徳島県立板野支援学校 松本 美知代 慶應義塾大学文学部社会学研究科心理学専攻 大森幹真 慶應義塾大学文学部教授 山本淳一 1 KLAPの学習支援カリキュラム 長い文の 読みと理解 短い文の 読みと理解 単語の 読みと理解 文字の読みと絵 の理解 漢字の 読みと理解 KLAPの学習支援カリキュラム ぼくは、ないているかえる を、つかまえる かえるが ゲコゲコなく。 かえる か・え・る 蛙・鳴く KLAPをつうじて学習可能なこと 「文字の読みと絵の理解」の学習段階 事前 学習支援 ・・・? 事後 ほし し い? し が か? が き き・ゆ? ゅ きゅ KLAPをつうじて学習可能なこと 「単語の読みと理解」の学習段階 事前 し・・? た・・こ? 学習支援 ほ し た ま ご 事後 ほし たまご きゅ うり きゆ? きゅうり 川 ・・・? かわ KLAPをつうじて学習可能なこと 「短い文の読みと理解」の学習段階 事前 学習支援 事後 いが くっ こ う に が・がが・・ こうえん? がっこうにいく そぶ ぶら ん こ で これ? あ これ! ぼくは まいにち ともだちと 3にんで がっこうに いきます。 やすん・・ ぼ・ぼ・くは ともちと いがんい きっでつ まこ も すう な かに ん ? に あさは10にん? 3にん!! KLAPをつうじて学習可能なこと 「長い文の読みと理解」の学習段階 事前 学習支援 事後 太一が海で素潜り漁を 始めてからもうすぐ1年 が経ちます。 たいちが うみで・・・りを ・・めてから? し体う太 た力に一 かを は ?つ ど け の ま よ 海底のうにとかを とって!! はしって? はしって? . . . . . . . . ... .. .. .. . . . . . . . ... .. ... .. . . . . . . .. . . 海底のうにとかをとって!! . . . . . . . . . . . . . . . . . . 指導目標 【長期目標】 ・特殊音節込みカタカナをすべて 読むことができる。 【短期目標】 ・日常よく使われる特殊音節込み カタカナ単語を読むことができる。 8 標的行動 特殊音節(拗音,促音,長音) を含むカタカナ単語を12単 語正しく読むことができる。 9 現状のABC分析(Before) 「エレベー ター」の文 字あり 「エベ レータ」 教師の修正あり 「エレベー ター」(-) KLAPを使ったABC分析(After) 「エレベー ター」の絵 +「エレベー ター」の文字 +「エレベー ター」の音声 モデル アニメーショ ン(↑) 「エレベー ター」 メロディ (-) 教師のほめこ とば(↑) 10 対象児プロフィール Lさん(特別支援学校小学部6年 女児) 自閉症・知的障害 【検査結果】 K‐ABC 継次処理過程尺度 45±9 同時処理過程尺度 52±8 認知処理過程尺度 56±8 習得度尺度 49±5 PVT(絵画語彙発達検査) 語彙年齢3歳8ヶ月 11 対象児の指導開始前の様子 ・カタカナの清音はすべて(ヲ,ンも)読める。 ・濁音はほぼ読める。 ・長音は苦手、「チューリップ」など見慣れた 単語であれば伸ばして読める。 ・拗音、促音は曖昧ではあるが、経験的に覚えて いるもの(ジャム、コッペパンなど)は読める。 ・訂正受け入れが難しい面があり、間違いを 指摘されたり、やり直しを促されたりすると、 「キー」と声を出したり、自分の胸を強く叩い たりすることがある。 ・フルデイの、短冊状のめくり式スケジュール (文字とイラスト又は写真)を 使っていたが、11月よりチェックリスト式 (ひらがな、カタカナ文字のみ)に変更した。 12 方法 【対象児】 Lさん(特別支援学校小学部6年女子) 【指導場面】 自立活動の時間における指導 週1回 (コミュニケーション・パート) 【指導期間】2012年11月~2013年3月 【般化場面】 教室での課題学習・日常生活 【教材】 KLAP(コンピュータ教材) ICレコーダー 13 指導手続き 【ベースライン】 1.4種類の『絵』『単語』『文字(単音)』を 1セットとして全3セットのテストを実施する。 2.1番正答率の高いセットから始める。 (ただし、100%に近い状態であれば トレーニングは行わない) 2~3回ベースラインを取り、正答率が上昇 しなければトレーニングを開始する。 3.上昇する場合は、トレーニングを開始しない。 14 指導手続き 以下の手順で、セット1から始める。 ①(テスト)最初にコンピュータ画面上に1つずつ出て くる絵の命名(エレベーター)、単音 (ド・ハ・ス・・)、単語(エレベーター)を口頭で 答えるように促す。その際、コンピュータの操作は教 師が行う。 ②(トレーニング)正しく読むことができない場合は、 コンピュータの画面上で単語や文字の音声模倣を繰り 返して練習するように促す。児童が文字を読むのに合 わせて,肩をタッピングする。 ③(テスト)再度①で行った絵の命名、文字、単語の読 みを行う。 2回連続正答率100%であれば、次のセットに進む。 ④3セット12種類の単語全てを読むことができたら達 成。 15 記録方法 「絵の命名」「文字(単音)」 「単語」の正答率を記録する。 正答数 100= × 4 答率(%) 正 16 達成基準 達成基準 正反応率100%が2回連続で達成とし て次のセットに取り組む。 