第3章.リスクの配分・管理 (3)市場価格変動リスクとデリバティブ • ○ドルのコールオプションを使ったリスクヘッジ – ドル高のリスクをヘッジ – かつ、ドル安の場合の利益も得ることができる。 c.f. 先物ドル買い(ケースB)では、この利得は得られない – 但し、2円/ドルのコストがかかる。 ○オプションを使ったドル買いコストの要因分解 • オプションを使ったドル買い=オプション買いとそ の損益清算+3ヵ月後の直物ドル買い 1 ドルの買コスト 110 112 買コスト 2 0 -2 110 112 S 110 S 2 ○コールオプションの売手の損益 損益 2 112 110 S 3 店頭デリバティブ取引残高 兆ドル 700 600 500 400 300 200 100 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 資料:BIS OTC取引:店頭取引 Over the Counter 4 ○世界のデリバティブ取引のタイプ(2007年): 単位% オプショ ン 先物 スワップ 全体 為替 4.9 2.1 2.4 9.4 金利 4.5 9.6 51.9 66 株式:先物にはスワップを含む 0.4 1.1 1.4 商品 1.5 信用デリバティブ 9.7 全体 9.7 12.8 54.4 5 第4章.流動性の付与 • 資金余剰主体が保有している金融資産・証書は、 満期まで現金化できないのであれば、不便で、 そもそも保有したがらないかも知れない。 • 満期前でも資産の現金化を可能にする制度 ・流通市場の整備 ①(証券)取引所 cf. 発行市場と 流通市場 ②業者による店頭市場OTC (over-the-counter) ③金融仲介機関が現金化しやすい 資産・証券(間接証券)を提供 e.g. 銀行の要求払い預金 6 ○(資産の)流動性 • (資産の)流動性: • 金融の基本的機能の1つは、金融資産に対し 流動性を与え、流動性を高めること: ⇒投資家が保有しやすい資産を提供 ⇒資金不足主体にとって資金調達がやりやすい ⇒資金余剰主体から不足主体への資金移 転の促進 7 ○証券(株式・債券)市場の分類 ・発行市場:資金調達を目的として新たに発行 される証券が、発行体から(仲介者を介して)投 資家に売却される市場 – 資金余剰主体から不足主体への資金の移転 • 流通市場:既に発行された証券が投資家の 間で売買される市場 – 証券に流動性を付与(流動性を高める) – :流通市場の働きによってそこで 取引される資産に与えられる流動性 8 ①証券取引所 • 取引所の機能:有価証券の大量の需給を 集中させ、売買の機会を提供し、公正な価 格を形成する。 – 取引所が存在しなければ、一旦取得した株式 を売却・現金化することは非常に困難 – 取引所の存在により、株式の現金化が容易に なっている ⇒ 9 ○流動性付与機能 の概念図 ・下図は、右(左)へ行けば行くほど、流動性が高い(低い)状態 流動性の付与・高める 取引所が存在 しない状況の 下での株式の 流動性 取引所が存在 する状況の下で の株式の流動性 10 ② 業者による店頭市場 • 債券の流通市場: – 証券会社(業者)が債券の売値・買値を提示する ことで顧客の注文に応じる(マーケットメイカーor ディーラー) → – 顧客取引の背後に証券会社間で債券を売買する 市場(業者間市場)が存在:手持ち債券在庫の調 整、債券価格変動による利益の獲得(投機) • 証券業者による店頭市場は、債券という資産の流動 性を高める働きをしている 11 ○店頭取引市場の概念図 業者間市場 業者(ディー ラー)A 業者(ディー ラー)B 売買 投資家: a b c d e f ・上記の市場構造を持つ市場:債券市場、外国為替市場、 デリバティブ店頭市場、米国のナスダック株式市場 12 • 流動性の内容 • 短時間で現金化が可能なら、流動性が高い • 満期までの期間が短いほど、流動性が高い – (e.g. 手数料) • 売却価格をほとんど下げないで現金化できれば、流動 性は高い – (流動性の定義を、「その資産の取引の容易さの 程度」と拡張して考える場合) 13 ③金融仲介機関による流動性付与 ○銀行による資産への流動性付与 • 要求払い預金という流動性の高い間接証券の提供 • 貸出で資金を固定化しながら、なぜそれが可能か? – ①銀行内部での大量の預金流出入による相殺(大数法則 の利用) – ②資金過不足時のインターバンク(銀行間)市場の利用 – ③市場全体が資金不足の際は中央銀行が資金を供給 • こうした仕組みに支えられて、 14 ○銀行による流動性の高い預金提供の仕組み 中央銀行 インターバンク市場 銀行B 銀行A 預金 預金者: a b c d e f ・取引の構造は、本質的に店頭取引市場と同じ 15 ○銀行による流動性付与 ( 企資 業金 不 足 主 体 ) 株式・債券 銀行のB/S 借入 証書 貸 出 預 金 預金 証書 ( 資 家金 計 余 剰 主 体 ) ・銀行は、借入証書という流動性の低い資産を預金証書 という流動性の高い資産に変換している(流動性変換: 資金の出し手に対してより流動性の高い資産を提供している)。 