特別講義 II (c) - 計算ファイナンスの基礎 - 2009年10月21日 山本有作 はじめに 数理ファイナンスにおける課題 金融取引(株式売買,為替取引,融資など)に伴うリスク を数学モデルにより定量的に求めてその低減を図り,効 率的に利益を得る方法を追求する。 実際の問題では,解析的に解を求めることが困難な場合 が多い。 数値計算により解を求める計算ファイナンスが重要 計算ファイナンスのテーマ 資産価格のモデル化 株価,為替レート,金利などはどのように時間変化するか。 その統計的な法則を調べ,モデル化する。 デリバティブの設計・価格計算 市場変動による損失を回避するための,デリバティブ(金 融派生証券)と呼ばれる商品群がある。 デリバティブを設計し,その経済学的に妥当な価格を計算 する。 計算ファイナンスのテーマ リスク管理 金融取引に伴う様々なリスクを定量的に評価 市場リスク: 資産価格の変動による損失の可能性 信用リスク: 貸し倒れによる損失の可能性 資産運用最適化 様々な種類の資産(株式,国債,外貨など)を組み合わせ ることにより,最小限のリスクで最大限の利益を得られる 運用方法を求める。 授業の目標 代表的なデリバティブであるオプションについて学ぶ。 資産価格のモデル化とシミュレーションの技法について学ぶ。 上記を用いてオプションの価格計算を行う。 授業の構成 第1章 オプションとは 市場変動によるリスク オプションによるリスク回避 様々なオプション オプションの価格計算: 1期間2項モデル 第2章 確率論の基礎 ブラウン運動 ブラウン運動から生成される確率過程 確率微分方程式 授業の構成 第3章 ブラック・ショールズの資産価格モデル 安全資産のモデル 危険資産のモデル 伊藤の公式 資産価格モデルの解析解 第4章 ブラック・ショールズの偏微分方程式 ブラック・ショールズの偏微分方程式 ブラック・ショールズのオプション価格公式 授業の構成 第5章 差分法によるオプション価格計算 問題設定 陽的差分法 陰的差分法 演習課題 参考書 今野浩: 「金融工学の挑戦」,中公新書,2000. P. Wilmott, S. Howison and J. Dewynne (伊藤 幹夫,戸瀬信之訳): 「デリバティブの数学入門」, 共立出版,2002. P. Wilmott, J. Dewynne and S. Howison: “Option Pricing”,Oxford Financial Press, 1993. 森真: 「なっとくする数理ファイナンス」,講談社, 2001. 連絡先 山本有作 居室: 工学部本館 C3-201-1 Email: [email protected] 電話: 内線6342 株価の時間変化の例 トヨタの株価 2008年1月~2009年10月の22ヶ月間 為替レートの時間変化の例 ドル/円の為替レート 2008年1月~2009年10月の22ヶ月間 株価・為替レートデータの入手先 Yahoo! ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/ 最大10年間のグラフが見られる。 1. オプションとは オプションとは 将来のある時点で,特定の価格で金融商品を売買する権利 対象となる金融商品: 株式,債券,外貨,etc オプションの例 1年後にトヨタの株を3500円で売却する権利 --- プットオプション 3ヵ月後に1ドルを120円で購入する権利 --- コールオプション 資産価格 St ST – K > 0 : 権利を行使 ST – K 円の利益 行使価格 K ST – K < 0 : 権利を行使しない。 (市場で購入したほうが得) 満期 T 時間 t オプションから得られる利益(ペイオフ) プットオプション ペイオフ ペイオフ = max (K – ST , 0) K 0 K 満期での資産価格 ST コールオプション ペイオフ K 0 ペイオフ = max (ST – K, 0) K 満期での資産価格 ST 1. オプションとは オプションの用途 将来のキャッシュフローを現時点で確定させる。 これにより,市場変動によるリスクを回避する。 例: コールオプションによる為替リスクの回避 3ヵ月後に,ある原材料をアメリカから輸入したい。 購入代金は,その時点にならないと用意できない。 しかし予算は 1ドル = 90円 を前提として組んでおり,万一3ヵ月後の 時点で円が大きく下がっていると,赤字となる。 満期 T = 3ヶ月,行使価格 K = 90円 のドルのコールオプションを購 入することにより,為替リスクを回避可能。 1. オプションとは オプションの種類 ヨーロピアンオプション 満期Tにおいてのみ権利行使が可能なオプション 前のスライドで説明したオプションはこのタイプ。 