 情報の偏在
– 中央政府よりも地方政府の方が地方の状況をよく知っている
• 意思決定の費用
– 地域住民の意思を反映させるためには十分小さな単位の方が望まし
い
– 広範囲になるほど多様な意見
• 地域に応じた行動
– 中央政府:全国一律,地方政府:各地域の事情に応じた行動が可能
• ただし,地方政府で対処不可能な問題がある中央政府,上
位政府が必要
– 多層的な政府構造(日本の場合は 国・都道府県・市町村の三層構
造)
– 地方政府間の連携・協力でも可能
– より大きな単位の方が規模の経済性が働き,効率的だという議論があ
るが本当か?(市町村合併の根拠?)
全国的公共財と地方公共財
• 全国的公共財 (national public goods)
– 便益が広く全国に及ぶ公共財
– 国防,外交,全国的な交通網の整備,全国的な犯罪の取
締り
• 地方公共財 (local public goods)
– 便益が一地域にとどまる公共財
– 消防,警察活動,生活道路
• 注)自動車等の利用で犯罪者が広域で活動現在の都道府県
単位は時代に合わない?
• 全国的公共財を各地域の供給に任せたら?
– 例) 国防基地の建設
– 著しい過少供給  公共財の自発的供給の議論
地域を超えた外部性
• 基本的には,各地方政府は,他地域の住民の効用は考
慮しない
– 正の外部性を与える行動は過小に
– 負の外部性を与える行動は過大に
• 例)上流地域での河川の水質管理
• 問題の解決
– 地方政府間の交渉
• 取引費用が無視できず,現実的ではない場合が多い
– 当該地域を含むより広い範囲をカバーする政府
– 外部性の及ぶ地理的範囲に応じた政府の必要性
• 多層性  国,都道府県,市町村
財政的外部性
• ある地方政府の行動が他の地方政府に外部性を及ぼす
– 公園の整備,交通インフラの整備
– 他地域との境界に建設されたゴミ焼却炉
• 租税輸出
– 観光地のホテル税,地方法人税(地方税を他地域の住民に負担させ
る)
• 税負担を他地域に「輸出」している
• 租税競争
– 法人税の切り下げで企業を誘致他地域は税収を失う
• 地方債
– 便益と負担のタイミングのずれ
• 減税の時期:人口流入,増税の時期:流出 フリーライド
• 地方負担の教育費で教育を受けた人の域外流出
– 他地域は負担なしに教育の外部性の恩恵を受ける
• 社会資本の建設,保育施設,...
• ただし,これらの問題は土地価格に資本化されるかもしれない地方税
における土地課税の役割
地方政府による所得再分配
• 各地域独自の所得再分配政策
– ある地域で寛大な所得再分配低所得者を引き寄せ,高所得者を流
出させる
– 高所得者の流入先は税収が豊かに低い税率で高所得者を「誘致」
するインセンティヴ
– 当初の再分配政策は実行不可能に
• 地方政府に再分配政策を任せると,「望ましい」水準よりも過
少な再分配政策しか実行できない
• 再分配政策は中央政府の役割
– 生活保護の受給資格の調査のように,地方政府が関与せざるをえな
い部分があるが,全国共通の基準で再分配を行うことが重要
– 国際間移動の障壁は依然として高い
国と地方の役割分担
• Oatesの分権化定理
– 地域のことは地域に任せた方がよい
– 地方政府の方が情報上,優位(中央政府に比べて)
– 地域住民の選好が重視される
• ただし,適切な住民負担が必要
• 補助金付け財政錯覚住民は過度のバラマキを選択
• Tiebout仮説
– 地方公共財:「足による投票」で効率的な水準に
• 各住民の選好を調査する必要は無い
• 住民の選好に応じた棲み分け
– Tiebout仮説に対する反論
• 規模の経済性,移動費用,住民の移動に伴う外部性
Tiebout仮説の意義
• Tiebout仮説が成立するならば
– 中央政府の役割はごく限定的
• 全国的公共財の供給
• 地域を越えた外部性への対処
• 所得再分配
– 地方分権の推進が望ましい
• 住民の選好に応じた政策
• 政策の実験ができる
• ただし,地方政府の提供するサービスに見合う税負担
が必要  中央からの過大な補助金は,住民に財政錯
覚を生じさせ,効率的な資源配分に失敗するから
地方公共財の理論
Tiebout仮説の検討
• 小国開放経済モデル
• 人口Nの流出・流入に費用がかからない
• 生産関数 Y=F(N)
– Y:その地域の総産出量,N:人口
– 労働の限界生産物は逓減(土地が一定のため)
• 私的財Xと公共財Gの限界変形率は1
– Y=X+G=xN+G
– X:私的財の総量,x:一人当たり私的財の消費量
• 地方政府地方公共財Gの供給
– 非競合性住民数の増加は一人当たり費用を低下させる
規模の経済性
• 最適人口N,最適な公共財Gの水準は?
