レジュメ

介護保険制度とその改革
理論的に明快な介護保険
• 我が国の介護保険制度は2000年に開始。
• 理論的に保険原理に近い(応益負担、所得
再分配小さい、同質のリスク集団)。
• 「市場メカニズム」を一部取り入れ、民間活力
を利用した仕組み ⇔「措置(そち)」(行政によ
る福祉サービスの配給制度)
• 公費の負担割合が非常に大きい
• 「賦課方式」を採用
保険料と公費負担
• わが国の介護保険制度は大まかにいうと、
40歳以上の全住民から介護保険料を徴収し、
原則65歳以上で要介護状態になった場合に、
介護保険サービスを1割の自己負担で受給で
きるという制度
• 保険者(保険の運営者)は、基本的に各市町
村別 c.f. 「広域連合」
• 65歳以上を「1号被保険者」、40歳から64歳
を「2号被保険者」
• 国全体のレベルでは、1号被保険者と2号被
保険者の人口割合に応じて、現在、給付費の
それぞれ19%と31%(合わせて50%)を負担
• 1号被保険者の保険料負担は、現在、平均的
には月当たり4090円
• 所得再分配要素として、自治体ごとに決めら
れている保険料基準額を元に、収入によって
5段階の保険料(最大基準額の1.5倍、最小
基準額の0.5)区分
• 減免制度は、災害などの特殊な事態がない
限り、基本的に認められない。
• 2号被保険者の保険料率(保険料額/ボーナ
スを含む賃金)は、2008年現在、政府管掌健
康保険(政管健保)で、1.13%
• 公費部分については、国が20%、都道府県と
市町村が12.5%ずつ負担し、残りの5%は地
域による高齢者の保険料の差を是正するた
めの「財政調整」である「調整交付金」
給付の仕組み
• 介護サービスを受けられるのは、基本的に
は65歳以上の1号被保険者
• 希望者は、まず、市町村等の保険者に要介
護認定の申請 、要介護認定を受ける
名前
準備
具体的な内容
STEP 1 申請
本人や家族のほか、在宅支援事業者などが申請書類を市町村の窓口へ提出
STEP 2 訪問調査
市町村職員や介護支援専門員(ケアマネジャー)が訪問し、82項目の調査票について聞き取り
STEP 3 コンピューター判定
訪問調査の結果をコンピュータを使って判定(第1次判定)
STEP 4 介護認定審査会
介護の必要度合いについてのかかりつけ医師の意見書と1次判定の結果に基づいて第2次判定を行う
STEP 5 認定通知
介護認定審査会で決定された要介護度が本人に通知される(申請から30日以内)
STEP 6 介護サービス計画作成
ケアマネジャーが本人や家族の希望を聞きながら、サービス計画を作成する
STEP 7 サービスの利用
サービス計画に基づいて、在宅サービスを利用したり、施設へ入所したりする。
実施
• (認定)
• 介護保険で介護サービスを受けられるのは、
基本的には65歳以上で、介護が必要と認定
された要介護者である 。
• 要介護者は、まず、保険者に申請を行う。
• すると、市町村職員や後述するケアマネー
ジャーが派遣され、79項目の調査表につい
て日常生活動作にかかる時間や状況の調査
を行い、機械的にコンピューターによる要介
護度の判定を行う(1次判定)。
• ただ、コンピューターによる判定では、認知症
などについての負担状況が勘案しにくいため、
医師による意見書も判断材料とされた後、保
険者に設置された介護審査会において最終
判断(2次判定)が行われて、申請者に通知さ
れる。
• 通知される要介護認定の区分は非該当(自
立)・要支援(1,2)・要介護(1-5)に分けられる。
要介護度によって、利用可能なサービスの上
限額が設定されている。
• その後、介護サービス計画(ケアプラン)とい
う介護サービス利用のスケジュール表を作成
しなければならないが、これは通常、本人や
家族ではなく、市町村から配布される一覧表
の中から選ばれたケアマネージャーが行う
• ケアマネージャーは、要介護者の状況に合わ
せてケアプランを作成し、利用業者の選定か
ら発注までを実施する 。
• もちろん、利用者本人や家族がケアプランを
作成してもよい。ケアプランの作成には、1割
の自己負担はかからない。
状態区分
要支援1
身体の状態例
(目安)
利用できるサービスの
水準(目安)
月利用
限度額
49,700円
日常生活の一部に介護
が必要だが、介護サー
ビスを適応に利用すれ
ば心身の機能の維持・
改善が見込める。
目標を設定してそれを
達成するための「介護
予防サービス」が利用
できる。
