障害者虐待防止法の概要 人権擁護研修会 平成23年9月2日 鹿児島県知的障害者福祉協会 副会長・倫理危機管理委員会委員長 水 流 純 大 法律の名称・公布日・施行日 • 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支 援等に関する法律 • 平成23年6月24日公布 • 平成24年10月1日施行 目的(第1条) • 障害者に対する虐待の禁止 • 障害者虐待の予防及び早期発見その他の障害者 虐待の防止に関する国等の責務 • 障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自 立の支援のための措置 • 養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対 する養護者による障害者虐待の防止に資する支 援のための措置 定義(第2条) • 「障害者」とは、障害者基本法に規定する障害者 をいう • 「障害者虐待」とは、 「養護者による障害者虐待」 「障害者福祉施設従業者等による障害者虐待」 「使用者による障害者虐待」をいう。 • 虐待に該当する行為は、身体的虐待・性的虐待・ 心理的虐待・ネグレクト、経済的虐待。 障害者に対する虐待の禁止(第3条) • 何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない こと。 国及び地方公共団体の責務(第4条) • 障害者虐待の予防及び早期発見等を行うための 関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の 間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な 体制の整備に努めること。 • 障害者虐待の防止等の職務に携わる専門的知識 及び技術を有する人材等の確保及び資質の向上 を図るための関係機関の職員の研修等。 • 障害者虐待に係る通報義務等について必要な広 報その他の啓発活動を行うこと。 国民の責務(第5条) • 国民は、障害者虐待の防止等の重要性に対する 理解を深めるとともに、地方公共団体が講ずる 障害者虐待の防止のための施策に協力するよう 努めなければならない。 障害者虐待の早期発見等(第6条) • 国及び地方公共団体の障害者の福祉に関する事 務を所掌する部局等、障害者福祉施設、学校、 医療機関、保健所その他障害者の福祉に業務上 関係ある団体並びに障害者福祉施設従業者等、 学校の教職員、医師、歯科医師、保健師、弁護 士その他の障害者の福祉に職務上関係のある者 及び使用者が、障害者虐待の早期発見に努めな ければならない。 養護者による障害者虐待の防止、養護 者に対する支援等(第7~14条) 1.養護者による障害者虐待に係る通報等 (第7条) 養護者による障害者虐待(18歳未満の障害者に おいて行われるものを除く)を受けたと思われ る障害者を発見したものは、速やかにこれを市 町村に通報しなければならない。 養護者による障害者虐待の防止、養護 者に対する支援等(第7~14条) 2.通報等を受けた場合の措置(第9条) ①市町村は、通報を受けた場合は、当該障害者の 安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実 の確認のための措置を講ずる。 ②障害者支援施設等への一時保護 ③後見開始等の審判請求 3.居室の確保(第10条) 市町村は一時保護のための居室を確保すること 養護者による障害者虐待の防止、養護 者に対する支援等(第7~14条) 4.立入調査(第11条) 市町村長は、養護者による障害者虐待により障 害者の生命または身体に重大な危険が生じてい る恐れがあると認めるときは、障害者の福祉に 関する事務に従事する職員をして、当該障害者 の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質 問をさせることができる。 5.警察署長に対する援助要請(第12条) 市町村長は立入調査の際に必要があると認める ときは、警察署長に必要な援助を求めることが できる。 養護者による障害者虐待の防止、養護者に 対する支援等(第7~14条) 6.面会の制限(第13条) 障害者支援施設への一時保護の措置を行った場合、 市町村長又は当該障害者支援施設等の長は、虐待を 行った擁護者について当該障害者との面会を制限する ことができる。 7.養護者の支援(第14条) 市町村は、障害者(18歳未満の障害者を含む)の養 護者の負担軽減のため、養護者に対する相談、指導及 び助言その他必要な措置を講ずるものとする。 