13章 後半

正常原価計算システム

正常原価計算システム
 製品原価計算するにあたり、年間を通じて一定の年平均間接費
率を用いている
 間接費率が日ごと・月ごとには変わらない
 結果として計算される「正常」製品コストには、製造間接費の平均
ないし、正常額が含まれている
 毎月、部門ごとに実際間接費が生じた時点でそれを集計する
 完成品のコストは、実際直接材料費・実際直接労務費・正常間接
費配賦額からなる
1
正常間接費率




年度中・年度末において実際間接費が配賦額と一致することはめった
にない
差異の原因は・・・
 実際操業度が予算間接費率を計算する際に用いた基準操業度と
異なる
 予測の誤り
 間接費要素の非効率的な利用
 個々の間接費要素の価格変化
 個々の間接費要素の不安定なビヘイビア
 日数の差異
これらの間接費の変動要因は年間の間接費が混じり合っているため
そのため年間の間接費率は月ごとの変動要因を無視して設定・利用
している
⇒正常間接比率
2
正常間接費率 ~つづき~


この方法は月ごとの実際間接費を配賦するよりも優れた方法である
なぜか?
 正常製品のコストは意思決定に役立ち、棚卸資産額の計算目的
にも適している
 「実際」製品コストは月ごとの操業度の変化や多くの間接費の不安
定なビヘイビアによって歪められている
3
正常間接費率~あるギプス工場の例~


「実際」製品コストシステムを利用していて、従業員は会社が扱う製品
を「原価」で購入できる特権がある
従業員たちは操業度が高い月に「原価で」購入したほうが得だと言う
操業度が高い月
操業度が低い月


実際製造間接費
変動費
固定費
$60,000
$40,000
$30,000
$40,000
直接作業時間 直接作業時間あたりの
合計
実際間接費配賦額
$100,000
100,000
$1.00
$70,000
50,000
$1.40
以上に示すように操業度が高いほど単位コストが低いため
このような方法だと会社にとっては棚卸資産額の計算が複雑になり意
思決定もスムーズにいかないかもしれない
4
製造間接費配賦過不足の処理

Enriquezの例
取引
4a.
4b.



製造間接費発生額
製造間接費配賦額
製造間接費の配賦不足額
$392,000
$375,000
$17,000
最終的に$392,000というコスト総額を何らかの方法で費用としなけれ
ばならない
$375,000は、配賦対象となった製品を販売した時点で売上原価の一
部となる
残りの$17,000も何らかの方法で費用としなければならない
5
製造間接費配賦過不足の処理~つづき~


Enriquezの例~続き~
予算間接費率を用いる場合、間接費の発生額と配賦額の差異は、通
常一年分が集計されることが認められている
 配賦額が発生額を上回る場合の差異
 間接費の配賦超過
 配賦額が発生額を下回る場合の差異
 間接費の配賦不足
 年度末には差異は費用かまたは追加配賦によって処理
する
 ここでは$17,000の配賦不足となる
6
即時費用化


Enriquezの例~続き~
 $17,000の配賦不足は売上原価に加算し、当期利益の減少項目
として扱う
 配賦超過の場合も同様に考える
⇒ただし売上原価は減少する
即時費用化の基礎論理
 作業した製品のほとんどはすでに販売済みなので、余計な手間を
かけて精巧な処理をする必要はない
 配賦不足のような追加間接費は、資産性がなく期末棚卸資産価
格の一部にならない
 配賦不足は大部分が当期における不能率や施設有給化によ
るので費用化すべき
7
即時費用化 ~つづき~
売上原価(または別個に収益に付加)$17,000 / 製造間接費統制 $17,000
(売上原価への振り替えによる期末間接費配賦不足の締め切り)

この方法は簡単なので最も広く用いられている
8
棚卸資産への追加配賦


間接費の配賦過不足を仕掛品,完成品、売上原価へ追加配賦する
配賦不足を追加配賦するということは、期末の勘定残高に応じて割り
当てることを意味する
 正確にコストを配賦することが目的であれば、作業した各ジョブの
間接費はすべて、予算比率ではなく実際間接比率を用いて再計
算すべきである
 しかしこのアプローチは現実的ではないので、実際には3つの勘
定の期末残高(仕掛品$155,000;完成品$32,000;売上原価
$2,480,000)に基づいて追加配賦する
9
棚卸資産への追加配賦 ~つづき~
(1)19X8年度末の
調整前残高
仕掛品
$155,000
完成品
32,000
売上原価
2,480,000
$2,667,000

