資料5 短周期地震動に起因する 災害のイベントツリー解析 1 短周期地震動に起因する災害の評価 大阪府域への影響が考えられる内陸直下型および海溝型地震を対象とした地震動予測 (短周期地震動による被害→計測震度、液状化危険)を前提に、短周期短周期地震動による 被害を対象とし、以下の評価を行う。 ①災害の拡大シナリオの想定 短周期地震動に起因する初期事象の抽出及び発生する可能性(確率)の検 討を行う。 ② 災害の発生危険度(確率)の推定 初期事象から大規模災害に至るシナリオの展開(イベントツリー展開)及び 災害事象の発生危険度(確率)の推定を行う。 ③ 災害の影響度の推定 抽出した災害事象の中で、定量的算定が可能な災害の影響算定を行う。 ④ 結果に基づく、防災計画において想定すべき災害の検討 災害の発生危険度、災害の影響算定によるリスクマトリックス作成及び 防災計画において想定すべき災害の検討を行う。 2 調査の対象 対象領域 石油コンビナート等特別防災区域を指定する政令(昭和51年政令第192号)に定める区域の うち次に揚げる地区とする。 ①大阪北港地区 ②堺泉北臨海地区 ③関西国際空港地区 ④岬地区 対象とする施設 ①危険物タンク ②高圧ガスタンク(LPGタンク,LNGタンク,ガスホルダー,毒性ガスタンク) ③毒劇物液体タンク ④プラント(危険物製造所、高圧ガス製造施設、発電設備) ⑤タンカー桟橋(石油タンカー桟橋、LPG、LNGタンカー桟橋) ⑥パイプライン(危険物配管、高圧ガス導管) 3 評価の手法 評価手法は、「石油コンビナートの防災アセスメント指針(平成25年、消防庁特殊災害室)」に 示された手法に基づく 防災アセスメント指針の基本概念 リスクは、好ましくない事象(例えば事故や災害)の発生危険度と発生したときの影響度の積 として表わされ、一般的に次のように定義される。 R= ΣFi・Ci R:評価対象とする施設のリスク Fi:事象iの発生危険度 Ci:事象iが発生したときの影響度 事象の発生危険度(Fi)は確率または頻度によって定量化される。 発生危険度(確率)は、例えば10-3 という値は、平常時は1施設について1000年に1度発 生することを意味し、地震時は1000基のうち1基で被害が発生するという意味である。 4 防災アセスメントにおけるリスク評価 石油コンビナートの防災アセスメ ントにおいては、リスクの概念を導入 して評価を行う。 ただし、災害の発生危険度と影響 度の積としてのリスク表現を用いるの ではなく、これらの両面から危険性を 総合評価することにより想定すべき 災害を抽出し、リスクの低減に必要な 防災対策の検討を行う。 【想定災害抽出及び防災・減災対策の考え方(例)】 〇 第1段階の想定災害:災害の発生危険度が高いレベルの災害 → 現実的に起こりうると考えて対策を検討しておくべき災害 影響度が大きいものは対策上の優先度が高い 〇 第2段階の想定災害:災害の発生危険度が中程度の災害 → 発生する可能性が相当に小さい災害を含むが、万一に備え対策を 検討しておくべき災害 影響度が大きいものは要注意 防災アセスメントの基本概念 「石油コンビナートの防災アセスメント指針(平成25年、消防庁特殊災害室)」より 5 災害の拡大シナリオの想定 対象施設で考えられる初期事象及び事象分岐を設定し、イベントツリー(ET)を展開 して起こり得る災害事象を抽出する。イベントツリーは、発端となる事象(初期事象)か ら出発し、これが拡大していく過程を各種防災設備の成否、火災や爆発の発生の有無な どによって枝分かれ式に展開して示した図である。 イベントツリーに初期事象の発生確率と事象の分岐確率を与えることにより、起こ り得る災害事象の発生確率を算出することができる。 P2 事象A 分岐確率 P1 発生確率:PA=P0P1P2 事象B 1-P2 発生確率:PB=P0P1(1-P2) P4 初期事象 発生確率:P0 事象C P3 発生確率:PC=P0(1-P1)P3P4 1-P4 1-P1 1-P3 事象D 発生確率:PD=P0(1-P1)P3(1-P4) 事象E 発生確率:PE=P0(1-P1)(1-P3) 6 災害の拡大シナリオの想定 初期事象の設定 災害の発生・拡大シナリオを展開するにあたって、まず対象施設において地震時に発生すると 考えられる初期事象を設定する。このようなことを考慮した主要施設の初期事象設定を次表に示す。 