インターネットを用いた遠隔教育 スタジオ構築に関する研究 2002年春学期 修士論文最終発表練習 政策・メディア研究科2年 鳥谷部康晴 1 遠隔授業をとりまく背景 • インターネット技術を用いた遠隔授業により 時間と距離という物理的な制約にとらわれな い自由度の高い教育が行われるようになった • 遠隔授業中継を行うことにより時代の先端を 行く講師の講義を学生のいる大学まで赴くこ となく実施でき、世界中から最高レベルの講 師を招くことができる 2 問題意識 • 遠隔授業により学生がいつでも・どこでも授 業を受けることができる環境が整ってきてい る • しかし、授業を行う側の講師はいつでも・どこ でも授業を行う基盤が整っていなかった 3 本研究の目的 • いつでも・どこでも、教えたい人が教えられる 環境を提供することを目的とした遠隔授業ス タジオを提案する • そのモデルの正当性を示すためのプロトタイ プスタジオの構築 4 遠隔授業中継とは • 文部科学省の大学設置基準では遠隔授業について 以下に用に定められている ア) 多様な通信メディアを利用して、文字、音声、静止画、 動画等の多様な情報を一体的に扱うことができる状態で 行われること イ) 大学において、直接の対面授業に相当する教育効果を 有すると認められたもの • 上記2項に加え、質疑応答や授業中のコメントといっ た授業の流れを変えることができる双方向なやりと りを行いながら進める遠隔授業を遠隔授業中継と 定義する 5 これまでの遠隔授業中継との比較 • 本研究によって述べられる項目が実現されて いなかったため、不十分なものであった – 過去のSchool of Internet (SOI)での中継 – Space Collaboration System (SCS)での中継 6 スペース・コラボレーション・システム (SCS)との比較 • SCSとはメディア教育センター(NIME)運営す る衛星を使った遠隔授業中継システム • h.261で1.5Mbps • 衛星を使って日本全国津々浦々 – (でも日本の通信衛星なので海外はできない) – がっちりした仕様 – 単一経路で天候などにより衛星が使えなくなると 授業が続行できない 7 SOIでの過去の授業中継より • 1999年9月よりアメリカウィスコンシン州 ウィ スコンシン州立大学よりLarry Landweber教 授の最終講義を日本国内2大学へ高速イン ターネットを使って中継 • 4ヶ月間滞在し、機材の選定、構築から授業 の運用までを現地で行う • その際の問題点、苦労した点などが本研究 の問題意識となる 8 ウィスコンシン州からの中継実験 • アメリカウィスコンシン州立大学、慶應義塾大学、奈 良先端科学技術大学院大学の3大学の各授業担当 者が相互に講義を実施 • 慶應義塾大学で30人、奈良で17人、ウィスコンシン で60名の学生が受講し、相互に質疑応答などが行 われた • システムの設置、運営に手間がかかり、多くの運用 スタッフが必要であった • 単一の伝送手段しか用意しておらず、授業が中止さ れることが2度あった 9 いままでの遠隔中継の利点・欠点 • 遠隔授業中継の利点として – その分野でベストの人が授業を行える – 学生はよりレベルの教育を受けられる • 反面、今までの遠隔授業中継の欠点として – 障害により授業そのものが中止されるリスク • 偉い人がきたら特に失敗できない – 運用し、中継を行うためには多くの労力が必要 ↑ 以上の欠点によりどこからでも遠隔授業中継を 実施できるわけではなかった 10 インターネットを利用した 遠隔授業中継の特徴 • 伝送手段としてのインターネットは衛星・電 話・無線などをすべて包含して使用すること のできる抽象度の高いメディアである • 情報配信メディアとしてのインターネットは動 画のみならず文字や静止画なども一体的に 扱うことができる • こうした利点からインターネットの利用が不可 欠 11 遠隔地に授業を送信する際の問題点 • 授業中継を行う側は授業中継を受ける側より も実施のためのハードルが高い – 学生に授業を配信する、片方向重視な授業中継 が行われてきた – 1人の講師に対して多くの学生に配信する必要が あるため、安定性や冗長性を確保する必要があ る – 場を共有するために多くの学生側のリアクション を見る必要がある 12 本研究の位置づけ 13 遠隔教育実施に必要な要件の整理 1. 遠隔地とのコミュニケーション 1-1 演出面にて対面授業と同等に 1-2 質疑応答など、双方向なやりとりの実現 1-3 講義資料など複数の情報の配信を行う 2-1 障害時に代替のメディアへ瞬時に切り替え可能 2-2 抽象化された通信メディアが使用される 3-1 授業中継時、常駐スタッフへの負担の軽減 3-2 中継作業のマニュアル化 2. 安定性、冗長性 3. 