と(2) - 薬のチェックは命のチェック

リン酸オセルタミビル(タミフル)服用後、
(1)睡眠中突然死した剖検例2例および
(2)意識消失・痙攣後、発達障害を生じた例
の因果関係の考察
第110回日本小児科学会
2007.4.20
浜六郎
NPO法人医薬ビジランスセンター
(薬チェック)
1
【目的】
タミフル服用後数時間以内に、
(1)睡眠中突然死し解剖された2例、
(2)10か月齢でタミフル服用後チアノーゼ・
意識消失、痙攣を生じ、一見回復したかに
見えたが、その数日後より発達退行、発達
障害が始まった女児(現在5歳)と、呼吸困難・
意識消失・痙攣を2回経験後に完全回復し
た1例(当時14歳)につき、
タミフルとの因果関係を考察する。
2
症例1 (突然死・肺水腫)
• 3歳健康男児(BW13.5kg). 02.12 A医受診時39.6℃.
迅速検査でインフルエンザA。軽度喘鳴にてアミノフィ
リン50mg点滴,吸入。
• 14時頃帰宅、食後タミフル27.5mg(2mg/kg)内服。
• すぐ寝て15分後起き、再度入眠。
• 16時頃(約2時間後)左側臥位で呼吸停止状態に
気付かれ、救急搬送。B病院で17:15死亡。
• 司法解剖で高度肺水腫(肺炎なし)。
• 脳浮腫高度(脳ヘルニアなし),microgliosis,星状突起
断裂にて「インフルエンザ脳症と矛盾しない」とされた。
3
症例2 (突然死・肺水腫)
• 普段健康な39歳男性。05年2月 19:30頃C病院受診
時37.5℃。B型インフルエンザと診断。抗生剤+補液
500mL点滴,スルピリン500mg筋注。
• 帰宅後処方どおりに、タミフル2カプセル等を服用し
22時頃就寝。
• 翌朝、仰臥位、心肺停止状態を家人が発見。C病院で
死亡診断。D大法医にて剖検。
• 推定死亡時刻就寝3時間後(タミフル服用3時間後)。
主要解剖所見:拡張し重い心(448g,炎症反応はなし),
肺水腫(肺炎なし),尿トライエ-ジ検査陰性,血中トロ
ポニン検査陰性。その結果、拡張型心筋症による急性
左心機能不全と診断された。
• 上記2例とも、タミフルとの関連を疑った家族が当セン
4
ターに相談。
厚生労働省、報告症例より
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
0歳男(16.5mg/回から約8kg;伝い歩きできていた月齢)
感冒様症状で近医受診。アスベリンとポララミン処方。1日服用。
翌日発熱受診。FluB診断。タミフル33mg/日,2日服用。重症感なし
3日目,10:30覚醒後に四肢脱力し,反応なし。受診中に呼吸停止、
挿管しバギングで蘇生、搬送中に30秒程度の強直性痙攣後,
心肺停止。心マッサージ5分で蘇生。MDZ1mg静注。JCS300.
病院ICU入室後にも心肺停止。心マッサージ,ボスミンで蘇生。
以降は人工呼吸管理,タミフル経鼻投与,マンニトール,ガンマグロ
ブリン大量、ステロイドパルス(30mg/kg)、抗生剤(CMZ)開始。
胸部レントゲン上肺水腫あり。インフルエンザ検査AB(-)。
翌日には肺水腫消失。CT、MRIで脳浮腫所見あり。
心肺停止4日後、人工呼吸器から離脱。5日目~リハビリ開始。
その1週間後~注入食(ミルク、ヨーグルトなど)開始。
伝い歩きできた発達が定額±まで退行。追視なし。寝たきりに
他に、呼吸困難(チアノーゼ)と痙攣、意識消失(失神)・転倒と痙
攣例など多数(ほとんどの例が関連あるとみるべき)
5
症例3(意識消失痙攣後、発達障害)
• 10か月まで心身ともに正常発達。9か月時体重9.0kg,
身長71.2cm。
• 03年1月 インフルエンザワクチン接種後感冒様症状
出現したが翌日軽快。
• 4日後再び感冒様症状にてA医受診。迅速検査でイン
フルエンザ陰性。対症療法薬剤を1~2回服用。その2
日後38.6℃発熱。受診したA医でタミフル18mg処方。
• タミフル服用約50分後に脱力、意識消失、チアノーゼ、
痙攣を生じた。服用75分後頃A医にて間代性けいれん、
意識障害に対しジアゼパム坐剤4mg挿肛。
• 10分で痙攣が止まり約1.5時間後、一応、意識清明と
なり、とりあえず神経学的異常なしと判断され帰宅。
6
症例3(続き)
• タミフルはその後服用せず。一時発熱したが対症療法
にて問題日の5日後に回復。
• その頃より下肢機能不良(立たせようとしても、足を
突っ張り、立とうとしない、匍匐前進せず、下肢を使わ
