欧州の安全保障 ―NATOとEUを中心に― 安全保障論 (第7回) 担当:神保 謙 (参考)リージョナル・アナトミー論I 特別講義 ジェームズ・D・ケリー 在日米海軍司令官 Special Lecture RADM James D. Kelly Commander, US Naval Forces, Japan 日 時: 6月8日(木) 第2限 場 所: τ11 (大学院棟) 演 題: US-Japan Alliance and the Role of US Forces in Japan 使用言語: 英語 質問1:あなたは、今後核兵器を持つ国は増えると思いますか。減ると思いますか。 それとも、変わらないと思いますか。 質問2:あなたは、今後10年のあいだに、世界のどこかで核兵器が使われると思い ますか?そうは思いませんか。 質問 1 質問 2 1.増える 2.減る 3.変わら ない 4.その他 1.使われ る 2.使われな い 3.その他 全 体 193 28 77 5 78 215 9 総 合 134 20 40 4 55 134 8 環 境 58 8 36 1 21 81 1 看 護 1 0 1 0 2 0 0 男 性 118 20 48 2 49 133 6 女 性 75 8 29 3 29 82 3 質問3: (質問2で「使われると思う」と答えた人に)では、誰によって使われると思い ますか? 質問4: 「核兵器によって、ほかの国からの攻撃を防ぐことができる」という考え方 があります。あなたは、この核抑止論の考え方を支持しますか? 質問 3 質問 4 1.NPT加盟 核保有国 2.NPT非加 盟核保有国 3.テロリス ト 4.その他 1.支持する 2.支持しない 3.その他 全 体 15 19 48 2 115 153 35 総 合 13 16 32 2 77 95 26 環 境 2 2 15 0 38 56 9 看 護 0 1 1 0 0 2 18 男 性 9 8 27 1 87 82 19 女 性 6 11 18 1 28 71 16 第7回講義のねらい ヨーロッパ(欧州)における安全保障の重層的構造 と役割分担を理解する(ポスト冷戦・ポスト9.11) NATO・EUが、任務の拡大、加盟国の拡大、機構 改革を通して、いかなる安全保障秩序を構築しよう としているのか アジア・太平洋地域への示唆は?(次週の課題) 学習の手引き ウェブサイト – 安全保障論ノススメ「欧州における安全保障:NATO・EUを中心に」 – NATO (http://www.nato.int/) – EU (http://europa.eu/) – EU駐日代表部(http://jpn.cec.eu.int/home_jp.php) 論文 – 広瀬佳一「欧州安全保障・防衛政策の可能性―NATOとの関係を 中心に」『国際政治』第142号(2005年8月) – 鶴岡路人「国際政治におけるパワーとしてのEU―欧州安全保障戦 略と米欧関係―」『国際政治』(第142号、2005年8月) – 植田隆子「欧州連合(EU)の軍事・非軍事的危機管理―欧州の地域 的国際組織における国際平和維持活動の構造変動」『国際法外交 雑誌』(2003年11月) 北大西洋条約機構(NATO) 1949年、北大西洋条約に基づき米国・カ ナダ及び欧州10カ国を原加盟国として発 足⇒現在は26カ国 本部はベルギー・ブリュッセル NATOの集団防衛(第5条) 第5条 締約国は、ヨーロッパまたは北アメリカにおける1以上の 締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみ なすことに同意する。・・そのような武力攻撃が行われた ときは、各締約国が、国際連合憲章第51条の規定に よって認められている個別または集団的自衛権を行使し て、北大西洋地域の安全を回復しかつ維持するために その必要と認める行動(兵力の使用を含む)を、個別的 に及び他の締約国と共同して直ちにとることにより、その 攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。 参考:第5条事態としての9.11 2001年9月12日に北大西洋理事会(NAC)は、 9.11事件が外国からの攻撃であれば、第5条事 態とみなすことに合意。 