CERNandLHCATLASPoster-V7J, http://atlas.kek.jp/sub/poster/index.html アトラス実験で何がわかるか ヒッグス粒子 - 質量の起源にせまる - 20 世紀後半、著しい理論・実験の発展により素粒子物理学では素粒子の標準理論 が構築されました。標準理論は数多くの精密実験により検証されています。その基 本は、(1) 3 世代のクォークとレプトン (2) 3 種類のゲージ粒子による 力の媒介 (3) ヒッグス・メカニズムによる質量の創出です。 (2)力(相互作用)は全てゲージ理論という美しい数学的枠組みで記述されます。 しかし、ゲージ理論では粒子は質量を持つことができません。 南部陽一郎が唱えた自発的対称性の破れの考えを P.W. Higgs 達がゲージ理論に応 用し、真空が凝縮したヒッグス場で満たされていれば粒子が質量を持つことができ るという事が分かりました (ヒッグス・メカニズム)。このアイデアを電磁力と弱 い力に適用して統一したのがグラショー・サラム・ワインバーグの電弱統一理論で、 標準理論の重要な一部となっています。 ヒッグス・メカニズムが正しいならば、対称性が破れた後に少なくとも 1 種類の スカラー粒子 (ヒッグス粒子) が存在しなければなりません。LHCのアトラス実 験では、これを確実に捕えることが目的の一つです。 ヒッグス粒子を発見!! 「標準理論」の世界。ヒッグズ粒子が発見され ればすべての粒子がそろう。 (左)P.W. Higgs とアトラス測定 器 ( 2008 年 4 月 15 日 撮 影 ) Higgs等はヒッグス粒子の存在を予 言した(1964年) (右)南部陽一郎 2008 年度ノー ベル物理学賞受賞者 2012年7月4日アトラス実験とCMS実験は、ヒッグ ス粒子と思われる新粒子を発見したと発表しました。 右図は、その後、データを蓄積し、この新粒子が2 つの光子に崩壊した場合と、4つのレプトン(電子、 あるいはミュー粒子)に崩壊した場合のデータを示 してあります。どちらにも126GeV付近にピークが見 えます。 これが本当に標準理論の予言するヒッグス粒子かど うかなど、この粒子の性質をこれから何年もかけて 精密に調べていきます。 2光子崩壊での不変質量分布。黒点がアトラスのデータ で、赤点線がヒッグス粒子がない場合の予想分布 。 126GeV付近に盛り上がりが見える(矢印) 4レプトンへ崩壊での不変質量分布。赤が ヒッグス粒子以外からの予想分布、ヒッグス 粒子の質量が125GeVの場合の予想分布。 データ(黒点)はヒッグス粒子が存在する場 合の分布とよく合っている(矢印) 左図は4レプトンへの崩壊モードの事象候補の例 TeV エネルギースケールに展開する新しい物理パラダイムの探索 -ヒッグス粒子だけでは終わらないー 超対称性粒子の探索 標準理論の粒子の精密測定から TeV 領域に超 対称性粒子群が存在することが強く示唆され ています。これは超対称性理論が提唱する、 通常の素粒子に対応した新しい粒子群で、そ の存在により宇宙初期相当の高エネルギーで 「三つの力の大統一」が実現出来ると考えら れています。 標準理論では未解決の階層問題、宇宙の暗黒 物質問題等にも解答を与え、現在最も有力視 されている理論です 。確認されれば、素粒 子・宇宙物理学にとって革命的な発見になり ます。 1TeV以下に超対称性粒子が存在すれば、こ れまでに収集したアトラスのデータで見つ かってもいいのですが、まだ徴候が見えてい ません。いろいろな崩壊モードでの探索と、 より高い質量領域の探索を進めています。 隠れた次元を探る 超弦理論が予言する 10 次元の世界において、 我々の世界は 4 次元の膜(ブレーン)に貼 りついていると考えるのがブレーンワールド 宇宙論です。これが正ければ LHC のエネル ギーで重力子の直接生成も可能で、余剰次元 に逃げ込む重力子の効果を観測することが出 来ると期待されています。ミニブラックホー ル生成の可能性も指摘されています。
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