火星大気大循環の 数値シミュレーション 高橋芳幸 共同研究者 林祥介 (神戸大学) 小高正嗣 (北海道大学) 大淵済 (地球シミュレータセンター) 話の構成 計算機シミュレーションによる火星大気の研究に ついて紹介します. はじめに 火星 / 火星表層環境 我々の問題意識 火星大気大循環モデル シミュレーション結果 まとめ はじめに はじめに:火星 T=1 地球日 T1.03 地球日 RM3391 km RE6371 km 25.2 23.4 太陽―火星間距離 1.5 AU 大きさは地球の約半分 自転周期、地軸の傾きは地球とほぼ同じ 火星大気/表層環境 大気主成分 大気質量 CO2 > 95% 地球大気の 1/100 Ps 6-8 hPa 寒冷・乾燥した大気/地面 平均地面温度 液体の水がない 図. Hubble space telescope が観測した火星 220 K (-53 ℃) 図 Mars Pathfinder が観測した火星表面 火星“気象”の特徴 1. 大気量の変化 2. 大気中のダストの存在/ダストストームの発生 火星“気象”の特徴 1. 大気量の変化 2. 大気中のダストの存在/ダストストームの発生 火星“気象”の特徴 大気量の変化 1. 太陽光 CO2 の凝結/昇華 • • 季節変化 > 20% 図 Mars Global Surveyor が観測した南極冠 火星“気象”の特徴 大気量の変化 1. CO2 の凝結/昇華 • • • 季節変化 > 20% 地球の場合, 例えば台風に伴う気圧変化は 5% 程度 図 Mars Global Surveyor が観測した南極冠 火星“気象”の特徴 大気量の変化 1. 太陽光 CO2 の凝結/昇華 局地循環の形成 • • • 大きな温度差 図 Mars Global Surveyor が観測した南極冠 火星“気象”の特徴 1. 大気量の変化 2. 大気中のダストの存在/ダストストームの発生 火星“気象”の特徴 大気中のダストの存在/ダストストームの発生 2. • 火星の大気中にはダストが常に浮いている 図 Mars Pathfinder が観測した火星表面 火星“気象”の特徴 火星では頻繁にダストストームが発生 図 OrbView-2 衛星が観測した黄砂 図 Mars Global Surveyor が観測した 火星のダストストーム 火星“気象”の特徴 図. Mars Global Surveyor が観測したダストストーム 火星“気象”の特徴 しばしば全球規模ダストストームに発達 ダストの放射効果(太陽放射遮蔽など)によって温度 が 20-40 K 変動 図 Hubble space telescope が観測 した全球規模ダス トストーム 疑問・問題意識 大気循環構造に関する問題 そもそも火星の大気の温度・循環はどのようなっている? ダストに関する問題 どのような時にダストストームが発生するのか? どのような時にダストが地面から巻き上げられるのか? どのような時に全球規模ダストストームに発達するのか? 大気の温度は何度? どのような風が吹く? 全球規模ダストストームは毎年発生するわけではない。 これらの問題を調べたい. 地球大気の流れ 研究手段 方法の一つは, 観測. 望遠鏡を使って火星を観測 探査機を火星に送って観測 岡山天体物理観測所 188 cm 反射望遠鏡 http://www.oao.nao.ac.jp/public/telescope/ ハッブル宇宙望遠鏡 http://hubblesite.org/gallery/spacecraft/06/ 研究手段 方法の一つは, 観測. 望遠鏡を使って火星を観測 探査機を火星に送って観測 火星周回機 http://mars.jpl.nasa.gov/mro/gallery/artwork/mars_orbiters.html 研究手段 方法の一つは, 観測. 望遠鏡を使って火星を観測 探査機を火星に送って観測 別の方法は, 計算機シミュレーション / 実験 物理法則に基づいて数値モデルを構築し, 計算機上 で 「”仮想”火星(惑星)」 を再現. 天気予報・気候予測も同じようなモデルを用いた計算 結果に基づいている. シミュレーションモデル 火星大気大循環モデル 火星全球の風速, 温度, 物質(ダストなど)の全球 3 次元分布を計算. 様々な物理過程を考慮. 流体としての大気の運動, 放射, 乱流, … 惑星を格子点に区切って, それぞれの格子点での値 を求める. 大気大循環モデルにおける格子点配置の模式 図 [地球シミュレーター研究開発センター, http://www.es.jamstec.go.jp/] 流体としての大気の流れを支配する 物理法則・方程式系 火星大気大循環モデルで考慮している 過程 火星大気を表現する上で重 要な多くの物理過程含む 図. 火星大気大循環モデルで考慮 される過程の模式図。 