経済学からみたホームレス発生 の原因 • 各種調査では、失業や失職、倒産などの就労 要因が原因。 • 日本では、就労のみが強調。就労したいのに 就労できない状態にいることが原因とされて きた。 • しかし、あまりに簡単に野宿生活に落ちる 人々の存在。また、失業率との連動の低さ。 • 平均4万円の現金収入でホームレス生活。 • 住宅(低家賃賃貸市場)の機能不全(市場の 失敗)にも、原因を求められる。 • 住宅問題があるのであれば、就労対策だけ が支援策ではなく、居住問題の解決を図るこ とが重要(海外の対策はこちらがメイン)。 • ホームレスの人々や予備軍である低所得者 に対する賃貸住宅市場に「情報の非対称性」 及び規制による「市場の失敗」があり、十分な 供給量が確保されていない • ①家賃滞納のリスクが高い • ②社会生活能力の低さ、近隣住民の反応 • ③借地借家法(アメリカでも家賃規制が関係) • ④対抗として保証人、敷金、礼金、賃貸拒否 • ホームレス、ホームレス予備軍の人々は、就 労困難者であると同時に、住宅弱者といえる 。 • つまり、高齢者、障害者同様、住宅弱者対策 として政策的対応が正当化される。方法とし ては、家賃補助、公営住宅割当、住宅扶助単 給、公的保証(東京都の地域生活移行支援) 等が考えられる。 • 住宅の側面が薄かった理由は、国土交通省 と厚生労働省で調整しなければならない事案 だから。 住宅の質に関する無差別曲線分析 住宅の質 I1 A 通常の住宅 U1 I2 U2 E U3 I3 B C F 広義のホームレス G I3 I2 D I1 他の財 ホームレス対策の経済学的根拠 • なぜ、ホームレス対策に公費をかける必要があ るかのか? 税金を投入したり、公的な介入を するには根拠が必要。 • 経済学的の観点からは、「市場の失敗」が存在 することが理由。 • 市場の失敗とは・・・民間部門の自由な取引に 任せておくと、非効率が生じるケース。①外部性 (外部経済、外部不経済)、②公共財、③自然 独占(規模の経済)、④情報の非対称性(モラル ハザード、逆選択)の4つがある。 • • • • • • 1.外部不経済の例 ①結核などの伝染病 ②公園や駅、道路などの公共空間占有 ③火事(アメリカやイギリスのケース) ④一般市民が悲しい気分になる ⑤周辺環境の悪化と地価・賃貸料の低下(10人 で3%、鈴木2004) • ⑥医療扶助の利用増(無保険状態の放置は非 常に高くつく) • →重要なことは、その分だけ「いくら公費をかけ ても良いか」という根拠になるということ。 • 2.生活保護へのモラルハザード仮説 • 制度的に、生活保護に対するモラルハザード が存在する可能性。 • 特に高齢に近い層は、65歳になれば、生活 保護にいずれかかれるから、自立をしないと いう行動がみられた(労働も最小限、貯蓄形 成もしない)。特に、2000年代初めに、現在 地保護が認められたことにより、ホームレス の人々は、生活保護に非常にかかりやすく なった。 • 2009年度以降は、年齢の制約も緩和されて さらに生活保護が受けやすくなった。 • 3.非価値財 • 例として、ドラッグ、タバコ等。 • ひとたびホームレスになってしまえば、様々な 不可逆性(様々な行政サービスを得るために は住所設定必要、路上生活は犯罪に巻き込 まれやすい)があり、自立が困難になる。 • それは、ホームレスを行わなければ分からな いこと。 • また、そもそもの問題として、消費者として合 理的な判断が難しい人々の存在(知的障害 者、精神疾患)。 • • • • • 4.対策 ホームレス対策としては、 ①公共空間の占有に刑罰・罰金を課す。 ②公費をかけた支援策の2つの選択肢。 ①・・・海外では事例多い。ホームレスは罰金 の支払い能力が無いので、機能しない。刑罰 を課し、刑務所に入れると、月当たりの費用は 約30万円と高くつく(刑務所には生活困窮者、 知的障害がかなり多いことが知られるc.f. 山 本譲司『獄窓記』新潮文庫)。 • ②・・・したがって、30万円の費用内であれば、 ②の対策が正当化される。 ホームレスの就労問題 墨田区悉皆聞き取り調査 (1)調査方法 • (1)第一次調査 • ①調査地域 墨田区全域 • ②調査対象 墨田区内に起居する全ホームレス • ③調査期間 平成16年10月~11月 • • • • (2)第二次調査(本調査) ①調査地域 墨田区全域 ②調査対象 第一次調査で把握されたホームレス ③調査期間 平成16年12月 • ・墨田区委託調査。 • ・調査の実施は、NPOふるさとの会、研究者、 緊急地域雇用創出特別対策推進事業費 を 用いた元ホームレス調査員。 • NPOふるさとの会はアウトリーチや炊き出し を通じてこの地区のホームレスとのコミュニ ケーションを持つ。元ホームレス調査員の動 員によりさらに信頼性が確保。 • 質問をプラカードにして恣意性を統御。 