要介護1
立ち上がりや歩行が不
安定。排泄や入浴など
に部分的介助が必要。
訪問介護・訪問看護・
通所リハビリテーショ
ンなど
165,800円
要介護2
立ち上がりや歩行など
が自力では困難。排
泄・入浴などに一部ま
たは全介助が必要。
週3回の訪問介護また
は通所リハビリテー
ションなど
194,800円
要支援2
104,000円
立ち上がりや歩行など
が自力ではできない。
排泄・入浴・衣服の着
脱など全面的な介助が
必要。
訪問介護や夜間または
早朝の巡回訪問介護・
訪問看護・通所介護ま
たは通所リハビリテー
ションなど(1日2回程
度のサービス)
267,500円
要介護4
日常生活能力の低下が
みられ、排泄・入浴・
衣服の着脱など全般に
全面的な介助が必要。
訪問介護や夜間または
早朝の巡回訪問介護・
訪問看護・通所介護ま
たは通所リハビリテー
ションなど(1日2~3
回程度のサービス)
306,000円
要介護5
訪問介護や夜間または
早朝の巡回訪問介護・
日常生活全般について
訪問看護・通所介護ま
全面的な介助が必要。
たは通所リハビリテー
意志の伝達も困難。
ションなど(1日3~4
回程度のサービス)
358,300円
要介護3
(サービスの給付)
• 利用できるサービスの種類は、在宅サービスと施設
サービスの2つに分かれる。
• 在宅サービスは、訪問介護(ホームヘルプサービス)、
訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、
通所介護(ディサービス)、通所リハビリテーション
(ディケア)、福祉用具貸与、短期入所生活介護
(ショートステイ)、短期入所療養介護(ショートステ
イ)、居宅療養管理指導のほか、擬似的な施設介護
である痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)、
特定施設入所者生活介護(有料老人ホーム、ケアハ
ウス等)が存在する。
• 施設介護は、介護老人福祉施設(特別養護
老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健
施設)、介護療養型医療施設(療養型病床)
の3種類の施設が存在しており、後者ほど医
療的なケアが実施される施設となっている。
• 各サービスは時間当たりの利用料が、「介護
報酬単価」として固定価格で設定されており、
その1割を利用者が自己負担をし、残りの9割
を保険者が支払う。
• 新予防給付と介護給付(予防給付は要支援
者と要介護1の一部)
• 施設サービスと居宅(在宅)サービス、居住系
サービス
• 地域密着型サービス(介護予防事業、包括的
支援事業、任意事業)、居宅介護支援(ケアマ
ネジメント)、介護予防支援(介護予防ケアマ
ネジメント)
• H18年4月から3施設の部屋代、食費徴収、
経過措置、低所得者上限あり。
• (上乗せサービス・横だしサービス)
• 上乗せ・・・支給限度額を超えた分を市町村
が独自に条例で給付。
• 横だし・・・介護保険以外のサービス、寝具感
想、移送サービスの給付
• いずれも第1号被保険者の保険料でまかなう。
(介護報酬単価)
• 地域によって1単位あたりの金額が異なる
(生活保護、措置費と同様)
• 介護報酬は一種の包括払い方式
• 介護報酬は値段の上限。
• 介護報酬請求の審査支払いは、都道府県の
国民健康保険連合会が担当
(サービス提供業者)
• 介護保険施設、居宅サービス提供業者、居
宅支援事業者の種別
• 都道府県知事の指定、許可を受けなければ、
サービスは保険給付の対象とはならない。
• 介護保険施設は営利法人は設置できない。
特養は自治体か社会福祉法人。老健は、自
治体か、社福か医療法人。療養型病床群は、
自治体か医師か医療法人。
• 居宅サービス提供事業、居宅介護支援事業
はすべての法人の参入が認められる。当然、
営利法人も可能。
• 法人格を持たないものは事業は出来るが指
定はうけられない。給付を市町村が認めた場
合には、償還払い。
• 指定や許可を受けるには、人員基準、設備・
運営基準を満たすことが必要。指定や許可
は6年ごとの更新制。サービス内容や運営事
業について公表が義務付け。
• (特徴)
• 日本の介護保険は、ドイツ(独)やオランダ
(蘭)の制度に比較的に近いものだと言われ
ているが、独・蘭の制度と比較してみると(表
3)、いくつかの特徴があることが分かる。
• 第一に、独・蘭では、被保険者の対象となる