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 の防止等(第15条~20条) 1.障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の 防止等のための措置(第15条) 障害者福祉施設の設置者等は、障害者福祉施設 従事者等による障害者虐待の防止等のための措置 を講ずるものとする。 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 の防止等(第15条~20条) 2.障害者福祉施設従事者等による障害者虐待にかか る通報等(第16条) ①障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受け たと思われる障害者を発見したものは、速やかに市町 村に通報しなければならない。 ②障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受け た障害者は、その旨を市町村に届け出ることができる。 ③障害者福祉施設従事者は、通報したことを理由と して解雇その他不利益な取り扱いを受けない。 ④市町村は、通報又は届出を受けた時は、当該施設 の所在地の都道府県に報告しなければならない。 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 の防止等(第15条~20条) 3.通報等を受けた場合の措置(第19条) 市町村が通報もしくは届け出を受け、又は都道 府県が報告を受けたときは、市町村長又は都道 府県知事は、社会福祉法、障害者自立支援法そ の他の関係法律の規定による権限を適切に行使 する。 4.公表(第20条) 都道府県知事は、毎年度、障害福祉施設従事者 等による障害者虐待の状況、障害者福祉施設従 事者等による障害者虐待があった場合の措置等 を公表する。 使用者による障害者虐待の防止等 (第21条~28条) 1.使用者による障害者虐待の防止等のために措 置(第21条) 障害者を雇用する事業主は、労働者の研修の実 施、当該事業所に使用される障害者及びその家 族からの苦情の処理の体制の整備その他の使用 者による障害者虐待の防止等のための措置を講 ずるものとする。 使用者による障害者虐待の防止等 (第21条~28条) 2.使用者による障害者虐待に係る通報等(第22 条) ①使用者による障害者虐待を受けたと思われる障 害者を発見した者は、速やかに市町村または都 道府県に通報しなければならない。 ②使用者による障害者虐待を受けた障害者は、そ の旨を市町村または都道府県に届け出ることが できる。 ③労働者は、通報又は届出をしたことを理由とし て解雇その他不利益な取扱いを受けない。 使用者による障害者虐待の防止等 (第21条~28条) 2.使用者による障害者虐待に係る通報等(第22 条) ④市町村は、通報又は届出を受けたときは、事業 所の所在地の都道府県に通知しなければならな い。 ⑤都道府県は、通報、届出又は通知を受けたとき は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局 に報告しなければならない。 使用者による障害者虐待の防止等 (第21条~28条) 3.報告を受けた場合の措置(第26条) 都道府県労働局が、通報、届出、通知を受けた時は、当 該報告にかかる都道府県との連携を図りつつ、労働基準法、 障害者の雇用の促進等に関する法律、個別労働関係紛争の 解決の促進に関する法律その他の関係法律による権限を適 切に行使する。 4.公表(第27条) 厚生労働大臣は、毎年度、使用者による障害者虐待の状 況、使用者による障害者虐待があった場合の措置等を公表 する。 就学する障害者等に対する虐待の 防止等(第29~31条) 1.就学する障害者に対する虐待の防止等(第29 条) 学校の長は、教職員、児童、生徒、学生その他 の関係者に対する障害及び障害者に関する理解を 深めるための研修の実施及び普及啓発、就学する 障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整 備、就学する障害者に対する虐待に対処するため の措置など当該学校に就学する障害者に対する虐 待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。 就学する障害者等に対する虐待の 防止等(第29~31条) 2.保育所等に通う障害者に対する虐待の防止等 (第30条) 保育所等の長は、保育所等の職員等に対する障 害及び障害者に関する理解を深めるための研修の 実施及び普及啓発、保育所等に通う障害者に対す る虐待に関する相談に係る体制の整備、保育所等 の通う障害者に対する虐待に対処するための措置 など当該保育所等に通う障害者に対する虐待を防 止するため必要な措置を講ずるものとする。 