ないずり這い)
• 1歳、1歳3か月で掴まり立ちせず、喃語のため発達障
害を疑われ、1歳5か月時に受診したB病院にて筋肉疾
患が疑われた。
• 2歳2か月で掴まり立ち、2歳11か月10m歩行。徐々に
発達しているが、現在も社会生活はなお非自立。
• 06年4月,C病院でMRI軽度の左右差疑い。脳波上明
らかな発作波なし。心電図QTc0.397秒(4歳時;正常)。
• タミフルとの因果関係の検討を当センターに依頼。 7
(2-2)症例4(意識消失痙攣後完全回復)
• 14歳男性。05.12.31、39℃発熱。インフルエンザA診断。タミフ
ルだけ服用。1時間後嘔吐。8時間後旅行先から帰宅。9時間後
(体温39.6℃)に、2回目タミフル服用(併用薬なし)。1時間後、
頭痛と呼吸困難、ウオーと意味不明の声、錯乱。父親が抱いて
制止、黒っぽい顔色が急に蒼白となり、眼球上転、四肢弛
緩し意識消失。呼吸再開後も呼吸は非常に小さく、止まるので
はと親は非常に心配。救急車中、体温は37.5℃。
• 病院到着:呼びかけに反応。ややdrowsy。入院後体温38.8℃
に再上昇(1月1日1:45頃)、アセトアミノフェン服用。1時間あまり
後(午前3時過ぎ)、眠っていて突然覚醒、呼吸困難と錯乱状態
となり、意味不明の叫び声を上げ、眼球上転(母親確認)。この
時の体温36.7℃(2回目タミフル服用7時間後)。
• まもなく意識回復、1回目と2回目のエピソードの記憶中断(1回
目、父親の呼びかけや病院での医師の呼びかけはぼんやり記
憶、2回目:着替えを看護師に手伝ってもらったこと記憶)。
• 翌日昼前までに回復(2回目服用約15時間後)。脳波異常なし。
解熱したままで症状再燃認めず、入院翌々日退院。現高校生
8
タミフルと中枢抑制症状・死亡 用量-反応関係(幼若ラット)
タミフル用量(mg/kg)
N
94
0対照 14
52
14
500
700
1000
0
0
0
0
7日齢:死亡
7日齢:体温低下、自発運動低下、呼吸緩徐・不規則
14日齢:死亡
14日齢:体温低下、自発運動低下
0
94
14
52
14
0
0
0
E/N
2/14
6/14
1000mg/kg死亡
14.3
42.9
0
0
28/94
12/14
1/52
4/14
18匹中6匹に
死亡前チアノーゼ
9匹に肺浮腫
29.8
85.7
1.9
0
E:event発現動物数
28.6
20
40
N:実験動物数合計
60
80
100
%
9
タミフル使用後ヒトに生じた中枢抑制症状や死亡と、
動物実験における中枢抑制症状・死亡の類似点
症状
ヒト症状
体温
低体温
動こうにも動けない、発
運動・行動
語できない
睡眠
睡眠
呼吸抑制、呼吸異常、
呼吸
呼吸小、小呼吸と激
しい呼吸、呼吸停止
蒼白、チアノーゼ、
顔色など
顔色が黒っぽい
虚脱
虚脱、心肺停止
死亡
死亡
動物における症状
(ラット・マーモセット*a)
体温低下
自発運動低下、
行動低下*a
睡眠*a
呼吸緩徐・不規則
死亡前にチアノーゼ
虚脱*a
死亡
10
タミフル使用後ヒトに生じた中枢抑制症状や死亡と、
動物実験における中枢抑制症状・死亡の類似点
病理組織額的所
見
3歳男児突然死剖検で、肺水
腫、脳浮腫。39歳男性の睡眠 肺水腫:死亡18匹中9
時突然死剖検例でも急性左 匹に認められた。その他著
心不全,肺水腫。突然死剖検 変を認めず(脳の所見の記
2例中 例とも肺水腫 載はない)。
2
生死の
分かれ
目、
症状発
現時期
など
生存と
死亡の
分かれ
目
死亡しなければ、ごく一部を
除き可逆的。死亡例は低酸
素により肺胞細胞の水ポンプ
作用が低下し、肺胞内に水
貯留し肺水腫。再酸素化によ
り、基本的に完全に可逆性。
500mg/kgでは死亡や毒性所
見はないが、700mg/kgで死
亡。1000mg/kgで大部分死
亡。死亡例でも病理学的変
化が乏しい。
発現時
期
初回~1日目が多い。経過と
ともにインフルエンザが軽快
してタミフルの脳への移行が
減少するためと考えられる。
ただし、ときには2~3日目で
も起きている。
離乳前ラット:死亡例は大部
分初回投与時。成長とともに
BBBが発達しタミフルの脳中
への移行が減少するためと
考えられる。成熟マーモセッ
11
トでは2~4日目の場合も。
タミフルの中枢抑制作用はバルビタール剤、ベンゾジアゼピン
剤類似であり、ベンゾジアゼピン受容体(BZD)に作用する?
