住宅構造の変遷

「建築構法」 1回目の授業
住宅構造の変遷
平成28年4月18日(月)
今岡 克也
住宅とは?
• 「生活の器」:人(家族)が生活するための空間
快適(健康・省エネ),安心・安全,接客,外観‥ ‥
• 「住む人を表現するもの」:
住宅は、住人の考え方・伝統・風習などを反映
• 「時代と文化を映す鏡」:
① 気候や地形,災害危険度などの自然条件
② 生活する場(ケ)と接客の場(晴れ)
③ 技術の進展(最新)や社会の規制(合理性)
3つの時代区分
(1)弥生時代から江戸時代まで
竪穴式→高床式→寝殿造
→書院造→農家造→町屋造
(2)明治から昭和にかけて
延焼の防止,水道・電気・ガスの普及
(3)平成から現在
耐震壁や接合金物,工法の合理化
環濠集落と竪穴式住宅
前3世紀~2世紀頃
住宅跡
環濠
約 120 m
横浜市 大塚遺跡 115棟の竪穴式住宅
環濠集落の立地条件
• 湿気を避けた乾燥した場所
• 日当りの良い高い丘の上
• 排水性が良い土の上
・周囲に溝である濠を巡らせる
およそ120m×170m
竪穴式住居の遺跡の例
地面から80cmほど掘り下げて
柱の根本を地中に埋める(掘立柱)
竪穴式住宅の軸組構造
けた
桁
むねぎ
たるき
棟木
垂木
梁
柱に桁を取り付け
梁をかけて,
縄などで固定
垂木を放射状に架け
棟木を3本材で支える
竪穴式住宅の復元例
垂木の上に藁や茅を葺く
竪穴式住宅のゾーニング
家族4~5人、ネマには地面に板や藁を敷く
竪穴式住宅の生活(想像)
炉の周りにムシロを引いて座る
竪穴式住宅の特徴
① 約 80cm 掘り下げて柱を地中に埋める
② 丸太で柱と桁や梁を組み縄で固定
③ 垂木を放射状に掛け,藁や茅を葺く
④ 炉やカマドが中央やや奥にある
⑤ 床は土間で,寝間には板や藁を敷く
軸組の拡張
桁行方向
桁
梁間方向
桁行方向に拡張させて,大きくする
高床住宅の絵
身分の高い人は
高い床を持つ住宅
家屋文鏡
4世紀頃
(古墳時代)
高床式住宅の構造
梁に柱のほぞ
を挿す頭貫
柱に梁のほぞ
を挿す貫構造
4世紀頃
高床式住居の復元例
三内丸山遺跡(青森市)
奈良時代の貴族の住宅の例
長屋王(684~729)邸の復元模型
も や
ひさし
母屋と庇
1.82 m
3.64 m
1.82 m
梁間
桁行
母屋の外周部に
1間(1.82 m)幅の
庇(広縁)を造る
母屋の梁間を2間
(3.64 m)にすれば
桁行は拡張が可能
寝殿造の例(京都御所)
蔀
母屋
庇
平安時代の藤原北家の邸
母屋
庇
(広縁)
「年中行事絵巻」より
寝殿造の復元例
南側
の庭
庇
(広縁)
平城京 左京 三条二坊
寝殿造の特徴
① 礎石の上に掘立ての丸い柱
② 板敷きの床で,人が座る場所に畳
③ 屋根裏には天井を張らない
④ 開放的な大空間 →多目的に利用
⑤ 南側に庭園を造り広縁と一体化
慈照寺(銀閣寺)内の東求堂
1490年頃
角柱
書院造の例
なげし
長押
ちがいだな
違棚
つけしょいん
付書院
畳
1500年頃
銀閣寺の東求堂の同仁斎
天井
東求堂の平面図
1500年頃
書院造の特徴
① 柱は正方形(角柱),梁は長方形
② 畳敷きの床(間取りの基準化)
③ 水平な板で天井を張る
④ 襖や引違戸で部屋を仕切る
⑤ 床の間に付書院と違棚
現在の書院造:座敷
なげし
長押
つけしょいん
付書院
床の間
ちがいだな
違棚
床柱
戸建住宅の技術史
