温室効果ガス排出権取引の エージェントベースシミュレーション

温室効果ガス排出権取引の
エージェントベースシミュレーション
-アメリカ不参加の影響-
岡野貴史
背景1
京都議定書の発効要件
以下の両方の条件を満たした後、90日後に発効
•55カ国以上の国が締結
•締結した附属書Ⅰ国の合計の二酸化炭素排出量の1990
年の排出量が、全附属書Ⅰ国の合計の排出量の55%以上
2002年12月20日現在
•101ヶ国・地域が批准
•附属書Ⅰ国の排出量の内の43.9%の国々が批准済み
背景2
附属書Ⅰ国の1990年の二酸化炭素排出量割合
EU
24.2%
中東欧・スイス
7.8%
カナダ・ノルウェー・NZ・アイスランド
3.8%
ロシア
17.4%
日本
8.5%
オーストラリア
2.1%
アメリカ
36.1%
緑は批准国
ロシアが批准すると、アメリカ抜きで京都議
定書の発効が可能
目的
アメリカが参加する場合と参加しない場合のシミュ
レーションを行う
焦点:
アメリカが不参加の場合、理論的な均衡価格は0ドルとなるが、
実際の取引において取引価格はどうなるのか?
エージェントの強化学習(GA)1
0100・・・101 :エージェントの行動(国内削減、注文価格、注文量)
エージェントi
1 0100・・・101
2 1101・・・100
・
・
・
・
・
・
N 0010・・・011
各エージェントは、他のエージェント
の一世代前の最も優れた染色体に
対して、より優れた染色体を選択
1100・・・011
0001・・・111
・
・
・
1001・・・010
1000・・・001
0101・・・000
・
・
・
0110・・・110
1
2
・
・
・
N
1
2
・
・
・
N
効用関数は各
エージェントの
利益とする
1、T. Ohkawara, K Tokoro, M Makino, and C Matsuya “Trading Simulation of CO2 Emission
Permits and Electricity: Experiment Economics Approach and Multi-Agent Model Approach”
Sep 2002, Society for Environment Economics and Policy Studies
試行条件
• 参加国(日米露など、主要10カ国)
• 各国の長期削減費用関数は、排出量の予想データ2および限界
削減費用のデータ3により決定
• 取引期間(第一削減目標期間2008年~2012年)
• 各年において、国内削減、投資、取引を行う
• 投資(非可逆、タイムラグ1年)
• 1年間の取引回数5回
• 責任制度(売手責任)
• 取引方法は板寄せにおけるオークション
• ペナルティーは250、200、150、100、50($/t-C)の場合の5ケース
2. International Energy Outlook 2000
3. European Union Energy Outlook to 2020
結果(取引価格)
世代数10000回のシミュレーションをそれぞれ10回ずつ行った時の平均価格
ペナルティー($/tC)
取引価格($/t-C)
アメリカ参加
取引価格($/t-C)
(アメリカ不参加)
250
77.6
57.9
200
76.1
59.8
150
75.8
58.8
100
68.6
56.2
50
44.9
45.0
均衡価格
アメリカ参加の場合
67($/t-C)
アメリカ不参加の場合 0 ($/t-C)
アメリカが不参加の場合、均衡価格は0($/t-C)だが、取引価格は
大幅には下がらない
結果(各国のコスト)
単位B$
ペナルティー
($/t-C)
250
200
150
100
50
ロシア
東欧
アメリカ
イギリス
フランス
ドイツ
その他EU
カナダ
豪・NZ
日本
84.6
43.7
84.1
47.0
85.7
46.0
77.1
42.7
33.8
25.9
23.3
8.7
23.9
12.2
25.2
13.3
23.1
13.8
10.6
9.9
-226.5
0.0
-222.8
0.0
-217.3
0.0
-185.8
0.0
-127.0
0.0
-10.9
-10.0
-10.3
-9.1
-9.8
-8.5
-8.5
-7.8
-5.9
-5.9
-5.4
-3.8
-4.9
-4.5
-4.4
-4.0
-3.5
-3.4
-2.3
-2.3
-18.4
-14.5
-17.4
-15.3
-16.3
-14.3
-14.0
-12.9
-9.5
-9.4
-30.8
-23.8
-28.7
-25.4
-26.7
-23.6
-22.5
-20.7
-14.2
-13.8
-14.4
-11.4
-13.8
-12.1
-13.2
-11.6
-11.8
-10.7
-8.2
-8.3
-9.8
-8.1
-9.2
-8.4
-8.7
-7.9
-7.6
-7.2
-5.5
-5.5
-27.9
-23.5
-26.7
-23.2
-25.7
-22.0
-22.6
-20.4
-15.4
-15.4
上段がアメリカ参加、下段がアメリカ不参加の場合のコスト
•アメリカの不参加により、供給国(ロシア、東欧)は大幅に
利益が減少する
•アメリカの不参加により、需要国はコストが減少する
考察
アメリカが不参加でも取引価格は大幅に下がらない原因として、
供給国の売り惜しみの効果が考えられる
売り惜しみとは?
価格
価格
供給曲線
P’’
P’
P’
需要曲線
取引量
売り惜しみ
取引量
考察
1、アメリカ不参加
ペナルティー250ドル
2、アメリカ参加
ペナルティー250ドル
利益が最大となる取引価格
36($/t-C)
84($/t-C)
利益が最大となる取引価格
75($/t-C)
93($/t-C)
結論
• アメリカが不参加の場合、均衡価格は0ド
ルにも関わらず、取引価格は55~60ドルと
比較的高い価格となった。
• 価格が均衡価格よりも高くなる原因として、
供給国が戦略的に国内削減量を減らし、
売り惜しみを行っていることが考えられるこ
とがわかった。