PBL教育実践における 調査結果について -動機づけに注目して- 三重大学教育学部 中西 良文 今日の発表 前半 PBLについて(学習)心理学の観点から 考えてみる。 後半 中西の授業での調査結果 (奥野絵里奈さんの卒論のデータを利用しています) どちらが優れているか? PBL ? 講義 ? どの教育方法が最も優れているのかを考えることは、 大工道具の中で最も優れたものを議論するのと同様 である。 すなわち、目的に応じて教育方法は使い分けるべき である。 (米国学術会議) →さらに、「どう(効果的に)使うか?」が重要だろう 身につけるべき力 「実践力」のある教師 問題を適切に捉えられる。 新しい状況でも対処できる。 教員・生徒・保護者・地域と良好なコミュニケーションを持 てる より良い実践を目指そうとする意欲を持っている。 また、教員養成に限らず、企業等でも「実践力」があ る人物が求められている OECD DeSeCo Key Competencies リテラシー (言語・科学・ 数学・コンピュータ) 社会的スキル 自律的行動 獲得すべきもの どう使うか?という実践的な知識 (手続き的な知識を含む) 自ら学ぶ力 共同する力 内容の十分な理解 「熟達者」の持つ特徴と同様 学習科学での知見 (1)active construct(積極的(能動的)構築) 自発的な知識の構築の重要性 (2)situated 本物(authentic) な状況での学習 (3)social learning(状況に基づく学習) interaction (社会的相互作用) 共同による学習 (4)cognitive tools(認知的道具) テクノロジによる理解の支援 (1)active construct (積極的(能動的)構築) 知識は伝達-吸収されるのではなく、学習者が自ら作 り上げている。 誤概念による誤学習の例 =学習者なりの(一貫した)理解を生み出している。 →自ら積極的に知識を生み出す必要性 物理学初心者の知識の構造 物理学熟達者の知識の構造 (2)situated learning (状況に基づく学習) 課題や活動の価値や意味を理解しやすい 中西・伊田(2006) →利用価値と望ましい方略が関連 (2)situated learning (状況に基づく学習) 知識を新しい状況で利用することができる =「知識をどこで、どう使うか、という知識」の獲得 →「船に26匹の羊と10匹のヤギがいます。船長は何歳 でしょうか?」→小学5年生:どの計算を使うか悩む →路上算数:ブラジルの路上で飴を売る子ども (3)social interaction (社会的相互作用) 認知的分業: 「説明の要求」による発見 社会的分散認知 1人のエラーをカバーできる集団 メタ認知 実行役とモニター役 共同するスキルの獲得 知識の共同構築 (4)cognitive tools (認知的道具) 道具による理解・学習の支援(Scaffold) 認知の外化 コミュニケーションの促進 知識の(共同)構築の支援 ここでPBLについて考える 共通教育「共通PBLセミナー」ガイドライン 1.講義ではなく、自主的・能動的・自己決定的学習を受 講生に求める。 2.1年生が多く受講することを念頭におき、身近に感じら れる素材もしくはプロジェクトを提示する。 3.問題または課題を発見・解決したり、プロジェクトを遂行 したりする中で学習を進める。 4.自己学習を重視し、グループワークを学習の中に取り 入れる。 5.学生による学習成果をセミナーの終盤に1回「公開の 場」で発表する。 ここでPBLについて考える 教育学部PBL教育実施委員会(~06)ガイドライン 1.学習者の主体的な学習を促している 2.ある問題を解決する、もしくは、あるプロジェクトを完成させ るといった、「問題解決事態」の中で学習を進めている 3.集団での問題解決活動が含まれている Project-Based Learning ①.駆動質問(driving question)、すなわち生徒が解決すべき 問題から活動が始まる。 ②生徒は、本物(authentic)で状況に基づく活動に関わること によって、駆動質問(driving question)を探索する。 ③駆動質問(driving question)を解決するために、生徒、教師 そしてコミュニティーのメンバーが協調的活動を行う。 ④生徒は探究活動に関わっていく中で、生徒の能力を超え る活動に関われるように、テクノロジーの手助けを受ける。 ⑤生徒は駆動質問(driving question)に関する有形のプロダク トを作り出す。 (Krajcik & Blumenfeld, 2006) PBLに対する私見 望ましい学習をもたらす条件を満たす1つの方法(だ ろう) 「PBLか否か」にこだわるよりは、前出の条件を満た すかどうかが重要 個人的には、Productを作ることは重要だと考えてい る=Project-Based Learning 今日の発表 前半 PBLについて(学習)心理学の観点から 考えてみる。 後半 中西の授業での調査結果 (奥野絵里奈さんの卒論のデータを利用しています) PBLにおける学習行動の調査 では実際に、PBLの中ではどのような学習行動が行 われているのか? 特に、動機づけに注目して検討 PBLにおける動機づけ この種の活動にはより高い動機づけが求められる。 しかし、動機づけが十分に高められていない場合が ある。 (Blumenfeld & Krajcik, 2006) PBLの中での動機づけ像を明らかにすることで、効 果的な支援を考える。 方法 教育学部コース専門科目「学習心理学」 シナリオ型PBL 対象 13名 2グループに分けた データ収集:質問紙・ビデオ撮影・音声録音・面接・ Moodleへの記述(全て許可をとって使用) 授業の進め方 シナリオを提示 →調査・検討→発表 「授業づくり」を1セット 最初のシナリオ検討 1セットを詳しく検討 シナリオ提示 授業作り 調査・検討 検討・準備 発表 実施 ×3セット ×1セット 最初のシナリオ 「Aさんは高校生です。Aさんはある教科の勉強ができなくて 困っていました。そこで、先生に相談にいきました。すると、 先生は「教科書に載っていることをできるだけたくさん覚えな さい」というアドバイスをしました。そこで、Aさんはひたすら暗 記をすることにしました。 Aさんのこのような暗記をするという学習法は適切でしょうか。 不適切でしょうか。また、理想的にはAさんはどのような学習 を行えばよいでしょうか。そして、そのようなやり方は心理学 的な観点からどうして望ましいのでしょうか?」 授業評価の結果 講義型で行った教育心理学に比べ・・・・。 学業への興味・関心(意欲)が高まった 学習心理学:4.3 知的に刺激され、考えるきっかけが与えられた 教育心理学:3.8 教育心理学:4.0 学習心理学:4.6 学生参加型の授業であった 教育心理学:3.9 学習心理学:4.8 授業評価の結果 知らないことを「自ら知る」方法を学習できた 学習心理学:4.4 「教育(学習)に対する理解が深まった」 学習心理学:4.1 「学んだことをどのように使えばよいかが分かった」 教育心理学:3.7 教育心理学:3.4 学習心理学:4.0 自発的な学習を刺激することはできた(だろう)。実 際にどう使うか、理解についてはもう少し検討の余地 動機づけ尺度での変化 第1シナリオの4回の授業の毎回の授業前・授業後に 測定した質問紙の結果を基に検討を行う。 親和動機=他者に好かれたい 興味価値=課題の面白さ 効力予期=自分はできる、という感覚 利用価値=課題が役立つという感覚 接近的他者志向動機=他者のために頑張りたいとい う感覚 動機づけ尺度での変化 動機づけ(N=9) 7 6 5 親和動機 興味価値 効力予期 利用価値 接近的他者志向動機 4 3 2 1 0 第1回 第2回 第3回 第4回 動機づけ尺度での変化 特に変化なし。 利用価値が最も高い得点 興味が直前で低下する傾向 ロボットコンテストでの調査でも同様の結果 =興味だけで、動機づけられているのではない? 5.0 接近的他者志向動機 4.5 興味価値 4.0 利用価値 3.5 親和動機 回避的他者志向動機 3.0 他律的動機づけ 2.5 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 Figure1 日ごとの動機づけ得点 動機づけられた行動 フロー(没頭)・反応性(他者の行動への反応)につい ても検討=授業開始時に前回以降のことについて質 問 7 反応性は有意に上昇=協調するように 6 5 4 フロー 反応性 3 2 1 0 23日~30日 30日~13日 13日~20日 フローと動機づけとの関連 どの要因が学習行動の動機づけに影響しているの か?