ガバナンス論 第5回 ガバナンスと倫理 民主主義におけるソーシャル・キャピタル 担当 吉田 復習 ガバナンス – 参加、合意、説明、透明性、包含性、 実行、効果、合法性の実現 功利主義→民主主義 – 選挙制による最大多数の最大幸福の実現 – 参加、合意、合法性、実行、効果などの実現を目 指す 民主主義の諸問題 – 少数派抑圧、外部疎外、投票率、汚職、お役所 仕事、永田町政治、などなど レポート・コメント – 先週のレポート 1. 民主主義の問題点を自分の身近な事例から紹 介せよ 2. ガバナンス的な視点からその改善方法を提案 せよ コメント – – 身近な事例をたくさん聞くことができました。 ある事例を挙げるときに、それがなぜ「その事 例であるのか(民主主義の問題点とどうかかわ るのか)」をしっかり説明することが大切です。 民主主義の問題とガバナンス 現在の民主主義の諸問題 – 参加と包含性の問題(少数派、疎外、投票率) – 実行・効果(代表制、トップダウン) – 透明性・説明・合法性(官僚制、汚職) 8条件を備えたガバナンスによる解決 – 本来の民主主義の実現(民主主義を補う) – 民主主義の更新(民主主義を改正する) (ガバナンス+民主主義)を支えるもの 政治や経済・経営といった制度をうまく動かすため には何が必要か? – いきなり民主主義を持ち込んでもうまくいかない – 制度のうまく定着する社会とうまくいかない社会があるの はなぜか? 制度やシステムではなく、それを支えるものがポイ ントなのでは? →ソーシャル・キャピタル ソーシャル・キャピタル(SC) 「ソーシャル・キャピタル」とは? – 訳するなら「社会資本」 – 社会制度を支えるもので、特に人間関係に焦点 があてられてきた – 具体的には社会における信頼関係やつながり、 社会のルールやモラル、伝統や文化など あの人は信頼 できる、知って る、安心だ、任 せられるな、etc. ソーシャル・キャピタルの文献紹介 『ソーシャル・キャピタル 現代経済社会のガバナンスの基 礎』宮川公男・大守隆編、東洋経済新報社 – 主に経済、経営の観点からソーシャル・キャピタルの必要性と効果を 実証している 『哲学する民主主義 伝統と改革の市民的構造』ロバート・ パットナム、NTT出版 – 「ソーシャル・キャピタル」の概念を世に提示した基本文献イタリアの 地方社会を分析して新しい概念を提示。原題はMaking Democracy Work (『民主主義を機能させる』) 日本総研 東一洋氏コラム 「なぜ今ソーシャル・キャピタルなのか -前編~その研究の変遷と今日的意義~ 」 http://www.jri.co.jp/consul/column/data/200-azuma.html – 簡単な解説と見取り図が得られる SCの役割-1 政治 代表制 – 信頼しているから代表者に投票する、決定を委 ね、決定に従う – 信頼関係がなかったら投票に行かない、決定に も従わない→テロリズム 政治 責任と判断 – 責任と自律的な判断の文化・伝統があるから 各々が独立に判断し意思表明する – 判断を人に委ねたり、人の判断に揃える文化で は多数決は本来の機能を実現しない SCの役割-2 市場 経済 – 信頼関係があれば投資・貯蓄が進み市場が潤う – 信頼関係がなければ投資はしない、たんす貯金 へ – 参考:「預貯金の大黒柱の家計は預金先倒産ー日産生命、北海道拓 殖銀行、山一証券ーという戦後50年間に体験しなかった事態に直面 し、不安と危機感から預金の預け替えやたんす貯金といった形で、虎 の子の置き場所すらない程、信頼性の危機が街にあふれている。 