政治行動論 序章:政治行動論とは 1 私たちと政治 • 「政治」という言葉を聞いた時、何を思い浮かべます か? 2 ふだん目にする「政治」 • • • • • 政局(首相動静、政党間交渉、政治家の発言) 選挙前後の各党・政治家の行動、選挙結果 国会審議、予算 政策の内容 紛争、戦争 • 学部内政治、教授会政治、医局内政治、研究室内 政治? 3 私たちと政治 • 自分たちとは直接関わりのない人物や制度を議論 の対象にしているように思える • 政治に関して何かを考える時に、当事者としての視 点が抜けてしまう • 日本のような民主社会において政治の主役は私た ち! 4 私たちと政治の接点 • • • • • 選挙での投票 署名活動やデモへの参加 家族や友人との政治に関する会話 ニュースの視聴 政府や政策について意見をもつこと 5 さまざまな疑問 • 政策に関する私たちの意見はどこから来るのか • 政党や政策について私たちはどれくらいの知識を 持っているのだろうか • 選挙の際に私たちはどうやってこれだと思える候補 者や政党を選び出すのだろうか • 政治に積極的に関わることで、私たちはいったい何 を得ることができるのだろうか 6 政治行動論とは • これらの疑問に答えることを目指すのが政治行動 論という研究分野 • 政治行動論の分析対象は 1. 選挙への参加や候補者の選択などの行為 2. 候補者や政策に関する好き嫌いといった感情 3. 候補者や政策に関する知識や理解といった認知 4. 私たちが政治に関わることによって起こる政策・社会の 変化 7 政治とはなにか • 「政治とは誰が何をいつどのように獲得するかであ る(Politics is who gets what, when, and how)」 (Lasswell 1936) • 政治とは「私たちにとって価値のあるものを、誰がど れくらい受け取るのかを何らかのルールに基づいて 決めること 8 価値のあるものとその配分先 • お金の配分 – 税金の集め方 – 税金の使い方 • 権利の配分 – 夫婦別姓 – 選挙権 9 誰が決定に加わるのか • 1人が決める → 独裁制 • みんなが決める → 民主制 • みんな=有権者 – 国や地域(都道府県や市町村)の一員 – 各有権者は平等な資格(つまり一人一票)を持つ – 日本の場合だと、18歳以上の日本国籍を持つ人々が有 権者 10 代表民主制 • 有権者は政治的決定に直接に参加しない • 有権者は自分たちの代表である少数の代理人たち を選出し、その代理人たちに最終決定の権利を委 ねる。 • これを代表民主制と呼ぶ 11 代表民主制の過程 1. 【選挙】:選挙を通じて、有権者は自分たちの代表となる政 治家を選ぶ 2. 【政策決定】:当選した政治家たちは議会において討議を行 う。議会内での討議は多数派となった政府与党を中心に進 む。議会内の多数の賛成を得た案(多くは政府与党の案) が最終的な決定となり、政策となる 12 代表民主制の概略図 13 例1 1. 多くの有権者は消費税率の現状維持を望む 2. これらの有権者は選挙において現状維持を公約として掲げ る政治家・政党に投票する 3. 議会では現状維持を公約とする政党が多数派となる 4. この政党が自党の公約に忠実に行動したならば、つまり自 分たちに投票してくれた有権者の民意を尊重したならば、投 票を行うと現状維持が賛成多数となる 5. よって、議会内での多数決の結果、消費税率は現状維持と するという案が可決され、政策として実行に移される 14 代表民主制と応答性 • 上記の例は、代表民主制という制度が理想的に機能してい る状態を描いている • 理想的な状態とは、有権者の多くが望むことを政治家や政 府が政策として忠実に実現している状態を意味する • 代表民主制が理想的に機能しているこのような状態を、民意 に対する政治家や政府の政策応答性が高いと呼ぶ • 上記の例の場合、有権者の多くが望んだ消費税率の現状維 持が議会により政策として実現されているので政策応答性 が高い 15 例2 • 各有権者は理想の消費税率を0%から20%の間で選べると する • もし多くの有権者が理想の消費税率として高い数値を選ん だ場合、それに呼応して議会が消費税率を上げたとする。 • あるいは多くが低い消費税率を選んだ場合に、政府がその 望みを実現して消費税率を低く設定したとする。 • 政策応答性が高いとき、理想の消費税率と実際の消費税率 に図中の対角線のような関係が見られる。 16 例2:消費税と応答性 17 注意してほしいこと • 政策応答性は全有権者に対して等しく高くなるわけではない • 政策応答性が高いという時、議会の多数派を占める政党、 つまり政府与党がその支持者(つまり多数派の有権者)に対 して高い応答性を示していることを指す 18 政策応答性が低くなる時 • 政治家・政党が選挙で提示した公約を無視する • 政治家・政党が自分の私利私欲を追い求める • 政治家・政党が当選後に議会内での議論や投票に参加せず、 政治以外の活動に大部分の時間を割く(例えば企業経営や レジャーなど) 19 政策応答性と選挙 • 代表民主制における有権者はどうやって政策応答性が高い 状態を保ち、自分たちの望みを政策として実現すればいい のだろうか? • 政策決定の権利を委ねる以上、政府が民意を無視して自分 勝手に振舞ったり全く努力しない政治家がいたりしても、有 権者は黙ってそれを見ているしかないのか? → 選挙が重要な役割を果たす → なぜ? 20 政治家と選挙 • 少数の有権者が政治家になる動機 – 自分の望む政策の実現 – 金銭的報酬 – リーダーとして働く満足感 • よって、政治家にとって当選・再選が至上命題、選挙に負け れば政治家は「ただの人」 • 選挙に勝ちたい、そして勝ち続けたいという望みは政治家の 行動を縛る重要な動機 21 政治家と選挙 • 有権者は応答性の高い政治家を望んでいる • よって、選挙で勝つためには – 多くの有権者の望む公約の提示、その実現を約束 – 当選したらその実現のためにがんばる • つまり、 – – • 応答性の高い行動=再選 応答性の低い行動=落選 有権者は再選というアメ、落選というムチを使って政治家の 応答性を高めることができる 22 政治家と選挙 • 有権者が – – 応答性の高い政党・政治家を再選させる 応答性の低い政党・政治家を落選させる → 常に応答性の高い状態が保たれる! • 本当にこんなふうにうまくいくの? → 実は有権者の行動次第です 23 応答性の確保と有権者の役割 • 応答性を確保するための有権者の役割は大きい 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 有権者はどのような意見をもつのか 有権者は知識量はどれくらいか 有権者は重要な判断を下すために何を使うのか 有権者のうち誰が投票に参加するのか 有権者はどうやって最も望ましい政治家や政党を選ぶのか 有権者は政治家や政党に関する情報をどこから入手するのか 有権者の意見と政策に強いつながりはあるのか 選挙制度の役割とは何か 24 応答性の確保と有権者の役割 ① ② ③ ④ 民意(分布と形成、知識、イデオロギー) 選挙(投票参加、投票選択) 議会(立法と政策形成、これはここでは取り上げません) 政策(景気、政策、選挙制度) 25
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