2015年5月12日(吉田英樹)(564.0KB)

聖マリアンナ医科大学 救急医学講座
後期研修医
吉田英樹
論文の目的
• 院内感染症の減少
⇒赤血球輸血の投与を制限することで院内
感染の発症を減らすことが出来るかを検
討する。
論文の背景
• 院内感染症による莫大な費用
⇒推定280~450億ドル(約2兆8000億~4兆
5000億円)→米国における、院内感染が
直接の原因で必要となる年間費用。
⇒入院患者20人に1人が院内ケアに関連す
る感染を発症している。
論文の背景
• 院内感染症減少に対する
様々な取り組み
⇒中心静脈ライン感染へのバンドル・チェック
リストの導入
⇒手洗いの励行
⇒不要な尿道カテーテル留置をしない
など
論文の背景
• 赤血球輸血と感染症の関連
⇒赤血球輸血は免疫調整能に影響を与える
ことで、感染のリスクに関与している可能
性がある。
⇒赤血球輸血製剤の白血球除去(leukocyte
reduction)は院内感染のリスクを減らすこ
とが証明されている。
Lannan KL, Sahler J, Spinelli SL, Phipps RP, Blumberg N. Transfusion
immunomodulation—the case for leukoreduced and (perhaps) washed
transfusions. Blood Cells Mol Dis. 2013;50(1):61-68.
論文の背景
• 赤血球輸血を減らすことで
院内感染症を減らすという発想
restrictive(輸血制限群) vs liberal(従来輸血群)
⇒すでに行われた上記studyを集めてきて、院内
感染症の発症をアウトカムとしてメタアナリシス
を行った。
論文のPICO
P:restrictive(輸血制限)群 vs liberal(従来輸血)
群のstudyに含まれている患者
⇒各論文により患者層は異なる(背景疾患、ICU、年齢など)
⇒論文選定については、2群比較を行っているもの、かつ、
randomized(ランダム化)されているstudyに限定。
I:restrictive(輸血制限)群に割りつけられた患者
C:liberal(従来輸血)群に割りつけられた患者
O:院内感染症の発症(白血球除去輸血を使用し
た患者に限定した検討も)
⇒(おそらくは)白血球除去(leukocyte reduction)は院内感染のリス
クを減らすことがすでに証明されているため、それによるバイア
スを除去する目的で。
論文選定
<Search sources>
• MEDLINE, EMBASE, Web of Science Core Collection,
Cochrane Central Register of Controlled Trials,
Cochrane Database of Systematic Reviews,
ClinicalTrials.gov, International Clinical Trials Registry,
and the International Standard Randomized
Controlled Trial Number register
• 言語による制限なし
• 2014/1/22までの期間で検索
論文選定
Specific search terms
論文選定
<Elgibility criteria>
• 1. ランダマイズ化されたstudyであること
• 2. restrivtive群 vs liberal群の2群比較であること
• 3. 感染に関するアウトカムを報告していること
2チームで(半分ずつ)アブストラクトをレビュー。
チーム内で意見が分かれれば本文を吟味。
論文検索結果
最終的に17の論文がincludeされた。
総患者数:7456人
結果(Primary)
RR: 0.92 95%CI: 0.82-1.04
統計学的に有意差なし
結果(Primary)
• 白血球除去赤血球のみを使用した
studyに絞った解析
• RR:0.83
• 95% CI:0.69-0.99 (P = .044)
• 統計学的有意差あり
• 表・グラフは本文になし。
その他の結果(Secondary)
• 色々条件を付けてさらに検討している
① (特定の感染だけでなく)すべての感染を
outcomeとしたstudyに絞った解析
② 盲検化されたランダム化studyに絞った解析
③ study離脱患者が<5%であるstudyに絞った解
析
④ プロトコールを逸脱した患者が<5%である
studyに絞った解析
すべての感染をoutcomeとした
