慢性腎臓病 - 医療法人社団スマイル

慢性腎臓病患者における食事療法の
経過及び腎障害抑制の効果の検討
○坂田良子1) ,福富愛1) ,永易由香1) ,松尾晴美1)
宮園和也1) ,沖永鉄冶1) ,平林晃1) ,松見勉2)
高杉敬久2) 賴岡德在1) 3)
医療法人社団スマイル 広島ベイクリニック1)
医療法人社団スマイル 博愛クリニック2)
一般社団法人 広島腎臓機構3)
はじめに
慢性腎臓病患者においては、透析への進行阻止
をめざしたたんぱく質摂取制限はきわめて重要で
ある。当院開院から外来栄養指導を開始した対象
患者の食事療法の経過と有効性の評価を行った。
次に、CKD ステージ4・5では、0.3~0.6 g/kg/日の
たんぱく質制限により腎機能低下の進行を抑制す
ることは報告されている。そこで、CKDステージ4・5
(eGFRが29mL/min/1.73m2以下)の患者を対象に
たんぱく質摂取量の違いによる腎障害抑制効果を
検討したので報告する。
方
法
1. 平成23年4月から平成25年3月までの2年間、外来
栄養食事指導を行った患者43名を対象とした。
受 診 毎 に 身 体 計 測 、 血 圧 、 BUN、Cre、LDL-C、
eGFR、24時間蓄尿により算出したたんぱく質、食
塩摂取量、尿蛋白を初回来院時、1年目、2年目の
経過を比較した。
2. eGFRが29mL/min/1.73m2 以下の16名を、たんぱく
質摂取量 0.6g/kg/日未満と、それ以上の2群に分け
て腎障害の抑制効果を検討した。同時に、食事記
録から治療用特殊食品の使用状況を調査した。
対 象(方法-1)
Mean±SD
Stage3a
Stage3b
Stage4
Stage5
症例(M/F)
n=14(10/4)
n=13(9/4)
n=12(9/3)
n=4(1/3)
年齢(歳)
68.1±14.6
71.0±7.8
68.8±16.2
56.0±18.2
BMI(kg/ m2)
24.3±2.8
24.4±3.5
23.1±3.8
21.5±3.1
sys BP(mmHg)
128.5±14.0
136.9±11.8
128.9±17.8
133.5±7.0
dia BP(mmHg)
77.2±8.3
82.3±5.9
78.2±11.1
82.5±5.0
CKD Stage分類
原疾患:慢性糸球体腎炎(IgA腎症を含む)10名、腎硬化症17名、糖尿病性腎症3名、多発性嚢
胞腎1名、逆流腎症1名、間質性腎炎1名、痛風腎1名、その他9名
対 象(方法-2)
たんぱく質摂取量
0.6g/kg/day未満
0.6g/kg/day以上
n=7(5/2)
n=9(5/4)
年齢(歳)
63.1±15.8
67.5±18.7
BMI(kg/m2)
21.8±3.4
23.3±3.8
sys BP(mmHg)
131.0±16.8
129.3±15.7
dia BP(mmHg)
78.4±10.6
80.0±3.3
症例(M/F)
BMI・血圧値の推移
(kg/m2)
28
BMI
(mmHg)
150
*
26
140
24
130
22
120
20
110
初回来院時
23.7±3.3
1年目
23.4±3.0
2年目
23.5±2.9
収縮期血圧
*
初回来院時
1年目
2年目
131.6±14.2 12.87±10.5 127.7±10.4
Mean±SD *p<0.05
血液生化学検査値の推移
BUN
(mg/dL)
(mg/dL)
Cre
4
40
3
30
2
20
1
0
10
初回来院時
23.7±11.2
1年目
25.9±11.7
初回来院時
1.81±1.17
2年目
26.3±11.4
(mg/dL)
1年目
1.84±1.01
2年目
1.90±1.06
LDL-C
160
120
80
40
0
初回来院時
104.5±31.2
1年目
104.7±29.8
2年目
107.2±28.1