• 「足による」投票で効率的な資源配分を実現するか
主な結論
• Henry George定理
– 最適な地方公共財の供給量水準は,公共財供給量がその地域の地
代収入にちょうど等しくなるような水準
• implication
– 土地単税論
– 地方公共財の財源は,地代収入に対する100%の課税で賄うべき
• 小国モデルでないときは,この定理は修正される
– しかし,固定資産税(土地分のみ)を地方政府の主要財源にすべきと
いう議論を正当化(効率性の観点から)
• 公共財供給の規模の経済性が大きいとき,必ずしもこの水
準が実現するわけではない
モデル
• 生産
X + G = xN + G = F(N) : この地域全体の消費機会
X:私的財の総量
G : 公共財
x (= X/N ) 一人当たり私的財消費量
N : 人口
F(N): 総産出量,労働の限界生産物は正で逓減
上の式を一人当たりに直すと
x+G/N=F(N)/N
• 住民(各人)の効用 U(x,G)
• 効率的な資源配分 : 代表的個人の効用U(x,G)を最大
化するようなG,N, x
モデル 続き
問題の定式化
max U(x, G)
x,G,N
s.t.
x+G/N=F(N)/N
Nの変化: 一人当たりの消費可能フロンティアがどう変化
するか
•Nの増加 公共財一人当たりの負担を低下させる規
模の経済性
•一方で,Nの増加労働の限界生産物逓減労働者一人
当たりの所得F(N)/Nの低下
NとF(N)/Nの関係
労働の限界生産物は正で,逓減するような生産関数
Y
Y2
Y=F(N)
Y1
一人当たり所得F(N)/N はNが増加す
ると減少する
N1
N2
N
一人当たりの消費可能フロンティア
x
x+G/N=F(N)/N
F(N)/N
Nの増加
N可変の場合の消費可
能フロンティア
1/N
F(N)
G
効率的な資源配分
x
N*=∞
内点解
u0
CPF
u0
G
CPF
G
N*=0
max U(x,G)
s.t. x+G/N=F(N)/N
u0
CPF
G
効率性の条件
• N固定のもとでの条件
max U(x,G) s.t. x+G/N=F(N)/N
 UG/Ux=1/N
(通常の公共財の最適供給条件)
• Nを変化させる場合
– Gを固定して,xの最大化
max x=[F(N)-G]/N
 F’(N)=x
最適人口の条件
左辺=人口増加の限界便益
右辺=人口増加の限界費用(追加的住民に対する私的財
供給の費用;公共財は限界費用0で供給できる)
最適人口の条件
X
この点でx=X/Nが最大になるF’(N)=x
X=F(N)-G
x=X/N
0
N*
-G
N1
効率的な資源配分は,G固定のもと
で一人当たり私的財消費量を最大
にするようなものでなくてはならない
N
効率的な資源配分の条件
UG/Ux=1/N or N(UG/Ux)=1
公共財と私的財の限界代替率の総和=限界変形率
(公共財の限界効用の総和=限界費用)
F’(N)=x
最適人口の条件
人口流入の限界便益=限界費用
– 人口流入に伴う負の外部性(例えば過密)が存在すると,人口流入の限界
費用は私的財の消費(x)に加えて,限界的な外部費用を足したものに修正
される
x = X/N = [F(N)-G]/N を最適人口の条件に代入すると
G=F(N)-NF’(N)
右辺=総産出量-賃金総額=地代
• 最適な公共財供給量は,地代総額に等しい
(Henry George Theorem)
Henry George Theorem
•
地方公共財の最適供給条件
– 通常の公共財の最適供給条件
– 公共財供給量=地代総額
•
•
土地課税によって公共財の費用を賄うことが望まし
い
コーナー解が実現するとき,この条件は満
たされない
– 一極集中(公共財供給の規模の経済性が強い
ため)
– 足による投票は効率的な資源配分を実現しな
い場合がある
まとめ
• 「足による投票」で,住民の地方公共財に対する選好がわか
る
– 地方公共財の効率的供給へ
– 異なる種類の地方公共財に対する選好の違いが尊重される(以上の
モデルでは考えられていなかったが)
• 環境 vs. 産業発展
• しかし,「足による投票」が失敗する場合もある
– 十分な地方政府の数は存在しないかもしれない
– 規模の経済性
• 一極集中と過疎をもたらす可能性
– 移動に伴う外部性
– 移動費用
収入面の分権
• 地方独自の課税は望ましいか
– 東京都のホテル税
– 分権化に寄与すれば望ましいのか
•
•
•
•
•
国税と地方税の原則の違いは
補助金の役割