→フロー・反応性を被説明変数、各動機づけ得 点を 説明変数とした重回帰分析 フローと 動機づけの関連 親和動機の影響 がネガティブに 接近的他者志向 動機は正の関連 を示すように 興味の影響は小 さくなる 利用価値の影響 は大きくなる 親和動機(23日) 興味価値(23日) .424 .629 効力予期(23日) -.015 利用価値(23日) .149 R2=.756 .151 接近的他者志向動機(23日) Figure.1 親和動機(30日) 興味価値(30日) 動機づけとフローとの関連(23日)N=10 ) .073 .267 効力予期(30日) .028 R2=.746 .613 接近的他者志向動機(30日) 親和動機(13日) 興味価値(13日) 動機づけとフローとの関連(30日)N=9 ) -.206 .210 効力予期(13日) 利用価値(13日) フロー (13日~20日) .344 .401 接近的他者志向動機(13日) Figure.3 フロー (30日~13日) .279 利用価値(30日) Figure.2 フロー (23日~30日) R2=.777 .255 動機づけとフローとの関連(13日)N=11 ) 反応性と 動機づけの関連 親和動機(23日) 興味価値(23日) .739 .099 効力予期(23日) -.084 利用価値(23日) .322 R2=.237 -.637 接近的他者志向動機(23日) 親和動機の影響 が小さく 接近的他者志向 動機の影響が大 きくなっていく 興味は2回目に 強い影響 利用価値は2回 目は負の影響 Figure.4 親和動機(30日) 興味価値(30日) 動機づけと反応性との関連(23日)N=10 ) .074 .696 効力予期(30日) -.402 興味価値(13日) 動機づけと反応性との関連(30日)N=9 ) .133 .119 効力予期(13日) 利用価値(13日) 反応性 (13日~20日) -.740 .348 接近的他者志向動機(13日) Figure.6 R2=.598 .690 接近的他者志向動機(30日) 親和動機(13日) 反応性 (30日~13日) -.727 利用価値(30日) Figure.5 反応性 (23日~30日) R2=.365 .542 動機づけと反応性との関連(13日)N=11 ) フロー ・反応性と動機づけとの関連 フローに対しては、興味価値の影響が小さくなって いった。 →興味だけが、動機づけに影響している訳ではない。 反応性については、2回目(学祭期間挟む)に興味 の強い影響。 →長期間時間が空いているときには、興味がないと Moodleなどにアクセスしない? フロー・反応性と動機づけとの関 連 社会的動機については、フロー・反応性とも当初は 「仲良くなりたい」という親和動機が影響 後半には「他の人のために頑張りたい」という他者志 向動機が影響 →全般的に社会的動機が関連しているが、質が変化 多側面から、動機づけに働きかける必要 書き込み回数と被返信回数 書き込み回数は人に よってばらつき 返信もほとんど受け ていない場合が多い →社会的動機に影響 するだろう B-1さんは多くの返 信を受けている =質問が含まれていた Aグループ A -1 A -2 A -3 A -4 A -5 A -6 平均 Bグループ B -1 B -2 B -3 B -4 B -5 B -6 B -7 平均 書き込み回数 返信を受けた回数 6 27 10 10 30 12 15.83 0 5 0 0 4 1 書き込み回数 返信を受けた回数 29 19 15 8 5 1 0 11 9 4 0 2 1 0 0 発言回数 Aグループ A -1 A -2 A -3 A -4 A -5 A -6 Bグループ B -1 B -2 B -3 B -4 B -5 B -6 B -7 1週目 29 37 77 20 61 91 1週目 31 21 18 55 4 34 13 2週目 39 54 112 23 93 0 2週目 61 39 29 85 0 24 3 3週目 31 57 107 18 86 83 3週目 59 34 25 63 4 0 0 授業時の発言回数はそれほど大きくは変わらない →Moodleへの書き込みには動機づけが反映? 書き込みの具体例1 Aさん 「Re: 担当箇所のまとめ」 <調べたことの記述>そして、先行オーガナイザー とは「ある情報を受け入れやすくするため、前もって 情報を与えておくこと」であり、学習前にあらかじめ 学習事項の要約や、視覚的情報を与えることなどが、 具体例として挙げられます。 ただし抽象的な概念を理解できる程度には知能が 発達していないと先行オーガナイザーは成されませ ん。 書き込みの具体例2 Bさん 「先行オーガナイザーについての質問」 「先行オーガナイザー」について、学習者以外の人か ら与えられると捉えて良いのでしょうか??① いまさらになってすみません。よろしくお願い致しま す。 書き込みの具体例3 Aさん 「Re: 先行オーガナイザーについての質問」 学習者に予め抽象的な情報を与えることを指すので、学習 者以外(要は教師)から与えられると言う認識で基本的には 問題ないと思います。 