(2)間接費配賦不足
の追加配賦
155/2,667 × 17,000= $988
32/2,667 × 17,000= 204
2480/2,667 × 17,000= 15,808
$17,000
(3)19X8年度末の
調整後残高
$155,988
32,204
2,495,808
$2,684,000
追加配賦に関する仕訳は以下のとおり
WIP
完成品
売上原価
988
204
15,808
製造間接費統制
17,000
10
棚卸資産への追加配賦 ~つづき~

ここでは棚卸資産に追加配賦する金額はそれほど大きくない
 実務では棚卸資産評価額に大きく影響する場合にのみ追加配賦
を行う
11
変動費率と固定費率の利用

間接費の配賦は製品原価計算でもっともややこしい部分
 固定費があることが原価計算を難しくする主な原因
 ほとんどの企業では会計システムの設計において変動費と固
定費とを区別していない
12
変動費率と固定費率の利用 ~つづき~

Enriquez Machine Parts Companyの機械加工部門では次の率を算
定した
予算間接費配賦率=
=

予算変動製造間接費
予定機械時間
$277,800
69,450
= $4/機械時間
コントロール目的と同様に変動費・固定費を区別する企業もある
13
変動費率と固定費率の利用 ~つづき~


Enriquezの機械加工部門でも区別したとする
賃借料、監督費、減価償却費、保険料が固定費とみなされ以下のよう
に2つの率が算定される
予算変動間接費配賦率=
=
予算固定間接費配賦率=
=

予算変動製造間接費総額
予定機械時間
$114,000
=$1.64/機械時間
69,450
予算固定製造間接費総額
予定機械時間
$163,800
=$2.36/機械時間
69,450
これらの率は製品原価に利用できる
 変動間接費と固定間接費の区別はコントロール目的で行うことも
ある
14
個別原価計算におけるABC/ABM



企業の製造システムの性質がどうであれ異なる製品で共有する資源
が常に存在する
 資源コストは製造間接費の一部
 企業の原価計算システムで処理しなければならない
製造間接費は大きいので、正確なコスト情報を提供する原価計算シス
テムへの投資は正当化できる
ABCでは、行った作業(活動)と資源消費(コスト)との因果に着目
 通常の原価計算の正確性が高まる
15
受注生産環境におけるABCの例示①


Dell Computer Corporationを取り上げ受注生産環境におけるABCシ
ステムを例示する
DellはなぜABCを採用したのか?
 マネージャーがあげた理由
 トップマネジメントによるアグレッシブな原価削減目標の策定
 製品ラインの収益性を理解する必要性
 どんな事業でも収益性を理解することは事業全体のコスト
構造を理解するということにつながる
16
受注生産環境におけるABCの例示②




ABCシステムの主な利点の一つは、作業(活動)と資源消費(コスト)が
どのように関連するかを理解することに注意を向けている点
 DellにとってABCシステムは必然的な選択であった
 マネージャーが会社のコスト構造をよりよく理解すればABMによる
原価削減も容易になる
DellもほかのABC導入企業と同じように最も重要で核となるプロセスに
着目してABCシステムの開発を始めた
 設計プロセス
 製造プロセス
初期システムが完成した後、バリューチェーンの残りのフェーズを加え
た
図表13-3は製品に価値を付加する機能(中核プロセス)と現行ABCシ
ステムで各機能のコストをどのように各ジョブへ割り当てているかを示
す
17
受注生産環境におけるABCの例示③
Dell Computer CorporationのバリューチェーンとABCシステム
組み立て(事業)ライン
研究開発
製品設計
製造
マーケティング
流通
ABC
ABC
ABC
組み立て(事業)ラインに活
動コストを割り当てるため
適切なコストドライバーを用
いた。
これらの活動コストは間接
費なので、コストドライバー
を用いて
ABC
組み立てラインに配賦しな
ければならない
ABC
予算年間間接費総額÷
ABC
直接材料費
$×××
製造間接費
(予算間接比率×
製品単価)
$×××
製造コスト
$×××
予定生産量=予算間接費
率
販売価格
製造コスト $×××
+利益
顧客サービス
18
受注生産環境におけるABCの例示④