ここで、「小破」と「大破」はかならずしも明確に区分できるものではなく、災害想定を行ううえで便 宜的に設定するものである。 施設種別 危険物タンク 可燃性ガスタンク (LPG、LNG、ガスホルダーを含む) 高圧ガスタンク 毒性ガスタンク 毒劇物液体タンク プラント 製造設備 発電設備 初期事象 ○配管の小破による漏洩 ○タンク本体の小破による漏洩 ○配管の大破による漏洩 ○タンク本体の大破による漏洩 ○浮き屋根シール部の損傷・漏洩(浮き屋根式) ○配管の小破による漏洩 ○タンク本体の小破による漏洩 ○配管の大破による漏洩 ○タンク本体の大破による漏洩 ○配管の小破による漏洩 ○タンク本体の小破による漏洩 ○配管の大破による漏洩 ○タンク本体の大破による漏洩 ○配管の破壊による漏洩 ○タンク本体の小破による漏洩 ○タンク本体の大破による漏洩 ○装置の小破による漏洩 ○装置の大破による漏洩 ○装置の破損による漏洩 7 災害の拡大シナリオの想定 事象分岐の設定 石油コンビナートの事業所や各施設には、事故(初期事象)が発生したとき、これが災害に拡 大していくことを防止するための各種の防災設備や防災体制が整備されている。したがって、こ れらを事象の分岐としてET に取り入れて災害拡大シナリオを展開し、出現し得る災害事象を抽 出することになる。 事象の分岐例(危険物タンクの流出事象)を示す。 事象分岐 配管の小破 本体の小破 配管の大破 本体の大破 緊急遮断 ○ ○ バルブ手動閉止 ○ 一時的な流出拡大防止 ○ ○ 緊急移送 ○ ○ 仕切堤 ○ ○ ○ 防油堤 ○ ○ ○ ○ 着火(有/無) ○ ○ ○ ○ 8 災害の影響度の推定 災害の影響度は、基本的に放射熱、爆風圧、拡散ガス濃度といった物理的作用が基 準値(人体に対する許容限界)を超える範囲の大小により判断する。 (1)解析モデル 可燃性物質や毒性物質を取り扱う施設で漏洩などの事故が発生した場合、液面火災、ガス爆 発(蒸気雲爆発)、フラッシュ火災、毒性ガス拡散など種々の災害現象により周囲に影響を与える 可能性がある。 石油コンビナートの主要な施設について、起こり得る主な災害現象と適用モデルの種類を一般 的にまとめたものの例(危険物タンク、可燃性ガスタンク)を示す。 解析モデルは、石油コンビナートの防災アセスメント指針(平成25年、消防庁特殊災害室)「参 考資料2 災害現象解析モデルの一例」で示されたものを用いる。 施設種類 考えられる災害の形態 主な適用モデルの種類 危険物タンク 〇 液体流出→液面火災 〇 タンク火災(液面火災) 〇 液体流出(流出火災) 〇 火災面積(流出火災) 〇 放射熱(液面火災) 可燃性ガ スタン ク 〇 液体流出→液面火災 蒸発→蒸気雲形成→爆発 ファイヤーボール フラッシュ火災 〇 気体流出→噴出火災 蒸気雲形成→爆発 フラッシュ火災 〇 液体流出・気体流出 〇 蒸発(過熱液体) 〇 ガス拡散 〇 爆風圧(爆発) 〇 放射熱(ファイヤーボール) 9 災害の影響度の推定 (2)基準値の設定 物理的作用の解析モデルは、一般に発災地点からの距離と放射熱、爆風圧、ガス拡散濃度な どの作用強度との関係を表わしたものである。 作用強度に対してある基準値を設定し、強度がこの値を超える距離を求めて影響範囲とするこ とになる。 液面火災の放射熱 爆風圧 可燃性ガス拡散 毒性ガス拡散 ファイヤーボール 2.3kW/m2s 1分間以内で人体皮膚に第2度の火傷(熱湯をか ぶったときになる程度の火傷で、水ぶくれ、発赤等を 伴うが、痕は残りにくい)を起こす熱量 Clancey(1972)iによる「安全限界」(95%の確率で大き 2.1kPa な被害はない)とされ、家の天井が一部部破損する、 窓ガラスの10%が破壊されるとされる圧力 爆発下限界濃度(LFL)の1/2 米国国立労働安全衛生研究所が提唱する限界値で、 IDLH(Immediate Dangerous 30分以内に自力で脱出しないと元の健康状態に回 to Life and Health)による 例) 塩素10ppm 復しない濃度 アンモニア300ppm 30秒で人体の皮膚に第2度の火傷を引き起こす熱量 4.5kW/m2 (3)影響度の推定 気象条件の設定、漏洩口(開口部)の設定を行い、対象施設で起こりうる災害事象につい て、選定したモデルを適用して災害の影響範囲(災害に伴う物理的作用の強度が基準値以 上となる範囲)を算定する。 