古書業界概要1 社会工学類経営工学主専攻4年次 野澤寛 1 INDEX 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 初めに 出版業界の成り立ち 出版業界の変革 古書業界成立まで 次回予告 参考 用語解説 2 初めに ブックオフをはじめ、フォーユー、テイツーといった会 社が古書業界に参入して成功を収め、その好調ぶ りは近年注目を集めている。 では、その成功要因はなんなのか。今後古書業界、 出版業界はどうなっていくのか。 まずは古書業界を語る上で欠かせない出版業界、 再販制、委託制に焦点をあてたいと思う。 3 出版業界の現状:売上 出版科学研究所(2008)より 4 出版業界の現状:コミックス売上 出版科学研究所(2008)より 5 出版業界の成り立ち 本が高かった時代~多品種少量生産~ 例)医学書、古典など ピノキオ ジャングル大帝 手塚治虫 50万 手塚治虫 30万 など 貸本が流行っていた時期、もしくはそれ以前は本は非常に高 価な品物で貸本で読むのが一般的だった。 一般的な本の発行部数は500~3000部ほど 6 出版業界の成り立ち:明治初期 流通サイクル 作 者 出 版 社 貸 本 屋 読 者 7 余談:江戸時代の流通 版元は親里なり。 読んでくださる御方様は婿君なり。 貸本屋様はお仲人なり。 山東京伝、18世紀末 江戸の木版技術向上により、明治まで続いた流 通システムの基礎が完成した。 8 出版業界の変革:明治~昭和 流通サイクル 取次の出現により以下のように変化してくる。 作 者 出 版 社 取 次 書 店 読 者 9 出版業界の変革:明治~昭和 流通サイクル 理由 「安い本」の出現(円本、岩波文庫など) ダンピングが行われ、本の物価を10分の1か ら5分の1に下げてしまった。 ↓ 大量生産へ 10 出版業界の変革:明治~昭和 流通サイクル 「本」が借りて読む物から買って使う物へと 徐々に変化していった。 出版技術の向上と共に、大量生産、大量消 費のサイクルが出来上がった。 11 出版業界の変革:近代 再販制と委託制 再販売価格維持制度(再販制) 出版社(メーカー)が個々の出版物の小売価 格(定価)を決めて、書店(販売業者)で定価 販売できる制度です。この制度は、独占禁止 法で認められています。(日本書籍出版協会HPより) 12 出版業界の変革:近代 再販制と委託制 委託制(返品制) 委託制度とは、売れなかったら仕入値で返品できる制度のことです。 出版社が取次や書店に対し配本し、販売を委託します。そこで、書店 は委託された出版物を一定期間販売します。書籍の委託には、3つあ ると言われています。 【返品期間】 1、新刊委託 約 3ヶ月 2、長期委託 4ヶ月 ~ 6ヶ月間 3、常備委託 1年間 (日本著者販捉センターHPより) 13 出版業界の変革:近代 再販制と委託制 この2つの制度を盾に、近代の出版業界は発 展してきた。 再販制 委託制 企業間競争の縮小 在庫リスクを無視 した仕入れ 14 出版業界の変革:近代 書店のバブル出店(70年~80年代) 再販制と委託制を利用し、次々と書店が開店 していった。書籍の売上は右肩上がりだった。 15 出版業界の変革:近代 本に対する読者の意識変化 大量生産、大量消費、大量廃棄の時代 雑誌、文庫本に代表される「消費」する本の 台頭 「読者」から「消費者」へと変化 16 出版業界の変革:近代 古紙リサイクルシステムの崩壊 大量廃棄、高い返品率(書籍39.9%、雑誌 29.6%1999年)による古紙業者のキャパシティ超過 80年代と90年代で古紙利用率は変わらない (25%程度)が、回収量が劇的に増加したため 古紙価格が値下がりし、古紙リサイクルシステ ムが破綻した。 17 出版業界の変革:近代 今まで古紙としてリサイクルされていた古書(主 に雑誌、文庫本、コミック)が過剰在庫に これらを扱うビジネス、新古書業界の誕生 大量生産、大量消費、大量廃棄,大量リサイクル 18 新古書業界成立まで 「捨てる」ものを買い取るビジネス 本来捨てられていく新古書を買い取り、格安 価格で提供するビジネスが90年ごろから現 れ始めた。 