のは全住民であり、若年・障害者もサービス
の受給対象となる。一方、日本では、被保険
者は40歳以上の住民で、サービスの受給対
象は原則として65歳以上の高齢者のみであ
る。
• 第二に、ドイツでは3段階の要介護度しか設
定されておらず、日本の要支援や要介護1程
度の認定ではサービスを受けられない。その
意味では、日本の介護保険はドイツよりも「範
囲が広い」といえる。
• 第三に、独・蘭では、サービスや施設入所と
いった現物支給のほか、家族介護者に対し
て一定額の現金給付も行われているが、日
本では原則として現金給付を行っていない 。
ドイツ
オランダ
日本
制度名
Pfegeversicherrung Algemene WetBijzonder
介護保険制度
保険者
介護金庫
国
市町村
財源
保険料
保険料+自己負担
保険料+公費+自己負担
被保険者
ほぼ全住民
全住民
・40~60歳(第2号)
・65歳~(第1号)
若年・障害者 受給対象とする 受給対象とする
受給対象としない
あり(6段階)
段階別要介護度 あり(3段階)
なし
現金給付
あり
あり
なし
(参考資料)厚生労働省第12回社会保障審議会介護保険部会 資料2「諸外国における介護保障制度の比較」(200
在宅サービスの支給限度額と利用者負担額(月額)
要介護度
要支援1
要支援2
身体の状態(目安)
日常生活の能力は基本的にあるが、要
介護状態とならないように一部支援が必
要。
立ち上がりや歩行が不安定。排泄、入浴
などで一部介助が必要であるが、身体の
状態の維持または改善の可能性がある。
利用できるサービス
1ヶ月の利用限度額
の目安
自己負担(1割)
介護予防サービス
49,700円分
4,970円
介護予防サービス
104,000円分
10,400円
要介護1
立ち上がりや歩行が不安定。排泄、入浴
などで一部介助が必要。
介護サービス(介護給付)
165,800円分
16,580円
要介護2
起き上がりが自力では困難。排泄、入浴
などで一部または全介助が必要。
介護サービス(介護給付)
194,800円分
19,480円
介護サービス(介護給付)
267,500円分
26,750円
介護サービス(介護給付)
306,000円分
30,600円
介護サービス(介護給付)
358,300円分
35,830円
要介護3
要介護4
要介護5
起き上がり、寝返りが自力ではできない。
排泄、入浴、衣服の着脱などで全介助が
必要。
日常生活能力の低下がみられ、排泄、入
浴、衣服の着脱など多くの行為で全介助
が必要。
日常生活全般について全介助が必要。
意思伝達も困難。
介護サービスの種類
居宅(介護予防)サービス
訪問サービス
訪問介護(ホームヘルプサービス)
訪問入浴介護
訪問看護
訪問リハビリテーション
居宅療養管理指導
通所サービス
通所介護(デイサービス)
通所リハビリテーション(デイケア)
短期入所サービス
短期入所生活介護(ショートステイ)
短期入所療養介護[老健](ショートステイ)
短期入所療養介護[病院等](ショートステイ)
福祉用具・住宅改修サービス
福祉用具貸与
福祉用具購入費
住宅改修費
特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウスなど)
介護予防支援・居宅介護支援(ケアマネージメント)
地域密着型(介護予防)サービス
夜間対応型訪問介護
認知症対応型通所介護(デイサービス)
小規模多機能型居宅介護
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
地域密着型特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウスなど)
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
施設サービス
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
介護老人保健施設(老人保健施設)
介護療養型医療施設(療養型病床群)
2005年改革
•
•
•
•
介護予防サービスや地域支援事業の創設
施設介護入居者に対する食費と居住費の
一部の自己負担化
立ち入り調査権や適正化指導などの自治
体権限の強化(保険者機能強化)
特定施設に対する総量規制導入
将来の介護保険料はどこまで上昇す
るのか
介護保険料の将来予測
2008年 2015年 2025年 2035年 2050年 2075年 2100年
