「すざく」で挑む宇宙 --広帯域X線撮像分光-松本浩典(宇宙線) ©馬場画伯 今日の話 • 「すざく」衛星について – 搭載観測機器 – 他の衛星との比較 • 「すざく」の成果 – 超新星残骸での宇宙線加速 – 暗黒加速器? – 天の川銀河中心 – 惑星状星雲 – スターバースト銀河 X線天文学 銀河団:普通の光 銀河団:X線 ©CXC 銀河団は巨大な火の玉 想像すらしなかった姿が見えてくる! ©CXC X線天文学の歴史 日本は定期的に衛星をあげ、世界のトップを走る すざく(朱雀)衛星 (旧名:Astro-E2) キトラ 古墳の 朱雀 全長: 6.5m 重さ:1700kg 命名については…(一応公募) すざく打ち上げ 2005年7月10日、鹿児島県内之浦宇宙空間観測所 (USC)より、M-V型ロケット6号機で打ち上げ。 ここ! 打ち上げ方向 種子島じゃないよ すざく搭載観測機器 XRS=マイクロカロリメータ (NASA, 首都大学、ISAS. Wisconsin大), XRT=X線望遠鏡 (ISAS, 名古屋大) HXD=硬X線検出器 (東大、ISAS, 理研, 広島大etc) XIS=X線CCDカメラ (京大、阪大、ISAS、MIT etc) X-Ray Telescope (XRT) 40 cm ■ ■ ■ ■ ■ 全反射利用(入射角0.3~0.7°) Auコーティング(電子密度大) バームクーヘン構造 厚み170μm, 175枚 軽量・大有効面積 2回反射→ 焦点距離4750mm 鏡の表面積~50m2 (≒すばる) すざくXRTの特色 すざく Chandra 角度分解能 (PSF FWHM) 1分角 0.5秒角 XMM-Newton (RGA含む) 5秒角 有効面積 255cm2 100cm2 300cm2 焦点距離 4.75m 10m 7.5m 基板の数 175 4 58 重さ 19.9kg 1484kg 520kg すざくは、軽く薄い基板で鏡の数を稼ぎ、高エネル ギー側で大面積化。角度分解能は多少犠牲。 X線マイクロカロリメーター 温度計: Siサーミスタ 吸収体:HgTe Temperature X-ray Spectrometer (XRS) ΔT = E / C τ =C/G Time Ts ~ 60 mK C ~ 0.18 pJ/K G ~ 53 pW/K τ ~ 3.5 ms ΔT ~ 5.3 mK (E = 6 keV) エネルギー分解能 2 ΔE ∝ k B T C 入射X線エネルギーによらない!(67eV) XRSの特色 •非分散型としては最高のエネルギー分解能 (これまでの衛星搭載精密分光器は全て分散型(回折格子)) •検出効率が高い(特に高エネルギー側) •空間的に広がった天体でも OK エネルギー分解能(FWHM; eV) 0 0.1 1.0 100 10 200 100 有効面積(cm2) 1 2 4 8 10 エネルギー (keV) 0.1 0.3 1 3 10 エネルギー (keV) 世界記録達成! 衛星軌道上で実際に 取得した55Feからの スペクトル MnKα2 FWHM = 7.0 eV MnKα1 FWHM = 6.4 eV MnKβ1,3 衛星軌道上で60mKへの冷却成功。 較正用線源(55Fe)で、ΔE=7.0eVを達成! が、しかし… あろうことか、冷媒のHe. Neが全て蒸発。 天体観測を開始することなく、XRSは寿命を終え ました。 当初は2-3年の寿 命を想定してい ました。 He蒸発の原因 http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/0126.shtml 原因:He排気弁を衛星内に設置 詳しくはISAS/JAXAのwebをご覧ください。 http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/0126.shtml X-ray Imaging Spectrometer(XIS) •X線CCD •すざくで唯一の撮像分光器 •京都大学が担当。