就学する障害者等に対する虐待の 防止等(第29~31条) 3.医療機関を利用する障害者に対する虐待の防 止等(第31条) 医療機関の管理者は、医療機関の職員等に対す る障害及び障害者に関する理解を深めるための研 修の実施及び普及啓発、医療機関を利用する障害 者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、 医療機関を利用する障害者に対する虐待に対処す るための措置など当該医療機関を利用する障害者 に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずる ものとする。 市町村障害者虐待防止センター (第32条~35条) 1.市町村障害者虐待防止センター(第32条) (1)市町村は、障害者に福祉に関する事務を所 掌する部局又は当該市町村が設置する施設におい て、市町村障害者虐待防止センターとしての機能 を果たすようにするものとする。 (2)市町村障害者虐待防止センターの業務 ①障害者虐待の通報、届出の受理 ②障害者及び養護者に対する相談、助言 ③障害者虐待の防止及び養護者に対する支援に 関する広報その他の啓発活動 市町村障害者虐待防止センター (第32条~35条) 2.市町村障害者虐待防止センターの業務の委託(第33 条) (1)市町村は、市町村障害者虐待防止対応協力者のうち 適当と認められるものに、業務の全部または一部を委託す ることができる。 (2)委託を受けた者等は、正当な理由なしに、その委託 を受けた業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。 (3)通報等の受理に関する業務の委託に関しては、その 職務上知り得た事項であって当該通報をした者を特定させ るものを漏らしてはならない。 市町村障害者虐待防止センター (第32条~35条) 3.市町村等における専門的に従事する職員の確保(第 34条) 市町村及び委託を受けた者は、障害者の福祉または権利 の養護に関し専門的知識又は経験を有し、かつ、これらの 事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければ ならない。 4.市町村における連携協力体制の整備(第35条) 市町村は、福祉事務所その他関係機関、民間団体等との 連携協力体制を整備しなければならない。この場合におい て、養護者による障害者虐待に迅速に対応することができ るよう、特に配慮しなければならない。 都道府県障害者権利擁護センター (第36条~39条) 1.都道府県障害者権利擁護センター(第36条) (1)都道府県は、障害者の福祉任官する事務を所掌する 部局又は当該都道府県が設置する施設において、都道府県 障害者権利擁護センターとしての機能を果たすようにする ものとする。 (2)都道府県障害者権利擁護センターの業務 ①使用者による障害者虐待の通報又は届出を受理するこ と。 ②市町村が行う措置の実施に関し、市町村相互間の連絡 調整、市町村に対する情報の提供、助言等を行う。 (2)都道府県障害者権利擁護センターの業務 ③障害者虐待を受けた障害者に関する各般の問題及び養 護者に対する支援に関し、相談に応ずること又は相談を行 う機関を紹介すること。 ④障害者虐待を受けた障害者の支援及び養護者に対する 支援のため、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整等 を行うこと。 ⑤障害者虐待の防止及び養護者に対する支援に関する情 報を収集し、分析し、及び提供すること。 ⑥障害者虐待の防止及び養護者に対する支援に関する広 報その他の啓発活動を行うこと。 ⑦その他障害者に対する虐待の防止等のために必要な支 援を行うこと。 都道府県障害者権利擁護センター(第 36条~39条) 2.都道府県障害者権利擁護センターの業務の委託(第 37条) (1)都道府県は、当該都道府県と連携協力する者のうち 適当と認められる者に業務の全部または一部を委託する ことができる。 (2)委託を受けた者は、正当な理由なしに、その委託を 受けた業務に関して知りえた秘密を漏らしてはならない 。 (3)通報等の受理に関する業務の委託に関しては、その 職務上知りえた事項であって当該通報をした者を特定さ せる者を漏らしてはならない。 都道府県障害者権利擁護センター(第 36条~39条) 3.都道府県等における専門的に従事する職員の 確保(第38条) 都道府県及び委託を受けた者は、障害者の福祉 又は権利の擁護に関し専門的知識又は経験を有 し、かつ、これらの事務に専門的に従事する職 員を確保するよう努めなければならない。 