銀河円盤輻射輸送と実効的ダスト減光曲線、 および

銀河円盤輻射輸送と
実効的ダスト減光曲線、
および、電離背景放射
井上昭雄(大阪産業大学)
1
2009年2月25日 北大 「宇宙の構造形成と物質進化」
銀河円盤輻射輸送と実効的ダスト減光曲線

ダスト減光: ダスト粒子の性質も教えてくれるが、多くの
天文学者にとっては邪魔物


ダスト減光を補正して銀河の真のスペクトルを知りたい!
銀河は一般に個別の恒星に分解できない
銀河系などの「ダスト減光曲線(extinction law)」は恒星と観
測者の間のスクリーン
 銀河内の恒星、ダスト分布や散乱を考慮した「実効的ダスト
減光曲線(attenuation law)」が必要

銀河円盤での輻射輸送問題を解いて「実効的ダスト減
光曲線」をモデル化
 GALEXによる近傍円盤銀河の紫外線観測結果と比較


「実効的減光曲線」の形を決める物理は?
2
輻射輸送方程式
dI

(as)Ij*
s
I
d
aB
ds

(a
s)s
II0e

(a
s)(
s's)
Se
ds
'
s
0
j*
S
(1
)B

I
d

(
s)
a
I
輻射平衡や散乱がある
場合は反復解法が必要
s
3
輻射輸送方程式の反復解法(1)

Λ-iteration method
S→I→S→I→…
 S(n+1)=Λ[S(n)]という形式:”Λ-operator”
 光学的厚みの大きいところで収束が非常に遅い


Accelerated Λ-iteration (ALI) method
行列反転し易い形の近似的なΛ-operator, Λ*を用いて
S(n+1)=Λ*[S(n+1)]+(Λ-Λ*)[S(n)]
とすると収束が劇的に加速される
 Λ*の与え方にはいろいろ流派がある


さらなる収束加速手法

Ng法: 過去数回の線系結合により収束先を予測
4
輻射輸送方程式の反復解法(2)

variable Eddington factor (tensor) method
I→J(E)(0次)、H(F)(1次)、K(P)(2次)モーメントをとる
 f=K/Jでclose
 f=1/3とするとEddington近似
 形式解をray-traceして得たIから直接fを与えるとVEF(T)法



モーメント方程式系の積分と形式解ray-traceを交互に行なう
収束は非常に早い
5
銀河円盤の輻射輸送

平均的な光学的厚みは<10なのでΛ-iterationで十分
ただし、解像度を上げて見ると?
 ULIRG的なものは?

ダスト放射も含めるためには輻射平衡計算が必要
 ダスト減光曲線(紫外・可視・近赤)を出すには輻射平
衡計算不要、ただし散乱は重要

6
Inoue 2005, Inoue et al.2006
銀河円盤輻射輸送計算
z
i
観測者
古い星のスケールハイト
ダスト・ガス円盤のスケールハイト
若い星のスケールハイト

空間1次元平行平板+メガグレイン近似

Literation+Ng-acceleration
多相星間ガスモデルによりクランピー媒質をモデル化
 星の年齢に応じたスケールハイト(3成分)




若い星 < ダスト・ガス < 古い星
もっとも若い星は分子雲(クランプ)内に存在
近傍銀河のさまざまな物理量のかなり広い範囲を調査
7
Inoue 2005,Inoue et al.2006
メガグレイン近似
Neufeld (1991)
Hobson & Padman (1993)
Városi & Dwek (1999)
grain
absorption
absorption
grain
scattering
scattering
mega-grain
 輻射輸送の観点からは、両者は等価である



extinction Q-parameter: Qgrain → Qmega-grain
scattering albedo: grain → mega-grain
asymmetry parameter: ggrain → gmega-grain
 Városi
& Dwek (1999)の定式化を採用
8
Inoue 2005,Inoue et al.2006
クランピー媒質の物理モデル
冷却卓越
平均
圧力
熱的安定な2相:
赤:warm neutral medium
p/k  n
青:cold neutral medium
p/k  n0.7
(depends on cooling/heating function)

加熱卓越
緑: energy balance points
平均
密度
by Wolfire et al.(2003)
多相星間ガスモデル
星間ガスのエネルギー・化学・圧力平衡を仮定
 平均星間ガス圧力 → クランプと媒質の密度 (密度コントラスト)
 平均ガス密度 → クランプ体積占有率


自己重力的なクランプを仮定

クランプサイズ

ジーンズ長
9
Inoue 2005,Inoue et al.2006
年齢依存減光

銀河系の恒星年齢-スケールハイトの相関
若い恒星(年齢<300Myr):50pc
 HIガス(およびダスト):150pc
 古い恒星(年齢>300Myr):300pc


恒星はすべからく分子雲内で生まれる

もっとも若い恒星(年齢<10Myr)は分子雲(クランプ)内に
埋まっている


emissivityにローカルな強い減光を与えることで実装
銀河スペクトルの各波長を担う恒星の年齢が異なる

恒星種族iの光度割合fiλ、円盤の透過率Tiλとすると
実効的透過率:Tλ=ΣfiλTiλ
T  exp(   )
10
Inoue 2005
年齢依存減光の例(2種族系の場合)
 若い星種族(年齢<ty)
T

f
T

(
1

f
)
T


y
,


o
,
はクランプ(i.e., birth
clouds)内に分布する。
→ 年齢依存減光
 若い星種族の
luminosity fractionは
波長に依存する。
thick: constant SFR,
thin: exponential SFR
11
Inoue 2005
年齢依存減光の例(2種族系の場合)
T  exp(   )
 赤実線:非一様ISM、
一様光源→古い星
 青実線:非一様ISM、
年齢依存減光:
非一様光源(クランプへの
•UVは埋め込まれた若い星種族
埋め込み)→若い星
•NIRはdiffuseな古い星種族
↓ 緑実線:赤実線と青実線
の合成
UVに向かって透過率の急激な下降
→「赤い」スペクトル
 黒点線:一様なスクリーン
(extinction law)
 黒実線:一様なISM
12
散乱の効果
短波長で小さいアルベド:
FUVを吸収しやすい
→ 赤くなる
ただし、測定値の分散大
Draine (2003)
13
Inoue et al.2006
実効的ダスト減光曲線(近傍円盤銀河用)

