聖マリアンナ医科大学 救急医学講座 後期研修医 吉田英樹 論文の目的 • 院内感染症の減少 ⇒赤血球輸血の投与を制限することで院内 感染の発症を減らすことが出来るかを検 討する。 論文の背景 • 院内感染症による莫大な費用 ⇒推定280~450億ドル(約2兆8000億~4兆 5000億円)→米国における、院内感染が 直接の原因で必要となる年間費用。 ⇒入院患者20人に1人が院内ケアに関連す る感染を発症している。 論文の背景 • 院内感染症減少に対する 様々な取り組み ⇒中心静脈ライン感染へのバンドル・チェック リストの導入 ⇒手洗いの励行 ⇒不要な尿道カテーテル留置をしない など 論文の背景 • 赤血球輸血と感染症の関連 ⇒赤血球輸血は免疫調整能に影響を与える ことで、感染のリスクに関与している可能 性がある。 ⇒赤血球輸血製剤の白血球除去(leukocyte reduction)は院内感染のリスクを減らすこ とが証明されている。 Lannan KL, Sahler J, Spinelli SL, Phipps RP, Blumberg N. Transfusion immunomodulation—the case for leukoreduced and (perhaps) washed transfusions. Blood Cells Mol Dis. 2013;50(1):61-68. 論文の背景 • 赤血球輸血を減らすことで 院内感染症を減らすという発想 restrictive(輸血制限群) vs liberal(従来輸血群) ⇒すでに行われた上記studyを集めてきて、院内 感染症の発症をアウトカムとしてメタアナリシス を行った。 論文のPICO P:restrictive(輸血制限)群 vs liberal(従来輸血) 群のstudyに含まれている患者 ⇒各論文により患者層は異なる(背景疾患、ICU、年齢など) ⇒論文選定については、2群比較を行っているもの、かつ、 randomized(ランダム化)されているstudyに限定。 I:restrictive(輸血制限)群に割りつけられた患者 C:liberal(従来輸血)群に割りつけられた患者 O:院内感染症の発症(白血球除去輸血を使用し た患者に限定した検討も) ⇒(おそらくは)白血球除去(leukocyte reduction)は院内感染のリス クを減らすことがすでに証明されているため、それによるバイア スを除去する目的で。 論文選定 <Search sources> • MEDLINE, EMBASE, Web of Science Core Collection, Cochrane Central Register of Controlled Trials, Cochrane Database of Systematic Reviews, ClinicalTrials.gov, International Clinical Trials Registry, and the International Standard Randomized Controlled Trial Number register • 言語による制限なし • 2014/1/22までの期間で検索 論文選定 Specific search terms 論文選定 <Elgibility criteria> • 1. ランダマイズ化されたstudyであること • 2. restrivtive群 vs liberal群の2群比較であること • 3. 感染に関するアウトカムを報告していること 2チームで(半分ずつ)アブストラクトをレビュー。 チーム内で意見が分かれれば本文を吟味。 論文検索結果 最終的に17の論文がincludeされた。 総患者数:7456人 結果(Primary) RR: 0.92 95%CI: 0.82-1.04 統計学的に有意差なし 結果(Primary) • 白血球除去赤血球のみを使用した studyに絞った解析 • RR:0.83 • 95% CI:0.69-0.99 (P = .044) • 統計学的有意差あり • 表・グラフは本文になし。 