債券投資分析(金利の期間構造)

資本市場論
(9) 債券投資分析
- 金利の期間構造 -
三隅隆司
1
はじめに
短期金利と長期金利の関係
CD金利の期間構造
金利(%)
9.00
3.50
8.00
3.00
1990年12月
7.00
6.00
2.50
2.00
1994年6月
5.00
1.50
1992年4月
4.00
1.00
1996年6月
1993年2月
3.00
1999年1月
1994年1月
2.00
30日未満
30日-60日
60日-90日
90日-180日
満期
180日-1年
0.50
0.00
1年-2年
2年-3年
日本銀行HPのデータより作成
2
スポット・レートとフォワード・レート
(1)
スポット・レート (spot rate)
割引債の利回り
1
0
2
T
r1
r2
rT
F
P
1  rn n
(9 – 1)
P : 割引債の価格
F : 額面価格(償還価格)
n : 残存期間
rn : n 年物スポット・レート
1
d n  
: 割引ファクター ( 割引係数 )
n
1  rn 
3
スポット・レートとフォワード・レート
(2)
フォワード・レート (forward rate)
将来のある時点から先の一定期間の利子率.
0
1
1 f2
2
t
2 ft
tf T
1 ft
Ifj ;
T
第 i 期から第 j 期まで,
(j – i) 期のフォワード・レート
フォワード・レート とスポット・レートの関係
0
1
rt
2
t
tfT-t
T
rT
1  rT T
 1  rt  1t fT 
t
T t
4
金利の期間構造
金利の期間構造
期間 (残存期間) とスポット・レートの関係.
縦軸に利回り,横軸に残存期間をとり,債券の利回りと残存期間の関係を
グラフ化したものをイールド・カーブ (利回り曲線; yield curve) という.
イールド・カーブが右上がりの時を順イールド,右下がりの時を逆イールド,
水平の時をフラットと呼ぶ.
イールド・カーブが右上がり (右下がり) の時
割引債の利回りが最も高く (低く),利付債ではクーポン・レートの高い債券
ほど利回りが低く (高く) なる.
- クーポン・レートの高い債券ほど利回り上昇 (下落) による再投資収益が大きくなる.
- クーポンの大きな債券ほど利回り上昇(下落)による価格低下 (価格上昇)の度合い
が小さくなる.
5
期待仮説 (1)
n 年間の資産運用:
(1) 1年ごとに運用手法を変えることによって n 年間運用
- 短期運用の繰り返し。
- 1年目の運用利回り=r1 (確定値)
- k 年目の1年間の運用利回り= kf1k+1 (期待値)
(2) あらかじめ決められた金利で n 年間運用
- 長期運用
- 1年目の運用利回り= k 年目の1年間の運用利回り= rn
短期運用
長期運用
r1
0
1 f2
1
rn
Krk+1
2
rn
k-1
k
rn
n-2rn-1
n-2
n-1rn
n-1
rn
n
rn
0 時点における1万円の運用は、短期運用・長期運用に如何を問わず、n 時
点において同額の成果をもたらさなくてはならない。(無裁定条件)
6
期待仮説 (2)
1  r1 11f 2 1k f k 1 1n1f n   1  rn 
n
(*)
左辺 > 右辺
- 長期運用に比べて短期運用の方が収益性が高い(儲かる)。
→ 投資家は、長期運用をやめて短期運用に切り替える。
・ 長期金利(n年)で資金を借り入れ、その資金を短期で運用する
(n年間) ことによって、利益の獲得が可能。(裁定機会の存在)
→ 長期の運用手段の需要低下(供給増加)、短期の運用手
段への需要増大(供給減少)
→ 長期利子率の上昇、短期利子率の低下
左辺 < 右辺 の場合も同様。
7
期待仮説 (3)
(*) の含意:
長期金利は、(期待)短期金利の流列の平均値として与えられる。

1 + rn (粗利子率 ; gross interest rate という)は、 1 + r1, 1+ 1f2, ・・・, 1+n-ffn の
幾何平均である。

(*)の対数をとると、長期の粗利子率の対数は、短期の粗利子率の対数の単純
平均として与えられる。
- 短期金利と長期金利の関係は以下の通りである。
長期金利 > 短期金利
if 将来短期金利が上昇すると予想される。
長期金利 < 短期金利
if 将来短期金利が下落すると予想される。
長期金利 = 短期金利
if 将来にわたって短期金利一定と予想される。
- ただし、実際には、長期金利は短期金利より高いことが一般的。
- 期待仮説は、金利の期間構造を説明する理論としては、十分
なものではない。
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流動性選好仮説
不確実性が存在する世界においては,短期投資より長期投資の
方がリスクが大きい.
流動性リスク
短期間で償還されて流動性ニーズを満たす短期債の方が長期債より
もリスクが低い.
価格変動リスク
短期債の方が長期債よりも価格変動のリスクが低い.
利回り
長期債に対しては,リスク・プレミア
ムが上乗せされる.
期待理論においては逆イールドであったと
しても,リスク・プレミアムの存在が長期債
の利回りを押し上げるため,結果として順
イールドが実現する可能性が大きくなる.
イールド・カーブ
期待理論
流動性プレミアム
残存期間
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市場分断仮説
経済主体は,制度上あるいは慣習上の理由から,特定満期の債
券を選考・保有する傾向がある.
- 短期金融機関たる銀行は短期の債券を,長期金融機関たる生命保険会社
は長期の債券を選好.
- 満期の異なる債券の利子率の間に裁定機会が存在するような状況があったとして
も,特定の満期を選好する経済主体は,裁定取引をおこなおうとはしない.
満期の異なる債券間では,市場が分断されており,市場間での裁定が働かない.
満期の異なる債券の利回りは,それぞれの市場に特有の要因を反映した需給関
係に依存して決定される.
→ 利回りと残存期間との間には,いかなる関係も成立しうる.
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