平成27年8月号 - 税理士法人今仲清事務所

平成27年8月号
相続税書面添付の実施で安心の相続
お客様から所得税、法人税、消費税、相続税などの申告の依頼を受け
てこれらの申告書を提出する際に、税理士が申告書作成にあたって依頼者
から書類の提示を受け、事実関係の調査をし、その確認した内容を記載し
た書類を申告書に添付することができる制度が税理士法によって定められ
ています。このことを書面添付制度といいます。
この制度の趣旨は、適正に申告している納税者についてはできるだけ調
査を控え、そうではないところに調査を集中することによって効率よく税務行
政を行うことにあります。その結果、国税庁資料によると相続税の
場合には書面添付をしていない申告に対する
調査割合が平成21年申告分で29.4%、平成
22年申告分で27.6%であったところ、書面
添付をしている申告に対しては平成21年
申告分で13.8%、平成22年申告分で
13.3%とそれぞれ半分以下でした。
相続税の税務調査が実地調査として
行われると、お客様の負担は精神的に
大変大きなものとなります。当事務所
では「安心の相続」をお客様に提供する
ために相続税の書面添付を実施して
いますが、今月はその内容について
詳しくお知らせいたします。
1.相続税申告の約3割が税務調査の対象に
当事務所にある最新のデータは平成23年に申告されたものですが、詳細なデー
タでわかっているのが平成22年申告分の税務調査のデータです。少し古くて申し
訳ありませんが、平成22年に申告されたもののデータで相続税の調査実態を確
認してみましょう。
平成22年1月から12月までに提出された相続税申告書数は66,096件でしたが、
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例適用などで税額がゼロとなったものが
あるため、相続税額のある相続税の申告書件数は49,891件でした。平成22年分
の調査は原則として翌年7月からその翌年6月までの23事務年度に行われること
となっています。この期間の調査件数は13,787件で相続税額のある申告書に対し
て27.6%の調査率となっています。その前の22事務年度は29.4%ですので、調査
率はほぼ3割といえるでしょう。申告件数10件のうち約3件が調査されるわけで
す。
2.申告してから2年後3年後に調査に来ることも
23事務年度に調査対象となったのは、平成22年1月から12月までに提出された
相続税申告書だけではなくそれ以前の年の申告分も含まれています。これは年に
よっては財産総額が高額な人が多い年や少ない年があることや、また、財産総額
が大きすぎて様々な資料が集まるまで時間がかかるためのようです。調査される
側から見ると、被相続人が死亡した日から10か月後に申告を済ませ、その申告か
ら2年後3年後に調査ということもあるわけです。
3.書面添付をしていると調査率は半分に
巻頭に書きましたように、所得税、法人税、消費税、相続税などの申告書を提出
する際に、税理士が申告書作成にあたって依頼者から書類の提示を受け、事実
関係の調査をし、その確認した内容を記載した書類を申告書に添付することがで
きる書面添付制度があります。もともと税務相談、税務代理及び税務書類の作成
は税理士法によって、無料であっても税理士しかできないこととされています。も
ちろん納税者の方が税理士に依頼しないで自分自身で申告することはできます
が、この書面添付という制度は税理士が作成するものですので、納税者の方が税
理士に依頼せずに申告する場合には書面添付制度を利用できません。
次の表にありますように、23事務年度の税額のある相続税申告件数49,891件の
うち書面添付されている件数は3,807件で7.6%でした。平成24年分では8.6%に増
えています。この3,807件のうち調査された件数は508件で13.3%でした。全体の調
査率は27.6%ですから、調査される割合はなんと半分です。
●図表 相続税の調査件数
申告件数(税額あり)
調査件数
申告もれ件数
書面添付数
うち意見聴取数
うち実地調査数
22事務年度
(21年申告分)
46,439
13,668
29.4%
11,276
82.5%
3,175
498
15.7%
479
15.1%
23事務年度
(22年申告分)
49,891
13,787
27.6%
11,159
80.9%
3,807
563
14.8%
508
13.3%
もちろん、調査されるかどうかは財産の総額が高額なもの、中でも金融資産の
額が高額なもの、集められている各種資料から申告漏れがあると考えられるもの
などの様々な基準で選択されますので、書面添付しているものが少ないとは一概
には言い切れません。しかし、調査率が低くなっているということは言えるでしょ
う。
4.税務調査があると精神的負担が大きい
事業を長く行っていて数年に一度は税務調査を受けていたような場合には、相
続税の申告の調査といってもあまり気にならないかもしれません。しかし、今まで
税務署から調査など一度も受けたことの無い専業主婦の方が、頼りにしていたご
主人がお亡くなりになり、ただでさえ心細いところに相続税の税務調査の通知が
あり、それを聞いただけで寝込んでしまったという例もあります。そんなことになら
ないように、適正な相続税申告を行い、そのことがしっかりと税務署にも伝わるよ
うな申告書作成と書面添付制度の利用を行うことが大事でしょう。相続税申告に
おいて書面添付を行った場合、書面添付を行っていない申告と比較して調査率が
半分であるという実績がありますので、これを活用しない手はありません。
5.書面添付の申告書には原則としてまず税理士に意見聴取がある
税理士が申告書に署名押印して代理権限証書を提出している場合には、税務
署が税務調査をしようとする場合は、原則として事前に税務署から税理士に調査
