経営学Ⅰ

経営学Ⅰ
リーダーシップ
リーダーシップ
• リーダーシップとは、集団の目標・価値の実現(Performance)と、集団内
の人間関係の維持という2つの次元を同時に目指す実践的行動である。
• 初期のリーダーシップに関する研究は、特定のリーダーの能力やパーソ
ナリティなどに焦点をあてたものであった。Trait Theory(個人属性)は、
その代表的な研究であった。1948年にWarren Bennisが90人の米国
で大成功を収めたリーダーを対象に行った研究により次の四つの個人属
性が重要であると提唱した。
– (Attention)未来のビィジョンと強いコミットメントで、周りの人々を強く引き付
け、その未来に向けて牽引する魅力。
– (Meaning)優れたコミュニケーションの技術を持ち、その技術を使用して回り
の人々に必要な行動の正しい意味を伝える能力。
– (Trust)リーダーの考えや信条を、回りの人々に隠さず、その信条を変えるこ
となく、高い信頼を人々から得る能力。
– (Self)自己の長所を継続的に伸ばし、また失敗からも学習する能力。
リーダーシップ
行動科学的アプローチ
• 初期のリーダーシップの研究では、リーダーは一種の個人属性で、一
部の人たちが持って生まれた物と考えられていたが、客観的な研究が
進むにつれ、リーダーシップを行動から捉えようとする研究が主流と
なってきた。その初期の研究では、リーダーの行動パターンを幾つか
に分類し、典型的なリーダーシップ・スタイルを明示した。
性質
専制君主タイプ
民主主義タイプ
自由奔放タイプ
•全ての権限と責任を持
つ
•明確な仕事の指示する
•トップ・ダウンのコミュニ
ケーション
•かなりの部分の権限を委譲するが、
最終的な責任は持つ
•参加者全員の合意による役割分担
•トップ・ダウンと、ボトム・アップの両
方向のコミュニケーション
•殆どの、権限と責任をグループに
委譲する。
•グループに全てその仕事の進め
方は任せる。
•殆ど、グループ内のコミュニケー
ション
長所
短所
クイズ:下の長所と短所を考えてあなたなりに埋めてみてください。
ヒント:結果予測性、モチベーション、コミットメント、自主的行動、効率性、協調
性を考えてみてください。
リーダーシップ
行動科学的アプローチ
• 1940年代にオハイオ州立大学で行われた研究は、リーダーシップの行
動には二つの次元があることを明らかにした。第一の次元は、「配慮」で、
人間関係や従業員の要求を重視することである。第二の次元は、「構造
作り」で、仕事の遂行や組織目的を重視することを意味する。それぞれ
の次元の高低により四つのパターンを提言した。この論理では、配慮と
構造の両次元で高い場合に最も高い業績をえることを明らかにした。
高 リーダーはグループ内の協調性に
重点をおき、メンバー個々の満足
度を上げる努力をする
配慮
リーダーは総じて周りの環境に受
動的に対応するだけである。
リーダーは良好な人間関係の構
築と、仕事の遂行に対して最大限
のバランスをとることに注力をささ
げる。
リーダーはその労力の全てを仕事
の遂行と目的達成にそそぎ、人間
関係などは殆ど無視する。
低
高
低
構造作り
リーダーシップ
行動科学的アプローチ
•
•
•
オハイオ州立大学の研究をさらに進めたのが、ブレイクとムートンが発表したマ
ネージメント・グリッド(格子)である。彼らの理論では、「業績に関する関心」と「人
間に関する関心」の2次元をそれぞれ9段階でグリッド(格子)を構成し、両次元共
に低い1・1型、業績志向の9・1型、人間志向の1.9型、中くらいの5・5型、それ
に両次元共に高い9.9型に区分した。このうちで、9.9型が最も高い業績へ導く
と証明した。
オハイオ州立大学やムートンの理論では、よく言われる「唯一の理想的なリー
ダーシップ・スタイルは存在しない」という仮説に反論し、それぞれの両次元で高
いリーダーシップ・スタイルが理想的で高い業績を導くことを提言した。
しかしながら、現実にはやはり最善のリーダーシップ・スタイルは存在しないと
