アメリカは導管型を好むのに対し、 日本はなぜ実体型を好むのか ~各国の背景と実態~ 税法特論 百瀬・小川・竹城・藤間・宇賀神 目次 • • • • アメリカ/日本それぞれの仮説 上記仮定の検証(アメリカ) 上記仮定の検証(日本) まとめ(アメリカ・日本) アメリカと日本それぞれの仮説 それぞれの国における理由を「仮説」 アメリカと日本それぞれの仮説 アメリカ 1.産業構造の変化 2.税務環境の変化 3.政策による影響 4.連邦政府と州政府と の課税方法の相違 (会社法の不統一等) 5.納税者背番号制導入 日本 1. 2. 3. 4. 法的安定性 課税と私法の関係 源泉徴収制度の確立 脱税防止目的の為の 法人税制定 アメリカの検証 1.産業構造の変化 重厚長大型の産業 人的資産が企業の競争力の源泉となることが 多くなった(産業構造の変化) 企業形態がコーポレーションから 法人代替企業形態にシフト アメリカの検証 2.税務環境の変化 •かつては企業組織としてコーポレーションが好かれていた •パートナーシップの方が税負担が軽減 •1997年にはチェック・ザ・ボックス規則が施行 •納税者番号の整備 •二重課税の視点から法人税課税敬遠 個人の所得課税のみとなるパートナーシップ 圧倒的に税負担が軽減されるという状況が生まれた(税務環境の変化) アメリカの検証 3.政策による影響 1/2 •1811年 ニューヨーク州にて会社法が制定される (申請者は誰でも企業設立許可=法人格が与えられた) →法人格を有した企業が多数誕生 •当時のアメリカは、法人格とパートナーシップのみ •法人格は「出資額以上の責任を負わない」とされていた 1822年 裁判所での再解釈により 「出資額の負担とそれと同額まで返済する義務がある」 1811年設立の法人格の多くが破綻した アメリカの検証 3.政策による影響 2/2 法人格を有した企業の株主より パートナーシップにて起業する方が有利! と考えられ、導管型が発達してきたと 言えるのではないであろうか? アメリカの検証 4.連邦政府と州政府との 課税方法の相違(会社法の不統一等)1/3 •アメリカの財源は 連邦政府 → 所得(個人・法人)税 州政府 → 売上税(一般消費税) 地方団体 → 固定資産税 •一方、法体系は 会社法においては、州ごとに制定されている (=内容の不統一) アメリカの検証 4.連邦政府と州政府との 課税方法の相違(会社法の不統一等)2/3 Partnership Limited Liability Company Corporation General Partnership Limited Partnership 成立 州への登録が必要 特に規定なし 州への登録が必要 州への登録が必要 持分 Share(株式) Partnership Interest Partnership Interest Membership interest 持分譲渡 自由 原則自由 原則自由 原則自由 責任 株主は有限責任 Partnersは無限責任 経営 Board of Directors Partners 課税 原則二重課税 Partnersの段階のみ General Partnership は無限責任 Limited Partnershipは 有限責任 General Partners Partnersの段階のみ Membersは有限責任 All Members or Managers 選択によりMembersの 段階のみ課税が可能 アメリカの検証 4.連邦政府と州政府との 課税方法の相違(会社法の不統一等)3/3 連邦政府としては個人単位にて課税することにより ルールが統一されている導管型を 好む傾向にある と言えるのではないであろうか? アメリカの検証 5.納税者背番号制導入 1/2 •1961年 ケネディ政権下にて、納税者番号制が導入 <意図> ①アメリカ連邦税制の特色の一つが申告納税制度 ②申告納税制度がうまく機能するためには 税制が公平であると同時に執行態勢に信頼が置ける 必要があること ③執行態勢が公正で信頼に値するものであるため 納税者背番号制が必要 http://www.jfklink.com/speeches/jfk/publicpapers/1961/jfk136_61.html アメリカの検証 5.