4.都道府県における連携協力体制の整備(第39 条) 都道府県は、福祉事務所その他関係機関、民間 団体等との連携協力体制を整備しなければなら ない。 雑則(第40条~44条) 1.周知(第40条) 市町村または都道府県は、市町村障害者虐待防 止センター又は都道府県障害者権利擁護センタ ーとしての機能を果たす部局または施設及び市 町村障害者虐待対応協力者又は都道府県障害者 虐待対応協力者を周知させなければならない。 雑則(第40条~44条) 2.障害者虐待を受けた障害者の自立の支援(第41条) 国及び地方公共団体は、障害者虐待を受けた障害者が地 域において自立した生活を営むことができるよう、居住 の場所の確保、就業の支援その他の必要な施策を講じる ものとする。 3.調査研究(第42条) 国及び地方公共団体は、障害者虐待を受けた障害者がそ の心身に著しく重大な被害を受けた事例の分析を行うと ともに、障害者虐待の予防及び早期発見のための方策等 についての調査及び研究を行うものとする。 雑則(第40条~44条) 4.財産上の不当取引による被害の防止(第43条) (1)市町村は、養護者、障害者の親族、障害者福祉施設従 事者等及び使用者以外の者が不当に財産上の利益を得る 目的で障害者と行う取引による障害者の被害について、 相談に応じ、若しくは消費生活に関する業務を担当する 部局等を紹介し、又は市町村障害者虐待対応協力者に、 財産上の不当取引による障害者の被害に係る相談若しく は関係機関の紹介の実施を委託する。 (2)市町村長は、財産上の不当取引の被害を受け、又は受 けるおそれのある障害者について、適切に、精神保健及 び精神障害者福祉に関する法律又は知的障害者福祉法の 規定により後見開始等の審判請求をする。 雑則(第40条~44条) 5.成年後見制度の利用促進(第44条) 国及び地方公共団体は、成年後見制度の周知の ための措置、成年後見制度の利用に係る経済的 負担の軽減のための措置等を講ずることにより 、成年後見制度が広く利用されるようにしなけ ればならない。 検討事項(附則第2条) 政府は、学校、保育所等、医療機関、官公署等における 障害者に対する虐待の防止等の体制の在り方並びに障害 者の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方 策、障害者を訪問して相談等を行う体制の充実強化その 他の障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保 護及び自立の支援、養護者に対する支援等のための制度 について、この法律の施行後3年を目途として、児童虐 待、高齢者虐待、配偶者からの暴力等の防止に関する法 制度全般の見直しの状況を踏まえ、この法律の施行状況 等を勘案して検討を加え、その結果に基づいて必要な措 置を講ずるものとする。 (参考)高齢者虐待防止法 1.施行日 平成18年4月1日 2.高齢者虐待の定義 (1)身体的虐待 (2)介護放棄 (3)心理的虐待 (4)性的虐待 (5)高齢者の財産を処分する等の経済的虐待 3.国民・地方公共団体の責務 (1)通報義務 高齢者虐待の発見者には市町村への通報義務を課している。また、原則として施設職員が虐待につ いて通報しても解雇などの不利益は受けないとしている。 (2)市町村の責務 ①届出窓口の設置とその周知などを義務付けるとともに、関係機関の連携の強化など体制の整備を求 めている。 ②市町村が高齢者虐待により生命または身体に重大な危険が生じていると認めるときは、地域包括支 援センターの職員などに立入調査をさせることができる。 ③市町村には虐待を受けている高齢者を保護するためや、養護者を保護するために、緊急ショートステ イを確保するものとしている。 ④市町村長や高齢者を保護している施設の長は、虐待を行った養護者の面会を制限できる。 4.その他 (1)財産上の不当取引による被害の防止などのために成年後見制度の利用を促進する (2)施行3年後に見直す (3)精神・身体障害者などの虐待防止のための制度を検討し、所要の措置を講ずると規定している。 (参考)児童虐待防止法 平成12年11月20日施行 1.児童虐待の定義 ①身体的虐待 ②性的虐待 ③心理的虐待 ④ネグレクト 2.対応の中核機関・・・児童相談所 3.通告義務 第6条 児童虐待を受けた児童を発見した者は、速やかにこれを児童福祉法 第25条の規定により通告しなければならない。 4.立入調査 ①児童相談所職員による立入調査(第9条) ②必要に応じて警察官の援助を求めることができる(第10条)
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