いった説は広く浸透しており、新たな研究がこれを元に続けられた。これらの理論
の根拠となる仮説は「絶対的に有効なスタイルは存在せず、有効性はリーダーや
フォロワーのおかれている状況によって異なるという相対主義」がもとにある。こ
うした研究は「Situational Theory」とよばれ、特に広く普及しているものに、
フィードラーのコンティジェンシー理論、パス・ゴール理論、ブルーム・ヤットンの
「Decision-Making」理論などがある。
リーダーシップ
フィードラーのコンティジェンシー理論
•
フィードラーのコンティジェンシー理論は現在最も沢山の実験によりその理論が試されている理論であり、
30年以上にわたる研究・実験により導かれた理論である。彼の理論は次の仮説により導かれている。
リーダーシップの有効性は次の2つの要因によって左右される。1)リーダーにとって状況が影響やコント
ロールしやすさの(好状況・悪状況)度合い、2)リーダーのモチベーションがおきる要因。この2つ目の要
因は仕事志向と人間志向に大きく分類できる。
仕事志向のリーダーに
有効である
好状況
•メンバーとリーダーは一緒に働く
ことを楽しむ
人間志向のリーダーに
有効である
中間状況
•好状況と悪状況の両方の状況が混在
する
仕事志向のリーダーに
有効である
悪状況
•メンバーとリーダーは一緒に働く
ことを好まない
•メンバーは内容が設定されてい
ない仕事を行う
•メンバーは明確に設定された仕
事を行う
•リーダーは明らかな権限を持っ
ておらず、メンバーの仕事を評価
基準もはっきりしていない
•リーダーは公式の権限を持って
仕事を制御し、メンバーの仕事を
評価する
理由
この状況ではリーダーは仕事
に集中することが容易に出来
る
この状況では予測不可能な事態に
対するリーダーの助けがメンバーに
とって不可欠となる。
非常に予測不可能で信頼性が欠けた
状況ではリーダーは逐一その状況を
制御して仕事を遂行させる必要がある。
リーダーシップ
パス・ゴール理論
•
•
•
パス・ゴール理論は比較的に新しいリーダーシップ理論であり、まだ十分に実験により
その有効性が証明されてはいないが、この理論は、モチベーション理論をリーダーシッ
プに関する研究に取り入れた最初の理論として重要な役割を果たした。
パス・ゴール理論では以下の仮説の元に理論が構築されている。有効なリーダーはメン
バーのモチベーションを高めるために、1)仕事のゴールを明確にする、2)ゴールの達
成度と報酬の関係が同意でき意味があるものにする、3)どうしたらゴールに達成できる
かメンバーに明確に伝える。
この理論では、仕事の種類(難易度)やメンバーのキャラクター、仕事の状況等により異
なったリーダーシップ・スタイルが有効にメンバーのモチベーションを高めると仮定して
いる。そこで4つのタイプのリーダーシップを提示している。
リーダーシップ・タイプ
内容
状況
Directive(指示的)Leader
メンバーに逐一仕事の内容、スケジュール、ルー
ル、基準等を指示する
不確定要素の多い状況で効果的
確定的な仕事では非効果的
Supportive(支持的)Leader
メンバーと友好的な関係を構築することと、メン
バーの健全な精神状態を保つことに注意する
ストレスの多い状況下で効果的
Participative(参加型)Leader
メンバーからの意見を積極的に取り入れ、メン
バーの参加を促す努力をする
メンバー個人の意思が大きく左右する状況で効
果的
Achievement-oriented(結果重視型)Leader
つねにゴールを設定しメンバーにそのゴールに達
成することを要求する
不確定で非反復的な仕事を行う状況下で有効
リーダーシップ
リーダーのジレンマ
• リーダーシップは、それぞれに固有の目標をもった社会・組織・集団にお
いて発揮される行動である。それゆえリーダーシップとは、集団の内部へ
向けた対内的行動であると同時に、価値実現、意味志向性をもった対外