2001年10月2日に、NATOは第5条規定を発動 – 地中海常設海軍(STANAFORMED)の展開 – 早期警戒管制機(AWACS)を米本土に派遣 ポスト冷戦・ポスト9.11のNATO 任務の拡大 加盟国の拡大 機構の変革 「新戦略概念」(1999年4月) 新戦略概念の採択 – 欧州の周辺地域における地域紛争も、欧州の安全保 障上の脅威になるとの認識の下、初めて域外地域を 対象とした紛争予防、危機管理等を新たな任務(非5 条任務)として加えた 転機となったバルカン紛争 – ボスニア・ヘルツェゴビナへの空軍力の提供(1993) – ボスニア・ヘルツェゴビナへの平和履行部隊(IFOR)の展開 (1995)⇒安定化部隊(SFOR)の展開(1996) – コソボ紛争における空爆実施(1999.3) (参考)国際安全保障システムの類型 脅威の性格 特定 部 外 脅 威 の 所 在 包 括非 包 括 a1 b1 抑止・対抗型 (同盟) a2 部 不特定 域外脅威対処型の同盟 b2 (COCOM型) (MTCR型) 包 括 c1 d1 危機管理 内 非 包 括 c2 集団安全保障 d2 共通の安全保障 協調的安全保障 (出所)山本吉宣「協調的安全保障の可能性—基礎的な考察」 『国際問題』第425号(1995年8月)4頁 アフガニスタンにおける活動 国際治安支援部隊(ISAF)の総指揮権を継承 (2003.8) – カブール及び周辺地域における治安維持 地域復興チーム(PRT) – ISAFの指揮の下、クンドゥス他の地域における治安 維持区域を拡大 イラク戦争への対応 プラハ首脳会合(2002年11月) – 安保理決議1441の支持 – イラクに対して同決議の完全遵守の要請 イラク戦争開戦過程での欧州断裂 – 「古い欧州」(仏・独・ベルギー)と「新しい欧州」(スペ イン・ポーランド)の分断(ラムズフェルド米国防長官) – 対トルコ安全保障支援(米提案)への反対 イラク戦争後の対応 – ポーランドの平和維持活動を支援(情報提供・後方支 援) – イスタンブール首脳会議(2004年6月):安保理決議 1546の効果的実施のための支援 NATO拡大プロセス 第1次拡大(1999年3月) – ハンガリー/チェコ/ポーランド(3カ国) 第2次拡大(2002年11月) – バルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)・ スロバキア・スロベニア・ブルガリア・ルーマニ ア(7カ国) NATO拡大と欧州の安全保障の変革 NATO拡大と役割の変革 – 集団防衛から集団安全保障へ?(cf. 第2回講義) • 危機管理・不拡散・対テロ対策 • 軍備管理・信頼醸成措置 • 軍軍協力・軍改革 NATO・ロシア関係 • 「平和のためのパートナーシップ協定」(1994) • 「常設合同理事会(PJC)」設立(1997) • 「NATO・ロシア理事会」設立(2002年5月) (参考)国際安全保障システムの類型 脅威の性格 特定 部 外 脅 威 の 所 在 包 括非 包 括 a1 b1 抑止・対抗型 (同盟) a2 部 不特定 域外脅威対処型の同盟 b2 (COCOM型) (MTCR型) 包 括 c1 d1 危機管理 内 非 包 括 c2 集団安全保障 d2 共通の安全保障 協調的安全保障 (出所)山本吉宣「協調的安全保障の可能性—基礎的な考察」 『国際問題』第425号(1995年8月)4頁 NATOの変革 (I) プラハ首脳会合(2002年11月) – 「対テロ防衛に関するNATO軍事概念」 • 情報共有や危機対応措置の改善 – 「プラハ軍事能力コミットメント」(PCC) • 戦略的航空輸送能力・空中給油能力の強化 • NBC兵器に対する防御装備の調達加速 • 展開可能な戦闘支援部隊に関する能力強化 – 機構の改編 • 欧州連合軍最高司令官(SACEUR)の指揮の下、欧州/大西洋連 合軍を、単一の作戦連合軍に統合 ⇒指令部:作戦連合軍司令部(SHAPE) – NATO即応部隊(NRF)の創設 • 単一の指揮官の下に組織され、地理的制限なく(wherever needed) 展開できる陸・海・空の統合部隊。2006年10月までに約2万人より組 織される、完全な作戦能力を有する部隊とすることで合意 NATO変革 (II) イスタンブール首脳会合(2004年6月) – 「有用」かつ「展開可能」な軍事能力向上に向けた変革 • 各国陸軍の40%は海外への展開が可能なように準備され、 8%はNATOが常に使用可能な状態にするという数値目標に 合意 – NATOアウトリーチ問題 • 「地中海ダイアローグ」 • 中東・中央アジア・コーカサスへのPfP拡大構想 NATO変革の課題 – 加盟国間の防衛能力ギャップ問題 • 「防衛能力イニシアティブ」(DCI) • 「プラハ能力コミットメント」(PCC) 2002年11月 – 旧東側諸国の標準化問題 – EUとの任務・役割分担 EU拡大とEU憲法批准問題 EU憲法 – 25カ国に拡大したEUの目的・市民の権利・共通外交 安全保障政策等に関する規定 – 欧州理事会議長(EU大統領)及び欧州委員会委員 長(EU外相)ポストの設置 EU憲法批准問題 – フランス (賛成:45.1% 反対:54.9%) – オランダ (賛成:38% 反対:62%) EUの欧州安全保障防衛政策(ESDP) マーストリヒト条約(1992年) – 欧州共通外交安全保障政策(CFSP) 英仏サン・マロ首脳会議(1998年12月) – EUが欧州独自の軍事行動を遂行する能力・機構を 保持すべきことを提言 – 欧州緊急展開部隊(EU-RRF)の設置に向けた動きが 加速 アムステルダム条約(1999年) – CFSPの一部として欧州安全保障防衛政策(ESDP) に関する規定を設置 欧州緊急展開部隊(RRF)構想 欧州緊急展開部隊(RRF)構想(99年11月) – 2004年までの緊急展開部隊の設置 • 規模:6万人 • 展開:60日以内に展開・1年間継続可能 • NATOの基地・施設・装備等を有効活用 「ペータースベルク任務」 • 人道援助・救援 • 平和維持 • 危機管理 RRFの課題 – 独自の派遣能力(長距離輸送能力)が不足 – EU域内での能力ギャップ問題 • 「ヘッドライン・ゴール」設定(1999年12月) – NATO即応部隊(NRF)との機能重複 EU「欧州安全保障戦略」 (ソラナ・ペーパー)(2003) 欧州が直面する脅威として、①テロ、②大量破壊兵器の 拡散、③地域紛争、④破綻国家、⑤国際組織犯罪を規 定 軍事力に限らない包括的な手段を用いた予防的関与 (preventive engagement)の重要性を強調 EUの戦略目標として、「脅威への取組み」「近隣地域の 安全保障」「多国間主義に基づく国際秩序」の3つを明記 EUの安全保障 活動実績 警察部隊 – ボスニア・ヘルツェゴビナ「欧州連合警察ミッション (EUPM)」(2003年1月) 警察官:500人・民間人:300人 – マケドニア「プロクシマ」(2003年12月)⇒警察改革等 緊急展開部隊 – マケドニア「コンコルディア作戦」(2003年3月~12月) ⇒非武装停戦監視団の防護・治安維持 – コンゴ「アルテミス作戦」(2003年6月~9月) ⇒コンゴ情勢の安定化・人道状況の改善 – ボスニア・ヘルツェゴビナ「安定化部隊」(SFOR) 欧州憲法とESDP 「相互防衛」条項(I-40-7) – EU加盟国の領土に対する軍事的な侵略に対し、他の加盟国は 国連憲章第51条に従いあらゆる手段で援助する義務を王 – NATOのコミットメントと整合的 欧州装備・調査・軍事能力庁の設置(I-40-7) – 2003年11月に開催されたESDPに関する国防大臣会合で設置 合意 – 欧州防衛能力の改善努力を支援 • 危機管理の分野における防衛能力の開発 • 欧州防衛能力の促進・強化 ⇒ 「修正ペータースベルグ任務」 (共同武装解除・危機管理における戦闘部隊任務) • 欧州防衛産業及び技術基盤の強化 • 将来の防衛安全保障能力に関する要求に応えるための研究促進 欧州安全保障協力機構(OSCE) 「欧州安全保障協力会議」(CSCE) • 「ヘルシンキ・プロセス」(1975年) • 東西両陣営35カ国による緊張緩和 • 信頼醸成措置・予防外交 「欧州安全保障協力機構」(OSCE) • 「欧州安全保障憲章」の採択(1999年) • 「テロ対策に関する決定及び行動計画」(2001年12月) 「ベルリン・プラス」枠組み 「ベルリン・プラス」枠組み(1999年4月) – 「NATOとして関与しない」紛争について、NATOの能力(作戦立案、情報 収集)やアセット(装備、兵器、インフラ)等を、EUが利用しながら独自の 作戦行動を行えるようにした取り決め 「ベルリン・プラスの実践」 – コンコルディア作戦 • NATOアセットの利用→軍事ミッション引継ぎ→終了 – EU平和安定化部隊 • NATOアセットの利用→SFORの引継ぎ→民生分野へ拡大 – EU-NATO間の多層的な協力関係(作戦運用計画・軍事力整備計画) • 「EU政治安全保障委員会」⇔「NATO理事会」 • 「EU軍事委員会」⇔ 「NATO軍事委員会」 • 「EU作戦司令部」⇔ 「欧州連合軍最高司令部(SHAPE)」 「軍事ミッション」から「非軍事ミッション」へ ―「ベルリン・プラス」を超えて― 「地理的分担論」 – グローバル(NATO) vsリージョナル(EU)⇔ cf. アルテミス作戦 「機能的分担論」 – ハイエンド(NATO) vs ローエンド(EU) ⇔ cf. EUBG構想 「ベルリン・プラス」を超えて? – NATOのExit Model と EUへの移管 – EU の Exit Model と 現地政府の take-off – EU・NATO加盟プロセス 「安定化連合協定」(SAA)による国内改革 – NATO加盟に向けた布石としてのイラク・アフガンへの派兵
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