データ説明 表 4 就労の有無 サンプル数 仕事あり 仕事なし 全体 362 57 419 割合(%) 86.4 13.6 100 表 5 職種(複数回答) 廃品回収 建設日雇 公的就労 運輸日雇 サンドイッチマン チケットならび 屋台 その他雑業 その他 サンプル数 152 125 97 20 0 0 6 19 13 割合(複数回答) 43.6 35.8 27.8 5.7 0 0 1.7 5.4 3.7 注)その他雑業とは、家電修理,車整理,交代勤務,引っ越し,片づけ,宿直な ど。その他は、ホ テル 清掃,近所手伝い,缶詰販売,衣類販売,印刷,小屋ばらし 手伝い,倉庫フォー クリフトなど。 表 6 1 ヶ月あたりの収入 千円未満 千円~5千円未満 5千円~1万円未満 1~2万円未満 2~3万円未満 3~5万円未満 5~10万円未満 10~15万円未満 15~20万円 20万円以上 全体 サンプル数 2 20 22 103 93 62 35 11 3 7 358 割合(%) サンプル数 5 55 82 63 32 19 66 322 割合(%) 0.6 5.6 6.2 28.8 26 17.3 9.8 3.1 0.8 2 100 表 7 1 ヶ月あたりの労働日数 0日(就労なしとして処理) 1 , 2日 3 , 4日 5~9日 10~14日 15~19日 20日以上(具体的日数あり) 全体 1.6 17.0 25.7 19.5 9.9 5.9 20.4 100 -2 -4 -6 lwage 0 2 賃金率(1日あたり収入)と労働日数の関係(対数) 0 1 2 ljobday m 3 4 消費 U1 U2 A B 貯蓄ゼロ水準 C 生存限界水準 D O 労働日数 ホームレスの健康問題 • 大阪城一時仮設避難所入所ホームレスの検 診データの分析 • 慢性疾患を抱えるものの割合が8割以上 • 糖尿、高血圧、高脂血など、心臓関係の疾 患や脳関係の疾患に繋がるリスク群が多い。 また、肝機能障害も多い。 • 野宿期間が長くなるほど基本的に悪化。はじ めの1年で急激に悪化する。 • 野宿期間における逆転現象。 (1) 最高血圧 (2) 最低血圧 (3) GOT (4) GPT (5) γ-GTP (6) 血糖 (7) 総たんぱく 要 精 検 ・ 指 導 以 上 の 割 合 1年未満 20.8% 1年以上2年未満 12.5% 2年以上3年未満 30.0% 3年以上4年未満 18.9% 4年以上5年未満 34.8% 5年以上6年未満 36.0% 6年以上10年未満 28.6% 10年以上 27.3% 8.3% 12.5% 20.0% 10.8% 34.8% 20.0% 19.0% 27.3% 18.2% 0.0% 0.0% 2.9% 5.0% 12.5% 0.0% 0.0% 13.6% 0.0% 0.0% 2.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 36.4% 6.3% 15.0% 11.4% 10.0% 16.7% 0.0% 4.8% 18.2% 6.3% 35.0% 34.3% 40.0% 37.5% 30.0% 19.0% 0.0% 0.0% 0.0% 2.9% 0.0% 4.2% 0.0% 0.0% 要 医 療 の 割 合 1年未満 1年以上2年未満 2年以上3年未満 3年以上4年未満 4年以上5年未満 5年以上6年未満 6年以上10年未満 10年以上 4.2% 0.0% 10.0% 5.4% 17.4% 12.0% 4.8% 9.1% 4.2% 0.0% 5.0% 8.1% 13.0% 12.0% 4.8% 9.1% 9.1% 0.0% 0.0% 2.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 4.5% 0.0% 0.0% 2.9% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 27.3% 6.3% 10.0% 5.7% 10.0% 8.3% 0.0% 4.8% 18.2% 6.3% 5.0% 14.3% 35.0% 16.7% 25.0% 14.3% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% (mmHg) 147.0 140.9 147.3 142.9 153.8 145.9 146.9 146.9 (mmHg) 88.0 88.3 87.7 87.7 93.0 88.8 88.7 90.3 (IU/l) 56.5 26.9 24.7 30.9 31.5 37.5 26.8 25.4 (IU/l) 44.4 23.5 17.5 26.3 20.4 26.4 21.3 24.0 (IU/l) 182.2 71.8 70.8 47.2 55.1 116.3 32.6 48.3 (mg/dl) 126.8 103.3 111.8 116.8 136.4 107.5 117.5 125.2 (g/dl) 7.1 7.6 7.7 