運用の容易さ 1 遠隔地とのコミュニケーション • 1-1 演出面で対面授業と同等に – 講師の視線と遠隔地の学生が映っている画面と の位置を対応 – スタジオから配信する映像ソースをカメラの撮影 者によって3つの映像から選べるようにした • 1-2 双方向なやりとりの実現 – 学生が何を見て講義を受けているのかを講師が 送っている映像を見ることによって確認可能にし た 15 講師と遠隔学生の視線あわせ 16 1 遠隔地とのコミュニケーション • 1-3 講義資料など複数の情報の配信 – 発表資料を遠隔地から伝送するために代表的な 手段をあらかじめ用意した – その際、学生とのアイコンタクトを妨げない構成と した 17 2 冗長性・安定性 • 2-1 障害時に代替メディアへ瞬時に切り替え 可能 – 障害をすばやく認知するため、スタッフ用操作卓 で配信・受信状況を一望できるようにした • 2-2 抽象化された通信メディアの使用 – 複数の授業配信手段を用意し、瞬時に切り替え 可能とした 18 スタッフ用操作卓 Picture-in-Picture対応液晶 19 3 運用の容易さ • 3-1 授業中継時、運営スタッフへの負担の 軽減 – 遠隔地のパワーポイントと講師のパワーポイント のスライドとを同期させるRPTというソフトを採用 – リモコンカメラを準備し、講師一人ですら最低限 の講義が可能となる • 3-2 マニュアル化しての運用 – スタジオ機材の操作方法や中継中の対応などを マニュアル化 20 SOI Global Studioでの実証実験 • 2001年10月より2002年3月末まで米国内2 箇所にプロトタイプとなる遠隔授業用スタジオ を本研究のモデルに沿って構築 • 半年間の滞在で機材の調達からスタジオの 内装、授業の運営・実施までを現地で行った • 6名の講師によって述べ22時間50分の講義 が行われた 21 SOI Global Studio Project Fujitsu Lab College Park, Maryland NTT-MCL Palo Alto California 22 College Park Studio Equipment Diagram as of March 14, 2002 15" TFT DV-receive NTSC Booster DV-NTSC Wireless Microphone R Spk DV-NTSC Audio Mixer Audio Amplifier L Spk DV-send Receive VTR NTSC Booster 17" TFT 15" TFT camera 1 Matrix Switcher camera 2 Video Switcher Play VTR camera 3 17" TFT Polycom Document Camera Send VTR PDP 2 PDP 1 Note PC for PPT Video Signal Audio Signal 23 Yasuharu Toyabe [email protected] CollegeParkスタジオレイアウト 24 CollegeParkスタジオ 遠隔授業中継中の様子 25 CollegeParkスタジオ内機材ラック ラック上部 ラック中部 ラック下部 26 パロアルトスタジオレイアウト 15" LCD Lecturer PPT用 PC 36" TV 15" LCD Polycom Staff Rack 27 PaloAltoスタジオ 遠隔授業中継中の様子 28 運用実績 月日 時間 場所と講義名 11/09 16:20 - 19:30 JST College Park - SFC : Ms. Yoshida 02:20 - 05:30 EST KEIO Class "Design Language Workshop E" 09:25 - 10:55 JST Palo Alto - SFC : Mr. Stuart VP Metromedia Fiber Network, Inc. 16:25 - 17:55 EST KEIO Class by Dr. Nakamura "Internet Infrastructure Business" 16:20 - 19:30 JST College Park - SFC : Ms. Yoshida 02:20 - 05:30 EST KEIO Class "Design Language Workshop E" 09:00 - 12:00 JST College Park - SFC : Mr. Katoh, Mr. Maxwell 19:00 - 22:00 EST "Nikkei Digital Core Conference" 16:20 - 19:30 JST College Park - SFC : Ms. Yoshida, Mr. Sakuramoto 02:20 - 05:30 EST KEIO Class "Design Language Workshop E" 16:20 - 19:30 JST College Park - SFC : Ms. Yoshida 02:20 - 05:30 EST KEIO Class "Design Language Workshop E" 14:00 - 14:20 EST College Park - ISI, Los Angeles 11:00 - 11:20 PST "Internet2 IPv6 Seminar Demo Session" 09:00 - 11:00 JST Palo Alto - NTT Celrian Towers : Mr. Menjo 16:00 - 18:00 PST KEIO Class Mr. Kokuryo "Management of Japanese Firms VI" 10:40 - 12:00 JST Palo Alto - Hokkaido : Dr. Kadobayashi, Dr. Esaki 17:40 - 19:00 PST "Hokkaido Broadband Business Session Solution Seminar" 10:30 - 12:00 JST College Park - SFC 20:30 - 22:30 EST "SOI Global Studio Panel Discussion in front of Press" 11/30 12/07 12/08 01/11 01/18 02/12 03/09 03/14 03/22 29 本研究により構築されたスタジオで 行われた授業中継の一例 • Mr. Elliot Maxwell, special advisor to the President Clinton on e-commerce • Ms. Gyoko Yoshida, an artist from New York • Mr. Stephen Stuart, Metromedia Fiber Network, Inc., Vice President of Internet Technology 30 実証実験 その1 • 1. 遠隔地とのコミュニケーション – 12月7日に行われた授業中継では授業の形態と して遠隔地の学生と1対1で双方向な議論を中心 に進められる授業であり、そうした授業でも活発 な議論が行われた。 – また、芸術分野を扱う授業においても白板に書か れた図や撮影されたビデオなども遠隔地に再生 することができ、複数の講義情報の配信も行った 31 実証実験 その2 • 2. 安定性・冗長性の確立 – 12月7日に行われた授業中継ではスタジオから 学生のいる日本の教室までの授業中継中、第1 の映像・音声伝送手段であるDVTSというソフト ウェアを制御するハードウェアの障害から10秒に 1回程度の割合で映像が途切れる状況となった がボタンひとつで切り替えを行い、第2の映像・音 声伝送手段に切り替えが行われ、授業が中止さ れることなく続行することができた 32 実証実験 その3 • 3. 運用の容易さ – 月に1度のペースで行われた授業においても定 常的に運用し、定常的な授業を行うことができた – 2月12日に行われた講義では講師が全て機材の 操作を行い、リモコンカメラやRPTの利用により、 講師のみで授業を行うことができた – 3月9日に行われた講義ではスタジオを構築した スタッフ抜きで操作マニュアルのみで遠隔授業中 継を行うことができた 33 評価 • 授業を行いたい人が世界中から授業を発信 する際に問題点となっていた – 1.遠隔地とのコミュニケーション – 2.安定性・冗長性 – 3.運用の容易さ について実証実験を通じて評価を行った 34 評価・遠隔地とのコミュニケーション 実証実験において • 遠隔地の学生と講師とで激しい論議を行うこ とができた • 白板に書かれた図やビデオで撮影された映 像など、複数の授業情報を遠隔地へ送信す ることができた • よって遠隔地とのコミュニケーションはとれた と評価できる 35 評価・安定性、冗長性の確保 実証実験において • 使用機材のトラブルにより主として使われて いた機材に障害が生じたが、第2の映像・音 声伝送手段に移行し、授業を続行することが できた • よって安定性、冗長性の確保はなされたと評 価できる 36 評価・運用の容易さ 実証実験において • 講師一人でも遠隔授業を配信することができ た • 作業マニュアルのみで遠隔授業用のスタジオ に熟知していないスタッフであっても何のトラ ブルもなく遠隔授業中継を実施できた • よって運用の容易さは実現されたと評価でき る 37 今後の課題 • 遠隔地の講師と学生とが映像・音声・視線・マ テリアルよりも多くの情報をやりとりし、対面 で行われる授業を大幅に超えるような環境を 構築し、世界中でそうした遠隔授業中継が行 われていくようにする 38 結論 • 遠隔授業スタジオの提案と実現に関する技 術的検討を行い、その正当性を示すためにプ ロトタイプスタジオを構築した • 運営を通じた実証実験では慶應義塾大学、 WIDEプロジェクト、School of Internetプロ ジェクトに利用され、6名の講師の延べ22時 間50分の講義をサポートし、本研究の正当 性が実証された 39 ご清聴ありがとうございました。 40
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