放射過程(CO2、ダスト) 乱流過程 地表面過程 ダスト巻上げ/重力沈降過程 CO2 大気の凝結/昇華過程に よる大気量変動 火星の地形 地球シミュレータ概要 計算結果 計算される地面温度 地面温度分布 モデルと観測の比較 地面気圧の年変化 Viking Lander と比較 Figure 4. Daily mean surface pressure at Viking lander 1 site: GCM simulation (green) and Viking lander 1 observation (red) [Lee et al., 1995]. モデルと観測の比較 極冠の年変化 Viking の観測との比較 Figure 5. Zonal and diurnal mean CO2 ice mass density (color). The polar cap edge observed by Viking is plotted as solid line [Pollack et al., 1993]. 計算される火星大気循環 大気温度分布 計算される火星大気循環 大気温度+風分布 計算される火星大気循環 風分布+渦の強さ 渦の強さ:渦度 火星の大気循環 大きな日変化, 大きな緯度変化, 山の裏側での渦の発生, 中高緯度では温帯低気圧が発達, 地球と似ている 低緯度では小さな渦がたくさん発生, 地球の雲対流のようなもの ? 計算されるダスト巻上げ ダスト, 温度, 風分布 ダストの巻き上がりやすい地域 地球の冬における降水量分布 2003 年 12 月, 2004 年 1 月, 2 月 マリネリス渓谷におけるダストの巻き上げ 特にマリネリス渓谷の 北側斜面が重要 マリネリス渓谷でのダスト巻き上げ過程 子午面循環と斜面風(下降流)の重ね合わせが 強風の原因 実際, 当該領域でのダスト巻き上げは夜中の時間に 起こっている. 斜面風模式図 子午面循環模式図 まとめ 地球とは異なる特徴を持つ火星の大気の流れと, 火星にお けるダストの巻き上げ過程を調べるために, コンピュータシ ミュレーションを行っている. 火星の大気の流れは, ある程度地球のそれに近いかもしれ ない. しかし, 日変化が非常に大きく, それに伴い, たくさんの渦が 発生しているかもしれない. ダストは色々なところで巻き上げられる. 目立つものは温帯低気圧に伴う巻き上げイベント / ダストストーム その他, 地形に伴う循環によってもダストが巻き上げられている. 温度子午面 火星, 地球 結果 一年を通しての極冠の成長・衰退 まとめ 火星におけるダスト巻き上げ過程を調べるために、地球シ ミュレータと AFES を利用した高解像度火星大気大循環シ ミュレーションを計画中。 モデル性能はまぁまぁ(?) T159L48 (∆x45 km, 鉛直 48 層) では しかし、データサイズは問題 解像度 T79L24 (∆x90 km) でテストシミュレーションを実施 ベクトル化率 99% 並列化率 99.9% 前線構造や、高い山の風下での渦の生成が表現された。 これらの循環はダスト巻き上げ、ダストストーム発生に重要な役 割を果たしている可能性が示唆された。 今後はより高解像度での実験を予定。 ダスト巻き上げ量解像度依存性 FT319L96 - FT79L96 (高解像度-低解像度) 特にマリネリス渓谷の 北側斜面が重要 結果 ダストの巻き上げ 温帯低気圧が重要 温度も載せる? 渦度は難しいだろう 結果 ダストの巻き上げ 地形問題 結果 温度の日変化 日変化が大きい 温帯低気圧が 図を置き換える? 火星大気シミュレーションから得られた温度分布 どんな数値計算が有効か? いらないか? 惑星規模から中小規模まで広いスケールの現 象を扱える計算が必要。 火星大気中ではたくさんの中小規模ダストストームが発生 [e.g., Cantor et al., 2001] 惑星規模ダストストームの発生に中小規模ダストストームが 寄与している可能性 [Strausberg et al., 2005] 様々なスケールの現象が相互に関係 高解像度全球モデルシミュレーション 火星大気大循環モデル:力学過程 AFES (AGCM [Atmospheric General Circulation Model] for the Earth Simulator) [Ohfuchi et al. 2004] 東京大学気候システム研究センター (CCSR) / 国立環境 研究所 (NIES) AGCM version 5.4.02 を基に地球シミュ レータに最適化 “古典的な”プリテミィブ方程式に基づくスペクトルモデル 流体の支配方程式において鉛直方向は静水圧近似 解の水平構造を球面調和関数で表現 初めての 10 km 格子地球全球シミュレーションを実行 (ES 上で、ピーク性能比 65%) テストシミュレーション結果:北半球の秋 渦度 & ダストフラックス: movie テストシミュレーション:実験設定 “Passive dust” 実験 輸送されるダストは循環に影響を及ぼさないと仮定。 