当事者研究の記述 の構造分析:向谷地・ 浦河べてるの家『安心 して絶望できる人生』を 対象として 1 ○大高庸平(和光大学大学院) いとうたけひこ(和光大学) [email protected] 小平朋江(聖隷クリストファー大学) 佐藤友香(和光大学) 心理教育・家族教室ネットワーク 第13回研究集会ポスター発表 No.12 福岡県春日市・クローバープラザ センター棟東側5階 (507) 2010年3月20日14:30-15:30 2 【問題と目的】 問題:当事者研究は精神障害者の自助グループに よる実践であり、心理教育プログラムとしての機能が ある。大高(2008)や大高・いとう・小平(投稿中)は、 浦河べてるの家によるウェブサイトを分析し、当事者 の苦労を仲間とともに取り戻す回復の過程が当事者 研究によって実現されたことをテキストマイニングに て示したが、当事者研究の多くは書籍の形態で報告 されている。 目的:本研究の目的は、当事者研究の書籍における 事例記述の構造の解明を通して、当事者研究の進 め方と論文の構造を明らかにすることである。 3 【結論】 • 「自分の助け方の研究」である当事者研究の性 格と構造がテキストマイニングによる量的分析 により明らかになった。 • 重要なキーワードは特に「方法」に示され、「ミ- ティング」で「体験」や「苦労」を「メンバー」と分か ち合う(話し合う)という浦川べてるの家の理念 に基づく当事者研究の特徴が明らかになった。 • 「考察」や「おわりに」では現在進行形が多用さ れ研究成果を実践に活かす特徴が出ていた。 • 浦河べてるの家(2005)に端を発したこの構造 はべてる・向谷地(2009)に引き継がれている。4 【方法】 向谷地・浦河べてるの家(2006)『安心して絶望できる人生』 における精神障害者による当事者研究の記録をテキストマ イニングの手法で分析した。対象は以下の9事例である。 分析単位は、事例ごとに設定された節から「はじめに」「プロ フィール」「目的」「方法」「結果」「考察」「おわりに」であった。 No. ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ 研究事例名 「“劇場型”統合失調症の研究」 「“人格障害”の研究 その一」 「“人格障害”の研究 その二 見捨てられ不安の研究」 「人間アレルギー症候群の研究-第一弾」 「人間アレルギー症候群の研究-第二弾」 「“サトラレ”の研究」 「起業の研究」 「救急車の乗り方の研究」 5 「どうにも止まらない涙の研究」 ① はじめに 単語 品詞 べてる 名詞 研究 名詞 症状 名詞 幻聴さん 名詞 さまざま 名詞 経つ 動詞 仲間 名詞 幻聴 名詞 医療 名詞 自己病名 名詞 長い 形容詞 困る 動詞 化す 動詞 抗原 名詞 出現 名詞 周り 名詞 はじめる 動詞 一緒 名詞 人間アレルギー症候群 名詞 含める 動詞 接する 動詞 属性 頻度 9 8 7 8 6 5 8 5 4 4 4 5 3 3 3 5 3 4 4 3 3 ② プロフィール 全体 頻度 32 28 20 30 14 7 35 12 4 5 8 18 3 3 3 21 4 13 13 5 5 指標値 16.409386 14.747625 14.539398 14.020857 13.604404 13.032794 12.203939 11.215876 11.007649 10.644265 9.554114 9.035574 8.255737 8.255737 8.255737 7.945423 7.892353 7.737196 7.737196 7.528969 7.528969 単語 学校 母親 仕事 泣く 怒る 毎日 精神科 入院 死ぬ 暮らす 記憶 いつ 母 戻る 家 親 実家 両親 嫌う 高校 品詞 名詞 名詞 名詞 動詞 動詞 名詞 名詞 名詞 動詞 動詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 ③ 目的 単語 品詞 研究 目的 テーマ 人たち 感情 抱える メカニズム 人間アレルギー症候群 自分 ぬぐい+ない 過食症 別々 リストカット 最大 ベース 一見 解明 否定的 不登校 自己否定 働く 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 副詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 属性 頻度 5 4 4 4 4 4 3 3 8 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 属性 頻度 12 9 10 9 7 8 10 9 7 