2015年春学期 「企業のしくみ」 第6回取締役の役割(4章2節2項) 樋口徹 1 4-3-1 株式会社の主な機関(p.95) 機関とは • 機関には、個人または団体がその目的を達する手段として設け る 組織 という意味がある(『広辞苑』)。 • 会社にとって、業務に関する意思決定や執行を行う内部の個人 (自然人)および組織体(集合)が機関となる。大きな会社ほど、 内部に役割の異なる多様な機関を有するようになる。 • 最も有名な会社の機関は株式会社における 株主総会 であ る。株主総会は、株式会社の組織、運営、管理などの会社の基 本的な重要事項について意思決定を行う機関である。 • その他の会社の機関には、取締役、代表取締役、取締役会、監 査役、監査役会などがある。この中の取締役、代表取締役、監 査役は 個人(自然人) であるが、取締役会や監査役会は組 織体(集合)である。 2 株式会社の主な機関の関係図 株主総会(会社の所有者の集まりで、会社の所有者である 株主が、会社の基本に関する重大事項(組織、運営、 管理等)に関して意思決定を下す機関である。 ) 選任 ・ 解任 選任 ・ 解任 報 告 取締役 選定・解職 (取締役会) 報告 代表取締役 日常業務の 監督と執行 従業員 (業務遂行) 監 査 報 告 監査機関 会社法によって、すべての 株式会社において設置が義 務付けられている機関は、 株主総会 と 取締役 だけである。その他の機関 は、株式会社の規模や株式 の譲渡制限の有無などに よって、設置が必要な(義務 付けられている)機関、設置 が不要な(義務付けられて いない)機関、そして設置が 禁止されている機関などが ある。 3 4-3-2 取締役と取締役会(p.96) 取締役の選任方法 • 株式会社では、 所有と経営 が分離されている。 • 株主は、株主総会における議題に関して議決権を行使すること ができる。その一方で、株主は、日常的な会社業務に関しては、 取締役あるいは取締役会に意思決定と執行を 委ね ている。 • 取締役は、 株主総会 で選任・解任される機関(自然人)であ る。株式会社と取締役の関係は 委任関係 であり、雇用関係 ではない。 • 取締役会は会社法で設置を義務付けられている場合と任意の (定款で定められている)場合がある。どちらの場合でも、取締役 会を設置するには、株主総会において取締役を 3 人以上選定 しなければならない(会社法第39条)。 4 取締役(業務執行に関する意思決定に加わり、業務を執行する) 取締役とは株主総会で選任・解任される株式会社の機関である。株 式会社と取締役は 委任 関係であり、雇用関係ではない。 ※取締役の人数と取締役の設置の有無によって、権限や手順が異なる。 (業務の執行) 第三百四十八条 取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、 株式会社(取締役会設置会社を除く)の業務を執行する。 2 取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別 段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。 3 前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を 各取締役に委任することができない(決議が必要; 単独 不可)。 一 支配人の選任及び解任 二 支店の設置、移転及び廃止 三 第二百九十八条第一項各号(第三百二十五条において準用す る場合を含む。)に掲げる事項 (以下、省略) 5 契約(複数の人間の合意に基づく法律行為;売買、雇用、委任など) A 氏 契約内容 合意(法的に有効) B 氏 ※民法の中では、 「約束」という 言葉は使用さ れていない。 民法上の売買 第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に 移転 することを約し、相手方がこれに対してそ の 代金 を支払うことを約することによって、そ の効力を生ずる(=売買契約の成立)。 ※売主(販売者)と買主(購入者)にそれぞれ義務が発生 6 雇用と委任の違い 雇用(従属関係) 委任(対等) 法律 雇用は、当事者の一方が相手 委任は、当事者の一方が 法律行為 行為 方に対して 労働 に従事 をすることを相手方に委託し、相手方が することを約し、相手方がこれ これを承諾すること(643条)。 に対してその 報酬 を与え 受任者は、 特約 がなければ、委任 報酬 ることを約すること(623条)。 者に対して報酬を請求することができな い(648条)。 そ の 他 使用者は、労働者の承諾を得 なければ、その権利を第三者 受任者は、委任の本旨に従い、 善良 に譲り渡せないことができない な管理者の注意をもって、委任事務を処 理する義務を負う(644条)。 (625条)。 ※真面目に受託した内容を行えば、 ※契約通りに働き、そして報 責任は問われない(自由)。 酬を受ける(指示・命令)。 ※『広辞苑』によると、委任とは、ゆだねまかせること。事務の処 理を他人に委託(人に頼んで代わりにしてもらうこと)すること。 7 取締役の職務 1. 取締役会設置会社:取締役会に出席し、重要事項の意思決定 に参加し、そこでの決定事項を執行する。 2. 取締役が2人以上の非取締役会設置会社:取締役の過半数の 承認で業務を決定し、執行する。各自が会社を代表する。 3. 取締役が1人:業務執行に関して意思決定を行い、会社を代表 して業務を執行する) 取締役は株式会社に対して 善良な 管理者としての義務を負う; ① 他の取締役が定款や法令を順守しているかを 監視 する。 ② 注意義務 ;経営判断の間違いをしないように注意する ③ 忠実義務 ;株式会社の利益のために、働く。 競業取引 (その会社で 得た情報などを活用し、顧客を奪うなどの行為)や 利益相反取引 ※非取締役会設置会社では、取締役に対して (会社の利益を犠牲にして、自己あるいは第三者の利益につながる取引)が 原則として禁止されている。 8 取締役会とは • 取締役会は、株主総会で選出された 取締役 全員(3名以上) から構成される。 • 株主総会の決議事項以外の会社の業務の執行に関する意思決 定を行う。 • 主な業務は、①会社の業務(営利活動)執行、②取締役の職務 の監督、③代表取締役の選定・解職である。 ※取締役会は、代表取締役と監査役会からの報告に基づいて、代表取締役 の監査を行い、必要があれば、代表取締役を解職する(取締役に降格)。 • 取締役会の招集 招集権者(取締役と 監査役 )が原則として開催日の1週間 前までに招集通知を取締役と監査役に発送(取締役と監査役 が 全員 同意すれば、手続き不要) • 取締役会の決議(一人一票:全取締役が同等) 定足数 の要件は議決権のある 取締役 の過半数出席とな る。出席した取締役の過半数が承認することにより議決となる。 ※非取締役会設置会社は、株主総会の決議事項以外は、取締役が決定する (取締役の過半数の承認が必要)。 9 取締役会を設置しなく良い株式会社 種類 規模 取締役会 委員会設 置会社 無関係 大会社 公開 非公開 資本金5億円又は貸借対照 表の負債額200億円以上 設置必要 設置必要 不要(設置) それ以外の会社 公開 大会社の規模に満たないも の(委員会設置会社でない) 設置必要 設置不可 設置必要 不要(設置) 不要(設置) ⇅ ⇅ ⇅ ⇅ ⇅ ⇅ 監査役会 非公開 不要 不要(設置) ⇅ ⇅ ⇅ 監査役 設置不可 設置必要 設置必要 設置必要 不要(設置:設 置しない場合は 参与設置義務) ⇅ ⇅ ⇅ 会計監査 人 会計参与 設置必要 設置必要 設置必要 不要 不要 不要 不要 不要 不要 (設置) 不要(設置) 10 (会社法)第三百六十二条 取締役会の権限等 取締役会は、すべての 取締役 で組織する。 2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。 一 取締役会設置会社の 業務執行 の決定 二 取締役の職務の執行の 監督 三 代表取締役の 選定 及び 解職 取締役 の中から代表取締役を選定しなければならない。 4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定 を取締役に委任することができない(=取締役会で決定)。 一 重要な財産の処分及び譲受け 二 多額の借財 三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任 四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 (以下省略) 11 代表取締役へのステップ • 代表取締役は 取締役会 の決議に基づいて 取締役 の 中から選定される。 • 取締役会を設置するには、取締役が3人以上必要。 • 取締役は 株主総会 で選任されなければならない。 社内外の人材(財) 株主総会 選定・解任 取締役 (就任) 取締役 取締役 ・・・ 設置 代表取締役 ※代表取締役 はいつでも 選定・解職(委任関係) 取締役会 (委任を承諾) 辞任できる。 ※取締役会の決議で解任できる。 その場合、普通の取締役に戻る。 (取締役解任には株主総会の決議) ※株主が代表取締役を解任したければ、取締役を解任すれば、自動的に代表 取締役の資格を失う。代表取締役選定や解職の権限は取締役会にあるので、 直接代表取締役を選定・解職できない。 12 代表取締役の権限(営業行為に関して会社を代表) • 代表取締役は株主総会の下の取締役会の 下部 機関 • 代表取締役は、 株主総会 や 取締役会 (上部機関) で決定された事項を執行するのが職務となる。 • 代表取締役は取締役会で委任された範囲内で意思決定を行 い、職務を執行する権限がある。 • 代表取締役は対外的な活動(営業)を執行する権限を持つ。 同時に、説明責任もある(訴訟関係の行為を会社を代表して 行う)。 • 会社(株主総会や取締役会)は、代表取締役の権限に必要 に応じて 制限 を加えることができる。 ※代表取締役が制限を超えた契約を行った場合に、そのことを知らない 第三者( 善意の第三者 )には、無効や取り消しはできない。 ※代表取締役は、3か月に一度以上は業務の執行状況を に報告する義務を負う。 取締役会 13 表見代表取締役とは 代表取締役以外の 取締役 に代表権限を付与したと認められる 名称を付した場合、その取締役が 善意 の第三者(事情を知ら ない外部の人)に対して会社を代表する行為場合、会社が責任を 負わらなければならない。 ・代表取締役(会社法上の正式名称) ・社長・副社長(表見取締役と認められる 肩書き ) ※代表取締役以外の取締役に社長の肩書を付けることは可能 ・専務取締役、常務取締役、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執 行責任者)などは代表権を付与されたと判断されることが多い肩 書き ※CEO(Chief Executive Officer)は経営戦略や方針などの基本事項を決定する 責任者で、COO(Chief Operating Officer)はそれ実行する責任者 会社法第三百五十四条 株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代 表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がし た行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。 14 「遠慮ない発言」に期待 (日経新聞10月12日電子版) 外国人を社外取締役に迎えた経営者が異口同音に指摘する のが「 歯に衣(きぬ) 着せぬ発言」だ。日立製作所の川村 隆前会長も「『日立がこの事業を続ける必要はあるのか』といっ た率直な発言が目立った」と振り返っている。 同じ社外取締役でも、日本人男性だと発言が丸くなりやすい ようだ。外国人にはグローバルな知見とともに、遠慮ない発言 で取締役会での議論を活性化させる効果への期待が大きい。 女性 への期待にも共通するものがあるだろう。取締役会の 多様化は視点や経験の多様化であり、経営の“ 死角 ”を減 らすのに役立つ。もっとも、辛辣な意見を受け止める度量が経 営者にあることが前提条件になる。 15 改正会社法 社外取締役の導入促す(日経新聞9月2日電子版) 社外取締役の選任を促すことで 企業統治 (コーポレートガバ ナンス)強化を目指す法律で、6月に国会で成立した。 社外 取 締役を置かない企業に 株主総会 で理由を説明するよう義務 付けたことが柱だ。2015年4月に施行する見通し。 社外取締役の要件も厳しくした。役 員の 2親等 以内の家族や親会社 の取締役は除外される。一方で、過 去10年間にその会社の 役員 など を務めていなければ、社外取締役に なれるよう弾力化した。社外取締役の 選任を促すために「監査等委員会設 置会社」制度も新設。2人以上の社外 取締役が過半数を占める「監査等委 員会」を設けて経営を監視する仕組 みを選べるようにした。 16 改正会社法 社外取締役の導入促す(日経新聞9月2日電子版) 改正法の議論では社外取締役の設置を 義務化 すべきだと の意見があったものの、見送った。改正法の施行から2年後に見 直すようになっており、その際に 再検討 する。なお東京証券取 引所の調べでは今年7月時点で1部上場企業の74%が導入して いる。改正法には親会社の株主が子会社役員の責任を追及でき る「多重代表訴訟制度」なども盛り込んでいる。 ※社外取締役:会社の外部から登用する取締役。創業家出身や社内生え抜き の取締役に対して 第三者 の視点で助言したり経営を監視 する役割を期待し米国などで普及した。取締役会の議論を活性 化させる効果もある。他業界の企業の経営者や学識者が就任す ることが多い。日本でも普及したが、主要 取引先 金融機関 や親密な取引先企業の関係者が就任することが依然として多く、 こうした場合は経営監視機能を果たしにくいと指摘する声もある。 17 執行役員 • 執行役員は会社法上の制度ではなく、 任意 の機関である。 • 執行役員とは、確定した経営方針に沿って、具体的に業務を執行する個人であ る。執行役員という名称の背景には、取締役あるいは取締役会の 少人数化 による意思決定の簡素化・迅速化、 専門家 による事業経営の効率化、取 締役あるいは取締役会の負担や責任の軽減などが挙げられる。 • 執行役員は、株式会社と 雇用関係 にある支配人その他の重要な使用人と なる。しかし、委任関係にある取締役が執行役員を 兼任 することある 18 フランスの企業統治 (日経新聞10月12日電子版) フランスには企業統治の規範(コード)に「取締役会の構成は性 別、国籍などの望ましい バランス を考慮すべきだ」という項目 がある。日本でも現在、有識者会議で企業統治コード策定の議 論が進んでおり、多様性をどう扱うかかが注目される。 (編集委員 塩田宏之) 19
© Copyright 2024 ExpyDoc