大量生産、大量消費、大量廃棄のサイクルに よって潜在新古書は相当数存在し、新古書 業界は瞬く間に拡がっていった。 19 新古書業界成立まで ブックオフのサクセスストーリー 果敢なメディア戦略 「本の価格破壊」「ブックオフ革命」 「粗利益率75%」 他業種フランチャイズと連動し、比較的低価 格で不採算店中心の出店 オーダーリース方式(借地借家方式) 20 新古書業界成立まで ブックオフのサクセスストーリー ブックオフ出現による書籍流通インフラの変化 作 者 出 版 社 取 次 郊 外 型 書 店 、 コ ン ビ ニ 消 費 者 ブ ッ ク オ フ 消 費 者 21 新古書業界成立まで ブックオフの分析(1994.木下) ブックオフの特徴 店舗空間がゆったりしていて、通路幅が広く取られ、書棚も色が明るくフ レッシュで交換が持てる。 証明が明るく、フロア、壁、天井など店舗全体のカラーコディネートがうま くまとまっている。 壁面棚を除いて、書棚の高さが全て低いため圧迫感、うっとうしさがない。 リサイクル型書店であるため、資源の再利用の点から意義がある。 ロープライス。このチェーンは価格破壊型であり、定価の半額以下の物も 多く、100円コーナーも設けられ、消費者は手軽に本が買える。 電話一本で出張買取にいき、自治会、子供会などの廃品回収の際にも 一役買っている。 22 新古書業界成立まで ブックオフの分析(1994.木下) ブックオフの問題点、疑問点 商品の絶対量に乏しく、バラエティに欠けている マーチャンダイジングが出来ていない。店にコンセプ トがなく、細分類も曖昧である。 現在の「売れ筋」がほとんど品揃えされていない インパクトのある目玉商品、主力商品がない。掘出 物もない。 「リメイクされた美しい本」で「特殊消毒剤できれいに 磨き上げられ」て、「衛生的」というキャッチフレーズ にも関わらず、清潔感に欠けた感じの雑誌、コミック、 文庫本がある。「新本」をもっと置けないのか。 23 新古書業界成立まで ブックオフの分析(1994.木下) ブックオフの評価 「古本屋は鑑定や仕入れ能力、顧客管理等の専門 性が要求され、個性的な経営ポリシーがあり、のれ んわけは可能でもチェーン展開は至難とされてきた が、素人でもできるシステムを作った。ブックオフは 誕生して間もない業態であり、まだ結論を出すには 早すぎるだろう。 (中略)前途は明るくないといえる。同店はいわゆる 価格破壊型古書店、価格訴求型書店の新業態であ るが、インパクトを持つ新業態とはまだ言えない、と 言うのが今の時点での率直な感想である。」 24 新古書業界成立まで ブックオフのメディア戦略 「ブックオフ革命」大塚、1994 メディアへの度重なる露出 「粗利益率75%」「素人から始められる」など の強烈なキャッチコピー 25 新古書業界成立まで ブックオフの成功 1994 100店 1996 200店 1998 300店 1999 400店 26 新古書業界成立まで ブックオフの成功 売上 1991年 三億九千万 経常利益 91年 一千百万 2000年 百二十億 2000年 十三億 27 余談:書店と古書業界 「青少年健全育成のために行政指導を強めてい ただく要請書」 ※新古書店の全国展開フランチャイズチェーンの展開により、 「読み終わった本、聞き終わったCD買取します」というチラシ を大量に配布し、新しい物であればそれだけ高く買い取ること と関連して書店の万引き被害を増大させる原因となっている。 (中略)次の四点を要請している。 ①青少年の万引き行為を従憑するようなチラシ、その他の自 粛。 ②未成年者による書籍等売買に関して年齢、身元確認を厳密 に行うこと。 ③十八才未満の者の書籍の買取を業とする者への売却禁止、 それに違反した場合、業者に対する制裁条例化。 ④青少年の健全な育成保護のための公的協議の場、新刊書 籍商及び古書籍商代表も含めて、協議する機会を作ること。 1999.8 28 余談:古本屋の言 古本屋さんという商いは、よその物売りの数倍、商 品に愛着をもたなくてはいけませんよ。店主の本へ の思い入れの深さが、客を呼ぶんです。客は本の 身内ですからね、本を邪険に扱う店には寄り付かな い。 