7 6 10 7 6 8 6 5 5 6 5 全体 頻度 14 9 17 14 7 12 21 17 9 10 6 23 11 7 16 8 5 5 10 6 指標値 19.957845 15.821646 13.597719 12.977441 12.305724 11.788321 11.322356 11.270918 11.168042 10.599201 10.547764 10.184674 10.03036 9.978923 9.512957 9.410082 8.789803 8.789803 8.2724 8.220962 ④ 方法 全体 頻度 28 5 10 15 17 30 8 13 153 2 2 2 3 3 4 5 5 5 5 7 7 指標値 20.757691 20.044525 19.056487 18.068449 17.673234 15.104334 14.193562 13.205523 11.831159 10.121066 10.121066 10.121066 9.923459 9.923459 9.725851 9.528244 9.528244 9.528244 9.528244 9.133028 9.133028 単語 品詞 ミーティング 体験 苦労 メンバー まず 整理 行う べてる 協力 デイケア 方法 起業 最初 症状 今 記録 支援 進め方 役割分担 研究 名詞 名詞 名詞 名詞 副詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 属性 頻度 7 6 7 6 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 4 2 2 2 2 3 全体 頻度 15 16 47 22 10 12 17 32 7 11 13 17 20 20 49 2 2 2 2 28 指標値 32.696412 27.384615 26.171079 26.161115 18.392355 17.984521 16.964938 13.906188 13.896224 13.080558 12.672724 11.857058 11.245308 11.245308 10.439604 9.807927 9.807927 6 9.807927 9.807927 9.613974 ⑤ 結果 単語 救急車 呼ぶ 病院 作業 来る お客さん 心 チンピラ幻聴 会社 吉野雅子 見える 特に 車 体 気分 受診 入る 解消 ガード 会社づくり 基準 減る 理念 品詞 名詞 動詞 名詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 副詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 属性 頻度 19 10 11 8 10 7 10 6 6 6 6 5 4 8 5 5 6 4 3 3 3 3 3 全体 頻度 31 18 23 9 22 10 27 11 13 13 13 9 5 24 10 10 15 6 3 3 3 3 3 ⑥ 考察 指標値 30.444825 15.15079 15.007546 14.919053 13.077886 11.952941 10.486756 8.986829 7.950377 7.950377 7.950377 7.575395 7.200413 7.145662 7.057169 7.057169 6.913925 6.682187 5.78898 5.78898 5.78898 5.78898 5.78898 ⑦ おわりに 単語 人 今 これから 浦河 べてる 身 当事者研究 心 講演 もらう 意味 回復 感謝 生きる 感覚 くれる 向谷地氏 計画 自分 起業 品詞 名詞 名詞 副詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 属性 頻度 15 10 5 7 7 4 4 6 4 4 4 4 3 6 4 3 3 3 19 4 全体 頻度 81 49 9 30 32 8 8 27 9 10 10 11 3 31 13 4 4 5 153 17 指標値 19.45935 14.730824 12.814978 11.823392 11.120222 9.970714 9.970714 9.682298 9.619129 9.267545 9.267545 8.91596 8.53279 8.275959 8.21279 8.181205 8.181205 7.829621 6.928632 6.80645 単語 品詞 人 仲間 自分 言葉 幻聴さん 向谷地さん 周囲 今 助ける 方法 適応 技 苦労 一番 それぞれ 効果 生き抜く 対処 はじめて 何度 難しい 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 名詞 動詞 名詞 副詞 名詞 形容詞 属性 頻度 29 14 42 10 12 9 7 16 6 7 6 5 15 7 6 4 4 4 6 5 5 全体 頻度 81 35 153 20 30 19 11 49 8 13 9 5 47 15 11 4 4 4 13 9 9 指標値 22.459359 13.146251 12.49008 12.197332 11.268215 10.416168 10.222425 9.971411 9.564122 9.099563 9.002691 8.905819 8.751677 7.976702 7.87983 7.124656 7.124656 7.124656 6.756969 6.660097 6.660097 表1 対象とした9事例におけ る各節ごとの特徴語抽出 (①~⑦) 表1における特徴語とは、テ キストに付随する属性(節)ごと に、特徴的に出現する単語を 7 抽出したものである。 図1 「節」と“単語”による対応バブル分析(上位20単語) 図1は、対象とした9事例のテキストのなかから、属性(節)と単語の2つの変数について数量 8 化を行った対応分析である。単語と距離の近い属性ほど関係性があり、近くに表示される。 【結果】 特徴語分析では、「方法」において“ミーティング”や“メン バー”、“べてる”が現れており、「考察」では“仲間”や“自分”、 そして“今”や“助ける”が特徴語として現われている。「おわ りに」では、“今”とともに“これから”や“生きる”が現れること がわかった。現在進行形の表現が現われている。 対応バブル分析では、“自分”と“仲間”と“人”の距離が近く、 “研究”と“べてる”と“苦労”の距離が近いことから、これらは 1つずつのかたまりとして、単語間においても関係性が見ら れた。節と単語との関係については “メンバー”は図の中心 から外れ、「方法」との関係が見られている。「考察」について は“自分”との関係性が見られ、“人”や“仲間”や“幻聴さん “との距離も近かった。節同士の関係については、「はじめ 9 に」と「考察」の距離が近いことがわかる。 【考察】 特徴語「方法」(表1)において現れた単語や、図1において 「方法」と“メンバー”との関係が見られることからも、テキスト マイニングによって量的に示された結果は、当事者研究につ いてのキーワードを量的に明確化したものと考えられる。 特徴語「考察」や「おわりに」の節では、“今”や“これから”と いう現在進行形の表現があり、当事者研究は過去から現在、 そして未来にむけての一人ひとりの連続した事例研究であ ることが示唆された。 当事者研究は、自分自身を助ける(取り戻す)研究であると ともに、リアルタイムで行われる事例研究である。その方法 については仲間(メンバー)の存在が必須であり、これは先 行研究で示された浦河べてるの家の構造を支える要素の1 10 つと同様であった。 当事者研究は、精神障害者のサポートにおいて必要な「働 く」「住む」「経済」(孫他2101)などの課題とともに必要な、自 分の助け方の研究である。 当事者研究の記述の構造は科学論文と同じ体裁を持ってい る。しかし、「苦労のプロフィール」はいかなる科学論文にも 存在しない。特徴的であるこの項目は、臨床心理学研究に おける成育歴の記述に該当する。なお、その後の記述(べて る・向谷地 2009)では、苦労のプロフィールの置かれる場 所は、「はじめに」と「研究の目的」の間に定着している。 法則定理的な自然科学的研究ではなく、個性記述的な当事 者中心の事例研究に基づきつつ、他の当事者にも共通する 解決策を探ろうとする浦河べてるの家の当事者研究の仮説 生成的(abductive)な性格が良く現われている。 11 【参考文献】●べてるしあわせ研究所・向谷地生良 2009 レッツ!当事者研究1 NPO法人コンボ ●向谷地生良・浦河べてるの家 2006 安心して絶 望できる人生 日本放送出版協会 ●大高庸平2008 「当事者研究の部屋」から見た当 事者研究の語りの分析:浦河べてるの家を対象に ●大高庸平・いとうたけひこ・小平朋江(投稿中) 精 神障害者の自助の心理教育プログラム「当事者研 究」による体験と回復の構造:「浦河べてるの家」の ウェブサイト「当事者研究の部屋」の語りのテキスト マイニング ●浦河べてるの家 2005 べてるの家の「当事者研 12 究」 医学書院
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