量子ビーム基礎

量子ビーム基礎(石川顕一)
量子ビーム基礎
石川顕一
6月15日
6月22日
6月29日
7月 6日
レーザーとは・レーザーの原理
レーザー光と物質の相互作用
レーザーの生体組織への影響
レーザーの応用
参考書:霜田光一著「レーザー物理入門」岩波書店
M. Niemz, “Laser-Tissue Interactions,” Springer
7/6 No. 1
量子ビーム基礎(石川顕一)
レーザーの応用
• 新しい超高速・高強度短波長光源
– 高次高調波発生技術
• 医療応用
– ガンの光線力学的治療(PDT)
– 腰痛治療(PLDD)
– 視力矯正(LASIK)
7/6 No. 2
量子ビーム基礎(石川顕一)
高調波発生
結晶、ガス等
線形光学効果(弱い光)


物質の応答が、入射光強度に比例
非線形光学効果(強い光)


物質の応答が、入射光強度に非線形に依存
D  0 E  P

P  0  E   E   E 
(1)


(2)
2
(3)
3
非線形分極
線形分極
(2)
反転対称な媒質では、   0


,3,5,
波長変換
3 :3次高調波
5 :5次高調波


 2D
    E   0 2
t

7/6 No. 3
量子ビーム基礎(石川顕一)
摂動論的高調波発生
電離
水素原子に対するシミュレーション
10
高調波強度
10
10
10
10
10
10
10
2
0
仮想準位
波長 800 nm
強度 3×10
-2
12
W/cm
2

3次高調波
-4


-6
-8

-10
-12
0
5
10
15
20
25
30
高調波次数


次数が高くなるほど、発生効率は減少。
3 
基底状態

電離
仮想準位


レーザー電場 << 原子核のクーロン力
レーザーは摂動にすぎない。
5次高調波








5 
基底状態
7/6 No. 4
量子ビーム基礎(石川顕一)
高次高調波発生の発見
実験(1987年)
シミュレーション
プラトー
カットオフ
プラトー:次数の増加にもかかわらず、発
生効率が、あまり減少しない。
• 高次高調波の最も重要な特徴
• 摂動論的には解釈できない
800  4119.5 nm
新しい極端紫外・軟エックス線光源

7/6 No. 5
量子ビーム基礎(石川顕一)
高次高調波発生のメカニズム
高次高調波(非摂動論的)
トンネル効果とは
レーザー電場
古典力学
量子力学
再結合
→発光
電子
トンネル
電離
電場中の古
典的運動
レーザー電場 〜 原子核のクーロン力
7/6 No. 6
量子ビーム基礎(石川顕一)
レーザー電場中での古典的運動
レーザー電場
E(t)  E0 sin( t   )
運動方程式
Ý eE0 sin(t   )
mxÝ
運動エネルギーの平均

核の位置での運動エネルギー÷Up

e2 E02
Up 
4m 2
ポンデロモーティブエネ
ルギー(動重力)
U p (eV)  9.331014 I(W/cm2 )2 (m)

