Astro-E2 搭載 XIS のX線検出効率における X線吸収微細構造の影響 並木 雅章、林田 清、鳥居 研一、勝田 哲、東海林 雅幸、松浦 大介、宮内 智文、常深 博(阪大理)、 片山 晴善(JAXA)、幸村 孝由(工学院大)、他 Astro-E2 XIS チーム 概要 2005年打ち上げ予定のX線天文衛星Astro-E2には、4台のCCDカメラ (XIS2号機; X-ray Imaging Spectrometer 2) が搭載される。XISはエネルギー範囲0.2--12 keV に感度 を持ち、大阪大学では主に0.2--2.2keVの低エネルギー側の較正を行っている。 XIS較正実験の一つの目的は、入射X線エネルギーの関数としての検出効率の測定にある。0.2--2.2 keV という低いエネルギー範囲における検出効率は、主に、電極や 保護膜などのX線不感層の構造と厚みによって決定される。これらは、シリコン及び酸化シリコンを原料としているため、酸素やシリコンの吸収端に相当するエネルギーで は検出効率の値が大きなジャンプを持つ。このジャンプは、単純な階段関数で近似されることも多いが、実際には XAFS (X-ray Absorption Fine Structure) と呼ばれる複雑 な微細構造をもつことが知られている。 我々の較正実験では、連続X線をグレーテイング分光器を通して XIS-CCD に照射しており、CCD上でのX線入射位置によって入射エネルギーが一意に決定されるため に、連続的なX線エネルギーに対する検出効率測定が可能となっている。我々は、特に酸素やシリコンのK殻吸収端付近に着目し、精度のよい測定を行った。結果として、 FI型XIS-CCDの検出効率において、酸素のK吸収端付近(0.52--0.58 keV)で顕著な微細構造があることがわかり、例えば0.01 keV 以下の幅で、検出効率が周囲の1/4以下 に落ちこむ。シリコンのK吸収端付近(1.85 keV) でも構造が見られるが酸素の場合ほどの強度減少は見られない。また、BI型XIS-CCDでは酸素のK吸収端でもFI型ほど顕 著な構造はなく、XAFS の BI型CCDへの影響は少ない。 1. XAFS (X線吸収微細構造) 3. K殻吸収端近傍の構造 XAFS とは 元素に固有のX線吸収端近傍に現れる振動構造を XANES (X-ray Absorption Near Edge Structure)、それよりも高いエネルギー側に現れるなだらかな振動構 造を EXAFS (Extended X-ray Absorption Fine Structure) と呼び、その両者を 合わせて XAFS (X-ray Absorption Fine Structure) と呼ぶ。 表面照射型(FI) CCD、裏面照射型 (BI) CCD によって検出された、酸素K吸収端 付近の分散X線スペクトル。緑の点線は XIS-1号機で取得されたデータ。 FI-CCD: 酸素の吸収端付近で鮮明な XAFS 。 BI-CCD: 保護膜(SiO2) を通過しないため、酸素の吸収端による影響はない。 XIS-1号機 (FI): 2号機とほぼ同じ構造を示す。 XAFS の原理 物質中に含まれるある元素の特性吸収端付近のエネルギーを持つX線を照射 したとき、一部が吸収され、原子の内核電子を光電子として放出するためのエ ネルギーとして使われる。放出された光電子は、球面波として振る舞い、周りの 原子によって散乱される(上右図参照)。この散乱波と元の球面波が干渉し、吸 収係数が変調され、吸収端付近に微細構造が現れる。吸収端のごく近傍にお いては、光電子の持つエネルギーが小さいために、多重散乱による効果が大き く、複雑な微細構造、XANES が現れる。入射X線のエネルギーが、吸収端から 高エネルギー側へ離れるにつれ、振動は緩やかに減衰する (EXAFS) 。 シリコンK吸収端付近の分散X線スペクトル。取得条件は、若干異なる。 FI では、約 30% の強度減少が見られるが、酸素の吸収端付近ほど鮮明な XAFS 構造は見られない。また、BI では吸収端に相当する構造は見受けられない。 また、XIS-1号機(点線)との比較では、シリコンの付近でも大きな差異は見られない。 XAFS は、原子の近傍の構造を反映していることから、表面や界面の微小な領 域の構造を調べるのに適した方法として広く用いられている(X線吸収分光学)。 4. XAFS のモデル化 2. XISの検出効率 XAFS の影響 我々のXIS較正実験の一つの目的は、入射X線エネ ルギーの関数としての検出効率の測定にある。 X線 CCD検出器においては、電極や保護膜などの不感層 に用いられている酸素やシリコンのK殻吸収端エネル ギー付近にXAFSの影響が現れる。天体からやってく るX線は、このエネルギー付近に、熱的なプラズマ中 の高階電離した元素からの輝線など、重要な構造を 持つものが多い。したがって、このXAFS の効果を取 り入れた検出効率を求め、全ての衛星搭載用セン サーについて、より精密な応答関数を構築することが 要求されている。 上図は、酸素K吸収端付近の、規格化した分散ス ペクトル (FM-S2)に、Q.E.を重ねて表示したもの、 下図は、FI-CCD の Q.E. からのズレの割合をあら わしたものである。XAFS を細かく区切ったエネル ギー範囲にわけ、それぞれをモデルに基づいて フィッティングを行い、エネルギーの関数として求 める。例えば、E1 ~ E2 の XANES に相当する区 間では、 F(E) = A0 ∙ sin (A1 ∙ E 0.5 + A2) A2 = - A1 ∙ E1 0.5 というモデルが A0、A1、A2 をフリーパラメータ として適用される (Mori et al. 2001, NIMPR A, 459, 191-199)。 暫定的に求められている Q.E. とこの XAFS の結果を合わせ、最終的な検出効率として 衛 星搭載用 XIS の応答関数に組み込まれる。 XIS (FI-CCD) の検出効率 阪大実験システムで得られた XIS-EU 及び、XIS FM-S2センサー(ともに表面 照射型: FI-CCD)の 0.2 –2.2 keV の検 出効率(Q.E.)。実験システムの詳細は W10c (松浦他)、検出効率の詳細な導 出方法は W06b (勝田他)を参照。 尚、このモデルではまだ酸素、シリコン の吸収端近傍でのXAFS の影響は取 り入れられていない。 5. まとめと今後の予定 • FI-CCD は XAFS の影響により、酸素の吸収端近傍で顕著な微細構造を示す。 シリコンの吸収端付近でも構造は見られるが、酸素の場合ほど顕著ではない。 • BI-CCD は、その構造のため XAFS による影響が、いずれの場合も小さい。 • XIS-1号機との比較において、2号機でも同様の振る舞いを示すことから、XIS-1 号機で用いられた手法が適用可能。 • 全ての衛星搭載用センサーの XAFS 周辺の検出効率をモデル化し、XIS の応 答関数に組み込む。
© Copyright 2024 ExpyDoc