解像度 T79L24 (∆x1.5, 90 km; 鉛直 24 層) 一般的な火星大気大循環モデルの解像度の 2-4 倍 マリネリス渓谷 タルシス高地 ヘラス盆地 図. T79 の解像度での地形 図. T21 の解像度での地形 テストシミュレーション結果:北半球の春 渦度 : movie 渦度(低解像度) : movie 渦度 & ダストフラックス : movie ダストのカラム密度 : movie テストシミュレーション結果:季節変化 図. ダストのカラム密度(上図)とダストフラックス(下図)の季節変化 主要なダスト巻き上げ領域 春と秋における極冠付近 南半球の夏における低緯度領域 Location of observed dust storms 図. Mars Global Surveyor が観測した中小規 模ダストストームの位置 [Cantor et al., 2001] ES と AFES を用いた 高解像度火星全球計算の可能性 ES (Earth Simulator) のピーク性能 40 Tflops AFES (AGCM [Atmospheric General Circulation Model] for the Earth Simulator) の ピーク性能 26.6 Tflops (ピーク性能比 65%) 図. 地球シミュレータ [The Earth Simulator Center; http://www.es.jamstec.go.jp/ esc/eng/index.html]. 我々の研究目的/方法 地球シミュレータと AFES を利用し、高解像度火 星大気大循環シミュレーションを実施。 火星におけるダストストーム発生・発達を調べた い。 AFES の最適化 (受け売り) 三階層の最適化 ベクトル処理 共有メモリ型並列 ベクトルレジスタ数 256 • ループの融合等によりベクトル 長を長く取る マイクロタスク 最大 8 並列(AP 数) • オーバーヘッドを小さくするために指 示は上位のルーチンに挿入 分散メモリ型並列 MPI 最大 640 並列(ノード数) • ノード間通信をまとめる これらのバランスを保ちながら最適化。 計算性能 ES を用いた、解像度 T159L48† の実験におけ る性能 使用ノード数 16 node 使用 AP 数 16 node × 8 AP/node = 128 メモリサイズ 24.736 GB ベクトル化率 99.17% 並列化率 99.9% †∆x45 km; Nx=480, Ny=240、鉛直 48 層 データサイズ 例えば以下の条件で出力 T159L48 (∆x45 km; 48 層)では 90 MB/step 12 step/sol 669 sol/yr 2 yrs = 1.5 TB T319L96 (∆x22 km; 96 層)では 出力データは U, V, T, Ps, Ts, Qdust 出力間隔は 2 時間 出力期間は 2 火星年 値は 4 byte データで出力 1.5 TB 8 = 12 TB T639L48/L96, T1279L48/L96/L192 … ??? PB? これまでの火星大気モデル (大きく分けて)2種類のモデルを用いた研究 大気大循環モデル (General Circulation Model; GCM) 全球の風速、温度、密度、物質分布を計算 一般的に低解像度 ∆x 200-300 km @ Mars 領域モデル 限られた領域 (<1000 km) の風速、温度、密度、物質分布 を計算 高解像度 ∆x 0.1-10 km @ Mars 境界条件として大循環モデルの結果を使用 火星“気象”の特徴 大きな日変化 1. 気温の日変化 • • • 70 K 液体の水がない 薄い二酸化炭素大気 Mars Pathfinder によって観測された 大気温度 [Schofield et al., 1997] 火星大気大循環モデル概要:ダスト巻 き上げ過程 ダスト巻き上げ量は Newman et al. [2002] の方法 に基づく。 モデルで表現される風速がある閾値を超えた時のみ巻き 上げられる。 ダストは極冠では巻き上げられないと仮定。 ダストはモデルで表現できる風がある 閾値よりも強くならなければ巻き上げ られない。 図. 5 m 高度での風に対するダスト巻き 上げ量。地面気圧 6.1 hPa, 大気温度 20 K の条件で計算した。 Motivation (contd.) Recent spacecraft observation revealed that there are a number of local to regional scale dust storms. Figure. Distribution function of dust storms observed by MOC [after Cantor et al., 2001]. These observations imply that there are a lot of local to regional atmospheric disturbances in the Martian atmosphere and those disturbances play an important role in lifting dust into the atmosphere.
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