三位一体改革と交付税改革

市町村合併の展望及び
諸課題について
関西学院大学 小西砂千夫
[email protected]
1
市町村合併の課題




分権改革の課題としての市町村合併
政治的意思としての市町村合併
とはいいながら、地方交付税の見直しがト
リガーになった
本来のねらいは体制整備にある
2
近年の地方自治制度、地方財政制度の動き
1992
4
国と地方の法
的関係の見直
し(機関委任
事務の廃止)
1993
5
衆参両
院での
分権決
議
1994
6
1995
7
1996
8
1997
9
1998
10
1999
11
2000
12
2001
13
地方分権推進委員会
義務づけ・規
制等の見直し
2002
14
2003
15
2004
16
2005
17
地方分権改革推進会議
2006
18
2007
19
2008
20
2009
21
2010
22
事務の義務づけ等の緩和
事務事業の見直し
(義務づけ・規制等の
見直し)
地方分権一括法
12.04.01施行
ただし、合併特例法
(旧法)は即日施行
13年度頃から地方交
付税制度の見直し
(段階補正の縮小)、
臨時財政対策債の
スタート
4兆円の
国庫補助
負担金の
圧縮
3兆円の
税源移譲
三位一体改革
中期ビ
ジョン
増税??
(
第2期)
財政改革
地方財政計画の縮減にともなう地方交付税の圧縮
地方債の許可制度
地方債の協議制のスタート
地方交付税の見直し(
補正係数、留保財源等)
市町村合併:
権限・
権能にふさわしい組織の強化
地方行政制度
道州制:都道府県合併+国の地方支分局の権能を都道府
県へ委譲
西尾私案:
合併に拠らないで権限の縮小による、小規模
町村における組織と権限のアンバランスの解消をめざす
「
特例町村制度」
の導入(
事務配分特例方式、内部団体
移行方式)
+地域自治組織の強化(団体自治とバランス
を取った住民自治の強化)
合併特例法(旧法)
合併特例法(新法)
財政優遇措置を強化
財政優遇措置は原則なし
都道府県の役割強化
全国町村会・北海道
町村会の対案
西尾私案
北海道における道州
制特区
最終答申
地域自治区、合併特例区などの地域自治
組織の導入、自主的な都道府県合併の枠
組みの導入
27次
28次
地方制度調査会
特例町村制度のス
タート??
道州制の導入??
(2010年代)
行政体制整備としての市町村合併




権能配分にふさわしい組織体制の整備
権能配分が規模に関して基本的に一定に
することが、基礎的自治体を重視するわが
国の自治の原則→合併が不可避
権能配分を規模に比例させると合併は不
要になる→いわゆる西尾私案
ちなみに、権能配分と財政力が比例してい
ないので、地方交付税が必要
4
第27次地地方制度調査会の
いわゆる西尾私案について