せん妄等
精神・感
覚系
症状
意識状態
視覚異常
聴覚異常
毒性試験なし(も
ともと困難)
意識レベル低下、意識消失
ただし、中枢抑
制剤が脱制
ものが大きく見えたり小さく見たり変
御でせん妄や
動、白無地が縞模様に見える
異常行動をお
異常に音が大きい。静かだとうるさ
こすことは常
い。ガンガン耳の中で鳴る
識
せん妄、幻覚、異常行動など
※マーモセット400g前後の雌雄核2頭に2000mg/kg使用、4頭中1頭が2日目に
行動低下、睡眠、虚脱で死亡、他の3頭も4日目で屠殺(全て死亡)。全例消
化管粘膜出血あり(糜爛、潰瘍、出血、萎縮)。トキシコキネチックス(AUC等)
のデータは示されていない。
・ヒトランダム化比較試験で、服用終了後の肺炎の合併が有意に
多かったが、これは動物実験の高用量で細菌性肺炎の増加が
認められており、再現されている。
・末梢型BZDに作用すれば免疫抑制、出血等、種々障害ありうる
12
低酸素血症と肺水腫の関連
1.低酸素で,肺胞細胞Epithelial Na ChannelやNa+/K+-ATPaseが
downregulateされ、肺水腫を招きうる。
2.低酸素による肺水腫は、再酸素化で完全に可逆的。
3.タミフル使用後睡眠中突然死例で見られた肺水腫は、タミフル
の呼吸抑制で低酸素血症が不可逆となったためと考えられる。
4.心肺停止が長ければ蘇生例でも、一時的に肺水腫をきたして、
人工換気で再酸素化により急速に改善(ARDSと異なる)。
5.回復例に肺水腫が認められないのは、再酸素化による、急速
かつ完全な可逆性による。
6.非ステロイド抗炎症剤で誘発される、従来型の感染後脳症(ライ
症候群、いわゆる「インフルエンザ脳症」)すなわち、敗血症-多
臓器不全症候群の一つとしてのARDSとは明瞭に異なる。
7.末梢型ベンゾジアゼピン受容体にも要注意:ベンゾジアゼピン
受容体は中枢型の他、末梢型がある。血小板、白血球、心筋、
平滑筋、血管内皮細胞等に広く分布する。
13
心肺停止後の遅発性神経細胞傷害
(Delayed neuronal cell damage)
文献的考察(1)
• 中枢神経(脳、脊髄)の虚血→ショック/虚血の程度と持続時間、
心肺停止時間により種々病態;最悪→軽症順に並べると、
①死亡,②脳死,③植物状態,④高度知的障害,⑤健忘(記憶喪失),
⑥無酸素後ミオクローヌス,⑦遅発性白質脳症,
⑧脊髄卒中(による下肢麻痺など),⑨動物では後肢麻痺、
(⑩一過性,数週間~数か月異常後正常化,⑪正常(完全可逆的))
文献的考察(2)
• 胸腹部大動脈瘤129人:術後1か月以内死亡率35%、術後生存
116人中、脊髄虚血25人(部分虚血6、完全虚血19)と報告。
文献的考察(3)
• ラット:①12分間出血性ショック後,②5分間心停止後,③両処置。
①と②は:海馬CA1領域のニューロン傷害のみ、
③は:上記傷害+腰部脊髄のニューロン障害あり、後肢の麻痺
→後肢麻痺は脊髄傷害に由来すると推測されている
14
タミフル服用後の突然死・心肺停止、
後遺症例、完全回復例は連続
1.心肺停止・死亡(肺水腫ない例は超短時間のため?)