云々」 宮下忠安『1998年度国の予算紹介構造改革初年度予算ー政策選択 の誤りで混乱ー』 より SCの役割-3 経営 – 投資家や各種ステークホルダーとの信頼関係、 相互のモラルが経営に不可欠 – 商品やサービスの購入にはリスクが伴う→信頼 法と治安 – 法と警察への信頼感が治安の維持には不可欠 – 法の遵守は、その法が社会の倫理、モラルに裏 打ちされていなければ単なる強制となり、犯罪の 多発は不可避 SCの役割-4 ゲーム理論 – 相互の信頼関係がなければいわゆる共倒れに陥るケー スがある • 「共有地の悲劇」(詳しくはwebなどで検索あれ) 各々が共有地に少しでも多くの家畜を入れようとして、結局は共 有地を破壊してしまう(環境問題などでしばしば取り上げられる) • 「囚人のジレンマ」 (webなどで検索) それぞれ独房に入れられた囚人が仲間を売って自分が助かろう とすることでチームワークが乱れ、協力したときよりも不利な結果 を招く – 相互の信頼関係は最良の選択を可能にする条件というこ とになる。同様に、有益な規範や文化を共有しているなら より望ましい結果が出たであろうケースはありうる。 GVとSC ガバナンス(GV)を支えるソーシャル・キャピタル (SC) – ソーシャル・キャピタルで強化されたガバナンスで民主主 義を改正・補正する ソーシャル・キャピタルの基本要素 – 信頼、規範、伝統 ガバナンスを機能させるための要素 – 実効性のある話し合い、自主的な参加、NPOなどの組織 の活躍、ITの活用による情報共有、専門性と多様性の尊 重 実効的な「話し合い」を支えるSC 相互の信頼関係 – 相手を信頼するからはじめて自分の考えを提示 し、合意形成に向かって建設的な合議ができる – もし信頼感がなかったら、お互いに欺きあうばか りで合意をめざした有益な話し合いはできない 文化と伝統 – 自分の感情や私利私欲を離れて社会的な観点 からものごとを見る文化(「社会正義」) – 自分の考えを論理的に構成し、表現していく文 化・伝統(「クリティカル・シンキング」) 「専門性・多様性」を支えるSC 専門家を育てその意見を尊重する文化 – 実効力のあるガバナンスは合意における専門的 な意見や実行における専門知識を必要とする 多様性を認め、自分とは異なる考えに対して オープンな文化 – 少数派を抑圧するのではなく、少数派の意見も 取り入れつつ合意形成を目指すのがガバナンス →硬直したトップダウン式でなく、柔軟な決定 と実行 「参加」を支えるSC NGO(非政府組織)、NPO(非営利組織)的な 市民活動の伝統 – 特定の関心や専門知識を持つグループ結成とそ のグループに一定の発言権、実行権を与えてい く伝統 – 自己利益にとらわれない自主的な政治参加の伝 統 – 自主的なグループの自主的な活動への信頼と尊 重 WEBやIT技術の利用を促進するSC ガバナンスには情報の共有が不可欠 – オープンな言論の文化に支えられたweb技術で の合意形成(電子会議室やブログなど) – 情報技術の使用に関する倫理、規範の形成がIT を利用したコミュニケーションの発達には必要 ガバナンスの課題 民主主義、市場経済、SC、情報技術などの重要な諸要素と うまくリンクさせ、ガバナンスを実現する各論作業が必要 ガバナンス・プロセスの確立と洗練 – 具体的にどのような手順で合意形成するか – どのようなシステムで秩序を構成するか ガバナンスのためのツールや道具立て – どのような手段が使えるか – それをどのように使えばよいのか 「ガバナンス」コンセプト(概念)の明晰化と発掘 – 「民主主義」「SC」など隣接概念との区別とつながり – 「ガバナンス」のもつ意味と可能性を探る 課題 自由論述 「ソーシャル・キャピタル」について、 1. 自分で適当な問題を設定してそれをタイトルと する。 2. その上でこれに対する自分の考えを整理して簡 単にまとめよ。 – やや難しめの課題です。問題設定のセンスも含めて の課題です。
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