studyに絞って解析した結果
RR: 0.83
95%CI: 0.73-0.96 統計学的に有意差あり
Table 2も参照
特定の感染症がoutcomeとなって
いるstudyだけの解析結果 RR: 1.11
95%CI: 0.92-1.33 統計学的に有意差なし
結果
② 盲検化studyのみ
• RR:0.83、95% CI:0.72-0.95 (P = .009)
• 統計学的有意差あり
③ study離脱患者<5%のみ
• RR:0.84、95% CI:0.73-0.97 (P = .019)
• 統計学的有意差あり
④ プロトコール逸脱患者<5%のみ
• RR of 0.84、95% CI:0.68-1.03 (P = .095)
• 統計学的有意差なし
集中治療に限定した結果
Limitation
① study毎にoutcomeが異なる
⇒あるstudyでは全ての感染をoutcomeとしてい
るが、特定の感染のみ(肺炎、尿路感染な
ど)をoutcomeと設定しているstudyもある。
② study毎に輸血制限の基準が異なる
⇒多くのstudyが輸血制限群は<8.0g/dLを基準
としているが、study毎に差がある。(Table 1参
照)
Limitation
③ study毎に実際に輸血投与された患者層(Hb
値)が異なる
⇒いくつかのstudyでは、輸血投与の判断は臨
床的に行われており、血液検査結果のみ(Hb
値のみ)では判断されていない。
④ 患者層によっては患者数が少ない
⇒例えば小児CCU患者の数は60例と非常に少
ない。そのため、今後の新たなstudyによって、
リスクとベネフィットがより明確になる(覆る)
可能性がある。
考察(本文)
• 輸血が免疫調整機能へ何らかの影
響を与えていると考える
⇒従来輸血群で院内感染のリスクが上がった
のは、白血球除去赤血球を使用したにも関わ
らず、輸血が免疫調整機能へ影響を与えた
ためだと考える。
⇒同種輸血により免疫調整機能が変化する機
序ははっきり分かっておらず、白血球以外が
関与している可能性がある。
考察(本文)
• 患者背景毎にみるとデータにばらつ
き(heterogeneity)がある
⇒臀部あるいは膝の関節形成術患者とsepsis
患者では輸血制限群がsignificantlyにリスク
が低下したが、心疾患患者では制限群と従
来群で差は認められなかった。
*ただし、心疾患患者に対するstudyでは、制限群と従来群の
間で赤血球が使用された患者数に大きな差が無いという注
意点はある。
考察(本文)
⇒集中治療患者に関する論文は2件のみであり、
1件は成人、1件は小児に関するもの。どちら
も疾患群は多岐にわたり、それらを総合する
と統計学的有意差はないが、疾患群別にみ
ると差がある可能性が示唆されている。
考察(本文)
• 輸血制限に対する取り組みが十分で
ない
⇒今回のstudyの結果は、輸血制限を推奨する
AABB(American Association of Blood Banks)の
ガイドラインを後押しする結果となっている。
⇒しかし、輸血制限が行われているかを調査する
2011年に行われたNational Blood Collection
and Utilization Surveyでは、27%の病院しか回
答がなく、そのうち31%だけしか輸血に関する
マネージメントプログラムを作成していなかった。
考察(本文)
• 今回のstudyとは別に
⇒既に効果が証明されている白血球除去赤血
球の使用が米国全体で85%しか使用されて
いないことも問題。まずはその割合を増加さ
せることが第一段階と考える。
• 最後に
⇒今後、輸血マネジメントの違いで院内感染症
の発症が変わるか、をアウトカムとした研究
が行われることが期待される。
日本での白血球除去製剤使用
• 国内では 2007 年 1 月 16 日よりすべての製
剤が貯血前白血球除去製剤となっており、こ
れまでの赤血球輸血や血小板輸血による
FNHTR の原因の大部分に対して対策が取ら
れていることになる。
•
輸血副作用対応御ガイド 日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 厚生労働科研究
医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業
考察(個人)
• 今回のメタアナリシスの結果を踏ま
えて今後の当院での対応
⇒輸血制限により予後が改善することはすでに
証明されている(患者層がある)。今回の結果
で対応が変わることはない(これまで通り輸
血制限を行う)。