社会保障論講義 2章「本当に重要なことだけを必要最 小限にまとめた社会保障入門」3、4 節 学習院大学経済学部教授 鈴木 亘 3. 現実の社会保障制度を読み解くポ イント • 日本の社会保障制度は理論から大きく乖離 した制度。 • 例えば、①公費負担が高い、②世代間不公 平が大きい、③世代内不公平も大きい、④保 険制度の種類が、職業別あるいは地域別に 多数分立していて複雑、⑤お互いの保険が ( )によって絡み合っている 。 • こうした現状は、後付理論で説明することは できない。歴史的経緯の遺物と考えれば良い。 • 社会保障制度形成のパターン • 歴史的に、社会保障制度が充実しているのは、 まず公務員、ついで大企業 。( )の一 貫として自前で持っていた。 • 国が成長して豊かになってくると、中小企業も 望むが、財政的に豊かではないため、国から の財政支援、つまり公費負担が行われる。 • そのうち、サラリーマン以外の残りの人々(農 林水産業や自営業、無職者など)が加入して いないのは不公平とされ、さらに公費負担が 手厚い保険が成立。 →( )の達成。 • 皆保険達成は、年金、医療保険ともに ( )年。 • 公費は税金なので、この制度は、豊かなサラ リーマンや公務員から、相対的に低所得であ る農林水産業、自営業者たちへの所得再分 配。高度成長してパイが増えており、国の財 政にも余裕がある時代は、所得再分配が行 なわれやすい。 • もっとも、後から設立される制度ほど財政状 況は良くないので、先に出来た豊かな制度は 合併を拒む。このため、医療保険も年金も、 職域ごとの( )がいつまでも続く。 図表 2-8 社会保険設立の歴史的経緯 1(若年人口+高成長社会のケース) 高度経済成長 +若年人口社 会 保険料支払い能力の増 加 中小企業 自営業・農林水産業 豊かな政府財 政 公費による財 政援助 公費 公費 国民皆保険の達成 大 企 業 公 務 員 図表 2-9 社会保険設立の歴史的経緯 2(高齢人口+低成長社会のケース) 低成長 +少子高齢社 会 保険料支払い能力の低 下 中小企業 大 企 業 自営業・農林水産業 政府の 緊縮財政 保険間での助 け合いの指示 公費による財政負担 財 政 調 整 制 度 公 費 財政負担減のための規制強化 公 務 員 • その後、低成長時代、少子高齢化時代が来て、 国の財政も余裕がなくなる。 • そのため、制度同士協力し合うための ( )の仕組みを作る。 • そのためには、国も負担する覚悟を見せる必 要があるため、財政調整へ一定割合の公費負 担が組み込まれることになる。 • 公費負担の割合が非常に高くなると、国や地 方自治体の統制も厳しくせざるを得ない。政治 的に税負担を引上げは困難なため、むしろ、 給付抑制の仕組みが整備。 • 具体的な方法は、( )と( )。 4.医療保険制度の基礎知識 • 医療保険制度は4つに分類 • ( )・・・主に大企業の従業員やそ の被扶養者が加入。2008年現在で、約1500の 組合が存在。 • ( )・・・主に中小企業の 従業員と被扶養者が加入。加入数は現在、約 3400万人。2008年に、政府管掌健康保険から 名称変更。( )単位で財政運営され、保 険料率(保険料額/ボーナスを含む賃金)も都 道府県ごとに異なる。 • ( )・・・国家公務員に関する21 の共済組合、地方公務員等の54の共済組合、 私学共済の合計76の団体。公務員本人及び その扶養者が加入しており、加入者数は現在 約900万人。 • ( )・・・農林水産業従事者や自 営業者、無業者などが多く加入。加入者数は 約4200万人と最大。運営は市町村ごとに行な われており、2008年現在で1835の市町村国 保がある。 • このほか( )といって、弁護士や医師な どの職業の人々が、同業者同士で加入する国 保も存在。 図表 2-10 医療保険制度の仕組み 組合 政管 共済 国保 退 職 者 医 療 制 度 老 人 保 健 制 度 組合 協会 共済 国保 前 期 高 齢 者 医 療 制 度 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 • 保険料と公費負担の差 • これらの( )、( )、( )、 ( )の各保険制度の違いは、まず、公 費負担の比率。先に作られた組合、共済は全 く補助金が無いのに対して、政管健保は給付 費の13.0%、国保は50%が公費によって賄 われている。 • 保険料率は、協会けんぽで現在8.2%。健保 組合や共済健保はそれ以下のものが多い。 国保は加入者の所得把握が難しいために、 保険料率ではなく、頭割や負担能力を勘案し た独自の保険料を市町村ごとに決め、徴収。 • サラリーマンの各保険(健保組合、政管健保、 共済健保)をまとめて( )と呼ぶ。の被 用者保険と国保のもう一つの違いは、 ( )の取り扱い。 • 被用者保険では、専業主婦や子供などの被 扶養者の保険料負担はなく、サラリーマン本 人である( )のみが、被扶養者の有無 や数にかかわらず同一の保険料率負担。 • 国保では被扶養者・被保険者という区別はな く、全ての人々が被保険者として保険料を算 出される。 • 老人保健制度と後期高齢者医療制度 • さて、こうした縦割りの各保険制度を横断的に つなぐ仕組みとして、( )と ( )という2つの制度が2007年 度まで存在。これは、各保険制度間の ( )を行なう制度。 • 国保は高齢者が多く含まれる保険制度。