言語能力検査としての言語処理: 長期間のブログ執筆を継続した 認知症の1例 四方朱子* 荒牧英治* ** *京都大学 **科学技術振興機構 さきがけ 私達が今居るところはどこですか? これから言う3つの言葉を言ってください. あとでまた聞きますので覚えておいてください. a)桜,b)猫,c)電車 100から7をひいてください. その答えからまた7をひいてください. 長谷川式簡易知能評価スケール 2 認知症発症数と医療費問題 要介護認定され ている 認知症高齢者 (日常生活 自立度II以上) 約280万人 MCIの 認知症高齢者 (年間で 10~15%が 認知症に 移行) 約380万人 (全体の 13%) 要介護認定 されている 認知症高齢者 (日常生活 自立度I) または要介護 認定を 受けていない 認知症高齢者 約160万人 健常者 (約2,054万 人) 65歳以上の高齢者における 認知症の現状 (平成22年時点の推計) 参考:厚生労働省 http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html (2014/2/4) 医療費:数千億円 介護費:6兆~7兆円 *既に算出している英国並みと仮定 すると:全体で10兆円を超す見込 2014年1月31日 読売新聞 3 認知症とは 意識障害 なし 記憶障害 あり 判断力障害 (計画不能) あり 社会生活・対人関係に 支障あり うつ病の否定 認知症 〈参考〉政府広報オンライン http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html (2014/2/4) 4 認知症の種類 その他の認知症 18.75% アルツハイマー型 認知症典型例 18.75% 脳血管性認知症 18.75% アルツハイマー型認知症 +脳血管障害 43.75% n=32 宮城県田尻町 〈出典〉Kenichi Meguro et al.: Arch Neurol, 59, 1109(2002) 5 The NUN Study [ 1986 - ] および加齢による語彙・構文能力の推移 Snowdon & Kemper + 健常者の場合 比較的 保たれるが, 認知症患者の 場合は 急速に減少する 健常者の場合 加齢とともに 減少するが, 認知症患者の 場合は 急速に減少する 健常者 認知症患者 6 今回の研究について 日本語を母国語とする認知症患者の 言語能力を自然言語処理技術で計測 コーパス:ある認知症患者による日本語ブログ(一般公開) ブログ執筆期間:2005年11月3日〜2011年9月18日 方法:コメント部分を除く全ブログテキストを収集 意味密度計測:月ごとの潜在使用語彙量(PA-Vocab)および 延べ単語数(token)の推移を計測 構文能力計測:月ごとの文節の係り受けの深さ(MT-Depth) の 平均値の計測 7 8 潜在使用語彙量:PA-Vocab. Aramaki + , 2012 一定TOKEN(延べ単語数) ∞ TOKEN 一定TYPE(使用語彙量) TYPEの収斂 =PA-Vocab.(潜在使用語彙量) PA-Vocab.: 19,0 00 TYPE 観察材料 TOKEN 9 TOKENとPA-Vocab.の推移 延べ単語数 (TOKEN) 潜在使用語彙量 (PA-Vocab.) 30000 7000 6000 25000 20000 PA-Vocab. 5000 4000 15000 3000 10000 5000 0 2000 TOKEN 12 24 1000 36 48 (month) 0 10 TOKENとPA-Vocab.の推移 PAVS (words) TOKEN (words) 30000 7000 25000 6000 5000 20000 4000 15000 3000 10000 2000 5000 0 1000 12 24 36 48 (month) 0 11 (a) TOKEN (words) 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 12 24 36 48 (month) 24 36 48 (month) (b) PAVS (words) 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 12 構文木の深さ:MT-DepthとMCU 書いた 私は 日記を 自分の 0 1 深さ=2 2 Mean of Tree Depth 0 1 2 (I (wrote (my diary))) Mean Clauses per Utterance 深さ=3 3 13 MT-Depthの推移 総文節数 MT-Depth, 平均文節数 12 10 総文節 数 平均文節数 8 MT-Depth 6 4 2 0 12 24 36 48 (month) 14 闘病ブログとの対比 ① PA-Vocab. 値の推移 赤:認知症患者 PA-Vocab. 折れ線グラフ 黒:闘病ブログ 執筆者 TOKEN 棒グラフ 12 24 36 48 (month) 15 闘病ブログとの対比 ② MT-Depth 値の推移 7 6 認知症患者 5 4 3 闘病ブログ執筆者 2 1 0 1 12 13 24 25 36 37 48 49 (month) 61 16 まとめ 10000 9000 8000 7000 語彙能力 6000 5000 共に低下 4000 3000 2000 1000 1 13 25 37 49 61 73 85 97 109 121 133 145 157 169 181 193 205 217 229 241 253 0 6 12 18 (years) 7 構文能力 6 5 日本語は ある程度 まで維持 4 3 2 1 1 13 25 37 49 61 73 85 97 109 121 133 145 157 169 181 193 205 217 229 241 253 0 6 12 (years) 日本語を母語とする 認知症患者の言語能力 18 英語は 低下 Kemper+の計測した 認知症患者の言語能力 17 課題と展望 仮説としてですが、私がパソコンを使 え無かった時代に認知症と診断され、 日記を書くといいですよ・・・とお医 者さんに薦められても私が日記を書く ことができただろうか?と。イライラ しながら、涙を拭きながらでも、文字を 書くことができたのでしょうか。そんな 風に思って見ますと、私は「恵まれた時 代」の患者ではと思っても見るのです。 (2008年03月02日のブログより) 言葉を書きたい………言葉を書きたい ………と思うのは、なざ(ママ)だろう か? (2009年11月03日のブログより) 本当に私は文章を書いていくこと が………書き続けていくことが出 来るのだろうか?この病に罹った からにはいずれは話せなくなり、 まして文章を書くことなど夢の話 となることだろう。でも書きたい。 (中略)鉛筆ではとても苦労する のだが、パソコンではそんなに考 つめることもなく文字が書ける。 それが脳にとって良いことなのか、 脳をさらに劣化させる作業となる のか………は私にはわからない。 だが、今は私自身を見つめ、私自 身の存在を自分で確認できるたっ た一つのこととなっている。 (2005年11月18日のブログより) 18 覚えていますか? 冒頭で覚えた3つの言葉を 言ってください. a)桜,b)猫,c)電車 [email protected] 19 参考文献 [1] Kemper,S., Thompson,M., & Marquis,J., 2001. “Lon-gitudinal Change in Language Production: Effect of Aging and Dementia on Grammatical Complexity and Semantic Content,” Psychology and Aging, 16, pp.312-322. [2] Snowdon,D.A., Kemper,S.J., Mortimer, J.A., Greiner,L.H., Wekstein,D.R.,& Markesbery,W.R., 1996. “Cognitive ability in early life and cognitive function and Alzheimer’s disease in latelife: Findings from the Nun study,” Journal of the American Medical Associa-tion, 275, pp.528-532. [3] Kintsch,W., Keenan,J., 1973.“Reading rate and reten-tion as a function of the number of the propositions in the base structure of sentences,” Cog Psych.1973;5, pp.257-274. [4] Kintsch,W., 1974. The representation of meaning in memory. Hillsdalex, NJ: Erlbaum. [5] Turner,A., Greene,E., 1977. The Construction and Use of a Propositional Text Base. Boulder: University of Colorado Psychology Dept. [6] 荒牧英治, 増川佐知子, 森田瑞樹, 保田祥 2012.「日本人のオンライン・コミュニケーション 上での平均使用語彙数は8,000語である」, 『情報処理学会研究報告2012(3)』, NL-208,NO.9. [7] Kurohashi,S., et al., 1994. “Improvements of Japanese Morphological Analyzer JUMAN,” Proc. International Workshop on Sharable Natural Language Resources, Aug. 1994, pp.22-28. [8] Kemper,S., Schmalzried,R., Herman,R., Mohankumar,D., 2011. “The effects of varying task priorities on language production by young and older adults,” Experimental Aging Research, 2011, March; 37(2), pp.198–219. “このブログを読まれる方は…患者自身であったり、介護する方であった り…研究者であったり…と立場の違う方々だと思います。(中略)… 私は、私自身の検証をも含めて「この病」からの不安を少しでも取 り除く手立ての助けになれば…又、交流できれば…と思っています” (2006年03月21日のブログより) 当該ブログ執筆者様に 感謝と敬意を込めて ご清聴有難うございました 言語処理学会第20回年次大会 於 北海道大学 2014年3月20日 22 言語処理による認知症測定 Snowdon & Kemper + の方法との対比 言語能力 語彙能力 構文能力 ENGLISH 日本語 Idea Density - TTR PA-Vocab. D-Level (はごろも?*) MCU MT-Depth *(c) 2012 HORI Keiko, GODA Sumire. 23 D-LEVEL と「はごろも」構文測定 D-LEVEL 8 段階(オリジナル 7 段階)1例 「はごろも」 6 段階 LEVEL 0 The man saw a boy. (最もシンプルな文) A1 初級 A2 初中級 LEVEL 1 Try to see the boy. (メインの節と同じ主語を持つ不定詞補語など) B1 中級 B2 中上級 LEVEL 2 The man saw and called a boy. (主語,文章もしくは動詞の並列など) C1 上級 LEVEL 3 The man scolded the boy who stole the bicycle. (関係節がメインの動詞を修飾など) C2 超級 LEVEL 4 The man loves visiting the boy. (補部にing形式の文・比較対象のある比較文など) LEVEL 5 The man will visit the boy if it does not rain. (従属接続詞によって繋がる文など) LEVEL 6 The man who visited the boy left early today. (関係節が主語を修飾する文など) LEVEL 7 The man decided to leave the boy when he heard that he was crying. (1つ以上の埋込み文など) ・私は本を読んでいます。(動作作用の継続) →A1 ・授業は4月から始めることになっている。(決まり/習慣/予定) →B2 ・時間があれば,行きます。(条件) →A2 ・歌も歌えば,ダンスも上手だ。(並立) →C1 1987 Rosenberg and Abbeduto 1992 Cheung and Kemper 2006 Covington, He, Brown + copyright (c) 2012 HORI Keiko, GODA Sumire. http://130.158.168.228/Checker/Default.aspx (2014/2/6) 24 「はごろも」構文能力値 の推移 計 C2×6 C1×5 B2×4 B1×3 A2×2 A1×1 C2 C1 B2 B1 A2 A1 1 12 24 36 48 (month) 25 MT-Depthの推移 MT-Depth, 平均文節数, MT-Depth/平均文節数 総文節数 1 2 総文節 数 1 0 平均文節数 MT-Depth 8 6 4 MT-Depth/平均文節数 1 12 24 36 48 (month) 2 26 はじめに • 本研究は,認知症患者による日本語のブ ログを,自然言語処理技術によって検証 する取り組み. 27
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