イタリアンライグラス新品種 「ヤヨイワセ」「タチユウカ」のご紹介

牧草と園芸 第64巻第4号(2016年)
雪印種苗(株)牧草・飼料作物研究グループ技術顧問
小橋 健
イタリアンライグラス新品種
「ヤヨイワセ」「タチユウカ」のご紹介
1 .極早生新品種「ヤヨイワセ」
特性
1 )早晩生と草姿
はじめに
秋播栽培で 3 月下旬(九州)∼ 4 月上旬(関東)
イタリアンライグラスの極早生品種は、早生品種
に出穂期に達する極早生の 2 倍体品種です。草型は
より 2 週間程度早く出穂し収穫できることから、早
直立型で、
「ハナミワセ」に比べて、上位葉がやや
播トウモロコシや早期水稲と組み合わせた作付体系
長めで太く、やや垂れ、稈径も若干太めです(写真
での利用に適しています。また、収穫・調製作業を
1 )。
早生品種の収穫前にゆとりを持って行えるため、イ
タリアンライグラスを主に利用する大規模経営農家
では労働力分散によって土地生産性が向上するとと
2 )収量性
もに、早刈りや刈遅れに伴う品質の低下も緩和でき
千葉及び宮崎研究農場での秋播試験の結果から、
ます。なお、極早生品種は春播性が極めて高いこと
「ハナミワセ」に比べて 1 番草の乾物収量は10∼
から 9 月上旬に播種すれば年内に出穂し、年内草と
16%多収、 2 番草の乾物収量は12∼25%多収、合計
春 1 番草を利用する晩夏播栽培にも適しています。
乾物収量は10∼16%多収を示しました。「ヤヨイワ
一方で再生力は早生品種より弱く生育期間が短いた
セ」の収量性は「ハナミワセ」より明らかに優れて
め、暖地型永年牧草へのオーバーシーディングや暖
います(図 1 )
。
地型芝草の冬期緑化を目的にスポーツターフとして
も活用されています。
弊社では極早生品種「ハナミワセ」を平成11年に
3 )耐病性
品種登録し販売してまいりましたが、このたび、収
千葉研究農場での幼苗時病原菌接種検定試験の結
量性、耐病性に優れた極早生の新品種「ヤヨイワ
果から、「ヤヨイワセ」は冠さび病及びいもち病抵
セ」
を開発しましたので、その特性をご紹介します。
育成経過
平成18年秋から「ハナミワセ」
「タチマサリ」
「さ
ちあおば」を母材に用いて育種を開始し、出穂、草
勢、草型、病害抵抗性等による選抜を繰り返して
「SI-13」を育成しました。平成22年秋から生産力
検定試験及び採種性検定試験を行い、「SI-13」の結
果が良好であったことから、
「ヤヨイワセ」と命名
し、平成27年10月に品種登録出願しました(出願公
表:平成28年 1 月)
。
写真 1 ヤヨイワセの草姿
6
(kg/10a)
1400
1200
1000
஝
800
≀
཰ 600
㔞
400
(kg/10a)
1000
(117)
120
(100)
100
116
(95)
98
100
93
否
吡
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吒
௚
ရ
✀
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200
800
஝ 600
≀
཰
400
㔞
1␒ⲡ
2␒ⲡ
(110)
(100)
112
100
110
(94)
96
100
91
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吡
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ရ
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0
0
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図 1 イタリアンライグラス極早生品種「ヤヨイワセ」の乾物収量
注)H22年∼H27年の平均値、グラフ内の数値はハナミワセ対比で( )は合計対比
100
100
90
ᙅ
90
ᴟᙅ
80
୰
80
ᙅ
70
ಶ
60
య
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30
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ಶ
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30
ᙉ
20
20
10
10
0
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0
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図 2 冠さび病抵抗性
䝝䝘䝭䝽䝉
図 3 いもち病抵抗性
抗性の個体割合が「ハナミワセ」に比べて明らかに
高く、冠さび病に「極強」
、いもち病に「やや強」
と判定しました(図 2 、図 3 )
。両病害は主に温暖
地の早播栽培( 9 月上旬播)で発生し易く、特に生
育初期に多発すると大きな収量減につながります
(写真 2 )。近年の温暖化に伴って秋播栽培でも被
害が増える傾向にあることから、温暖地では「ヤヨ
イワセ」の利用をお勧めします。
4 )耐倒伏性
千葉及び宮崎研究農場における秋播栽培の結果
から、春 1 番草での倒伏の発生程度は「ハナミワ
セ」と同程度で、極早生品種のなかでは耐倒伏性に
写真 2 いもち病多発時の被害状況 (宮崎県)
7
5 )飼料成分
優れています(図 4 )。ただし、出穂期以降は強い
