第6章 関連情報と意思決定 :生産の意思決定 明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 八月朔日 由紀、田口 友美 企業における自製・購入の意思決定(1) 企業は新製品の導入を決定する際、新たにかかる生産コストを算出し て決定しなければならない。 企業は新製品を生産する際、意思決定を行う。 ex.chrysler:車に搭載するタイヤを製造すべきか?サプライヤー から購入すべきか? General Mills:粉にした小麦を販売すべきか?朝食用シリアルの製 造に使用すべきか? American Airlines :空いた飛行機を活用するために路線を拡張すべ きか?飛行機を売却すべきか これらの意思決定を行う際には生産段階において関連のある情 報だけを取り出すことが重要である。 2 企業における自製・購入の意思決定(2) 生産段階における意思決定の際、関連のある情報だけを取り出す →代替案間で異なる未来原価だけに注目すればよい。 ※この際機会原価と差額原価の概念を用いて分析を行う。 機会原価(opportunity cost) 限られた資源を特定の目的のために利用することによって断念 した利益額のうちで最大のもの ex:事業を始めるために職を失った人が失った給与額 支出原価(outlay cost) 遅かれ早かれ現金支出をともなうものであり、会計担当者が 記録する典型的なコスト情報 3 意思決定と差額原価、機会原価 大規模会計事務所に年間$60,000で勤務するCPAのM.Morales 彼女は、独立開業を検討中 独立開業すれば‥ 年間$200,000の収入と、$120,000のコストが予想 彼女の選択肢 a.従業員として残る b.独立開業 どちらの案を選択すべきだろうか? 差額原価、さらに機会原価の概念を用いて考察する 4 差額原価分析 (単位:㌦) 考慮中の代替案 従業員として残る 独立開業 収入 支出原価(業務費用) 年間所得への影響 60,000 - 60,000 差額 200,000 120,000 80,000 140,000 120,000 20,000 独立開業した方が、年間$20,000有利 差額原価は$120,000、差額収益は$140,000 従って差額利益は($140,000-$120,000)=$20,000 差額原価(differential cost) 特定の意思決定によって変化するコストのこと 代替案を比較検討する際に用いられる原価概念 同義語として、増分原価があげられる 5 独立開業した場合と機会原価 彼女は、独立開業を選択 年間$200,000を稼ぎ出す 独立したことによる年間$120,000のコスト(設備、広告、事務 所の賃借料など)を考慮に入れても、良い選択に思われる しかし、他にもう一つ考慮すべきコストが存在 それは、彼女が従業員として残っていたなら手にしたであろう 年間$60,000の給与 これを、独立に伴う機会原価と考えなければならない 機会原価を含めた全てのコストを考慮する必要性がある 6 分析 ( 単位: ㌦) 選択した代替案: 独立開業 収入 費用 支出原価( 業務費用) 機会原価( 従業員給与) 年間所得への影響 120,000 60,000 180,000 20,000 機会原価が重要 200,000 年間$60,000という、失われた利益機会のうち、最も優れた代替 案からの利益を、選択された案のコストに含めなければならない 選択された案のみを考える場合、機会原価を見落とすと、選 択案間の差額を間違って計算してしまうことになる 前述の差額原価分析においては、経済的影響は2つの案において別 個に測定され考慮されるので、機会原価については触れなくてもよい 7 従業員として残った場合と機会原価 彼女は、リスクを嫌がって、従業員として残ることを選択 年間$60,000の給与を手に入れる 良いのではないか? しかし、他に考慮すべきコストが存在 それは、彼女が独立開業したならば手にしたであろう、年間 $80,000(=$200,000-$120,000)の利益 これを、従業員として残る場合の機会原価と考えなければ ならない 機会原価を含めて考慮する必要性がある 8 分析 ( 単位: ㌦) 選択した代替案: 従業員として残る 収入 費用 支出原価 機会原価( 独立開業) 年間所得への影響 0 80,000 80,000 △20,000 機会原価が重要 60,000 すなわち、従業員として残ったことによる年間$80,000(= $200,000-$120,000)の機会原価を考慮しなくてはならない 機会原価を考慮すると、彼女はリスクを嫌がることによって、 年間$20,000を犠牲にしていることが理解できる 機会原価は、選択されなかった案の中で、最も優れた利益額である 9 結果(1) M.Moralesは開業すべきである。 ここでの重要ポイント・・・機会原価を見落としてはいけない ex.住宅ローンの支払を終えた家主‥「これからは家を持っていても 利子がかからない。なんてすばらしい気分なんだ!」 