ただ、自己学習においても、先行オーガナイザーは与えら れるものだと思いますので(Ex:古典文を訳し上げるにあたり、 先んじて概説を読んでおく)その場合は学習者自身によって 与えられるという認識になるのかな?② 尤も、この例の場合、古典文概説が教師となるという考え 方もあると思います。<この後2行にわたる「・・・・」を略> うーんと、Bさんが聞きたかったことというのは、こういうこと で良いのかな? またなにか気になったことがあったら書き込みをしてください。 書き込みの具体例4 Bさん 「Re: 先行オーガナイザーについての質問」 ありがとうございます。 まとめる際に、学習者自身だと関連づけの方法や 内発的動機づけの方向になりますし、教師だと外発 的動機づけになるので、迷ってしまったので質問し ました。③ どっちにも解釈できると思うので、今の段階でのパ ワーポイントは独立させています。 気になる点があったら、書き込みをお願いします。 書き込みの具体例5 Aさん「Re: 先行オーガナイザーについての質問」 内発的、外発的動機付けの観点に立てば、先行オーガナイ ザーは内発的動機付けを喚起するものだと思います。 事前に情報を与えてはいますが、それ自体が生徒の学習意 欲をかきたてるわけではありません。 あくまで、生徒の理解を早めるためのものだと思います。④ 故に、関連付けなどと同列に扱えるんじゃないかなーと思い ます。⑤ <参考:このページの上方、動機付けについてと先行オーガナイ ザーについて> http://homepage3.nifty.com/k-nikata/reserch/jissen.html 先行オーガナイザー 先行オーガナイザーとは、ある情報を受け入れ やすくするため、前もって情報を与えておくことで ある。 具体的には、学習前にあらかじめ学習事項の要 約や、視覚的情報を与えるなどがある。 これにより、後続の学習が促進される。 しかし、抽象的な概念を理解できない年少時に おいては先行オーガナイザーの理解が不可能 であり、効果を期待できない。 書き込みについて AさんとBさんは、互いの質問に答えるという形で学 習に関わっている。 具体例1の記述に対して、「外から与えられるもの か?」①という質問がなされることにより、それに対し てBさんの中に「学習者自身でもあるのか・・・」という 自己疑問が生まれている。 しかし、Bさんは全く別の「動機づけ」という視点から、 先行オーガナイザーを捉え、 ③の質問を行っている。 書き込みについて これに対して、Aさんは④で、「意欲とは関係なく、理 解を深めるものだ」と答え、それは「関連づけと同様 に扱える」⑤という、前にAさんが持った、学習者自 身によるものもあるのか②という問いの答えに近い答 えを出している。 ただし、このようなやりとりは頻繁に行われたわけで はない(が、どの程度かなど詳細は今後検討)。 シナリオ2からはWIKIを使ったが、WIKIではこのよう なやりとりは見られなかった=ツールの適性 インタビューの結果 全体の授業が終了する頃に、インタビューを行った。 代表的な意見として・・・ 「内容よりもメンバーが重要」「反応してもらえないと 寂しい」「途中リタイヤがいると負担が増える」 他者との関わりについて多くの意見 「テーマの最初の方は方向性が見えない」という意 見も 考察 PBLが自発的な学習を導いていた しかし、Moodleへの反応は、人それぞれであった。 明確な基準を示す必要?授業中に利用? 当初は興味が影響している=面白い課題を 後半では利用価値が影響 「役に立つ」と思える課題やAuthenticな「実際に使う」とい う場面を取り入れる必要? 考察 他者との関わりが重要 他者からの無反応の影響は大きい 他者から書き込みへの反応をしてもらえるように、書 き込みの仕方について支援が必要 当初は、アイスブレーキングなど、「仲良くなる」支援 をする必要がある?=共通PBLセミナー 活動中は「他者のために頑張りたい」という気持ちを 刺激する必要=活動の成果が目に見えるツールを 使う?(WIKI??) 考察 理解は相当進んでいる ただし、全体的な「まとめ」は行っていない。 また、最初、方針を決めて、文献へのアクセスさせる のが困難 その最初の時点での時間をいかにうまくコントロール するか? 実際にどう使うかという点についても、不十分 PAなどで、その点については、検討が必要 ご静聴ありがとうございました
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