2.睡眠中突然死し、解剖で肺水腫あり(症例1、2)
3.長時間心肺停止後蘇生。X線上肺水腫、再酸素化で
肺水腫は急速消退、重症の後遺症(寝たきり)
(4月4日の厚労省開示症例を検討し判明)
4.おそらく一時的に心肺停止、痙攣重積状態、回復後
後遺症(重度発達障害:退行・遅延:症例3)
5.おそらく重症低酸素症による痙攣を2度にわたり生じ
たが完全回復 (症例4)
6.呼吸困難と痙攣あるも完全回復(厚労省例に多数)
7.単に、脱力や呼吸困難・チアノーゼのみで痙攣なく、
完全回復 (厚労省例に多数)
15
症例3の因果関係の考察
• 上記害反応例の連続性
• 重症虚血後Delayed neuronal cell damageで説明可
• 鑑別すべき疾患:下記はすべて否定しうる
1.ADEM(ピークなし、MRIほとんど異常なし)
2.Rett 症候群(揉み手様上肢交互運動なし,甲高い声や
呼吸の荒さなし,やじろべえ様歩行なし,表情豊か)
3.ALTEの原因疾患
発達の退行/遅延=熱性痙攣否定、他の呼吸器感
染症なし、喘息なし、先天性代謝異常などもなし。
4. QTcは4歳時に測定され0.397秒(正常範囲内)
• 残されるは、タミフルのみ:タミフルにより呼吸抑制
→重症低酸素症後Delayed neuronal cell damage16
因果関係の考察
タミフル(未変化体)を服用
感染があり高サイトカイン血症状態のある人は
→血管-脳関門(BBB)が障害されている。そのため、
→タミフルがBBBを容易に通過/排出が障害され、脳中濃度↑
→タミフルの中枢抑制作用が働き
(1)中枢抑制:眠気、睡眠、傾眠、脱力、動作緩慢、体温低下
(2)脱制御(統合中枢抑制)→異常行動,せん妄,幻覚,自殺等
(3)呼吸抑制→低酸素血症→低酸素性脳症
→そのまま心肺停止
or痙攣→痙攣後回復 (後遺症 or 完全回復)
後遺症症例:全身虚血(心肺停止)後のDelayed neuronal
cell damage(遅発性神経細胞傷害あり)→発達障害
この機序により、矛盾なく説明が可能である。
17
害反応(副作用)死亡例内訳
(2007.4.4現在)
<10
10代 成人 合計
突然死(厚労省公表例)
14
29
43
突然死(浜による独自収集例)
3
2
5
31
3
48
8
4
4
ADR害反応(副作用)の種類
1 突然死
小計
*a
2 異常行動・事故死 *a
17
0
3 呼吸抑制・肺炎・敗血症が疑われる例
0
5
4 感染症が増悪したと考えられる例
2
8
10
5 その他(肝障害、腎障害、詳細不明の死亡)
1
7
8
20
5
53
78
合
計 *b
*a:9歳以下(特に5歳以下)と、20歳以上は突然死しやすい。
10歳代は突然死はないが異常行動・事故死しやすい。
*b:厚労省発表55例は過少、厚労省把握で73人、他も含めすでに
78人が死亡。06年11月30日以降、厚労省が新たに追加した
18
死亡例は20人、うち突然死・心肺停止は14人!