納税者背番号制導入 2/2 納税者背番号制の導入により •個人の特定が容易(簡易)となる。 この導入の背景には 構成員課税のメリットである 損と益が通算できることがある と言えるのではないであろうか? アメリカまとめ 1/2 チェック・ザ・ボックスにより法人税と構成員課 税とが 納税者側で選べるにもかかわらず 構成員課税のほうが好まれているという背景 には、 納税者番号制が整備されて個人が把 握しやすいという環境的要因だけでなく 税制 上の利点が構成員課税のほうにあるからと推 測できる。 アメリカまとめ 2/2 ・配当二重課税の調整を行わないので ・二重課税の観点から ・法人課税が敬遠されている ことが考えられる。 日本の検証 1.法的安定性 •LLCの取扱いが日本とアメリカで大きく異なっている。 →導入時における議論から 日本が実体型を好む理由が見えてくるのではないであろうか? ①日本のLLC制度導入時に 構成員課税の議論が繰り返し行われているが 最終的には法人課税となる ②一方、同時期に導入されたLLP(有限責任投資組合)は 構成員課税となる。 日本の検証 1.法的安定性 2/2 LLPとLLCの課税方法設定の根拠 •法人格の有無に集約されている。 →法的安定性が優先されている 従来、法人とも個人ともとれない不明確な対象を 法人課税へ取り込んできたことからも 法的安定性を求め、従来からの法人税(実体型)課税 が好まれたのではないであろうか? 日本の検証 2.課税と私法の関係 1/3 ~今まで発表されている見解から検証を行う~ 日本の検証 2.課税と私法の関係 2/3 ~今まで発表されている見解から検証を行う~ 日本の検証 2.課税と私法の関係 3/4 ~今まで発表されている見解から検証を行う~ 日本の検証 2.課税と私法の関係 4/4 ~今まで発表されている見解から検証を行う~ 日本の検証 3.源泉徴収制度の確立 1/2 •明治32年の所得税改正により源泉徴収制度が開始。 •法人への課税=配当に対する源泉徴収 とさていた為 これとバランスを取る都合上 公社債利子所得に源泉徴収制度が導入された。 •源泉徴収制度は、次第に範囲が拡大 大正9年 定期預金利子所得に採用 昭和15年 勤労所得に採用 日本の検証 3.源泉徴収制度の確立 2/2 ・源泉徴収制度および法人税制度の導入が同時期 ・昭和15年より勤労所得に対しても源泉徴収制度が導入 ・この時点にて、会社=給与=源泉 の構造が完成 確実で簡便な徴収という制度趣旨が 抵抗なく受け入れられた(=国民生活に定着した) 今日広く実体型が好まれている理由ではないであろうか? 日本の検証 4.脱税防止目的の為の法人税制定 1/2 •明治20年の所得税導入に際して法人は非課税とされた が、明治32年の所得税改正により法人税課税を導入 •制度導入の趣旨 →企業が勃興し、産業が発展したため (=財政需要の増大という背景) →法人の活動が活発になり、従来の個人のみ対象とした 課税対象を拡張せざるを得なくなったため →明治20年は「法人保護・育成」が政策としてあったが 法人の強化・充実が進みその必要性が下がったため 日本の検証 4.脱税防止目的の為の法人税制定 2/2 個人が法人を利用して、租税回避が行われていた 可能性が充分に考えられる。 法人へ課税することにより「会社」を利用した 脱税あるいは租税回避の抑止効果を意図し その流れが今日まで続いている と言えるのではないであろうか? 日本まとめ 1.法人税の制定趣旨より 租税回避防止が挙げられる。 また同時に導入された源泉徴収制度により 課税庁側では、簡易/低コスト の利点があり 納税者側では、過去からの導入経緯があり 法人税/源泉徴収制度の受け入れが容易 2.上記理由(歴史的背景)により →旧来からある「法人税の枠組み」維持の為 →結果、日本では実体型が好まれる。
© Copyright 2024 ExpyDoc