医療制度改革と医療扶助:医療 扶助をどのように改革すべきか 東京学芸大学教育学部助教授 鈴木亘 1.医療扶助の適正執行論議の背景 • ①自立支援プログラムから • 「福祉部会生活保護制度の在り方に関する専 門委員会」では明示的な議論はあえて避けら れていた。 • ただし、自立支援プログラム類型のうち、社会 的入院解消・退院促進プログラムが示される。 • 自立支援プログラムの進展により、社会生活 自立の一環としての精神障害者の退院促進 事業。 • ②歳出削減の要請による適正化推進 • 「生活保護費及び児童扶養手当に関する関 係者協議会」では、地域差について要因分析 の中で問題視。医療扶助入院人員と一般病 床数、精神病床数との相関が高いとの指摘。 • 厚生労働省試案(H17.11.14)では、都道府 県割合を追加し、地方側1/2の補助率を提示。 • その後、厚生労働省は住宅扶助と同様、実 施自治体へ設定権限委譲・一般財源化の提 案 • 三位一体改革では補助率の見直しは避けられ たが、生活保護の適正化については意見が一 致。 • 与党歳入歳出削減プロジェクトチームの議論 で医療扶助が問題視。 • 骨太方針2006 • 平成17年12月の政府与党合意で、適正化の 取り組みに関する確認書→「生活保護行政を 適正に運営するための手引き」 • ③障害者自立支援法、医療制度改革関連法 案、介護保険法改正との整合性。 2.医療制度改革の評価と関連性 • 医療制度改革関連法案では、医療扶助は無 関係。 • 医療扶助適正化の文脈で、医療費適正化計 画への関与を模索。 • しかし、無縁とは言えない医療制度改革の動 向。 1.医療費適正化の総合的な推進 • (1) 医療費適正化計画の策定 • ・生活習慣病対策や長期入院の是正など中長期的 な医療費適正化のため、国が示す基本方針に即し、 国及び都道府県が計画(計画期間5年)を策定【平 成20年4月】 • (2) 保険者に対する一定の予防健診等の義務付 け • ・医療保険者に対し、40歳以上の被保険者等を対 象とする糖尿病等の予防に着目した健診及び保健 指導の実施を義務付け【平成20年4月】 • (3) 保険給付の内容・範囲の見直し等 • ・現役並みの所得がある高齢者の患者負担 を2割から3割に引き上げ【平成18年10月】 • ・療養病床に入院する高齢者の食費・居住費 の負担を見直し【平成18年10月】 • ・70歳から74歳までの高齢者の患者負担を 1割から2割に引き上げ【平成20年4月】 • (4) 介護療養型医療施設の廃止【平成24年 4月】 2 新たな高齢者医療制度の創設 • (1) 後期高齢者医療制度の創設【平成20年4月】 • ・75歳以上の後期高齢者の保険料(1割)、現役世 代(国保・被用者保険)からの支援(約4割)及び公 費(約5割)を財源とする新たな医療制度を創設 • ・保険料徴収は市町村が行い、財政運営は都道府 県単位で全市町村が加入する広域連合が実施 • ・高額医療費についての財政支援、保険料未納等 に対する貸付・交付など、国・都道府県による財政 安定化措置を実施 • (2) 前期高齢者の医療費に係る財政調整制 度の創設【平成20年4月】 • ・65歳から74歳までの前期高齢者の給付費 及び前期高齢者に係る後期高齢者支援金に ついて、国保及び被用者保険の加入者数に 応じて負担する財政調整を実施 • ・退職者医療制度について、平成26年度まで の間における65歳未満の退職者を対象とし て、現行制度を経過措置として存続 3 保険者の再編・統合 • 国保の財政基盤強化 • 国保財政基盤強化策(高額医療費共同事業 等)の継続【公布日(平成18年4月から適 用)】 • 保険財政共同安定化事業の創設【平成18年 10月】 • 政管健保の公法人化【平成20年10月】 • 地域型健保組合【平成18年10月】 4 現在検討課題に挙がっている改革 • • • • 高齢者の自己負担の更なる引き上げ 混合診療の全面的な解禁 病院の株式会社参入 終末期医療費の削減 5 医療扶助への関連性 • 同様の適正化対策を模索→極めて困難。 • 患者に対する強い動機付けが必要。医療保 険者は後期高齢者調整金の1割増のペナル ティーがあるので、保健指導・検診の実施に ある程度動機付けを行う。 • 医療扶助受給者は、保健指導の結果改善す ると対象者ではなくなるので、改善の動機が 低い。 • そもそも、医療扶助は、生活習慣病、特に糖 尿病、透析患者となった後のものが多いので、 予備軍のコントロールが困難。 • 検診、保険事業の財政的な裏づけがない。 • 平均在院日数の短縮も医療扶助はむしろ範 疇外。 • 検診の義務化で生活習慣病患者が減るので、 生活保護化が少なくなる?→検診や保険事 業で生活習慣病が改善される可能性は低い。 • 自己負担増をされる高齢者からは過剰診療 ができないために、医療扶助受給者分が増 える可能性。在院日数、外来日数も、都道府 県適正化策の範疇外なので操作しやすい。 • 組合などは、メタボ対象者をむしろ採用しなく なる可能性→失業の長期化で医療扶助化も。 • 医療扶助の地域差も大きいので、高額レセの 再保険事業は応用可能か。 • 混合診療の影響 • 市町村保険財政の強化や財政調整の強化 →医療扶助だけ別にすることをますます正当 化困難に。 • 保険料支払いについては、介護保険方式も 考えられる。 3. 医療扶助の現状 • (1)全体的な特徴点 • 保険局調査課による分析、会計検査院の分 析、東京都の分析など • 医療扶助費は生活保護費の約半分(H17年 50.9%で1.3兆、東京都H16年47.4%) • 全国ではその割合は微減中(東京都はH16 年やや増加)。金額は増加。 • 内訳は、入院が6割(東京61%) • 入院のうち精神疾患が45%(東京38%) • 入院のうち循環器系17%(東京22%) • 循環器系疾患は脳梗塞が国保と比べて非常 に多い。 • 循環器系は国保と比べ1件当りもしくは1日当 り医療費が低いが入院日数は長い。他の疾 患についても、ほぼ同様。精神のみは国保と 変わらず。 • 入院外は循環器系が20%、尿路性器系の疾 患17.1%、内分泌栄養代謝免疫障害12.5%、 筋骨格系・結合組織疾患11% • 循環器系の多くは脳梗塞(高血圧のみは低 い)、尿路性器系の多くは腎不全の透析、内 分泌障害の多くは糖尿病、筋骨格は整骨接 骨骨接ぎなど。 • 循環器系、尿路性器系、内分泌栄養代謝免 疫障害、筋骨格系・結合組織疾患ともに、1日 当り医療費はそれほど国保と変わらないが、 日数が多いという特徴。したがって、1件あた りの医療費も高い。 • 頻回受信者割合は0.3%(東京0.3%)、改善 者割合は32.3%(東京26.6%) • 長期入院患者の措置状況・入院の必要がな い長期入院比率(東京0.4%)、未措置割合 31.0%(東京24.2%) • レセプト点検による過誤調整率1.0%(東京 0.8%) • (2)東京都の特徴 • 精神の割合はやや低いが、循環器系疾患の 割合がやや多い • 法73条対象の割合が大きい(入院費に閉め る割合は44%) • 移送費について柔軟な対応 • (3)まとめ • ①国保や他保険からのドロップアウトとしての 医療扶助 • 入院は、重症化の傾向がある(脳梗塞、糖尿 病、透析)。これは、生活保護受給の前に重症 化していると見るべきである。 • ホームレスの急迫保護も大きな割合を占める。 • 精神疾患の割合の高さ • ②外来における日数の多さ、頻回受診の傾 向、最低限度の医療とはいえない筋骨格系。 • ③受給者に改善する動機付けが乏しい。特 に生活習慣病、慢性疾患。 4. 医療扶助の適正化をどのように進 めるか • (1)ホームレス・要保護者層に対する予防的 対策の重要性 • ホームレス・日雇、生活困窮者、無保険者の 多くは高齢者・慢性疾患保有 • 医療へのアクセスは困難(保険証、心理的困 難、無低の慢性疾患負対応) • 重症化してから単給として生活保護化すると、 医療費やQOLの面からも問題が深刻化して いる。 • 行路病院による医師誘発需要、患者の自己 負担無しということから起きるモラルハザード • 終末期医療も高額の可能性 • 急迫保護の前の段階の対策が重要 • ホームレスについては、無低や支援NPOの 拡大、慢性疾患対策、医師・看護師の巡回相 談、青空通院、国保保険料免除と交付 • 行路病院対策(協力謝金のような形で、過剰 診療をしなくてもよい取り分を持たせる、レセ プト点検の強化、第三者[医療関係者]の評 価) • ホームレス検診、日雇検診(アクセスしやすい 時間帯で) • 意思があるものへのリビングウィルの徹底化。 単身者は相当に機能。生活保護受給者に対 しても、同様の指導。特に最近急増の宿泊所、 自立支援ホーム入所者、ドヤ保護。 • (2)精神疾患入院・社会的入院 • 自立支援プログラムの社会的入院解消・退 院促進プログラム • 1人1ヶ月約42万円→保護費+介護なのでか なりの削減余地 • ただし、問題はその行き先が確保できるかと いうこと。80年代アメリカでは脱施設化が ホームレス急増へ。退院後も相当なケアが 必要。 • しかしながら、介護3施設入所は困難。療養 型病床は廃止の方向。グループホーム、宿 泊所、自立援助ホームに入所か。質の確保 をどのように。 • 医療機関への動機付けがあまり無い。外来 化による動機付けなど。 • (3)患者のモラルハザード対策(医療機関の モラルハザード対策も必要) • 厚生労働省が検討中の自己負担導入(定額 で医療扶助費を事前に給付し、その中で自 己負担を払う制度へ。自己負担額は上限を 設ける。生活習慣病など、毎月必ずかかる医 療費については、DPC、マルメのように疾病 群に応じて定額の加算をする) • ただし、弾力性から計算して、1割負担導入 の効果はそれほど大きくない可能性。 • アクセスのコントロールをする方が現実的。 • 現状は、医療券制度、要否意見書制度がなし 崩しになっている、移送費が出るので直ぐに 医者に行くことができるという意味で、アクセ ス自由。これを改善することが重要。急性疾 患はやむを得ないとしても、それ以外は元の 制度へ。タクシーも禁止。 • イギリスのNHSのようにゲートキーパー医を 設ける(ゲートキーパー医の認定と協力謝金、 医療券交付時の指導よりも医療専門家による アクセス制限の方が望ましい) • 国保のような通知制度。 • (4)自立支援プログラムを活用した対策 • 受給者、医療機関ともに改善する動機が無 い状況を変える。 • 慢性疾患などは医療機関に自立へ向けたプ ログラムを作らせて、そのプログラムに即した 診療を実践。自立支援プログラムを作成でき ない医療機関は認定しない。 • 移送費は最寄の認定医療機関までしか出さ ないことにする。あるいは、回数制限、または、 急性期疾患であるとの証明発行無しには認 めない。 • 国保と協同した検診、保健指導の徹底化、義 務化(自立支援プログラムとして予算化)。 • 自立支援プログラムの一環としての生活習慣 対策(アルコール、喫煙、肥満)。 • (5)その他 • 国保的な高額の再保険事業、出来れば国保 とともに行う。 • 介護扶助もまったく同様(患者、業者のモラル ハザード) • (6)制度的な改正 • ・国保や他保険のモラルハザードが大きいことが問題。 落ち葉拾いをしている。 • 国保や他保険に重症化させない動機付けを与える必 要がある。 • 医療扶助費への国保、他保険の財政調整制度を設 ける。出来れば、直前に加入していた保険からの負 担金制度。 • そもそも、今回の改正で国保化を拒む理由が今回の 改正で希薄になった。 • 後期高齢者医療保険は、介護保険のように保険料を 扶助することで加入が可能なのではないか。 • (7)保険ではない利点の活用 • レセプトの情報公開と医療の標準化、クリニ カルパス • 包括化の導入 • 最低医療の定義・独自の診療報酬体系(筋 骨格系などの混合診療化) • 医療機関の認定取り消しなど、「保険者」機 能の強化
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