他にMIT,阪大,ISASなど X線CCD~Si半導体検出器のアレイ X線 電極 (不感層) 空乏層 50-70μm 光電吸収 Gate(珪素) 絶縁膜 (二酸化珪素) 1画素(24μm) 空乏層 (珪素) CCD素子の断面図 転送の様子 FI CCDとBI CCD Front side Illuminated Back side Illuminated X線 X線 光電吸収 BIは低エネルギー側で検出効率が良い。 しかし一般にエネルギー分解能に劣る。 XIS BI BI FI 超新星残骸 E0102-72のス ペクトル (24.6ks) Chandra XMM pn XIS BIは、FIと同等のエネルギー分解能! (Chemisorption Processのおかげ) 性能表 •フレーム転送型CCD •Front-side illuminated (FI) 3台 電極層 •高エネルギー側感度良好 空乏層 •Back-side illuminated (BI) 1台 •低エネルギー側感度良好 •視野: 18x18分角 •エネルギー範囲: 0.2—12 keV •ピクセル数: 1024x1024 pixels •エネルギー分解能: ~130 [email protected] keV •読み出しノイズ: ~3electrons •時間分解能:通常8s (timing mode で 7.8ms) X-ray FI BI X-ray XIS vs 他の衛星 3本のFe line 銀河中心スペクトル 短い観測時間で極めて 良質のスペクトル 低バックグラウンド CCD単位面積あたりのバックグラウンドを示したようなもの。 高エネルギー側で低バックグラウンド Hard X-ray Detector (HXD) BGO Si PIN GSO 光電子増倍管 PIN: 10—60keV, GSO: 30—600keV, BGO: アンチ •井戸型(GSO/BGO)狭視野, Active shield •ハイブリッド化(Si PIN+GSO)広帯域 •複眼配置大面積、反同時計数 超低雑音、史上最高検出感度の硬X線検出器 を目指している 天体とBGDの比較 水色:BGD 色々工夫しても、非撮像型検出器はBGDが多い。~1%の精度でBGDの 強度を予測できるようになれば、史上最高の感度を達成。 HXDの感度 Continuum Components 10-4 HEAO A-4 5 SIGMA Flux (cts s -1 keV-1 cm-2) Ginga Line Components GSO: 350cm2 PIN: 160cm2 E/E = 0.5 10-5 HEXTE 40ks PDS 40ks 5 40ks 100ks 10-6 OSSE HXD PIN 5 HXD Phoswich 5 10 50 100 Energy (keV) 500 1000 BGDの系統誤差を1%まで押さえ込めたとして。 今はまだ 5% のレベル。 すざくの特色 E>5keVでの分光能力 E<1keVでの広がった天体に 対する分光能力 すざ く Chan dr a X MM- Newt on 集光能力 すざく @鉄K輝線 分光能力 5 0 ダイ ナミ ッ ク レンジ XMM-Newton 解像度 Chandra ちなみに すざく Chandra XMM- 価格 157億円 2200億円 960億円 全長 6.5m 16m 11m 質量 1700kg 5900kg 3800kg グラム単価 9200円/g 37000円/g 25000円/g お求めやすいお値段になっております!? 宇宙線加速の話題 超新星残骸に X線シンクロトロン放射発見 (Koyama 1995) 粒子(電子)が非熱的なエネルギー分布。 少なくとも TeV のエネルギーまでは加速。 どこまで加速されている? 粒子数分布(個/cc/keV) GeV程度の電子:電波を放射(光指数2程度) フェルミ加速示唆 最高エネルギーのあたりで カットオフ GeV TeV TeV程度の電子:X線を放射 (光指数 2.7ぐらいが多い) X線で折れ曲がりがない か? 