柿原論文へのコメント

柿原論文へのコメント
東京学芸大学教育学部
鈴木 亘
論文の意義・貢献
• PET検診(そのほか、総合的がん検診、会員
制健康サービス)の経済評価に関する恐らく
始めての研究であること。保険適用の是非、
保険者による補助などの判断に、今後重要と
なる可能性。
• ヘルスリテラシーに著者らしい工夫。また、リ
テラシーの医療経済分析についても、わが国
では決して研究が多いとは言えず、今後の分
析が期待される。
全体的な感想
• ①「ヘルスリテラシー」と「PET検診その他の
経済評価」について、2つのテーマに分断。2
つの論文にすべきである。1つの論文にして
は「ヘルスリテラシー」の分析は説明不足。
• ②WTPの計測を、単なるWTPリグレッション
だけに終わらせており、費用便益分析などの
経済評価にまで至っておらず、「もったいな
い」
• ③推計方法やモデルの適切さに疑問
コメント1:推定モデルについて
• WTPリグレッションの2SLS:
• WTP=f(リテラシー、性別、受診群)
• リテラシー=g(年収、年齢)
• 変数として、WTPに年齢、年収が無く、リテラ
シーに性別や受診群が無い。操作変数を確
保するための措置と思われるが、極めて不自
然。
• WTP=f(リテラシー、性別、年齢、年収、受
診群)+u
• リテラシー=g(性別、年齢、年収、受診群)+v
• ⇒リテラシーの説明変数にWTPはいらない
ので、2SLSの必要は無い。u,vが独立であれ
ば、このような体系は、ブロック逐次的(blockrecursive)であるから、OLSで推計可能。
⇒ペット検診の受診群にむしろ内生性があり、
同時推計にする必要性ある(特にリテラシー)。
• 職業などの使える変数を全て使うべき。
• PET検診1回あたりのWTPと、何年に1回受
診したいかという回数を別々に扱っているが、
これこそ両者に相関があるので、同時推計を
すべきか。
• WTPの尋ね方がクローズエンドの選択式で
あり、両端の打ち切り(censoring)がある。こ
の点を考慮した推計を行なうべきである。
• WTPに0円がないことのバイアス。受診をした
くないという人の扱いをサンプルセレクション
モデルにすることも重要か。
コメント2:WTPを用いた経済評価
• WTPから費用を引いたものは、経済学的に
は消費者余剰となる。消費者余剰が正かどう
か(CBレシオが1を超えるかどうか)が、経済
学的には重要な問題。
• 補助金を出すべきか、保険適用をすべきかど
うかといった意思決定に対しても、CBレシオ
の値が重要である。
• WTPを順に並べると、需要曲線が作れる。
• 厳密には、Censoringを考慮して、提示金額
と受諾確率を用いたサーバイバルモデルを推
計する方法が一般的である(栗山(1997)「公
共事業と環境の価値」築地書館にはLIMDEP
プログラム例もある)。
• 需要曲線が推計されると、例えば保険適用や
補助金によってPETの価格が下がったときの
需要量の予測、PET検診の目標受診率(ある
ならば)を達成するために必要な価格などが
求められる。このことも経済学では興味深い
点で、政策論を展開することができる。
質問
• ①WTPの評価に当たって、PET検診受診者
とそれ以外の対象群に分けた意味は何か。
• ちなみに、対象群の属性は受診者群と違い
が大きすぎるのは問題。
• ②PET検診受診者の平均WTP(7.11万円)
が、実際の費用(11.5万円)ことの妥当性をど
うみるか。
• ③PET検診への受診希望回数が、40歳未満
と70歳以上で低く、数年に1回の希望が多い
が、これはどう解釈、是非の評価をすべきか。
• ④PET検診のWTPは、自営業がもっとも高
いが、これをどう解釈、評価すべきか。
• ⑤論文からは直接はなれるが、PET検診に
関するWTP以外の経済評価は、早期発見に
よって将来の医療費が防げるという便益額。
現行の保険適用(健常者保険外、患者でも他
の方法との併用できず)や、保険者の補助の
是非についての意見を承りたい。