St この時点でのみ行使可能 K アメリカンオプション T t 満期Tまでの間のいつでも権利行使が可能なオプション 市場で取引されるオプションの大多数はこのタイプ。 St 価格が下落して権利が無駄に なりそうだと予測すれば, の 時点で行使可能 K T t この期間にいつでも行使可能 1. オプションとは オプションの種類(続き) バリアオプション 資産価格がある範囲を越えた場合に権利が無効になるオプション ヨーロピアンタイプ,アメリカンタイプの両方がある。 St バリアレベル の時点でオプション無効化 K ルックバックオプション T t 満期Tにおいて,期間 [0, T] 中の最安値で資産を購入できるオプション St の時点での価格で購入可 K T t 1. オプションとは オプション市場の拡大 国内のデリバティブ市場は420億ドル規模(日銀調査による) オプションの多様化 金融以外の商品に対するオプション 原油,銅,大豆,etc 天候デリバティブ リアルオプション 事業価値,特許価値などの評価 2. オプションの価格評価 オプションの価格 オプションの買い手: 自分が利益を得られる場合にのみ,権利行使。 オプションの売り手: 自分が損する場合でも,行使価格で商品を売る (買う)義務がある。 オプション契約が成立するには,買い手が売り手に対し,代価(= オプ ションの価格)を支払う必要あり。 オプションの価格評価 経済学的に妥当なオプションの価格を求める。 本講義の主題 オプション価格の例 IBM株に対するオプション(2004年4月満期) ブラウン運動のシミュレーション [0,1]を1000分割した計算 ドリフトを持つブラウン運動 2 1.5 1 0.5 系列2 系列3 系列4 0 1 -0.5 -1 -1.5 1001 幾何ブラウン運動 (1) μ=0.05,σ=0.2 200 180 160 140 120 系列2 系列3 系列4 100 80 60 40 20 0 1 1001 幾何ブラウン運動 (2) μ=0.2,σ=0.3 200 180 160 140 120 系列2 系列3 系列4 100 80 60 40 20 0 1 1001 BS公式で計算したオプション価格 ヨーロピアン・コールオプション S0 = 100,r = 0.1,σ = 0.3 横軸は行使価格 K,縦軸はオプション価格 120 T=0 T=0.25 T=0.5 T=0.75 T=1.0 100 80 60 40 20 0 K 98 198 陽的差分法で計算したオプション価格 ヨーロピアン・コールオプション,K = 100,r = 0.1,σ = 0.3 横軸は初期資産価格 S0,縦軸はオプション価格 xmax= 5.0,N = 200,M = 150 120 T=1.0 T=0.5 T=0 100 80 60 40 20 0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 陽的差分法で計算したオプション価格 ヨーロピアン・コールオプション,K = 100,r = 0.1,σ = 0.3 横軸は初期資産価格 S0,縦軸はオプション価格 xmax= 5.0,N = 210,M = 150 T=1.0 400000 300000 T=1.0 200000 100000 0 0 -100000 -200000 -300000 -400000 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 陰的差分法で計算したオプション価格 ヨーロピアン・コールオプション,K = 100,r = 0.1,σ = 0.3 横軸は初期資産価格 S0,縦軸はオプション価格 xmax= 5.0,N = 210,M = 150 120 T=1.0 T=0.5 T=0 100 80 60 40 20 0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 陰的差分法とクランク-ニコルソン法の精度の比較 前記と同じオプションで S0 = 100,T = 1.0 とした 場合の価格 時間方向の分割数 M を 変えたときの両解法の 精度をプロット N = 10M と設定 1 1 10 0.1 0.01 0.001 0.0001 Implicit FDM Crank Nicolson 0.00001 0.000001 100 1000 プログラムのページ http://www.na.cse.nagoya-u.ac.jp /~yamamoto/programs.html 内容 ブラウン運動のシミュレーション ブラック-ショールズ公式によるオプション価格計算 差分法によるオプション価格計算 オプション価格の計算例 バリアオプション オプション価格の収束 バリアオプション
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