「本も、人間だと思えばよい。いや本は人間なんで すよ。ごらんなさい、この本の輝き。光り。私に見い 出されて喜んでいる。(中略)本も嬉しいだろうが、私 も嬉しい。私はね、見知らぬ同士の、この一瞬の出 会いが生き甲斐で、市場に出かけてくるんです。古 本屋には、三つの喜びがある。本を仕入れるとき、 その本を自分の棚に並べているとき、首尾よくその 本が売れた時、この三つです。佃島ふたり書房、出久根達郎、 29 ブックオフの影響 ブックオフは良くも悪くも、出版業界に多大な 影響を与え、新しい古書業界を築きあげてき た。 前半ではその背景に焦点をあてた。 後半ではブックオフの急激な成長と、出版業 界に与えた影響を振り返り、今後の古書業界 を考察したい。 30 次回予告 ブックオフ2006年第2四半期決算および計画 説明資料より 31 次回予告 新古本(売れ残って出版社に返品さ れた本)を販売するビジネスの拡大 ブックオフ2009年第2四半期決算および計画 説明資料より 32 次回予告 ブックオフビジネスの真相 ブックオフがパラサイトと言われる由縁 出版業界の現状 33 参考 山東京伝 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E4%BC%9D 円本 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E6%9C%AC 再販売価格維持制度 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%8D%E8%B2%A9%E5%88%B6 委託制 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A7%94%E8%A8%97%E8%B2%A9%E5%A3%B2#. E5.87.BA.E7.89.88.E6.A5.AD.E3.81.AB.E3.81.8A.E3.81.91.E3.82.8B.E5.A7.94.E8.A 8.97.E8.B2.A9.E5.A3.B2 出久根 達郎 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E4%B9%85%E6%A0%B9%E9%81%94%E9% 83%8E 岩波文庫 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB 34 参考 ブックオフ革命 大塚圭一 1994 ブックオフと出版業界 小田光雄 2008 フォーユー http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%BB% E3%83%A6%E3%83%BC テイツー http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%84%E3%83%BC 出版取次 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E7%89%88%E5%8F%96%E6%AC%A1 35 他国の再販売価格維持制度実施状況 国 書籍 雑誌 新聞 音楽 アメリカ × × × × イギリス × × × × フランス × × × × ドイツ △ △ △ × スウェーデン × × × × 韓国 △ △ △ × ノルウェー ○ × × × オランダ ○ ○ × × デンマーク ○ ○ × × オーストリア ○ ○ ○ × 日本 ○ ○ ○ △は部分的に認められている。 ○ 36 用語解説 円本 円本(えんほん)とは、1926年(大正15年)末改造社が刊行を始めた『現 代日本文学全集』を口火に、各社から続々と出版された、一冊一円の全 集類の俗称、総称。(wikipediaより) これに影響を受けた岩波文庫が後の出版業界に価格革命をもたらした。 岩波文庫 1927年創刊 書物を安価に流通させ、より多くの人々が手軽に学術的な著作を読める ようになることを目的として創刊された、日本初の文庫本のシリーズであ る。