A2 発表 ~Bellの不等式をめぐって~ メンバー 菊池 徹 中村 克朗 箱崎 雄一郎 林 勇治 林 優二郎 2006.3.24 Introduction 量子力学の奇妙な主張:entanglement (もつれあい) 例) 2電子系のスピン1重項状態 測定により電子1が の状態にあると分かると、 電子2は の状態にあると分かる。電子1が の時は、電子2は である。 片方の電子の測定結果が、もう片方の電 子の状態に影響を及ぼす。 → そんなはずはない! 測定に関係なく物理量は定まっているはずだ 量子力学がこのような奇妙な主張をするのはそれが不完全であるから あって、より完全な理論があるはずだ。 そのような理論における「隠れた変数」λが測定前の物理量の値を定めて いるに違いない。 そのような「隠れた変数」は存在するのか? 「隠れた変数理論」は量子力学と異なった予言をするか? それは実験で確かめることが出来るのか? → Bellの不等式 測定前でも物理量が100%確定されているような理論は 必ずBellの不等式を満たさなければならない 本実験の目的 1.Bellの不等式の検証。「隠れた変数理論」 の存在は認められるか? 2.量子力学の検証。実験値に対して正しい 予言をしているか? 理論 Bellの不等式の導出 2つの測定器A、Bに粒子を送る。 「隠れた変数理論」の枠組みでは、それぞれの粒子は測定前にすでに定 まった物理量a(λ)、b(λ)を持つ。測定器のパラメータをAはθ、Bはφに 設定し、測定値=得点a(θ,λ) , b(φ,λ) を記録する。 | a |≦1、| b |≦1 と設定する。 A B b(φ,λ) φ b(λ) a(λ) 測定値は互いに独立 θ a(θ,λ) ここで次の量を考える: C= a(θ,λ)b(φ,λ) + a(θ’,λ)b(φ,λ) + a(θ,λ)b(φ’,λ) - a(θ’,λ)b(φ’,λ) | a |≦1、| b |≦1から | C |≦2 が言える。 λは未知の変数である。しかし、その統計量については一般的なことが言 える。実験を多数行ったときのλの確率分布をρ(λ)とすると、0≦ρ(λ)≦1よ り |∫C ρ(λ) dλ | ≦ 2 、すなわち がいえる。これがBellの不等式である。 が のような形に直せるとき、Bellの不等式は となる。 これらλに関する平均値はρ(λ)を知らなくても測定できる、つまりBellの不等 式は実験的に検証することが出来ることを、具体例で説明する。 補足: |C|≦2 の証明 とすると よって |C|≦2 2光子相関を利用した測定 sourceから互いに反対方向に飛んできた光子をそれぞれをCompton散乱 させる。2つの光子が同時にdetectorに入る計数率(Rate[個/ s])を、「隠れ た変数理論」の枠組みの中で求める。 θ ψ detector 偏極 方向 Compton散乱の微分断面積は以下のKlein-Nishinaの式で与えられる。 この式は本来場の量子論で求められたものであるが、今回は他の実験より 実験的に得られたものとして、「隠れた変数理論」においても使用する。 Klein-Nishinaの式は次のように変形できる: これより次のことが言える: 「ψ方向に偏極している光子がN個来ること」 「x方向に偏極している光子がNcos2ψ個 、 y方向に偏極している光子がNsin2ψ個来ること」 detectorの計数率に対する影響としては両者は同等であり、 よってsourceから来た全ての光子の偏極は、x偏極とy偏極の 2種類しかないと便宜的に考えてよい。 dx,x’ x偏極 x’偏極 φ θ dx,y’ x偏極 y’偏極 θ dy,x’ xz’平面内 y偏極 x’偏極 xz平面内 dy,y’ y’偏極 y偏極 「隠れた変数理論」では、2つの光子の偏極は測定前にすでに定まっている。 前頁の規則に従って、Sourceから放たれる2つの光子の偏極は上のよう に便宜的に分類することができる。 次の規則で得点を付ける: 「detectorにN回countがあったら、そのうち N dx,x’(φ)回 → a=1、b=1 N dx,y’(φ)回 → a=1、b=-1 N dy,x’(φ)回 → a=-1、b=1 N dy,y’(φ)回 → a=-1、b=-1 とする。」 dx,x’ x偏極 x’偏極 φ θ dx,y’ x偏極 y’偏極 θ dy,x’ xz’平面内 y偏極 x’偏極 xz平面内 dy,y’ y’偏極 y偏極 「隠れた変数理論」では、2つの光子の偏極は測定前にすでに定まっている。 前頁の規則に従って、Sourceから放たれる2つの光子の偏極は上のよう に便宜的に分類することができる。 次の規則で得点を付ける: 「detectorにN回countがあったら、そのうち N dx,x’(φ)回 → a=1、b=1 N dx,y’(φ)回 → a=1、b=-1 N dy,x’(φ)回 → a=-1、b=1 N dy,y’(φ)回 → a=-1、b=-1 とする。」 