将来の利子に対する支出原価の必要がないので、その家に住 み続ける。 本当にそれが最善であるか? 10 結果(2) その家に住み続けることの機会原価は存在する なぜなら住宅の所有者は、他の投資機会から利益を得る機会 を放棄しているからである この場合、放棄された投資利益額のうちで最大のものが、 家を持ちつづけることの機会原価となる 1つの代替案として、家を売却して、その結果得られた収入を 他のいくつかの投資に振り分け、アパートを借りることである 11 生産段階の意思決定 生産段階における意思決定 自製か購入かの意思決定 陳腐化した棚卸資産の処理 旧設備の取替え・継続使用の意思決定 12 自製か購入かの意思決定(1) 自製か購入かの意思決定 製品・サービスを自社で生産するか、もしくは外部のサプライヤー から購入すべきかの意思決定 どちらが有利か? ex.Boeing-777型機の組み立てに使う多くの工具を購入するか 自製するかの意思決定 IBM-新しいコンピュータのOSを自社開発するか、ソフトウェ アベンダーから購入するかの意思決定 これを解決するフレームワーク 販売の意思決定と同様、「代替案間で異なる未来原価、未来 収益」に注目する 13 自製か購入かの意思決定 続き どの定量的要因が自製・購入の意思決定に関連するのだろうか →状況次第で変化する 重要な要因・・・遊休生産能力(idle capacity)が存在するかどうか 多くの企業はほかに有利な使い道がない場合のみ部品を自社で製造 する 14 例示(1) General Electric (GE) 部品(No.900、20,000個製造)の自社工場におけるコストデータ 20,000個の総原価 直接材料費 直接労務費 変動製造間接費 固定製造間接費 総原価 ( 単位: ㌦) 単位コスト 20,000 80,000 40,000 80,000 220,000 1 4 2 4 11 ある部品メーカーから申し出があった 「同一の部品を@$10で20,000個販売したい」 GEはこの部品を自製するべきか、それとも購入するべきか? 15 分析 20,000個の総原価 直接材料費 直接労務費 変動製造間接費 固定製造間接費 総原価 20,000 80,000 40,000 80,000 220,000 (単位:㌦) 単位コスト 1 4 2 4 11 @$11という単位コストからすると、「@$10で」という提案の方が一 見良さそうに見えるが、本当に購入すべきなのであろうか・・・? 16 分析(つづき) 20,000個の総原価 直接材料費 直接労務費 変動製造間接費 固定製造間接費 総原価 (単位:㌦) 単位コスト 20,000 80,000 40,000 80,000 220,000 1 4 2 4 11 代替案間の未来原価に注目してみる 変動費(直接材料費、直接労務費、変動製造間接費) →関連情報 固定製造間接費(@$4) →意思決定の影響を受けなければ無関連情報 17 分析(つづき) ところで、関連原価となるのは変動費だけなのだろうか? そうだとは限らない おそらく、部品を自製せず購入したならば、 固定製造間接費に含まれ ている監督者給与$20,000が削減できるだろう 確認事項 回避可能固定費と回避不能固定費の区別 以上により、部品を購入した場合には部品製造に利用しているキャパ シティが遊休となり、監督者給与$20,000が唯一回避できる固定費だ として、関連原価を計算すると‥ 18 分析(つづき) (単位:㌦) 購入 合計 単位当たり 自製 合計 単位当たり 購入原価 直接材料費 直接労務費 変動製造間接費 製造しないことによって 回避可能な固定製造間接費 関連原価合計 製造することによる差異 20,000 80,000 40,000 1 4 2 20,000 160,000 1 8 40,000 2 200,000 10 200,000 10 回避不能固定費$60,000(=$80,000-$20,000)は無関連である 意思決定(自製or購入)の影響を受けないから 自製か購入かの意思決定においてのカギは、部品を製造するための 追加原価(=購入によって回避できる原価)を明らかにすることである ここでは監督者給与$20,000 19 分析(つづき) (単位:㌦) 購入 合計 単位当たり 自製 合計 単位当たり 購入原価 直接材料費 直接労務費 変動製造間接費 製造しないことによって 回避可能な固定製造間接費 関連原価合計 製造することによる差異 20,000 80,000 40,000 1 4 2 20,000 160,000 1 8 40,000 2 200,000 10 200,000 10 上記の分析によると‥ 自製するための追加原価は$160,000であり、単位あたりの追加 原価は@$8である よって、部品は自製すべきである 20 留意事項 活動分析の重要性 製品を生産するためには一連の活動が必要であり、これらの活動 のコストを正確に測定している企業は、あるアイテムを製造するた めに要する追加原価をより正確に見積もることができる GEが部品No.900を生産するための活動は、2種類のコストドライ バーによって測定された 生産量(@$8) 監督活動(固定費$20,000) 追加的なコストドライバー、とりわけ非操業度関連のコストドライバー を識別・測定することによって、部品やサブコンポーネントを製造する ために追加的に必要になるコストの予測精度を改善できるだろう 21 自製か購入かの意思決定(2) 前述の例における条件では、GEが購入を選択した場合、空いた設備 は遊休のままであるとされていた しかし実際には、他の用途のために利用されることが多い 前述の例のように、意思決定が単純であることは稀である 22 例示(2) General Electric (GE) 遊休となった設備は以下の条件で、他の活動へより有利に利用で きるか、または他社に賃貸できるとする 他の製造活動を行った場合 貢献利益$55,000を生み出すとする 他社へ賃貸した場合 賃貸料$35,000で賃貸できるとする 従ってこの場合考慮すべき選択案は、次頁に示す4つがあげられる 23 分析 自製 賃貸収入 - 他の製品製造からの貢献利益 - 部品の製造または購入 -160 関連収支 -160 購入 (設備は遊休) 購入 (設備は賃貸) (単位:千㌦) 購入 (設備で他製品製造) - - -200 -200 35 - -200 -165 - 55 -200 -145 上記の分析により、 「部品は購入し、遊休設備で他の製品を生産するという選択肢」 が最善であると分かる 表の読み方に注意:絶対値が小さいものほどコストが少ない 24 自製か購入かの意思決定と長期的方針 自製か購入かの意思決定と長期的方針 企業は、自製か購入かの意思決定を、キャパシティの利用に関す る長期的な方針と関連付けるべきである 25 例示 ある企業は‥ 設備を平均80%の操業度で利用しているが、需要の季節変動に より、設備への需要も60%から100%以上にまで変動する オフシーズン時には‥ 他社のための特別プロジェクトを、下請けで行うかもしれない しかし、これらのプロジェクトによって利益が生じたとしても 設備拡大を正当化するには充分な理由ではない 26 例示(つづき) ピークシーズン時には‥ いくつかの製品を購入することによって、高水準の操業度に対 応している この場合、部品の購入原価は自社で製造するコストよりも 高いかもしれないが、部品の購入はそれを製造するため の設備を購入するよりは安い つまり、これも設備拡大の理由としては充分ではない 27 連産品のコスト Dow Chemical Companyの例 連産品工程でX製品Y製品という化学薬品を製造している 結合原価は$100,000 これには原材料費とX製品とY製品が別個の製品となる点まで の加工費が含まれている 結合原価(joint costs)-分離点までにおいて連産品を製造するコスト 連産品(joint products)-分離点までは個別製品として別個に識別で きない場合の各製 分離点(split-off point)-連産品が別個に識別できるようになる製造 工程上のポイント 個別費(separable costs)-分離点以降に生じる全てのコスト 28 販売か追加加工か? マネージャーの選択 分離点においてY製品をそのまま販売するか? 追加加工してYA製品として販売するか? Y製品の製造量 500,000ℓ YA製品にするための追加加工費 $0.08/ℓ 費用総額 500,000×0.08=$40,000 YA製品の純販売価格 $0.16/ℓ 収益総額 500,000×0.16=$80,000 ※X製品は追加加工はできない。分離点においてそのまま販売される 29 続き 分離点でYとして販売する 追加加工してYAとして販売する 差異 収益 $30,000 $80,000 $50,000 分離点を越えた個別費@$0.08 - 40,000 40,000 収益への影響 $30,000 $40,000 $10,000 追加加工すべきだろうか? ここでの重要ポイント-意思決定において変化する情報だけに着目 すること!つまり・・・ 分離点後の個別費と収益に着目すること! 30 分析結果 Y製品は追加加工してYA製品にした方が$10,000利益が増加する 販売か追加加工かの分析 選択(1) 収益 結合原価 X Y $90,000 $30,000 選択(2) 合計 $120,000 X YA $90,000 $80,000 $100,000 個別費 - 総原価 差異 40,000 合計 差異 $170,000 $50,000 $100,000 - 40,000 40,000 $100,000 $140,000 $40,000 $20,000 $30,000 $10,000 (1)分離点でY製品を販売する場合 (2)分離後に追加加工してYA製品として販売する場合 31 分析の続き この表には結合原価が含まれているが(1)(2)のどちらを選択した場 合にも同額であるため代替案間の差額には影響しない 結合原価の配賦は意思決定に影響を与えない 32
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