図表13-3に示すフェーズはどれも重要ではあるがここでは製品設計
フェーズと製造フェーズに着目する
製品設計
 Dellにとって最も重要な付加価値機能
 設計の役割は製造が容易で顧客が信頼できる無欠陥コンピュー
ターを提供すること
 設計コストのほとんどは技術費(主に給料とCAD設備の減価償却
費)
 これらのコストは間接費
19
受注生産環境におけるABCの例示⑤

製造
 受け取り、製造準備、組み立て、テスト、梱包、出荷
 製造コストは直接材料費と製造間接費からなる
 上記にあげた6つの活動は製造間接費
 施設コスト(工場減価償却費、保険料、税金)は製造機能の一部と
して各活動の占有面積に基づいて配賦する
20
受注生産環境におけるABCの例示⑥



Dellでは製品ラインごとに別の組み立てラインがある
予算間接費率は組み立てラインに配賦した予算年間間接費総額を予
定生産量で割って計算する
 予算の変化を反映するように期毎に調整し各ジョブごとにコスト計
算に用いる
 Dellでは各活動センターのコストを付加価値と非付加価値とに細
分している
非付加価値コストは原価削減プログラムの対象となる
 非付加価値の例:製造機能における製造準備活動など
21
サービス業・非営利組織における製品原価計算Ⅰ

個別原価計算は非製造状況でも利用できる
 大学・・・研究「プロジェクト」
 航空産業・・・修繕・オーバーホールの「ジョブ」
 公認会計士・・・監査「契約」
 これらの状況では対象は製品コストからサービスコストに移る
22
サービス業・非営利組織における製品原価計算Ⅱ

非営利組織
 「製品」を「ジョブオーダー」とは呼ばずに「プログラム」や「サービス
クラス」と呼ぶ
 プログラム
 財ではなくサービスという形のアウトプットを生産する識別
可能な活動グループ
 例)安全プログラム、教育プログラム、家族カウンセリ
ングプログラムなど
 コストと収益は個々の病院の患者、個々の社会福祉のケース、
個々の大学の研究プロジェクトに跡付ける
 複数の部門が複数のプログラムを並行していることが多い
 課題・・・さまざまな部門コストをさまざまなプログラムに配賦で
きない
 それができればマネージャーはより優れた意思決定がで
きる
23
サービス業・非営利組織における製品原価計算Ⅲ

サービス業
 修理、コンサルティング、法律サービス、会計サービスなど
 各顧客の注文は固有の口座や注文番号を持った別個のジョブに
なる
 コストだけをジョブに賦課したり、収益だけを賦課したり、両方を賦
課したりさまざまできる
24
契約の予算とコントロール


多くのサービス業といくつかの製造活動では個別原価計算票を製品
原価だけではなく計画とコントロール目的にも利用している
例示 ある会計事務所の19×9年の要約予算
売上高
直接費*
間接費と営業利益への貢献利益
間接費(その他すべてのコスト)
営業利益
$10,000,000
2,500,000
$7,500,000
6,500,000
$1,000,000
予算製造間接費予算
予算間接費率=
予定直接労務費
$6,500,000
=
= 260%
$2,500,000
100%
25%
75%
65%
10%
*契約に賦課される
専門家の作業時間
25
契約の予算とコントロール ~つづき~




会計事務所は間接費配賦のコストドライバーとして、直接労務費や直
接作業時間を用いる
 ここでは直接労務費を用いている
契約の予算総コストとは直接労務品間接費配賦額(ここでの例では直
接労務費の260%)とその他の直接費を加えた額になる
契約のパートナーは詳細な範囲とステップからなる特定の監査に予算
を用いる
 例)現金売り上げ監査の場合
 しなければならない仕事、時間数、パートナー、マネージャー、
部下の所要時間を明確に示す
 これまでにかかった時間と当初の予定、見積もりの残り時間を
比較することで進捗を監視する
すでに固定的な監査報酬が決まっているのであれば契約の収益性は
限られた予定時間内で監査を完了できるかどうかにかかっている
26
契約コストの正確性