「袖珍本」などのように小型の版型のシリーズはそれ以前にも発刊さ れていたが、現在のような「文庫本」のスタイルを完成させたという意味 で、岩波文庫の発刊は日本出版史上大きな意義がある。 (wikipediaよ り) 37 用語解説 出版取次(しゅっぱんとりつぎ) 出版とその関連業界で、出版社と書店の間をつな ぐ流通業者を指す言葉。単に取次とも。 取次と書店との関係は卸売問屋と小売店の関係 に当たるが、返品を前提とした委託販売制度によ り、書店が在庫管理を考えなくて済むのが大きな 違いである。その代り、客からすれば、すぐに棚の 中身が入れ替わる不便を強いられる。 近年は漫画や雑誌のような大量に配本するように 最適化されたシステムに、書籍の流通が乗ってい ることが出版不況の元凶があるとして、大手取次 がやり玉に挙げられることが多い。(wikipedia) 38 競合他社 フォーユー 株式会社フォー・ユー (For You Inc.) は、香川県高松市に本社を置く企業。総合 リサイクルショップ「2nd STREET」を全国展開する。大阪証券取引所第2部上場。 前社長の新谷幸由が1988年に創業。元々はわんぱくこぞう(現wanpaku、株式 会社NESTAGE・旧社名アクト)のフランチャイジーとして、香川県高松市常磐町 に1号店を開業。ちなみにわんぱくこぞうとしての1号店でもある。 その後、香川県・徳島県にゲームショップを展開し、最盛期には22店舗を出店す る。 ゲームショップのみならず、CDショップ・カレーショップも展開するが、カレーショッ プについては事業失敗により負債を負い、完全撤退。 しかし、このカレーショップ の失敗からわずか一週間で、後の柱となるブックマーケットを開業させることとな る。 当然、ブックマーケットの開業スタッフは全てカレーショップ社員である。 その後、徐々にブックマーケット事業を拡大し、ゲーム・CD事業をブックマーケッ トの一角として統合する形になる。 (wikipedia) 39 競合他社 テイツー 1989年創業、1990年会社設立。1999年、ジャスダック証券取引所に株式を上場している (証券コード:7610)。 1989年、岡山市内に古本市場1号店を開店。貸倉庫を店舗化したスタイルで経費を抑えな がら、膨大な在庫を有する郊外型古書店のスタイルを固めてゆく。当初は値付けが甘く、稀 少な本も安価で販売していたため、マニアがこぞって買いに行くなどマニア筋では有名で あった。中学・高校生を中心に「古市」(ふるいち)の愛称で親しまれている。 その後、閉店した新刊書店の跡地に入居する形で古書以外にCD・DVD・ゲームソフト(新 品・中古とも)を取り扱う複合店スタイルの出店に転換、2006年12月現在は拠点の中国地 方だけでなく関東・中京・関西を中心に110店舗以上を出店。この店舗数は同業のブックオ フ・ブックマーケットに次ぐ第3位である。 また、2003年に漫画喫茶経営の「アイ・カフェ」(2007年現在32店舗を展開)を買収し、同事 業にも進出している。 現在は競合店の増加により古本市場の新規出店は控えており、漫画喫茶の出店に注力し ている。 JASDAQ上場。 (wikipedia) 40 用語解説 委託制度、詳細 委託制度とは、売れなかったら仕入値で返品できる制度のことです。出版社が取 次や書店に対し配本し、販売を委託します。そこで、書店は委託された出版物を 一定期間販売します。書籍の委託には、3つあると言われています。 【返品期間】 1、新刊委託 約 3ヶ月 2、長期委託 4ヶ月 ~ 6ヶ月間 3、常備委託 1年間 ちなみに雑誌の委託期間は、 週刊誌は 45日間 月刊誌は 60日間。 コミック・ムックは 60日間となっています。 委託期間の過ぎた商品は、売れ残っても返品できないことになっています。但し、 その商品を「委託」にするかどうかは出版社の判断です。ですので、原則的には 委託で販売している出版社でも美術書などの豪華本は買切りにする事が多いよ うです。また、返品だからお金の支払いは一切ないかというと仕入れた商品の代 金は取次ぎ(問屋)へ支払う必要があるようです 41 用語解説 再販制度、詳細 42
© Copyright 2024 ExpyDoc