3.5
レーザー電場
3.0
2.5
再結合→
発光

2.0
1.5
電子
1.0
0.5
0.0
0
50
100
150
200
250
イオン化時の電場(sin波)の位相 300

350
カットオフ
トンネル電
離
電場中の古
典的運動
3.2U p  I p
7/6 No. 7
量子ビーム基礎(石川顕一)
高次高調波の高強度化
(理化学研究所レーザー物理工学研究室)
7/6 No. 8
量子ビーム基礎(石川顕一)
最適化された高次高調波
二次元の空間形状:理想的なガウス型
強度
27th
27次を中心に5本程度のみ
特定の次数の高調波を強く
発生できる。
ビーム径
空間コヒーレンス:非常に高い
コヒーレント量子ビーム
7/6 No. 9
量子ビーム基礎(石川顕一)
他の短波長コヒーレント光源との比較
• エックス線レーザー
• 自由電子レーザー
と比較して、高強度、高速(超短パルス)
高強度の極端紫外・軟エックス線光源
高次高調波
自由電子レーザー
7/6 No. 10
量子ビーム基礎(石川顕一)
レーザーの医療応用
• ガンの光線力学的治療(PDT)
• 腰痛治療(PLDD)
• 視力矯正(LASIK)
7/6 No. 11
量子ビーム基礎(石川顕一)
がん治療
•
•
3つの主要な治療法
– 外科手術
– 放射線治療
– 化学療法(抗ガン剤)
量子ビームを用いる治療法の例
– 中性子:ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)
– 荷電粒子:粒子線治療
– レーザー:光線力学的療法(Photodynamic therapy, PDT)
7/6 No. 12
量子ビーム基礎(石川顕一)
光線力学的治療法
Photodynamic therapy (PDT)
ガンに選択的に集積する光増感剤を光励起した時に、光化学反応により
発生する活性酸素の細胞毒性を利用して行われるガン治療
方法
•
腫瘍親和性光感受性物質(商品名フォトフリン)を静脈注射する。
– フォトフリンは、腫瘍組織には正常組織の約4倍とりこまれ、48時間以上停滞する。
– 正常組織からは、肝臓・腎臓を除き24時間以内に排泄される。
•
48時間後から72時間後にレーザーを照射する。
– 組織透過性の比較的高い630nmの赤色光を発生するエキシマダイレーザー
(EDL)が用いられる。
– レーザー光は、石英ファイバーで病巣に導かれる。
フォトフリンの構造
fig3.4
7/6 No. 13
量子ビーム基礎(石川顕一)
光線力学的治療法
Photodynamic therapy (PDT)
特長
•
•
•
•
PDTに使用するレーザーは、出力がレーザーメスの1/100程度と低く、フォト
フリンはがん組織に多く集積するので、正常組織への障害を最小限に抑え、
がん病巣のみを選択的に治療することができる。
切ったり、焼いたりする事のない局所的非侵襲的治療法。麻酔の必要が無く、
痛み、出血もほとんどない。
抗ガン剤のようなきつい副作用がない。
他の治療を妨げないため、外科手術・放射線療法・化学療法との合併療法が
可能。
副作用
•
日光過敏症
– フォトフリン投与後2〜3週間は直射日光を避け、必要に応じて日焼け止
めクリームの塗布。
– 暗室等に滞在する必要はない。
7/6 No. 14
量子ビーム基礎(石川顕一)
光線力学的治療法
Photodynamic therapy (PDT)
承認の略歴
•
•
•
•
•
•
1993年(カナダ):膀胱ガンの治療の承認
1994年(オランダ):肺ガンと食道ガンの治療の承認
1994年(日本):手術等の他の根治的治療が不可能な場合、あるいは、肺または子宮
頸部の機能温存が必要な患者に他の治療法が使用できない場合で、かつ内視鏡的に
病巣全容が観察でき、レーザー光照射が可能な下記疾患
– 早期肺ガン
– 表在型食道ガン
– 表在型早期胃ガン
– 子宮頸部初期ガンおよび異形成
1995年(アメリカ):食道ガンの治療の承認
日本では、まだ早期ガンに対してしか承認されていない。
– このため、なかなかメジャーな治療法にならない。
– 進行または再発食道ガン・大腸ガンに対する治癒例はある。
外国では、進行ガンに対しても承認している国もある。
7/6 No. 15
量子ビーム基礎(石川顕一)
腰痛治療(椎間板ヘルニア)
椎間板ヘルニア
• 腰痛のおよそ20〜30%前後をしめる。
• 全体の70%が、20、30歳代
従来の療法
[保存的療法]
• 薬物療法:消炎鎮痛剤、
筋緊張緩和剤
• 理学療法:牽引療法、温
熱、電気加療
• 神経ブロック:ステロイド
剤と局所麻酔剤
[手術]
• 保存的療法で改善がない
場合
• 長期の入院とリハビリが
必要
• 長期治療成績はさほどよ
くない。
負担の少ない効果的な治
療法が必要
7/6 No. 16
量子ビーム基礎(石川顕一)
経皮的レーザー椎間板減圧術
Percutaneous Laser Disc Decompression (PLDD)
皮膚と筋肉に局所麻酔をし、神経や椎間板には一切麻酔をしない。
レーザー光を髄核に接触照射
PLDD専用の使い捨てレーザー
ファイバーキット
レーザー光が照射された部位では高
熱が発生し蒸散、周辺では凝固が起
こる。(熱的効果)
空洞生成・収縮
椎間板内圧(神経根
への圧迫)の減少
術後3時間はベッド上安静
長さ15cm、直
径1.25mm
半導体レーザー
ファイバー直径400ミクロン
照射時間は10-20分
7/6 No. 17
量子ビーム基礎(石川顕一)
PLDDの特長
•
•
•
•
•
手術手技が簡単で出血がない
局所麻酔で治療時間も短い(10分〜15分)
手術侵襲が少ない為入院が短い(1〜2日)
傷が残らない
神経の周辺を操作しないので合併症・副作用が少な
い
• 保険適用外
7/6 No. 18
量子ビーム基礎(石川顕一)
角膜屈折異常の矯正
Laser in situ Keratomileusis (LASIK, レーシック)
マイクロケラトームと呼ば
れる電動メスで角膜の表
面を薄く切って(フラップ作
成)めくる。
• フラップ厚:160m
角膜コラーゲン分子のC-C、C-N結
合の結合エネルギーはそれぞれ
3.5eVと3.0eV。
エキシマレーザーを照射
して角膜の一部分を削る
(光蒸散)。
•
•
•
•
ArFエキシマレーザー
波長193nm(6.4eV)
パルス幅10〜25ns
照射深度100m以下
めくった角膜表面(フ
ラップ)を元へ戻す。
• フラップは自然に再
び組織にくっつくので、
縫ったりする必要は
ない。
治療における新しい概念:健常な組織を切除する
7/6 No. 19
量子ビーム基礎(石川顕一)
角膜屈折異常の矯正
Laser in situ Keratomileusis (LASIK, レーシック)
LASIKの特長
•
•
•
•
•
LASIK
良好なpredictability
痛みが非常に少ない。
手術翌日から良好な視力が得られる。
両眼同時手術が可能(20分ほど)
術後も長期に渡って安定した視力が得られる。
近視
-1.0〜-12.0D
遠視
+1.0〜6.0D
乱視
0.5〜6.0D
LASIKの適応
ǪÇÃëº
0.7-0.9
2%
8%
1.0à»è„
90%
裸眼視力の経過
術後裸眼視力
7/6 No. 20
量子ビーム基礎(石川顕一)
エキシマレーザー
•
•
•
•
活性媒質
R1
–
KrF, ArF, XeF, XeCl
励起エネルギー源
–
ガス放電、電子ビーム
–
Kr原子は励起されると反応性が高まり、

Kr2, KrF分子を形成
特徴
–
短波長(紫外)、高効率、大出力
–
パルス幅10-20ns、10MW以上
応用
–
半導体チップに回路を焼き付けるリソグラ
フィー → KrF(248nm)
–
視力矯正(LASIK) → ArF(193nm)
R2

7/6 No. 21