16 ・右(左)へ行けば行くほど、流動性が高い(低い)状態 流動性を高める (流動性変換) 企業が発行 する借入証書 の流動性 ・満期が比較的 長い、満期まで 現金化できない、 金額的に大口 預金の 流動性 ・いつでも現金化 できるor 満期が 比較的短い、 小口でも取引可能 17 ○証券化による流動性の付与 債権譲渡 債( 不 務足 者主 体 ) 負 債 資 本 ( 住 住宅 宅 ローン ロ 借入証書 ー ン 担 SPC(特別 銀行・ノン 保 目的会社) 証 バンク 券 ) ・Special Purpose Company ・Mortgage Backed Security ・ 住 宅 ロ ー ン 住 宅 ロ ー ン M B S 証 券 市 場 投( 余 資剰 家主 体 ) 18 流動性を高める (流動性変換) 住宅ローン の流動性 ・そのままでは 売却が難しい MBSの 流動性 ・投資家間での売買 が可能(実際は証券会 社の店頭市場を通じて) ・ cf. 第1章ローリスク・ローリターン商品(優先債)とハイリスク・ ハイリターン商品(劣後債)を生み出す 19 ○サブプライム問題と市場流動性 2007年 日経金融 07.07.04. 7月31日:ファンドの破産法申請、投資家出資金のほぼ全額の 15億ドルの損失 20 • High Grade Structured Credit Enhanced Leverage Fund (ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンドの1つ) – 投資対象:AA格以上の高格付けのサブプライム関連の CDO(債務担保証券) • CDO(債務担保証券):ジャンクボンド(投機的債券)、高 金利のローン、低格付の証券化商品を束ねて証券化 • サブプライムRMBSを束ねたCDOが近年急拡大、サブ プライム関連商品は格付の割りに高利回りであった – レバレッジ:10数倍かそれ以上 • ヘッジファンドの運用方法: – 高格付商品にレバレッジを効かせて投資(上記ヘッ ジファンドはこちらの投資スタイル) or ハイリスク・ ハイリターン商品に投資 21 • 事態の推移: • サブプライ関連金融商品価格下落 • →借金の追加担保提供か借金の一部返済を求められる • →保有CDOを売却 or 貸手による担保の処分売却 →CDO価格下落→損失拡大 • →更なる追加担保か借金返済の要求→破綻 ・ 6月19日:リーマン・ブラザーズが担保のCDOを売却、 売却価格は額面の50% ・ 6月22日:メリル・リンチが8億5000万ドルの担保のCDOを競売にかけ るが1億ドルしか売れず。無理に売れば、額面の30~50%でしか売れず。 →サブプライムローンのデフォルト増大、サブプライム関連商品 の不透明性により、 (市場に買手不在で 資産の現金化ができない。無理に現金化しようとすると極端に 安い価格になる。) 22 • ○ (Funding Liquidity Risk): – cf. 信用リスク、市場価格変動リスク:主として手持ちの資産 に関するリスク • ベアー・スターンズは流動性リスクに直面し、経営破綻 2008.3.16. – ベアー社に対する信用不安の高まり→取引先(銀行・証券 会社・ヘッジファンド)による資金引き上げ(取り付け) – 証券化商品市場の市場流動性の枯渇→ベアー社は大量の MBS,CDOを持っていたが、それの売却もそれを担保とした 借入も難しかった – 破綻処理: • ベアー社保有のMBS,CDO300億ドルを切り離し、ベアー社本体を JPモルガンが救済買収(1株10ドル、cf. 3月12日時点の株価65ド ル) • 300億ドルの資産は受皿会社に移し、時間をかけて回収。受皿会社 に対しJPモルガン10億ドル出資、残り290億ドルはFRB(米連邦準 備理事会)が特別融資 23 ○米大手証券会社ベアースターンズの流動性危機 Bank of England, Financial Stability Report, April 2008 24
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