財政力の格差は是正すべきか
地方債による資金調達
ふるさと納税をどう評価するか
地方税の原則
• 国税の原則
– 公平性(応能原則,応益原則)
– 効率性
– 簡素
• 地方税の原則
– 公平性
• 応益課税(居住者が負担すべき)
– 効率性
• 課税主体が容易に移動できる
• 住民,生産要素や企業の移動に関して非効率的な資源配分をも
たらさないような租税が望ましい
– 地方財政の教科書では,地方税の原則として,通常,(1)
安定性,(2)伸張性,(3)応益性,(4)負担分任性,(5)税源普
遍性,(5)自主性,などがあげられることが多い。
出展:総務省「地方財政の状況 平成27年度版
地方財政白書ビジュアル版(平成25年度決算)」
出展:総務省「地方財政の状況 平成27年度版
地方財政白書ビジュアル版(平成25年度決算)」
国税と地方税
• 租税原則
– 公平性 (応能原則,応益原則)
– 効率性
– その他(簡素,…)
• 国税と地方税の違いは?
– 望ましい税制
– 実際の租税が資源配分や公平性にどのような影
響を与えるか?
地方税
• 公平性  応益原則
– 地方政府サービスの費用は便益を受けるはずの
その地域の住民が負担すべき
• 受益者の特定が容易だから
– 国税は応能原則に基づく
• 効率性
– 地方税の場合,地方独自の課税が,企業の立地
や住民の居住地選択を歪めてしまうかもしれない
という問題を考慮すべき
地方税の帰着
• 租税の帰着
– 納税義務者と実際に税を負担する者は異なる
– 法人税:企業が負担するのではなく,最終的には個人
• 株主,経営者・従業員,消費者,その企業の取引先
• 地方独自の課税の効果
– 税負担をきらって他地域へ移転するかもしれない
– 地方税の実際の負担は他地域の住民かもしれない
• 地方政府サービス未満(あるいは以上の)負担に地域住民は直面
• 地方政治の意思決定を歪めるという問題
• 部分均衡分析での租税の帰着分析
– 需要・供給の価格弾力性
• 代替財の存在,生産要素を他の財の生産に転用できるか
• 地方課税の場合には,他地域への流出が容易かどうか
価格弾力性と物品税の帰着
生産者が100%負担
S
p
p1
E
p0=p1
消費者が100%負担
D
S’
F
S
t
p
p0
t
q1
E
D
Q
Q0
Q0
p
Q
p
消費者が100%負担
生産者が100%負担
F
p1
S
S’
t
E
p0
F
S
p0=p1
D
q1
E
D
t
Q
Q1
Q0
S’
Q
Q1
Q0
価格弾力性と物品税の帰着(2)
供給曲線が相対的に非弾力的
需要曲線が相対的に非弾力的
S’
p
p
S’
S
F
p1
F
p1
p0
q1
E
p0
q1
t
G
S
E
t
G
D
D
Q
生産者側が多く負担
Q
消費者側が多く負担
地方税の帰着
• 法人税・資本所得税
– 他地域へ容易に移動
• 供給の弾力性が大きい 需要側に租税を転嫁
• 個人所得税
– 他地域への移動は可能だが,企業・資本に比べると移動
費用がかかる
• 物品税
– クロスボーダーショッピング,インターネットでのショッピン
グ
• 固定資産税
– 建物部分(資本)は移動は容易
• 新規の建築が抑制される,維持・補修を怠る
– 土地部分:移動は困難
国税と地方税
• どこまでを地方政府の裁量に任せるべきか
–
–
–
–
課税ベースの選択
税率の選択
租税輸出,租税競争を引き起こさない
何でも分権化すればよいというわけではない
• 望ましい地方税
– 応益課税の原則を徹底
• 土地に対する課税
– 地方政府支出の便益が資本化
• 住民税
• 居住者負担となるような調整(地方消費税)
– その上で地域間の財政力格差が問題としてのこれば,
適切な財政調整制度で対処  交付税の改革
望ましくない地方税
• 租税輸出
– 他地域住民へ負担を転嫁
– 法人税,観光地でのホテルや温泉の利用に対する課税,
天然資源に対する課税
– 応益原則に反する
– 地方政府の財政規律を緩ませる原因となる
• 租税競争
– 企業の誘致合戦  最終的には法人税率ゼロに
– 課税ベースの重複
• 国と地方で税収の取り合い
– 本来はゼロサムゲーム囚人のジレンマ(共有地の悲
劇)
補助金の効果・役割
• 補助金の分類
– 一般補助金と特定補助金
– 定額補助金と定率補助金
• 一般補助金と特定補助金の同等性
• 定額補助金,定率補助金の効果
• 補助金の役割
– 外部性に対する対処
問題の考え方
• 地方政府(またはその地域の代表的個人)の直
面する予算制約は?