Mean±SD
たんぱく質・食塩摂取量の推移
(g/day)
たんぱく質摂取量
80
(g/day)
食塩摂取量
10
*
8
60
6
40
4
20
2
0
0
初回来院時
46.5±12.3
1年目
45.1±9.8
2年目
44.1±10.7
初回来院時
6.9±2.4
1年目
6.9±2.0
2年目
6.5±2.2
Mean±SD *p<0.05
尿蛋白及び腎機能検査の推移
尿蛋白
(g/day)
(mL/min/1.73m2)
60
1.2
eGFR
1.0
0.8
40
0.6
0.4
20
0.2
0.0
0
初回来院時
0.44±0.63
1年目
0.43±0.52
2年目
0.38±0.45
初回来院時
35.7±14.7
1年目
33.9±13.4
2年目
33.0±13.8
Mean±SD
CKD Stage4・5における
たんぱく摂取量別の腎機能低下の比
較
0.6g/kg/day未満
21
0.6g/kg/day以上
eGFR (mL/min/1.73m2)
20
19
n=9
n=7
eGFR低下速度:
-0.3016 ml/min/1.73m2/ 年
eGFR低下速度:
-0.4457 ml/min/1.73m2/ 年
18
17
16
初回来院時
20.51±5.58
2年目
19.91±6.45
初回来院時
18.77±8.32
2年目
17.86±7.92
Mean±SD
CKD Stage4・5における食塩摂取量と
たんぱく摂取量・尿蛋白との関係
たんぱく摂取量
尿蛋白
12
12
n=16
n=16
9
食塩摂取量(g)/日
食塩摂取量(g)/日
9
6
3
r=0.68974
P<0.01
0
6
3
r=0..62388
P<0.01
0
0
20
40
60
80
(g)/日
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
(g)/日
CKD Stage4・5における
治療用特殊食品の利用状況及び
摂取エネルギーに対する割合
治療用特殊食品の利用状況
摂取エネルギーに対する
特殊食品のエネルギー量の割合
0.6g/kg/日未満 n=7
0.6g/kg/日未満 n=7
利用あり
利用なし
En の40~50%
En の20~39%
En の 0%
71
29
42
29
29
0.6g/kg/日以上 n=9
0%
0.6g/kg/日以上 n=9
利用あり
利用なし
44
56
20%
40%
60%
En の40~50% En の20~39%
33
80%
100%
0%
20%
11
40%
En の 0%
56
60%
80%
100%
結
果
≪1の結果≫
①BMIは、初回来院時と1年目23.7±3.3→23.4±3.0kg/m2と有意に減少
した。2年目には 23.5±2.9kg/m2と改善傾向であった。
②収縮期血圧、たんぱく質摂取量は初回来院時と2年目の比較では
131.6±14.2→127.7±10.4mmHg、46.5g→44.1g/日と有意に低下した。
≪2の結果≫
①たんぱく質摂取量別のeGFR低下速度は、0.6g/kg/日未満では
-0.3016ml/min/1.73m2/年、0.6g/kg/日以上では-0.4457ml/min/1.73m2/年
であり、0.6g/kg/日以上群に比べ腎機能低下速度は緩やかであった。
②食塩摂取量と、たんぱく質摂取量、尿蛋白の関係においては、正の相
関が認められた。
③治療用特殊食品の利用状況の比較では0.6g/kg/日未満群で71%と高
く有効に利用されていた。
結 語
頻回の食事栄養指導を行うことで適正な体重、
血圧、腎機能、脂質が良好にコントロールされ、
食事療法の有用性が示唆された。
腎障害抑制にはCKDステージ4以上では、たんぱく
質摂取量0.6g/㎏/日未満とし、治療用特殊食品
を有効利用した食事療法を継続すべきと考える。