FUV減光量の関数としてきれいに多項式フィットできる
銀河の進化
にともない実
効的ダスト減
光曲線も進
化するかもし
れない
14
GALEX紫外線観測との比較
可
視
光
で
規
格
化
し
た
減
光
量
2175Å
バンプ
NUV
FUV
15
1/波長(ミクロン)
GALEX紫外線観測との比較
Inoue et al.2006
実線:減光曲線
破線:Calzetti law
緑:Inoue et al.‘06
2175Åバンプ
に打ち勝って
「赤い」紫外
線を再現
16
仮定したダストモデル

Draine 2003
LMC平均には
顕著なバンプ有
17
赤:銀河系,緑:LMC平均,青:LMC2,ピンク:SMC
Inoue et al.2006
「赤い」紫外線を生み出すのは?
1.
2.
散乱(短波長ほどアルベド小さい場合)
恒星年齢依存減光


クランピー媒質:グレイ化
実効的ダスト減光曲線の進化?



ダストの種類、サイズ分布による散乱係数の変化
年齢依存減光→星形成史の影響
年齢依存減光→年齢依存スケールハイト?
18
電離背景放射
宇宙再電離、銀河形成抑制?など影響大
 z<3程度ではQSOによる寄与
 z>4程度では銀河による寄与?
 銀河の電離光子放射率は?脱出率は?
 電離光子直接観測により解決したい
 ライマンαエミッターが非常に面白そう
 銀河間ダストによる光電加熱率?

19
Inoue, Iwata, Deharveng (2006)
電離背景放射
20
Inoue, Iwata, Deharveng (2006)
脱出率の進化?
C49
D3-ap1
Grimes et al.
Haro11(re.) Siana et al.
stack
(21)
(11)
Shapley et al.
composite(14)
An average
IGM correction
is applied.
UVB data
red: Scott+02
green: Bolton+05
blue: Fan+06
open symbols:
high UV emissivity case
21
Iwata, Inoue, et al.2009
電離光子観測用特製フィルター

すばる望遠鏡主焦点カメラ専用

大阪産業大学産業研究所の資金援助
17.0cm
20.5cm
22
Iwata, Inoue, et al.2009
すばる望遠鏡による観測

すばる望遠鏡主焦点カメラ+特製フィルター
観測対象銀河:1000個以上!
 2007年9月9日から13日(5夜)
 山麓施設からのリモート観測

23
Iwata, Inoue, et al.2009
初期成果

198個の分光zのある銀河
Steidelカタログ:44個
 U-drop LBGs by 香西君@東北大:29個
 LAEs & LABs by 松田君@天文台:125個
 既知のAGN/QSOは除いてある


17個をNB359で>3σ検出
LBGs:7個/73個
 LAEs:10個/125個

24
Iwata, Inoue, et al.2009
25
Iwata, Inoue, et al.2009
26
Iwata, Inoue, et al.2009
27
SOME LAES AS AN “IONIZER”

FLC/FUV>1のライマンαエミッターがある!


零年主系列星でも説明できない?
分光スペクトルにはAGNの兆候はないが?

金属輝線の無いAGNもいる(Fan et al.1999,Hall et
al.2003)
28
そもそもLAEとは?
z>3で見つかっているライマンα輝線銀河
 LBGより恒星質量が小さい、若い、ダストが少ない
 観測的な光度関数はz=3-6まで変化ない

IGM吸収補正するとhigh-zほど個数あるいは光度増える
(Ouchi et al.2008)?
 z>6では急に個数あるいは光度が減る→再電離期


最近、z=2 LAEへの展開の兆し
ダスト多め、AGN多め?(Nilsson et al.2009)
 FMOSによる近赤分光のターゲット(OII,OIII,Hβ,Hα)
 LAEの進化とダスト、AGNの関係も興味深い

29
Inoue & Kamaya 2003,2004,2009
銀河間ダスト光電効果加熱

紫外線-X線背景放射がダスト粒子に当たると光電子
が出る→ガスの加熱
0.1 micron, neutral grain
old
Weingartner et al.2006
old new
Yield
new
auger
primary
secondary
auger
primary
secondary
30
Absorbed photon energy [eV]
Inoue & Kamaya 2009
Heating rate [erg s-1 cm-3]
銀河間ダスト光電効果加熱率
ダストガス比:銀河系の1%、MRNサイズ分布
ガス温度:10,000K、UV-X線背景放射
old Y model new Y model old Y model new Y model
HeII
HI
HeII
HI
31
3
1
Gas number density [cm-3]
Inoue & Kamaya 2009
ダストサイズの影響
MRN
黒太線
>0.1ミクロン
ピンク
超新星ダスト
(破壊なし)
赤
超新星ダスト
(破壊あり)
緑
<250A
黒細線
32
Inoue & Kamaya 2009
銀河間ダスト光電効果加熱率レシピ
グラファイトとシリケイトを50%ずつ混ぜた
MRNサイズ分布の場合
33
Inoue & Kamaya 2009
銀河間ダスト加熱:再電離期では?
log J nonionizing
UV background
X-ray background
13.6 eV 300 eV
log E
temperature doubling time-scale
34