• その予算制約のもとで,地方政府(または代表
的個人)は,どのような支出を選択するか
– 効用関数
– 地方政府の行動
• 補助金や財政調整制度は地方政府の直面する
予算制約をどう変えるか
• 代表的個人(有権者)
– 中位投票者定理  中位の有権者が代表的個人
地方政府の行動
x
私的財と政府支出の選択
x*
U(x,G)=u0
G1
異なる政府支出の選択
G1*
U(G1,G2)=u0
G2
G*
G
予算線
G2*
予算線
定率補助金と定額補助金
x
定額補助金
定率補助金
x
F
G
E
E
F
G
G
定率補助金は,所得効果(EG)
に加え,代替効果(GF)がある
特定補助金(定額)と一般補助金
G1
G1
特定補助金(定額)
一般補助金(定額)
G2への特定補助金(定額)
F
F
E
E
G2
どちらもG1とG2の相対価格を変えない
G2
特定補助金 定額と定率
G1
G1
特定補助金(定額)
特定補助金(定率)
G2への特定補助金(定額)
G
F
E
E
F
G2
G2への定率補助金はG2の支出を増加さ
せるのに効果的
G2
まとめ
•
定額の補助金は,特定補助金であっても所得効果の
み持ち,一般補助金と同等
–
他の支出も増やす
–
アメリカの実証研究では,この理論の予測に反する結果
が報告されている
•
•
•
フライ・ペーパー効果
特定補助金(定額)の効果特定支出を増加
特定の支出を増加させるためには,定率補助金の方
が効果的
–
外部性のため,地方政府に任せると過少になる支出に
ついては,中央政府が補助金でこれを是正する必要
財政調整制度(地方交付税)の役割
• 地方交付税の機能
– 垂直的財政調整
– 水平的財政調整
• 地方交付税の仕組み
– 標準的な財政需要と標準的な税収の差額を補填
• 交付税の問題点とされる点
– 財政規律の緩み
– 地方の過度の優遇
水平的財政調整の役割
• 問題を考えるポイント
– 地域間の移転政策も最終的に個人に帰着
– なぜ個人をターゲットにしないのか
• 財政力格差の原因
– 支出面の格差
• 公共財 規模の経済性 人口規模の違い
• 費用条件が異なる(賃金や地代が高い,自然環境の違い)
• 高齢化等の進展度合い
– 税収格差
• 住民一人当たり所得の違い
• 租税輸出(特に法人税)
• 地価
交付税改革の一般的な議論
• ナショナル・ミニマムを超えた再分配
– 交付税の縮小
• 基準財政需要の算定方式が複雑
– 交付税の簡素化
• 小規模自治体が優遇されすぎている
– 段階補正,密度補正の見直し
• 税収格差
– 東京都とそれ以外(法人税)
– ふるさと納税?
水平的財政調整の根拠
• 格差の原因を特定化し,原因ごとに対処方法を考えることが
必要
• 高齢化
– 財政需要と税収のタイミングのずれ
• 一地方政府では対処できない(住民の移動があるから)
• 人口規模
– 公共財供給の規模の経済性
– 長期的には住民の移動が問題を解決,短期的には問題は残る
• 税収格差
– 一人当たり所得
– 法人税
– 地価
個人をターゲット
租税輸出をなくすことが重要
是正する必要なし
• 単純な簡素化では,問題は解決しないことが重要
地方債
• 地方債の発行に制限を設けるべきだ(通常の議論)
– 債務の増加
• 現在は,負担に見合わない便益を享受
– しかし,将来は増税
• 増税の前に他地域に逃げ出せば,フリーライドできる
• 債務の増加住民の流出財政破綻
–  地方債発行に何らかの制限を設けるべき
• 地方債発行の完全な自由化に問題が無いという議論
– 将来の増税は,地価に資本化される
– 将来の増税将来の住民の流出現在の地価の低下
– 現在の債務の増加(将来の増税を意味する)は,地価の低
下という形で現在の地主に負担されるので,問題は無い