のお知らせがあります。書面添付をしている申告書の場合は、その税務調査のお
知らせの前に、原則として税理士に対して「意見聴取」が行われます。この趣旨
は、申告内容を書面確認して疑問点があった場合に、通常は相続人の自宅に赴
いて確認するところ、その申告書を作成した税理士に税務署に来てもらって、その
内容を税理士に対して確認し、疑問点が明らかになった場合には調査を省略する
ことによって調査効率を上げ、納税者の方の負担を軽減しようというものです。た
だ、私どもでは、過去に一度だけ大阪国税局の資料調査課の調査で、事前に税
務調査の通知も意見聴取もなく調査されたことがありましたので、いきなり調査に
なることが全くないわけではありません。しかし、通常は意見聴取が行われ、実地
調査に移行しないことも多くあります。
6.当事務所は実質的に4年半相続税の実地調査を受けていない
私どもでは年間30件前後の相続税の申告のお手伝いをしています。お客様のと
ころに直接相続税の調査に来られたのは実質的に平成22年11月が最後です。つ
まり年間30件前後の相続税の申告をしていて、5年近くお客様のところに直接くる
相続税の税務調査を受けていないのです。もっとも昨年1件お客様のところに直
接税務調査に来られましたが、これは兄弟間で別々の税理士で申告をしたという
特殊な事情があったものです。この間7件の意見聴取を受け、お客様自身も気づ
かなかった財産の計上漏れがあったため、お客様に確認のうえで5件の修正申告
書を提出しました。
7.意見聴取だけで修正申告すると過少申告加算税なし
意見聴取の際に財産計上漏れの可能性がある旨の指摘を受け、事実確認をし
てお客様自身も気づかなかった財産の計上漏れが見つかった場合に、調査に移
行しないで修正申告書を提出しますと、追加で納付すべき相続税については納付
期限から遅れていますので延滞税がかかりますが、過少申告加算税の納付を必
要としません。自宅に来られて実地調査されませんし、故意ではなくミスによって
少なく申告したことによって納付しなければならない本来払うべき相続税につい
て、過少申告加算税の納付が免除されますので納税者にとっては良い制度だと
いえるでしょう。
8.税務調査のない相続税申告書のポイント
税務調査のない相続税の申告をする前提条件は、法律に従って1円も多くなく、
1円も少なくなく適正に申告することです。もちろん小規模宅地等の減額特例や配
偶者控除など納税者が選択適用できる特例や評価方法なども、最大限有利にな
るよう選択することによって法律で許されている節税は目いっぱい行うことが重要
です。
「法律に従って1円も多くなく、1円も少なくなく適正に申告する」のは、実は簡単
なようでいて困難です。特に民法における贈与が成立しているかどうかについて
は、次のようなことについてご理解いただいた上で法的に判断し、贈与が成立して
いれば当然に被相続人の相続財産からは除外し、成立していなければ名義預金
として被相続人の財産として申告しなければなりません。
(1)専業主婦で、結婚以来一度も働いたことも不動産所得や事業所得の専従者
給与も受給しておらず、両親の相続の際に財産を一切相続していない方がいたと
しましょう。毎月の生活費を定額で亡くなったご主人から渡され、主婦としての才
覚で爪に火を点すようにして奥様名義の預金を貯めていたとしましょう。その合計
が2千万円になりました。奥様はこの2千万円は当然に自分のものだと思っていま
す。過去の裁判では、「夫婦で形成してきた財産は夫婦共有財産である」との判決
もあるにはあるのですが、税務上は「財産は稼いだ人のもの」という考え方で課税
することとしています。そうすると、この2千万円は被相続人のものとして相続税の
課税対象ということになります。
(2)110万円の基礎控除の範囲で金銭を配偶者や子、孫などに贈与を長く続けて
おられる方がいます。しかし、渡してしまうと無駄遣いして将来かかる相続税を払
えなくなると困るので、「私が預かっておく」と通帳と印鑑を贈与した人が保管して
いることがあります。民法における贈与は、相手に渡すことによって贈与を履行し
なければ成立しません。
実際に経験した例ですが、通帳の印鑑を贈与した人の実印で子や孫の通帳を
作成していた例がありました。これなどは名義預金としか言いようがありません。
上場株式でも名義変更がされていなかったり、名義変更されていても配当を受取
ってそのまま贈与した人の銀行口座に入金していたりすると、実質的に贈与が成
立していません。
言い換えると、110万円を超える金銭を受贈者が日常利用している通帳に振り込
んで贈与し、贈与税を納税した場合には、法的に贈与が成立していますので、相
続財産に加算する必要がありません。長く被相続人の事業や不動産収入記帳や
物件管理を手伝って専従者給与の届出をして給与の支払いを受けていた場合に
も、その受給を受けていた人の固有の財産です。つまり贈与を受けた人がいつで
も自分の意志で自由に使えるから贈与が成立しているわけです。
このようなことを、被相続人の過去の預貯金の入出金記録や確定申告書、各種
届出書や贈与税申告書、相続人の預金の形成の経緯などを詳しく調査分析した
上で、その事実に基づいて適正に判断して名義預金か相続人本人の財産かを判
定します。その過程ではひとつひとつの事象について、配偶者やお子さん方に確
認して解明し、申告の当事者である相続人の方々にその分析内容や判断した根
拠などをご説明し、納得した上で確定することになります。これらの経緯を文書化
して「添付書面」に詳しく記載して根拠資料と共に相続税申告書に添付しますの
で、相続人の方々にとって安心と納得の相続が実現することになります。
相続税の申告については「安心と納得の相続税申告」を実現する当事務所にご
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