その他の結果(Secondary) • 色々条件を付けてさらに検討している ① (特定の感染だけでなく)すべての感染を outcomeとしたstudyに絞った解析 ② 盲検化されたランダム化studyに絞った解析 ③ study離脱患者が<5%であるstudyに絞った解 析 ④ プロトコールを逸脱した患者が<5%である studyに絞った解析 すべての感染をoutcomeとした studyに絞って解析した結果 RR: 0.83 95%CI: 0.73-0.96 統計学的に有意差あり Table 2も参照 特定の感染症がoutcomeとなって いるstudyだけの解析結果 RR: 1.11 95%CI: 0.92-1.33 統計学的に有意差なし 結果 ② 盲検化studyのみ • RR:0.83、95% CI:0.72-0.95 (P = .009) • 統計学的有意差あり ③ study離脱患者<5%のみ • RR:0.84、95% CI:0.73-0.97 (P = .019) • 統計学的有意差あり ④ プロトコール逸脱患者<5%のみ • RR of 0.84、95% CI:0.68-1.03 (P = .095) • 統計学的有意差なし 集中治療に限定した結果 Limitation ① study毎にoutcomeが異なる ⇒あるstudyでは全ての感染をoutcomeとしてい るが、特定の感染のみ(肺炎、尿路感染な ど)をoutcomeと設定しているstudyもある。 ② study毎に輸血制限の基準が異なる ⇒多くのstudyが輸血制限群は<8.0g/dLを基準 としているが、study毎に差がある。(Table 1参 照) Limitation ③ study毎に実際に輸血投与された患者層(Hb 値)が異なる ⇒いくつかのstudyでは、輸血投与の判断は臨 床的に行われており、血液検査結果のみ(Hb 値のみ)では判断されていない。 ④ 患者層によっては患者数が少ない ⇒例えば小児CCU患者の数は60例と非常に少 ない。そのため、今後の新たなstudyによって、 リスクとベネフィットがより明確になる(覆る) 可能性がある。 考察(本文) • 輸血が免疫調整機能へ何らかの影 響を与えていると考える ⇒従来輸血群で院内感染のリスクが上がった のは、白血球除去赤血球を使用したにも関わ らず、輸血が免疫調整機能へ影響を与えた ためだと考える。 ⇒同種輸血により免疫調整機能が変化する機 序ははっきり分かっておらず、白血球以外が 関与している可能性がある。 考察(本文) • 患者背景毎にみるとデータにばらつ き(heterogeneity)がある ⇒臀部あるいは膝の関節形成術患者とsepsis 患者では輸血制限群がsignificantlyにリスク が低下したが、心疾患患者では制限群と従 来群で差は認められなかった。 *ただし、心疾患患者に対するstudyでは、制限群と従来群の 間で赤血球が使用された患者数に大きな差が無いという注 意点はある。 考察(本文) ⇒集中治療患者に関する論文は2件のみであり、 1件は成人、1件は小児に関するもの。どちら も疾患群は多岐にわたり、それらを総合する と統計学的有意差はないが、疾患群別にみ ると差がある可能性が示唆されている。 考察(本文) • 輸血制限に対する取り組みが十分で ない ⇒今回のstudyの結果は、輸血制限を推奨する AABB(American Association of Blood Banks)の ガイドラインを後押しする結果となっている。 ⇒しかし、輸血制限が行われているかを調査する 2011年に行われたNational Blood Collection and Utilization Surveyでは、27%の病院しか回 答がなく、そのうち31%だけしか輸血に関する マネージメントプログラムを作成していなかった。 考察(本文) • 今回のstudyとは別に ⇒既に効果が証明されている白血球除去赤血 球の使用が米国全体で85%しか使用されて いないことも問題。まずはその割合を増加さ せることが第一段階と考える。 • 最後に ⇒今後、輸血マネジメントの違いで院内感染症 の発症が変わるか、をアウトカムとした研究 が行われることが期待される。 日本での白血球除去製剤使用 • 国内では 2007 年 1 月 16 日よりすべての製 剤が貯血前白血球除去製剤となっており、こ れまでの赤血球輸血や血小板輸血による FNHTR の原因の大部分に対して対策が取ら れていることになる。 • 輸血副作用対応御ガイド 日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 厚生労働科研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業 考察(個人) • 今回のメタアナリシスの結果を踏ま えて今後の当院での対応 ⇒輸血制限により予後が改善することはすでに 証明されている(患者層がある)。今回の結果 で対応が変わることはない(これまで通り輸 血制限を行う)。
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