電子エネルギー エネルギーE_e の電子が出すシンクロトロン放射 E_p~4keV×(B/10μG)×(E_e/100TeV)2 超新星残骸RXJ1713-3946 F(E)∝E-Γ XIS Γ=2.4 HXD(PIN) Γ=3.2 (ISAS高橋 et al.) 超新星残骸でX線領域でカットオフ最高エネルギー~TeV? TeV観測と共に、陽子加速を示唆? すざく シンクロトロン放 射を出す電子が3K 輻射を逆コンプト ンしたと考えても、 うまくあわない。 加速された陽子が 物質と衝突して Π0粒子発生。 Π0が崩壊した時の TeVγ線? pp → π0 → 2γ 暗黒加速器(dark accelerator) HESS J1616-508 •TeV γ線で非常に明るい。 •すざくで有意なX線検出できず。 FX(2-10keV) < 1.2×10-13erg/cm2/s HESS すざく 2-10keV その意味は? TeVγ線が電子起源だとすると… X線: シンクロトロン放射 電子と磁場の衝突 同じ! TeVγ線: 逆コンプトン散乱 電子と輻射場(3K輻射)の衝突 X線強度/TeVγ線強度 =磁場エネルギー密度/輻射場エネルギー密度 (P_syn / P_IC = U_B / U_3K) 電子起源は難しい U_B ~ P_syn/P_IC x U_3K < 1.2e-15 erg/cm3 すざく: P_syn < 1.2e-13 erg/s/cm2 HESS: P_IC = 4e-11 erg/s/cm2 U_3K = 4.0e-13 erg/cm3 U_B = B2/8π B < 1.7e-7 gauss 宇宙空間は、何もないところでも、マイクロガウ スの磁場。これほど異常に弱い磁場が、超新星残 骸で実現されるとは考えにくい。 TeVγ線は陽子起源か? HESS観測結果 F(>0.2TeV) =4.3×10-11/cm2/s Γ=2.4 M1内山君ご苦労様! Π0粒子の崩壊 と良く合う すざくによるシンクロトロン放射上限値を仮定。 F(2-10keV)<1.2e-13erg/s/cm2 史上最高の鉄輝線分光:銀河中心領域 中性Fe(6.4keV) Fe H状Fe(6.9keV) S Ar Ca Ni Si He状Fe(6.7keV) 同じ鉄輝線でも物理状態は全く違う すざくでとった銀河中心のX線スペクトル 高階電離の鉄輝線の起源は? ぎんが、あすかの成果: 高階電離鉄輝線は 500光年×1000光年にわたり一 様に分布。 起源は? •高温プラズマ説 •宇宙線荷電交換説 高階電離鉄のイメージ(あすか) 荷電交換説 宇宙線 Fe+26 He状Fe輝線 (6.7keV) 星間雲 ほとんど H, He Fe+25 H状Fe輝線(6.9keV) Fe+24 宇宙線中の裸のFe原子核が、星間雲中 のH, Heから無理やり電子を奪い取る 鍵はHe状Fe輝線にあり! 1s2p1P1 1.電子捕獲 f 1s2p3P0,1,2 共鳴線(r) 6.703keV Δl=1,Δs=0 1s2 1S0 1s2s3S1 Hi res CCD r 6666eV 禁制線(f) 6.639keV Δl=0,Δs=1 Fe24+の微細構造 2.高温プラズマ f 6685eV r Hi res CCD すざくスペクトルの威力! 6679eV±1eV 6.7keV輝線強度分布 銀河中心 6.4keV輝線強度分布(低温分子雲) •6685eV(衝突電離プラズマの実験 値)とはわずかに6eVのずれ。 •空間分布も電子捕獲では説明困難。 どちらも高温プラズマを支持! 100光年 プラズマの温度と空間分布 Fe24+ Kα Fe25+ Kα Fe24+ Kβ 6.7keV輝線強度分布 6 7 8 電離温度指標: Fe25+ Kα/ Fe24+ Kα 電子温度指標: Fe24+ Kβ/ Fe24+ Kα •電離温度、電子温度ともに~7keV •l=-0.4~+0.1°で温度ほぼ一様。 