国保 の財政負担が重くなることに配慮して、老健 が1983年、退職者制度が1984年に設立され、 サラリーマン達の各保険から国保への ( )という形で、実質的資金援 助が行なわれることになった。 • 老健の対象者は75歳以上の高齢者、退職者医 療制度が74歳以下の被用者保険の退職者。老 健は、給付費の5割を公費負担で賄われる。 • 2008年からは、老健が廃止され、後期高齢者 医療制度が開始。2008年現在で約1300万人 が加入しており、都道府県を単位とした47の広 域連合によって運営。 • 現在の費用負担構成は、公費負担が5割、高 齢者の保険料が1割、各保険制度から後期高 齢者医療制度への財政支援である ( )が4割。これまでの老健制度 と基本的な変化はない。 • 後期高齢者医療制度によって変わった意味 は、高齢者の保険料負担割合を( )割と定め、 将来の保険料引上げの仕組みを確保したこと にある。そのために、その負担の徴収ベース を広くして、高齢者1人1人を対象にし、また、 確実に徴収を行なうために年金からの ( )を行なうという制度変更。 • もう一つは、後期高齢者に対して独自に定め られた診療報酬制度で、かかりつけ医化の推 進、在宅医療化の促進、終末期医療の管理、 外来医療の包括化など、全体として医療費が 効率化もしくは抑制される仕組みに変更。 • 自己負担率 • 患者の自己負担率は、現在、全保険制度で統一。 原則(3)割、義務教育就学前児童が( )割、70 ~74歳の前期高齢者が( )割(現役並み所得者 3割)。健保組合は、付加給付あり。 • 一方、後期高齢者医療制度の自己負担率は ( )割(現役並み所得者3割)。1973年の福祉元 年から10年ほどの間、老人医療費を無料化した ことの影響。 • ( )は、患者が支払う月当たりの 自己負担額に上限を設け、それ以上支払った場 合には、後で医療保険から( )される制度。 • 価格規制と参入規制 • わが国の医療制度は、市場経済の仕組み になっておらず、政府が価格を統制する。 • 価格を( )と呼び、サービス内 容や医師の技術の良し悪しにかかわらず、同 じ診療行為に対して、同一の固定価格。 • 診療報酬を決めるのは、厚生労働省管轄の 「中央社会保険医療協議会( )」であり、 2年ごとに、保険者等の「支払側」と医師会等 の「診療側」の審議・利害調整が行なわれて いる。 • 医薬品は( )という公定価格。診療報 酬とはやや異なり、保険が支払う際に用いら れる算定価格。取引価格は、この薬価基準か ら乖離しても良い。薬価基準と取引価格との 差額は、( )と呼ばれ、医療機関の重 要な収入源。 • 参入規制は、医療法に基づく、( )。2 次医療圏という医療独自の地域区分に対して、 都道府県が一定の必要病床数を設定し、これ を超えて病院の新設や増設の申請があった 場合には、それを認可しない • 大学医学部の入学定員も規制され、医療費の 抑制手段として機能。 • • • • • • • 2006年改革 後期高齢者医療制度の創設 前期高齢者医療制度の創設 都道府県別の保険者再編・統合 診療報酬の引下げ 高齢者の自己負担引上げ ( ・ )による生活習慣病対策 (40歳以上の中高年を対象に、特定検診義務 付。所属する保険者には、受診の達成率、メタ ボ解消の達成率、その他様々な成績評価を課 せられ、「後期高齢者支援金」が最大( )割を 限度に、加算・減算が行われる ) • <コラム3> 厚生労働省の伝統芸「長瀬式」 • 自己負担率の引上げが政策の場で論議されるたびに、 厚生労働省は医療費や財政に与える効果を試算し公 表。毎回使われているのが、知る人ぞ知る「長瀬式」と いう2次式。 • 70未満の一般加入者用 Y=0.475X2+0.525 • 70以上の老健対象者用 Y=0.499X2+0.501 (Yは縮減率、Xは給付率) • 問題点・・・①統計的に推定された式ではない、②集計 データを用いている、③恣意性を生み出しやすい、④ 長瀬式から得られた価格弾力性(自己負担額が1%変 化した場合に医療費が何%変化するのか)は、これま でわが国の医療経済学者達が様々な形で推定してき た医療需要関数による価格弾力性と大幅に異なる。 • <コラム4> 診療報酬引下げ効果の賞味期限 • 2002年、2006年の医療制度改革の際に行なわれ た診療報酬改定では、2度にわたり、診療報酬の引き 下げが行なわれた。一般には、医療費増加の抑制に 対して効果的であったと考えられている。患者の自己 負担増や、保険者の保険料率引上げと供に、医療提 供者側までもが痛みを伴う改革を行なったとして、 2002年の改革時には、小泉首相による「三方一両 損」として、マスコミなどに高く評価された。 • ところが、2002年に行われた診療報酬の引下げに ついて、その後の医療費を厳密な手法により、詳細に 追跡した研究によれば、その医療費抑制効果の賞味 期限は意外に短く、1年足らずの間に元の水準に戻っ ている。 コラム 4 図表 整形外科 1 日当たりの医療費水準の推移(推定結果による純粋効果) 0.04 0.02 0 -0.02 -0.04 -0.06 -0.08 -0.1 -0.12 2002年 4月分 注)鈴木亘(2005)による 6月分 8月分 10月分 12月分 2月分
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