10 結果に基づく、防災計画において 想定すべき災害の検討 定量的評価に基づく想定すべき災害 災害の発生危険度、災害の影響算定によるリスクマトリックス作成及び防災計画において 想定すべき災害について検討する。 発生確率には言及せずに、 「大規模災害のシナリオ」として検討 大 Ⅰ (200m以上) 影 響 度 災害発生確率(短周期地震時) 小 大 E D C B A (10 -6 程度以下) (10 -5 程度) (10 -4 程度) (10 -3 程度) (10 -2 程度以上) 低頻度大規模災害 第1段階 Ⅱ (100-200m) Ⅲ (50-100m) Ⅳ (20-50m) 第2段階 Ⅴ (20m以下) 小 【想定災害抽出及び防災・減災対策の考え方】 ■ 第1段階の想定災害:災害の発生危険度及び影響度が高いレベルの災害 (災害危険度がA・Bかつ災害影響度がⅠ・Ⅱ) ⇒ 現実的に起こりうると考えて対策を検討しておくべき災害 影響度が大きいものは対策上の優先度が高い ■ 第2段階の想定災害:災害の発生危険度が中程度の災害 ⇒ 発生する可能性が相当に小さい災害を含むが、万一に備え対策 を検討しておくべき災害 影響度が大きいものは要注意 11 結果に基づく、防災計画において 想定すべき災害の検討 災害発生確率区分(短周期地震時) 危険度A 10-2程度以上 (5×10-3以上) 危険度B 10-3程度 (5×10-4以上5×10-3未満) 危険度C 10-4程度 (5×10-5以上5×10-4未満) 危険度D 10-5程度 (5×10-6以上5×10-5未満) 危険度E 10-6程度以下 (5×10-6未満) 災害の影響度区分 影響度I 200m 以上 影響度II 100m 以上200m未満 影響度III 50m 以上100m 影響度IV 20m 以上50m 未満 影響度V 20m 未満 未満 12 地震(短周期地震)時の災害を対象とした 評価における想定地震と液状化危険度 想定地震 内陸直下型地震 ①上町断層帯地震-佛念寺断層、上町断層北部、上町断層南部、桜川撓曲、住之江撓曲 ②生駒断層帯地震-田口断層・交野断層、生駒断層・誉田断層、枚方断層 ③有馬高槻断層帯地震 -天王山断層、有馬-高槻構造線・有野-淡河断層 ④中央構造線断層帯地震 -友ヶ島水道断層~根来断層、五条谷断層、金剛断層帯 海溝型地震 ⑤東南海・南海地震 -東南海地震東部、東南海地震西部、南海地震東部、南海地震西部 ⑥南海トラフ巨大地震 13 地震(短周期地震)時の災害を対象とした 評価における想定地震と液状化危険度 想定地震における各特別防災区域の最大震度と液状化指 数 ①大阪北港地区 ②堺泉北臨海地区 最大震度 最大震度 PL値 PL値 上町断層帯地震A 震度6弱 25~ 上町断層帯地震A 震度6強 25~ 上町断層帯地震B 震度5強 15~20 上町断層帯地震B 震度6強 25~ 生駒断層帯地震 震度5強 15~20 生駒断層帯地震 震度6弱 25~ 有馬高槻断層帯地震 震度5強 5~10 有馬高槻断層帯地震 震度5強 20~25 中央構造線断層帯地震 震度5弱 5~10 中央構造線断層帯地震 震度6弱 20~25 東南海・南海地震 震度6弱 15~20 東南海・南海地震 震度6弱 25~ 南海トラフ巨大地震 震度6弱 25~ 南海トラフ巨大地震 震度6弱 25~ ③関西国際空港地区 ④岬地区 最大震度 PL値 最大震度 PL値 上町断層帯地震A 震度5弱 0~5 上町断層帯地震A 震度5強 0~5 上町断層帯地震B 震度5強 0~5 上町断層帯地震B 震度5強 0~5 生駒断層帯地震 震度4以下 0~5 生駒断層帯地震 震度4以下 0~5 有馬高槻断層帯地震 震度4以下 0~5 有馬高槻断層帯地震 震度4以下 0~5 中央構造線断層帯地震 震度5強 0~5 中央構造線断層帯地震 震度6強 20~25 東南海・南海地震 震度5強 - 東南海・南海地震 震度5強 10~15 南海トラフ巨大地震 震度6強 - 南海トラフ巨大地震 震度6強 15~20 14 地震(短周期地震)時の発生危険度の 算定に用いる地震動条件 最大震度 PL値 大阪北港地区 6弱 25 堺泉北臨海地区 6強 25 関西国際空港地区 6強 5 岬地区 6強 25 特別防災区域 15
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