1号保険料額(月額、円)
4,090
5,710
9,024 12,210 18,519 39,096 66,079
国民年金満額に対する比率 6.2%
8.2%
11.7%
14.5%
18.6%
29.9%
38.4%
1.4%
1.9%
2.3%
2.6%
3.1%
3.1%
2号保険料率(健保組合)
1.1%
想定外であった保険者機能強化の効
果
• 2006年の介護給付費は、介護保険開始以来最も
低い伸び率である前年度比1.4%増に止まり、1号
被保険者1人当たりの給付費は前年度比2.2%減
• 2005年の介護保険改革及び2006年の介護報酬単
価引下げの効果は、厚労省の想定外。
• 保険者機能の強化による費用減少効果
• 「同居家族がいる場合に生活援助(家事援助)の利
用を一律に認めない」
• ローカルルールの跋扈
• これらは、措置への先祖がえり
• 「利用制限」「利用規制」「参入規制」という手
法は、経済学的には大変非効率的な方法で
あり、もっとも望ましくない政策手段
• 「市場メカニズム」による価格を使った需給調
整の方がはるかに紳士的であり、ロスの少な
い効率的な方法
• 介護負担感を高める利用制限:Zarits Index
による研究例
介護労働力問題の背景と対策
• 医師不足問題と並んで、現在、急速に問題視
されているのが「介護労働力問題(介護人材
不足問題)」
• 問題の原因は、まず第一に景気回復
• 問題はやはり、価格規制:介護報酬単価
• 2006年の介護報酬引き下げが、問題に拍車
をかけた。
介護サービス市場の需給分析
S2
S1
介
護
サ
ー
ビ
ス
価
格
供給曲線(S 0)
E1
P1
A
P0
P2
②
①
E0
C
B
需要曲線(D 0)
QB
QA
Q0
QC
利用者数の超過需要=介護労働者不足
利用者数
介護不足問題への正しい対応方法
• 今すぐできる現実的な対策は、次期見直しにお
ける介護報酬単価の大幅な引上げ
• 介護報酬改定という仕組みには欠点が多く、合
理性も存在しないため、近い将来に、価格自由
化を行なうべき
• 介護報酬単価は3年に一度という非常に遅いタ
イミングでしか行なわれず、市場の需給をス
ムーズに調整することは不可能
• 財政問題への危機意識や政治的力学の中で、
需給状況を反映した正しい価格改定は行わ
れない。
• 介護サービス分野は、医療とは決定的に異な
り、規制の根拠となる「情報の非対称性」が重
要ではない
財政問題への対応は、財政方式転換
と「混合介護」の導入
• 第一に、財政方式を転換することで対応可能
• 何らかの理由で介護保険給付費を抑制した
いという場合には、第二の方法として、「混合
介護」という仕組みを導入
• 「混合介護」とは、介護給付費としては「介護
報酬単価」に対する9割を給付するが、実際
の「介護サービスの価格」自体は、自由に事
業者が決めても良いとするもの
厚生労働省の「新人材確保指針」は
無意味である
• 介護労働力不足の原因として、社会保障国民会議
や厚生労働省の審議会、検討会の場で議論に上っ
たのは、むしろ、①介護現場の労働環境が悪い、②
介護サービス業者の雇用管理能力が低い、③介護
労働者が高齢化社会を支えるという生きがい・働き
がいを感じられなくなった、④介護労働者のキャリア
アップの仕組みが出来ていないために定着が促進
されない、⑤介護福祉士や社会福祉士等の有資格
者が介護現場に居なくなったといった各要因
• 経済学的観点からみると、これらは介護労働力不
足の「原因」というよりは、むしろ「結果」
• 人材不足対策を策定してしまいました。すな
わち、厚生労働省は、福祉分野の人材不足
対策として、2007年に「新人材確保指針(社
会福祉事業に従事する者の確保を図るため
の措置に関する基本的な指針)」を策定しまし
た。この指針では、(ア)労働環境の整備の推
進、(イ)キャリアアップの仕組みの構築、(ウ)
福祉・介護サービスの周知・理解、(エ)潜在
的有資格者等(介護福祉士などの資格所有
者で介護現場にいない人)の参入の促進、
(オ)「多様な人材の参入・参画の促進」という
5つの方針
• 一番心配されるのは、(イ)キャリアアップの仕
組みの構築
• 2006年から、介護労働者は、500時間の講習
と実習からなる「介護職員基礎研修」を受ける
ことが必要
• 厚生労働省は、将来的には介護職員を「介護
福祉士」の資格取得者に基本的に限る方針
• これらは全て人材不足対策には逆効果であ
る。