17 記録表 参加者:NO.2(小6) 番号 刺激種類 日付:2012年11月9日(金) 刺激名 正誤(1) 正誤(2) 番号 刺激種類 刺激名 正誤(1) 正誤(2) 1 ドレッシング ×ローブ ×ペース 38 ル ○ ○ 2 シートベルト ×ベルト ×ベルト 39 エ ○ ○ 3 スクールバス ×バス ×バス 40 ト ○ ○ 4 エレベーター ×トイレ ×トイレ 41 レ ○ ○ 5 ボウリング ○ ○ 42 ラ ○ ○ 6 キーボード ○ ○ 43 ベー ×(ベ) ×(ベ) 7 ハンドベル ×ハントンベル ○ 44 ト ○ ○ 8 ヨーグルト ○ ○ 45 シー ×(シ) ×(シ) 9 ド ○ ○ 46 ト ○ ○ 10 ハ ○ ○ 47 ター ×(タ) ×(タ) 11 ス ×(フ) ○ 48 ヨー ×(ヨ) ×(ヨ) 12 ル ○ ○ 49 ベー ×(ベ) ×(ベ) 13 ン ○ ○ 50 グ ×(ク) ×(ク) 14 クー ×(ク) ×(ク) 51 パ ×(バ) ○ 15 ス ○ ○ 52 シュー ×(シュ) ×(シュ) ベ ○ ○ 53 ト ○ ○ バ ○ ○ 54 ハンドベル ×ベルグ ×ベル、チュルル ル ○ ○ 55 ヨーグルト ×お茶 ×お茶 絵 単語 16 17 達成基準 18 19 絵 ○(レッ) ○(レ) 56 ピーナッツ ×くつ ×コップ 20 グ ○ ○ 57 クローバー ×クルク ×トボーグ 21 カ ○ ○ 58 クローバー ×(クロバ) ×(クローバ) 22 ド ○ ○ 59 カンガルー ×カンガル ×カンガル シートベルト ○ ○ 単音 レッ 単音 単語 23 ン ○ ○ 60 24 ガ ○ ○ 61 ドレッシング ×ドレシグ ×ドレスシウグ 25 ン ○ ○ 62 リ ○ ○ 26 シ ○ ○ 63 ク ○ ○ 27 ド ○ ○ 64 ナッ ○(ナ) ○(ナ) 28 キー ×(キ) ×(キ) 65 ル ○ ○ 29 ルー ×(ル) ×(ル) 66 ン ○ ○ 30 パラシュート ×(ムーブメント) ×(ムーブメント) 67 バー ×(バ) ×(バ) 31 カンガルー ×(カンガル) ×(カンガル) 68 ○ ○ 32 ボウリング ×(ボール) ×(ボール) 69 ロー ×(ロ) ×(ロ) 33 キーボード ×(ピアノ) ×(ピアノ) 70 グ ○ ×(ク) 34 エレベーター ×(エレベータ) ×(エレベータ) 71 ウ ○ ○ 35 スクールバス ○言い直す ○ 72 ツ ×(ス) ×(ス) 36 パラシュート ○ ○ 73 ピー ×(ピ) ×(ピ) 37 ピーナッツ ×ピーナス ×ピーナス 74 ボー ×(ボ) ×(ボ) 単音 ボ 絵 単語 記録者: 松本 美知代 18 ○ 絵の命名 ◇ 文字の読み ◆ 単語の読み 結果 ベースライン 訓練後プローブ 150% フォローアップ Set 2 100% 50% 正答率(%) 0% 150% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Set 3 100% 50% 0% 150% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 13 14 Set 1 100% 50% 0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ブロック数 15 16 結果(単語の読みについて) ・セット1は、ベースラインを取った時点で 1回目75%、2回目100%となったの で、トレーニングを実施しなかった。 ・セット2、セット3はトレーニング数回で 正答率が上がり、達成した。 ・セット2、セット3とも、フォローアップ でも維持できていた。 ・単音読みは「ベー」などの長音を「ベ」と 読んでしまうことがあったが、単語では 読めるようになった。 20 結果(単音の読みについて) ・このトレーニング以外の場面(ことば・か ずの時間)にカタカナ単音の読みをチェッ クした(2013年1月11日)。清音、濁音、 拗音は「ジョ」以外すべて読めた。促音、 長音は単音になると難しい(「レッ」は 「レ」「ター」は「タ」と言ってしまう) が、「クリップ」「クリーナー」「ハン バーグ」「チューリップ」などの単語を 30単語以上正しく読むことができた。 21 考察 ・聴覚に過敏のある児童であり、トレーニングの 最後に流れるメロディには、最初の頃驚いて耳 ふさぎをする様子が見られたが、音量を小さく 設定したこと、慣れてきたことなどもあり、 耳ふさぎはなくなった。最近では,メロディが 流れると「あらっ」等と言い,笑顔を見せるこ ともあるため,好子として機能し始めた可能性 もあると考える。 ・音声出力する教材であるので、模倣しやすく、 操作さえ覚えれば、今後は自分で学習していくことも できると思われる。 ・テレビ会議やメールなどで、トレーニングの 方法や記録の取り方、進め方をアドバイスしてもらえ たことで、スムーズに取り組むことができた。 22 今後の課題 ・今回は、共同研究ということで、1人の 児童を対象に実施したが、文字や文の読みや 理解について、大変有効な教材であると思わ れるので、これから対象児童を増やしていく ことができれば良いと思う。 そのためには、KLAPの実施方法を理解し、 取り組む教師が増えることが前提となるが、 今後、校内でどのように取り組んでいくか、が 課題となってくる。 ・中学部に進学予定の児童なので、丁寧な引き継 ぎができるよう,情報を整理していく必要があ る。 23
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