風雨により倒伏し易くなりますので、肥沃地では化
粗蛋白質、繊維、炭水化物、硝酸態窒素、ミネラ
成肥料の施用を控えるとともに、刈遅れしないよう
ルバランスは、
「ハナミワセ」と同程度でした。宮
留意ください。
崎研究農場での 1 年のみの結果ではありますが、成
分的には特に他品種との差異はないと思われます
(表 1 )。
6
5
4
ಽ
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⛬
ᗘ
2
6 )作付体系
「ヤヨイワセ」は出穂が早く、生育期間が短いた
め、夏作飼料作物や飼料イネと組合せやすい品種で
1
す(図 5 )。
0
吻
吿
叻
呆
吒
௚
ရ
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㻿
否
吡
吶
呆
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吻
吿
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༓ⴥ◊✲㎰ሙ
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ရ
✀
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否
吡
吶
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図 4 イタリアンライグラス極早生品種「ヤヨイワセ」の倒伏程度
注)倒伏程度は1(無)
∼9(甚)、H22年∼H27年の平均値
表 1 イタリアンライグラス「ヤヨイワセ」の飼料成分 (宮崎研究農場のH27年生産力検定試験の 1 番草サンプル、乾物中%)
中性
低消化
酸性
粗脂肪
デタージェント デタージェント 性繊維
(EE)
繊維(ADF)繊維(NDF) (Ob)
非繊維性 水溶性
炭水化物 炭水化物
(NFC) (WSC)
硝酸態
窒素
(NO3ー)
品種名
粗蛋白
(CP)
ヤヨイワセ
9. 7
2. 4
28. 9
55. 0
34. 4
20. 6
26. 3
12. 1
0. 013
2. 75
0. 40
0. 11
2. 4
ハナミワセ
9. 6
2. 4
28. 7
54. 5
35. 7
18. 8
27. 0
12. 1
0. 013
2. 51
0. 36
0. 12
2. 3
他品種S
9. 9
2. 5
27. 4
54. 1
32. 5
21. 6
25. 9
12. 0
0. 015
2. 93
0. 40
0. 13
2. 5
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カリウム カルシウム マグネシウム K/(Ca+Mg)
(Ca)
(Mg) (当量比)
(K)
㻤᭶
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㻝㻝᭶
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図5 「ヤヨイワセ」と夏作飼料作物の作付体系例
8
䖩
䖩
「タチユウカ」(品種登録申請名称:SI-14)を開発
まとめ
いたしました(写真 3 、図 6 、図 7 )。詳細な特性
や栽培方法については、本誌2015年 7 月号をご参照
以上のように、
「ヤヨイワセ」は、収量性、耐病
ください。
性に優れる安定多収の極早生新品種です。栽培適地
は、多雪地帯を除く東北∼九州地域で、特に冠さび
平成28年秋には「優春」の後継品種として本格販
病やいもち病が発生し易い温暖地で能力を発揮しま
売の予定ですので、安全で良質な自給飼料の増産に
す。 茎 数 が 多 い タ イ プ で す の で 播 種 量 は 3 ∼
是非お役立下さい。
4 kg/10aの標準量で十分です。早播夏作物の前作
として晩夏播及び秋播利用が標準的な使い方です
が、春播性も他品種以上に高いことから、春播栽培
も可能です。
本年秋より試作販売を開始し、平成29年秋には
「ハナミワセ」の後継品種として本格販売の予定で
すので、良質な自給飼料の増産に是非お役立下さ
い。
2 .早生新品種「タチユウカ」
このたび、畜産草地研究所と共同で、家畜に有害
な硝酸態窒素含量が低く多収で耐倒伏性の早生品種
140
100
䠄99䠅
䠄100䠅
䠄96䠅
䠄100䠅
䠄93䠅
䠄101
䠄100䠅
䠄97䠅
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1200
100
83
஝≀཰㔞 (kg/10a䠅
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1400
121
100
120
80
写真 3 タチユウカの草姿
71
59
60
40
1000
䠄96䠅
䠎␒ⲡ
䠍␒ⲡ
800
600
400
200
20
0
0
䝍䝏䝴䜴䜹
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図 6 タチユウカの硝酸態窒素含量対比
図 7 タチユウカの乾物収量
注)
千葉研究農場生産力検定試験及び畜産草地研究所多肥 試験の2013年、2014年の2カ年平均。10月下旬播の春1番草。
グラフ上の値の上段は優春対比、下段は他品種W対比。
注)千葉研究農場(10月下旬播)、宮崎研究農場
(11月上旬播)
の
2013年、
2014年の2カ年平均値。
( )の数値は優春対比。
9