的な行動でもあり、2重の表現行動ということになる。カリスマとされるよ
うなリーダは、この2重性を苦もなく突破しているように見えるが、実際に、
カリスマ的な経営者の方に、世間に流布している逸話や噂話のことをお
聞きすると、「大変ですよ!そんなことしてませんよ」と苦笑されることが
多い。どうやら、カリスマ的物語は本人の意図・行動とはあまり関わりなく
つくられているようだ。その物語の像に自分の行動を合わせることに悩ん
でいるリーダーも結構いる。ここにあるのは「物語と行動」「虚像と実像」
「他者からの認知と自己認知」のズレである。みずからの表現行動(リー
ダーシップ)が作り出した状況に自らが取り込まれる、ここにジレンマが存
在する。経営とは、このジレンマの中で新たな状況を作り続けていく行為
だ。ここから表現行動であるリーダーシップをどう理解し、位置づけるか
が、リーダーの課題となってくるであろう。
リーダーシップ
P/M測定項目
以下の質問は実際にP/M項目を選定するのに因子分析に使用されました。
1.
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規則をやかましくいう
指示命令を与える
仕上げる時期を明確に示す
仕事量をやかましく言う
所定の時間までに完了するよう要求する
最大限に働かせる
仕事ぶりのまずさを責める
部下が担当している機械設備をよく知っている
その日の仕事の内容、計画を知らせる
仕事の進み具合についての報告を求める
計画、手順のまずさのために時間がむだになる
目標達成の計画を綿密に立てている
気まずい雰囲気をときほぐす
仕事のことで上役と気軽に話せる
必要な設備の改善などに努力する
部下を支持してくれる
個人的な問題に気を配る
部下を信頼している
優れた仕事をしたとき認めてくれる
職場の問題で部下の意見を求める
部下の立場を理解してくれる
昇進、昇給など将来に気を配る
部下を公平に取り扱ってくれる
部下に好意的
リーダーシップ
スイミングチーム
•
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設問1
今年あなたは大学のスイミングチームのキャプテンに選ばれました。この大学の
スイミングチームは、毎年全国大会で非常に優秀な成績をのこしています。今年
も、地区大会で優勝し、今現在全国大会にむけて全員が一生懸命練習に励んで
います。チームリーダーである、あなたはあなた自身の記録に挑戦するため練習
すると共に、あなたのチームメイトのモチベーションを高めるための努力も要求さ
れています。あなたはどのようにしてチームメイトのモチベーションを高めますか。
設問2
ある日、いつものように水泳の練習を、あなたのチームメイトである水泳選手とし
ていました。このチームメイトはあなたのスイミングチームで一番早い選手で今回
の大会でも高い期待をかけられている選手でした。練習が終わり2人で更衣室へ
向かおうとしたとき、あなたはこの選手のバッグの中に栄養補給プロテイン剤の
錠剤が入った袋を見つけてしまいました。大学のスイミングチームではプロテイン
の服用は禁止されていて、選手は全員、栄養補給プロテイン剤を服用しないと契
約書にサインしています。あなたはこの問題にどう対処しますか。あなた自身でこ
の選手に使用しないよう説得しますか。どのように説得しますか。直接説得せず、
他の選手に伝えて皆で説得しますか。(できるだけリーダーシップ理論で学んだこ
とを使用して回答し、なぜそうするかも説明してください)
参考文献
• Robert Kreitner、Management Forth Edition、Houghton Mifflin Co.,
• 赤岡功、現代経営学を学ぶ人のために、世界思想社、2002年
• Samuel C. Certo,Modern Management Ninth Edition,Prentice Hall、
2003年
• 田尾、佐々木、若林、はじめて経営学を学ぶ、ナカニシヤ出版、2005年