すると定義から である。 また、対称性から明らかに となる。これらの式より と逆に解ける。 これをdetectorの計数率Rateの式 に代入すると となる。 としてcとkを実験データからfittingにより定める。 ・・・以上の流れで、「隠れた変数理論」における が測定できる。 次で見るように| k | > ならBellの不等式は破れる。すなわち実験は 「隠れた変数理論」の存在を否定する、ということになる。(k=1なら量子力 学の正しさが示される。) |k|> のとき、Bellの不等式は破れる Bellの不等式 に を代入すると左辺は なるが、この最大値は となるから、 |k|> のとき、Bellの不等式は破れる。 次に量子力学の視点から・・・ まず、パラポジトロニウムが消滅して2光子が放出される過程を 考える。 運動量保存則より2光子は逆方向に飛び、光子の円偏光の向 きは進行方向に対して同方向となる。 よってその波動関数は |F> = ( |R1>|R2> + |L1>|L2>)/√2 or |F> = ( |R1>|R2>- |L1>|L2>)/√2 パリティが-1となることから |F> =( |R1>|R2>- |L1>|L2>)/√2 がわかる。 さらに、円偏光であることから |F> = (|R1>|R2>- |L1>|L2>)√2 を |F>=(|x1>|y2>-|y1>|x2>)√2 に書き直すことができる。 これは一方の光子が|x>ならば、もう一方の光子は|y>であるこ とを示している。 2光子の偏光の観測のために、それぞれ偏極板を設置する。 |x> |y> |x>方向に向いた偏極板に対して、 |x>の偏光の光子は透過で きるが、|y>の向きに偏光した光子は透過しない。 このセッティングにおいて、次のような数a,bを導入する。 光子1が偏極板1を透過するとき a=1 しないとき a=-1 光子2が偏極板2を透過するとき b=1 しないとき b=-1 ここでxy座標系からφずらしたx’y’座標系を新たに考える。 φ このとき |y> = |x’>sinφ + |y’>cosφ |x> = |x’>cosφ ー |y’>sinφ が成り立つ。 偏極板1を|x1>方向に一致させる。 このとき偏極板2がφ傾いたx’y’座標系にあるとすると、先ほど 求めた|F>=(|x1>|y2> - |y1>|x2>)/√2 に対して 座標変換によって|y2> = |x2’>sinφ + |y2’>cosφ |x2> = |x2’>cosφ ー |y2’>sinφ となる。 つまり、 |F>=(|x1 >| x2’>sinφ +|x1>|y2’>cosφ + |y1>|x2’>cosφ - |y1>|y2’>sinφ)√2 となり、 a=1とは光子1が|x1 >の状態のとき a=-1とは光子1が|y1 >の状態のとき b=1とは光子2が|x1’ >の状態のとき b=-1とは光子2が|y1’ >の状態のとき |F>=(|x1 >| x2’>sinφ +|x1>|y2’>cosφ + |y1>|x2’>cosφ - |y1>|y2’>sinφ)√2 より、 a=1, b=1のときの確率 a=1, b=-1のときの確率 a=-1,b=1のときの確率 a=-1,b=-1のときの確率 1 2 sin φ 2 1 cos2φ 2 1 cos2φ 2 1 2 sin φ 2 したがって 1 ab sin 2φ cos2φ cos2φ sin 2φ cos 2φ 2 2つの偏極板の角度φに依存することになる。 Compton Polarimeterについて… Klein-Nishinaの公式 ψ:散乱面と光子の偏極のなす角 θ:散乱角 ψ=0°のとき ψ=90°のとき = c・(γ – 2sin2θ) = c・γ 偏極面 θ θ ψ=90° c・γ ψ=0° c・γ–2sin2θ D1にCountがあった状況を考えると、 • 光子1が|x1>であった確率 = c1・(γ – 2sin2θ) このとき光子2は|y2>の状態で、 D2にCountがある確率 = c2・(γ – 2sin2θsin2φ) • 光子1が|y1>であった確率 = c1・γ このとき光子2は|x2>の状態で、 D2にCountがある確率 = c2・(γ – 2sin2θcos2φ) したがって、D1とD2両方にCountがある確率(Rate)は Rate ∝ c1・(γ – 2sin2θ) ・ c2・(γ – 2sin2θsin2φ) + c1・γ・ c2・(γ – 2sin2θcos2φ) ∝ 2γ2 – 4γsin2θ+ 4sin4θsin2φ sin 2θ cos 2φ ∝ 1 2 r sin θ この形は隠れた変数理論から導き出されたRateの関数 においてk=1としたものである。つまり、実験で得られたRateに 対してfittingを行い、kの値を評価すれば良い。 A2 最終発表2.ppt に続く
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