例に挙げたある会計事務所ではある監査契約に関するコストがか
かっているとする
直接労務費
間接費配賦額($50,000の260%)
旅費を除く総コスト
旅費
契約の総コスト


$50,000
130,000
$180,000
14,000
$194,000
直接費でもあると労務費と出張費をジョブに賦課しているが間接費の
コストドライバーとしているのは直接労務費だけ
監査法人やコンサルティング会社などのサービス業のマネージャーは、
価格決定や特定のサービス・顧客への賦課配分の指針として契約の
予算または「実際」コストを用いることが多い
 さまざまな契約コストの正確性が意思決定に影響する
27
サービス業・非営利組織におけるABC



近年、正確なコストを入手するため、多くの専門サービス企業がデー
タ処理システムを精緻化しABCを採用している
ABCを利用する企業では一般的にコストを間接費項目から直接費項
目へと移している
先に示した直接労務費($50,000)と旅費($14,000)という数値を用い
て監査契約のコストを再計算すると以下のようになる
専門家の直接労務費
支援直接労務費(秘書のコストなど)
全直接作業者の福利厚生費
電話代
コピー代
コンピュータ時間
直接費合計
間接費配賦額
旅費を除く総コスト
旅費
契約の総コスト
$50,000
10,000
24,000
1,000
2,000
7,000
94,000
103,400
197,400
14,000
211,400
28
サービス業・非営利組織におけるABC




ABCシステムでは直接支援労務費、電話代、コピー代、コンピュータ時
間などのコストは各契約の利用料を直接測定して配賦する
残りの要配賦コストは発生原因に基づいてコストプールに割り当てる
その他間接費のコストドライバーは直接費の合計
ABCを用いた場合一般的なアプローチと総コストが異なる場合がほと
んど
 $194,000に対して$211,400
 正または負の差額はより多くのコスト項目を契約に直接跡付
けたことによる
29
間接費率の分類の効果




ABCアプローチでは間接費率が低くなる
 はじめの例・・・260%⇒後の例・・・110%
理由
 より多くのコストが直接跡付けられるため
 配賦基準は直接労務費だけではなく直接合計というように広がる
ため
ABCを用いる場合でも依然として直接費合計ではなく直接労務費を基
準として間接費を配賦する企業もある
なぜか?
 間接費の大部分は直接労務費額によって決まるのであって、通信
費などのほかの直接費によるものではないと考えるため
30
間接費率の分類の効果 ~つづき~



ABCを採用する企業では直接労務費が最も良いコストドライバーであ
ると明示的意思決定している
間接費のコストドライバーとなるのは直接費合計、専門家の直接労務
費や直接作業時間、その何れであるかは専門のサービス企業も含め
多くの企業にとっては厄介な問題
活動分析によって主要なコストドライバーを明らかにし、そのすべてを
間接日配賦に利用することが理想的
 実務では1つか2つのコストドライバーしか用いないことが多い
31
レビュー問題


問題
Enriquezの例(特に図表13-2)を復習する
 19×8年の損益計算書(売上総利益まで)作成しなさい
 関接費配賦過不足については即時償却法を用いること
32
レビュー問題


解答
即時償却法をを採用しているため売上原価に$17,000(製造間接費の
配賦不測額)が加算される
33
レビュー問題

解答の続き
貸借対照表
損益計算書
直接材料棚卸高
$120,000
材料購入費
$1,890,000
$1,900,000
仕掛品在庫
直接材料費
$155,000
$2,500,000
$390,000
製造間接費
$95,000
280,000
製造間接費配賦額
$375,000
17,000
配賦不足
$392,000 製造間接費発生額
売り上げ
$4,000,000
売上原価
$2,480,000
完成品棚卸高
$32,000
製造間接費配賦不足 $17,000
$2,497,000
売上総利益
$1,503,000
34