市並の事務を処理し、権限を行使する際の標準的な人口Aを
法律で明記し、その解消をめざすことを明示。そのうえで、たと
えば人口B未満の団体は申請により、事務配分特例方式がで
きる。事務配分特例方式とは、当該団体は法令による義務づ
けの自治事務を一般的に処理し、窓口サービス等、通常の基
礎的自治体に法令上義務づけられた事務の一部を処理する。
当該団体に義務づけられなかった事務は都道府県の処理を
義務づけることとされる。
人口がB未満で、さらにA未満であれば、事務配分特例方式
を選ぶか、他の団体に合併するかを一定期日までに選ぶ。
人口C未満の団体は、他の基礎的自治体への編入によりい
わば水平補完され(内部団体移行方式)、一定期日までにこ
の編入先の基礎的自治体の内部団体に移行するものとする。
事務配分特例方式と内部団体移行方式は、どちらかまたは並
列とされ、並列の場合には、おそらくB>A>Cとなる
5
平成17年3月31日までの合併特例法の下で進んだ市町村合併
区分
H11.3.31現在 団体数
人口は平成7年国
勢調査に基づく
累計
H18.3.31現在
団体数
(
申請済みベー
ス、速報値による)
人口は平成12年
累計
国勢調査に基づく
変化率
上段は構成比の 団体数
差
下段は団体数の
変化率
累計
1千人未満
( 1.3 )
42
( 1.3 )
42
( 1.2 )
22
( 1.2 )
22
-( 0.1 )
-47.6
-( 0.1 )
-47.6
5万人以上 10万人以
1千人以上 5千人以上 1万人以上 2万人以上 3万人以上 4万人以上
10万人未
上
5千人未満 1万人未満 2万人未満 3万人未満 4万人未満 5万人未満
満
20万人未
( 19.6 ) ( 26.6 ) ( 22.0 )
( 8.5 )
( 5.2 )
( 2.9 )
635
860
712
274
168
94
( 20.9 ) ( 47.6 ) ( 69.6 ) ( 78.1 ) ( 83.3 ) ( 86.2 )
677
1,537
2,249
2,523
2,691
2,785
( 10.8 ) ( 14.8 ) ( 18.3 ) ( 10.8 )
( 8.6 )
( 5.8 )
196
270
333
196
157
106
( 12.0 ) ( 26.8 ) ( 45.1 ) ( 55.8 ) ( 64.4 ) ( 70.3 )
218
488
821
1,017
1,174
1,280
-( 8.9 ) -( 11.8 ) -( 3.8 )
( 2.3 )
( 3.4 )
( 2.9 )
-69.1
-68.6
-53.2
-28.5
-6.5
12.8
-( 9.0 ) -( 20.8 ) -( 24.5 ) -( 22.2 ) -( 18.8 ) -( 15.9 )
-67.8
-68.2
-63.5
-59.7
-56.4
-54.0
( 7.0 )
227
( 93.2 )
3,012
( 15.4 )
280
( 85.6 )
1,560
( 8.3 )
23.3
-( 7.6 )
-48.2
( 3.6 )
115
( 96.8 )
3,127
( 8.2 )
149
( 93.8 )
1,709
( 4.6 )
29.6
-( 3.0 )
-45.3
20万人以
上
30万人未
( 1.3 )
41
( 98.0 )
3,168
( 2.1 )
39
( 95.9 )
1,748
( 0.9 )
-4.9
-( 2.1 )
-44.8
30万人以 50万人以
100万人以
上
上
上
50万人未 100万人未
( 1.3 )
43
( 99.4 )
3,211
( 2.6 )
48
( 98.6 )
1,796
( 1.3 )
11.6
-( 0.8 )
-44.1
合計
( 0.3 )
( 0.3 ) ( 100.0 )
11
10
3,232
( 99.7 ) ( 100.0 )
3,222
3,232
( 0.8 )
( 0.7 ) ( 100.0 )
14
12
1,822
( 99.3 ) ( 100.0 )
1,810
1,822
( 0.4 )
( 0.3 )
27.3
20.0
-43.6
-( 0.3 )
( 0.0 )
-43.8
-43.6
人口規模別に見ると、市町村数の変化率は、人口5000人から1万人未満のところで最
も多く、減少率はおよそ7割である。それよりも規模の大きな市町村でも団体数は減少
しているが、人口4万人以上5万人未満ではむしろ合併によって増加しているなど、4万
人以上では一部例外はあるものの団体数は増えている。また累積市町村数で見ても、
人口1万人未満の団体数は7割減となり、1500強から500未満に減少している。人口1
万人未満の団体が占める割合は、かつては全市町村数のおよそ半分であったが、4分
の1に半減することとなった。
西尾私案への評価と今後




西尾私案は、合併新法後の進むべき姿となる
西尾私案の論点は、強制的な制度とするか、任
意の制度とするか
小規模団体に権能差をつけるとして、窓口サー
ビスのような基本的なものを中心に担うとあるだ
けで、擬態的には今後の制度設計であり、窓口
サービスだけを行うと限定していない。
窓口サービスのようなもっとも基礎的なサービス
を中心に事務の範囲を限定することであって、防
災や社会教育を含んだかなり大きな権限として
設計できることも今後あり得る
7
財政危機と市町村合併