26
江戸初期の農家造の住宅例
大黒柱
上層農家の住宅例(江戸中期)
書院造
農家造の構造と平面
住宅の中央に
大黒柱等を設ける
変形田の字型平面
小黒柱
田の字型平面
大黒柱
農家造の特徴
① 屋根が茅葺や板葺が多い
② 東側に土間があり,厩(うまや)を兼ねる
③ 田の字型の平面で,西端には床がある
④ 南側には縁側があり,北側にはない
⑤ 土間の北側に流しやかまどがある
今も残る農家型住宅の例
屋根は茅葺き,台所は土間
江戸時代の大火防止対策
・ 明暦の大火: 1657年3月2日~3日
江戸の大半を焼失,死者約10万人
江戸城天守閣も焼失
<大火防止対策>
①火除地や広小路の設置
②火消組や木戸番制度の設置
③土蔵造や瓦葺屋根の奨励
屋根を板葺きや茅葺きから(桟瓦1674年~)
本瓦
と桟瓦
明治初期の都市住宅の例
モースが紹介した住宅
34
明治中期の都会の賃貸住宅
1890年(明治23年)建築
約130㎡ 夏目漱石の借家
・瓦葺きの寄棟屋根
・土間がなくなる
・座敷が南で茶の間は北
35
・台所は玄関に近い
明治の都市住宅の特徴
① 屋根が瓦葺き
② 南側に縁側と客間がある
③ 2階は狭く,子供部屋などに利用
④ 台所が玄関に近い ← 水道の未発達
⑤ 便所が離れた場所にある ←汲取り式
明治末期のアメリカ式住宅
大正の洋風住宅
北米の2×4の
壁式住宅を輸入
大正の住宅改善運動
① 洋間としてイス座とする
② 家族の生活を最優先とする
③ 実用的な設備を導入する
④ 実用的な家具とする
⑤ 田園都市や共同住宅を奨励する
電灯とガスの普及率
電灯の
普及
ガス炊飯釜
ガス焚き
の特許
風呂釜の販売
薪から
プロパンガスへ
関東大震災
上水道の普及率
井戸水から
水道水へ
ガスや水道の普及で台所は変化
薪からプロパンガスへ
42
井戸から水道へ
汲取式から水洗式便所へ
臭気が入るため
屋外に設置
戸建住宅の技術史
43
S字トラップの発明
中廊下型住宅の例
昭和初期
西側に玄関,南面に縁側と座敷と茶の間
戸建住宅の技術史
44
中廊下型住宅の特徴
① 南側に居間と広縁などを配置する
② 他の部屋を通らずに移動できる
③ 応接として洋間を設ける
④ 台所・風呂・便所などを北側にする
中廊下型住宅の例(昭和初期)
・2階建て,東側に玄関
・南面に居間や客間
玄関ホール型の分譲住宅(昭和)
北側に玄関
平成からの木造軸組住宅(1)
① 床下の湿気防止:柱脚や土台の腐朽防止
・べた基礎にして換気口を設ける
・布基礎にして防湿フィルムで覆う
② 屋根の軽量化 → 軽量瓦や化粧スレート等
③ 木材の加工は,プレカット工場で機械化
④ 接合部の金物補強
平成からの木造軸組住宅(2)
⑤ 耐震基準の強化 → 4分割法で確認
・耐震壁をバランス良く配置させる
⑥ 施工性の向上 → 2階床の根太をなくす
・25mm以上の合板を釘打ちして床を作成
⑦ 四隅通し柱から全て管柱へ
→ 耐震性と施工性を向上させ
べた基礎
アンカーボルト
化粧スレート葺き屋根
プレカットによる接合部の加工
大入れ蟻掛け
柱のほぞ穴
羽子板ボルト
用の穴
柱頭のほぞ
管柱と梁
梁(集成材)
2階の根太レス床と梁の接合部
羽子板ボルト
筋交いの壁倍率
たすき掛け
(倍率4)
片筋交い
(倍率2)
内壁と天井
の石膏ボード
(2階)
内壁:t=12mm
不燃材料
天井:t=9.5mm
準不燃材料