6.4keV輝線強度分布(低温分子雲) 精密分光による物理パラメ ター決定の意義 従来の温度指標: 連続成分の曲がり具合のみ •温度の非常に鈍い関数 •非熱的成分の混入の影響 正確な温度を求め難い すざくはこの困難を初めて打破! 高温プラズマの不思議 総エネルギー: 1053~1054 erg 拡散時間: (サイズ:1000光年)/(音速:2x108 cm/s)~10万年 定常的に何かがエネルギーを供給しているはず! エネルギー注入率: 1048~1049erg/年 コンパラ 超新星爆発: 1051 erg, 100年に1発 1049erg/年 超新星残骸として輝くのは数千年だから、 数10発ぐらい見つかればOK? 新天体ぞくぞく発見(SgrB2領域) 300光年 新X線反射星雲 SgrB2分子雲 新超新星残骸 新超新星残骸のスペクトル He状Fe輝線の中心 エネルギーのみか ら温度決定! Chandraなども使い、他にいくつも超新星残骸候補を発見。 銀河中心プラズマを説明できるかも。 新X線反射星雲のスペクトル 非常に強い中性Fe 冷たい物質が 強烈なX線で 照らされてい る証拠 300年前、銀河中心BHは 今の100万倍明るかった。 (~1039 erg/s) 銀河中心を挟んで反対側で も! Sgr C 分子雲領域 He状S Kα線イメージ 250光年 中性Fe輝線イメージ SgrC SgrC 新超新星残骸 新X線反射星雲 やはり銀河中心は昔100万倍明るかった。 低エネルギーバンド観測の話題 問: 我々の体の材料はどこで出来た? 模範解答:星がせっせと核融合 しかし、誰が見た? 星内部の核融合情報を直接検出しているのは、 太陽ニュートリノぐらいか? そこで惑星状星雲 NGC6369 エスキモー星雲 わりと軽めの星が、最期 に自分を撒き散らして消 失していく様 キャッツアイ 可視光による惑星状星雲 白色矮星 星風:数1000km/s M57 元は星の内部。 X線による惑星状星雲BD30+3639 2.5 arcsec 可視光のシェルの 内側からX線 しかし、X線スペクトルはよ くわかっていなかった。 color: H-alpha contours: X-ray 等高線:Chandra すざくBI CCDスペクトル H-like C-Kα (0.37 keV) C-Kβ (0.44 keV) He-like O-Kα 0.56 keV H-like O-Kα 0.65 keV He-like Ne-Kα 0.91 keV 初めて炭素の 明確な輝線を 検出。 C/O~95 solar source region, background region (東京大学村島、牧島ら) ヘリウム燃焼 の生成物。 3He C + γ もっと大きなスケールで スターバースト銀河M82 超新星爆発がばんばん 発生。合成した重元素 を周囲に撒き散らす すざく BI CCD イメージ 高温ガスがたな びく様がよく分 かる。 “Cap”領域のス ペクトルを調べ てみた。 すざくM82 Cap スペクトル 重元素組成比(太陽組成比) Suzaku 10 Mg O Ne 1 Fe 0.1 0.01 O, Ne, Mg, Fe などが確かに飛び出ている! まとめ •XRSは亡くなってしまったが、XISとHXDは 元気に活動中! •XISは、CCDとしては最高のエネルギー分解 能。 •高エネルギー側(特に鉄輝線付近)の撮像分 光観測で、質的に全く新しい局面を開きつ つある。 •BI CCDの低エネルギー側での感度・分解 能も優れている。 •HXDはまだBGD調査中。系統誤差1%を達成 国際学会やります! 21COE後援 The Extreme Universe in the Suzaku Era 2006/12/4 – 12/8 @京都テルサ たくさんの参加を お待ちしております。 参加費は無料らしいよ! http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/conference/suzaku2006/
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