財政危機の原因は、言うまでもなく、地方交付税
等の削減にあるが、その厳しさは、小規模町村
の方が相対的に重い
その原因は、留保財源に対する交付税措置のな
い元利償還金にあるのではないか
合併のメリットはあるが、それはかなり限定的な
ものであり、職員数の削減を急がなければ実現
しない
過疎団体以外は、通常債のおよそ3倍までの特
例債を出しても起債制限比率への影響は同じ 8
公債費と償還財源の関係
地方財政計画内の起債
基準財政需要額に算
元利償還金(特定財源にかかる部分は除く) 入される元利償還金
償還財源
基準財政需要額
に算入されない
元利償還金
不同意債等
に係る元利
償還金
留保財源
超過課税、
法定外税な
ど
地方交付税+基準財政収入額
一般財源
備考)
主たる償還財源
計画外の起債
従たる償還財源
財政力指数と起債制限比率(平成13年度、全市町村)
24.0
21.0
交付税措置のない元利
償還金よりも留保財源の
方が大きい
18.0
15.0
起
債
制
限 12.0
比
率
9.0
6.0
3.0
交付税措置のない元利
償還金の方が留保背淫
よりも大きい
0.0
0.00
0.20
0.40
0.60
財政力指数
0.80
1.00
1.20
交付税の減額がない場合
交付税の減額がある場合
合併前の交付
税の合計額
合併後の交付
税の算定額
財政的メリット
財政的メリット
10年後
15年後
10年後
15年後
一般単独事業債の財政負担X:
0.25A[一般財源充当]+0.75×(A+金利)[起債にかかる公債費分]
合併特例債の財政負担Y:
0.05A[一般財源充当]+0.95×(1-0.7)×(A+金利)[起債にかかる公債費分]=0.05A+0.285×
(A+金利)
金利の部分を除くと、合併特例債の財政負担は、0.335Aとなるので、一般単独事業債に対して、同じ
事業費であっても、財政負担はおおよそ3分の1
合併新法下での合併の見通し





県の役割が重視されたが、基本的に変わ
るところはない
合併新法はいわば追加募集
ただし、西尾私案(特例町村制度)を視野
に入れる必要がある
小規模町村の解消に主眼をおくべき
竹中懇談会の破たん法制等が刺激になる
可能性も
12
合併後の行財政運営の課題(1)
職員定数の削減、支所行政



職員定数の適正化をどのように計画的に
進めるか(小規模町村同士の合併や、中
核となる市の規模が比較的小さいほど、目
標削減数は大きい
本庁と支所との関係は千差万別であり、そ
のあり方を十分に考える必要がある
合併して新たな社風を作ることに専念すべ
き
13
合併後の行財政運営の課題(2)
財政運営のあり方



合併後の財政運営は慎重であるべき
新市(町)建設計画に挙げなければ合併特
例債事業の対象とならないので、実施の
可能性のある事業はすべて網羅したが、
何が必要であり、財政的にどこまでかどう
かは改めて判断すべき
合併後に総合計画を策定する場合は多い
が、財政計画との整合性に注意
14
自治基本条例・
ローカルマニフェスト・
総合計画・
予算編成との関係
自治基本条例(
期限なし、
上位計画
自治体の理念)
議決事項
整合性が必要
選挙における約束
ローカルマニフェスト(
内
容・
形式は自由、進捗管
理の実施が前提)
整合性が必要
上位計画
整合性が必要
上位計画
総合計画・
基本構想(
期限
あり、当面の政策理念)
上位計画
総合計画・
基本計画(
期限
あり、基本構想に対する事
業の例示)
行政計画
目標体系の提示
中長期の財政計画
整合性が必要
実施計画(
期間3~5年で
毎年度見直す、事業計画、
進捗管理を要する)
予算編成(
基本的に 財政課が決算管理
の観点で事後チェック
は枠予算に)
達成度の数値目標
(
output/outcom e指標)
事業課の予算に関す
事業課による自己評価
る自由度の拡大
行政評価
予算編成・
執行
事業課の執行管理能力の向上
合併後の行財政運営の課題(3)
地域自治組織の活用