結論(1) 睡眠中突然死し解剖された2例
1.オセルタミビル(タミフル)服用後睡眠中突然死し、解剖で肺水
腫が認められた2例はいずれも、タミフル(未変化体)の呼吸抑
制作用により、低酸素血症となり、睡眠中に突然心肺停止したと
考えられる。
2.解剖所見としての肺水腫は、タミフルの動物実験における多数
の呼吸抑制・突然死例で高頻度に認められた特長的な所見で
ある。
3.その作用機序は、呼吸抑制時の低酸素血症に伴い、肺胞内部
に貯留した水を血管内にくみ出すための機能が低下するためと
考えられる。
4.同様の突然死例における肺水腫症例は厚生労働省に多数報
告され、心肺停止時間が長ければ、心肺蘇生例でも、一過性に
生じている。
5.非ステロイド抗炎症剤で誘発される、従来型の感染後脳症(ライ
症候群、いわゆる「インフルエンザ脳症」)すなわち、敗血症-多
臓器不全症候群の一つとしてのARDSとは明瞭に区別できるし、
しなければならない。
19
結論(2)
意識消失、痙攣、発達障害をきたした例
1.オセルタミビル(タミフル)服用後、意識消失、痙攣をきたした2例
は、タミフル未変化体の呼吸抑制作用により、低酸素血症となり、
低酸素脳症、低酸素性痙攣であったと考えられる。
2.14歳男子は完全に回復したが、10か月の女児は低酸素状態
(虚血)が長かったと考えられ、そのために発達の退行、その後
の発達障害を認めたと考えられた。
3.神経障害の発症機序は Delayed neuronal cell damage
(遅発性神経細胞傷害)によると考えられる。
4.心肺停止時間がより長く、心肺蘇生後に一過性肺水腫を生じた
1歳未満の男児は、それまでつかまり立ちができていたのに、寝
たきりとなる重篤な後遺症を生じた。
5.タミフル服用後の痙攣は多くの場合、呼吸抑制による低酸素性
痙攣であるため、換気補助と酸素吸入が基本であり、ベンゾジ
アゼピンやバルビタールなど抗痙攣剤は禁忌とすべきである。
20
当日の質問・討論(1)
Q1:症例3は、一度神経症状が消失しているのでdelayed neuronal
cell damageとはいえないのではないか。
浜A1:一見正常になっているように見えるが、完全に正常化した
という証拠はない。また、一見障害がなく、数日後から悪化
するのが、delayed neuronal cell damageの特徴でもある。
Q2:厚労省例の肺水腫は、ステロイドパルスで軽快したのでは?
浜A2:非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)は使用してない。また、
「インフルエンザ脳症」(実はNSAIDs脳症)に伴うARDSな
ら、一旦肺水腫所見が改善しても再悪化するが、本例はその
まま軽快・再悪化はないので、低酸素症による肺水腫だ。
Q3:症例1ではテオフィリンが使われているがその影響は?
A3:50mgでしかも点滴では、痙攣するほど血中濃度は上昇しな
い(計算上短時間の静脈注射でもせいぜい6μg/mL上昇するだ
け、点滴ならせいぜいその半分で、全く痙攣は起きない)。
21
当日の質問・討論(2)
細谷(座長):タミフルを服用していない突然死をどう思うか。
浜:タミフルを服用しない突然死は,他の薬剤を使用している。
何も服用せずインフルエンザ単独例は知らない。あるか?
細谷:ある。
浜:あるならその文献を教えてほしい。
細谷:塩見氏の報告だ。
浜:塩見氏のもとの論文で基礎疾患も薬剤服用もなしとされ
た例は、その後、喘息があり、テオフィリンを常用してい
たことが判明している。服用中40℃の発熱をしたため、ク
リアランスが悪くなり、テオフィリンの血中濃度が上昇し、
痙攣したと考えられる。テオフィリンをほぼ同僚服用中イ
ンフルエンザに罹患した双子の兄弟のもう1人も、1時間後
に痙攣を生じた。明らかに痙攣テオフィリンによる痙攣・
心肺停止・突然死例だ。このほかには文献はあるか。
細谷:知らない。
浜:ということで、インフルエンザの自然経過での突然死はないし、
22
本例もインフルエンザによる突然死でなくタミフルによるものだ。
当日の質問・討論(3)
Q4:タミフルによる痙攣に「ベンゾジアゼピンやバルビタールなど
抗痙攣剤は禁忌とすべき」としているが、それなら何をすればよ
いのか。抗痙攣剤がなければ痙攣は止まらないのではないか。
A4:タミフルによる痙攣は単にサイトカインで痙攣を生じやすくなっ
ている熱性痙攣とは異なる。タミフルにより中枢が抑制され、呼
吸抑制されている。そのための低酸素性の痙攣である。抗痙攣
剤は中枢抑制さようがありタミフルによる中枢抑制をさらに悪化
させる。
したがって、タミフル使用後のケイレンには、呼吸の補助と十
分な酸素の供給が基本であり、そうした補助呼吸と十分な酸素
供給だけでたいていは痙攣が治まるはずだ。もしも、それでも
痙攣が治まらない場合にのみ、補助呼吸と十分な酸素供給が
できている条件で初めて、抗痙攣剤を使用することができるし、
その場合は必要だろう。
23