7.6 7.7 7.7 7.6 7.5 (8) A/G比 4.5% 0.0% 5.0% 2.9% 0.0% 8.3% 0.0% 0.0% (9) 総コレステロール 13.6% 25.0% 15.0% 17.1% 30.0% 12.5% 10.0% 9.5% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 20.0% 4.2% 5.0% 9.5% 平 均 値 1年未満 1年以上2年未満 2年以上3年未満 3年以上4年未満 4年以上5年未満 5年以上6年未満 6年以上10年未満 10年以上 1.6 1.5 1.5 1.6 1.5 1.4 1.5 1.4 (mg/dl) 188.1 202.9 191.9 197.2 228.9 187.5 189.7 195.0 (10) トリグリセリド 要 精 検 ・ 指 導 以 上 の 割 合 1年未満 27.3% 1年以上2年未満 37.5% 2年以上3年未満 25.0% 3年以上4年未満 31.4% 4年以上5年未満 45.0% 5年以上6年未満 20.8% 6年以上10年未満 25.0% 10年以上 19.0% 要 医 療 の 割 合 1年未満 1年以上2年未満 2年以上3年未満 3年以上4年未満 4年以上5年未満 5年以上6年未満 6年以上10年未満 10年以上 (11) HDLコレステロール 4.5% 0.0% 5.0% 2.9% 5.0% 8.3% 5.0% 0.0% (12) BMI 0.0% 12.5% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 8.7% (13) 尿酸 0.0% 12.5% 15.0% 8.6% 5.0% 16.7% 15.0% 9.5% (14) クレアチニン 54.5% 31.3% 55.0% 48.6% 45.0% 50.0% 65.0% 47.6% (15) 赤血球数 0.0% 6.3% 10.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 15.0% 2.9% 5.0% 8.3% 0.0% 4.8% (16) ヘモグロビン 0.0% 0.0% 5.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 4.8% (17) ヘマトクリット 4.5% 6.3% 15.0% 2.9% 5.0% 12.5% 5.0% 4.8% 0.0% 0.0% 5.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 平 均 値 1年未満 1年以上2年未満 2年以上3年未満 3年以上4年未満 4年以上5年未満 5年以上6年未満 6年以上10年未満 10年以上 (mg/dl) 164.0 185.6 203.9 179.0 240.2 183.4 140.1 170.5 (mg/dl) 61.5 61.1 61.4 61.3 61.4 58.2 63.3 62.7 22.5 24.5 23.1 22.3 23.1 21.5 21.6 23.4 (mg/dl) 5.3 6.2 5.4 5.4 5.6 5.9 5.1 5.5 (mg/dl) 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 0.7 (万/mm3) 429.7 443.8 450.8 447.5 473.0 455.0 438.1 456.3 (g/dl) 13.9 14.6 14.1 14.1 14.8 14.4 13.9 14.4 (%) 40.9 43.0 43.0 41.8 43.6 42.7 41.4 42.9 • 「体の具合がわるい」と回答したホームレスの 有訴率は、47.4%に上っているが、実際に通 院をしている者はそのうち(有訴者)の19.7% • ホームレス達が既に健康保険証を保持してお らず、全額自己負担をする余裕もないこと、あ るいは通常の医療機関に通院することが心理 的にも困難であること等が背景 • 「無料低額診療所」があるが、外傷や急性疾 患の治療が主であり、高齢者が大半を占める ホームレス達にとってより深刻な問題である慢 性疾患の治療には事実上対応できていない • 多くのホームレス達は自覚症状がありながら 治療を放置しているというのが現状であり、 最終的に疾患が重篤化した段階で、「救急搬 送」という形で入院を行うこととなる。 • 救急搬送による入院は、急迫保護として生活 保護の医療扶助単独給付(以下、医療単給) が認められるため、ホームレス達のいわば 「最後の切り札」 • 医療扶助の生活保護費総額に対する割合は 51.8%で生活扶助費 • つまり、この高コストを考えれば、ホームレス の医療アクセスを改善することは正当化。
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