地域自治組織は、新たなる協働の姿として
住民自治の強化という観点で考えるべき
単なる要望団体であってはならない
事実上、段階的合併という趣旨の制度もあ
り、それはあくまで暫定的なもの
地域自治組織が生きるかどうかは、担う住
民の意思次第
16
審議会
地域自治区
地域自治区
(地方自治法による)(合併特例法による)
合併特例区
該当せず
該当せず
区長
区長の
該当せず
権限
予算
市町の予算の一部
該当せず
置けない
地域協議会として
区域に関するもので
市町長から諮問され
たもの、または必要
と認めるものについ
て審議し、意見を述
べる
合併特例区協議会として
区域に関するもので市町長から諮問
されたもの、または必要と認めるも
のについて審議し、意見を述べる
区の予算、合併特例区規則、市町長
との規約変更協議等についての同
意、決算の認定等
区の予算があり、補正予算等も可、
財源は市町から移転される(課税権
はなく地方債の借入はできない)
区を代表し、事務を総理、職員の指
揮監督、合併特例区規則の制定、予
算編成、執行、会計・決算事務等
住所には区の名称
住所には区の名称を冠する(名称は
を冠する(名称は自
自由)
由)
市町の予算の一部
担当事務の処理
区の事務所長に変
区長(常勤特別職)は必置
えて区長(特別職)を
区長は助役、支所長と兼務できる
置くことができる
区長は市長の被選挙権を有する者
区長は市町長が選
のうちから市町長が選任
任
任期は2年以内
任期は2年以内
地域協議会として
区域に関するもので
市町長から諮問され
たもの、または必要
と認めるものについ
て審議し、意見を述
べる
2年以内
出所)秋田県旧太田町『広報おおた』(2004年5月14日号、3頁の表から筆者が一部加筆修正
住居表
示
該当せず
該当せず
権限
該当せず
審議会として
区域に関するもの
で市町長から諮問
されたもの、また
は必要と認めるも
のについて審議
し、意見を述べる
地域審議会として
区域に関するもの
で市町長から諮問
されたもの、また
は必要と認めるも
のについて審議
し、意見を述べる
4年以内
特に制限なし
特に制限なし
任期
4年以内
区域内に住所を有する者で市議会
区域内に住所を有す 区域内に住所を有
議員の被選挙権を有する者のうちか
る者のうちから市町 する者のうちから市
ら規約に定める方法により市町長が
長が選任
町長が選任
選任
条例で定める
合併関係市町村
の協議で定める
構成員
5年以内
協議で定める期間
合併関係市町村の協議により規約
を定め、合併前に設置を決定し、各
市町村議会の議決を経て、知事の
認可が必要
期間限定なし
市町の事務を分掌
協議で定める期間 期間限定なし
市町の事務を分掌
法令で市町が行うとされている事務
等は処理できない
区で処理することが効果的な事務、
区域住民の生活利便性向上等のた
めの特に必要な事務
期間
-
財産処分等も可(一定の場合には合
併市町長の承認が必要(議会の議
決も必要)
○(特別地方公共団体)
○
合併関係市町村の
協議により合併前に
設置を決定し、各市
町村議会の議決が
必要
-
×
○
旧町村単位(旧市町
条例で定める区域
旧町村単位(旧市町村区域を合わせ
村区域を合わせた
(市町の全域を対象
た設置も、市町村の一部に設置も
設置も、市町村の一
に設置)
可)
部に設置も可)
×
○
合併関係市町村
の協議により合併
設置手
(合併後に)条例で 合併後に条例で定
前に設置を決定
続き
定める
める
し、各市町村議会
の議決が必要
事務等
-
-
-
法人格
設置区
旧市町村単位
画
×
×
事務所
合併と 合併に際してのみ 合併に関係なく設 合併に際してのみ設 合併に関係なく設置
合併に際してのみ設置可
の関係 設置可
置可
置可
可
地域審議会
地域自治組織の比較
合併後の県組織の見直し



合併が進み、町村数が減少すると、都道
府県のうち、町村サポート事務は減少する
ので、県組織の縮小は可能
県から市町村への権限移譲はできるが、
任意に基づくケースの方が多く、財源措置
も必要
県単独事業の実施の仕方という観点で出
先機関の見直す余地は多い
18
道州制の見通し




道州制は国の地方支分局が担う事務の都道府県
への移譲(+都府県合併)であるので市町村合併と
は異なる
地方制度調査会は、分権改革に逆行する道州制の
動きを封じることに主眼がある
小規模町村のあり方、地方財政改革のあり方と絡
む部分が多く、その意味では道州制の議論はすぐ
には結論が出ない
道州制に対する経済界からの期待は大きいが、若
干、先走った感じは否めない
19