精神疾患を模倣する新たな遺伝子改変マウスの作製に

報道解禁日時
テレビ・ラジオ・WEB 平成 28 年 6 月 27 日午後 6 時以降
新聞
平成 28 年 6 月 28 日朝刊以降
平成 28 年 6 月 27 日
文部科学記者会 各位
名古屋市立大学大学院薬学研究科
病態生化学分野 教授 服部 光治
電話:052-836-3465
[email protected]
名古屋市立大学薬学部事務室
事務長 井上 誠
電話:052-836-3401
[email protected]
(名古屋教育医療記者会・名古屋市政記者クラブと同時発表)
精神疾患を模倣する新たな遺伝子改変マウスの作製に成功
〈要
旨〉
本学大学院薬学研究科病態生化学分野の服部光治教授・酒井かおり(大学院生)と
藤田保健衛生大学総合医科学研究所の宮川剛教授・昌子浩孝研究員らの共同研究チー
ムは、人間の精神疾患を模倣する新たな遺伝子改変マウスの作出に成功しました。
これにより、人間の精神疾患の発症に関する理解が進むとともに、新薬の開発にも
貢献することが期待されます。この成果は英国科学誌ネイチャーの姉妹誌「サイエン
ティフィック・リポーツ Scientific Reports」電子版(英国時間 6 月 27 日午前 10 時)
に掲載されます。
<内容の詳細>
研究の背景
人間の精神疾患は病気や患者によって多様な症状を示しますが、その根底には共通のメ
カニズムが存在することが知られています。例えば、妄想や幻聴を示す統合失調症と、他
人とのコミュニケーションに困難さを示す自閉症は、一見全く違う病気に見えますが、そ
の原因や発症機構には多くの共通点があります。また、同じ遺伝子の異常が複数の異なる
精神疾患患者で見つかる例も知られています。しかし、単一の遺伝子で複数の異なる症状
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が出るメカニズムは明確には理解されていません。また、薬物や治療法の開発には、人間
の病態を模倣する動物モデルが必要ですが、その開発も容易ではありません。
研究手法と成果
研究チームは、多くの精神疾患で異常が報告されている遺伝子「リーリン」に着目
しました。リーリンは非常に重要な遺伝子であることは古くから知られており、その
機能が充分で無い場合、人間では統合失調症や自閉症が発症するリスクが高まるとい
う仮説があります。しかしマウスでリーリン遺伝子を完全に不活化すると、脳が極端
に異常になるため、人間の精神神経疾患のモデルとしては使用できないことが知られ
ていました。
そこで研究チームは遺伝子組み換え技術を駆使して、リーリン遺伝子のごく一部(約
1%)だけを欠損するマウスを作出し、組織学的解析と網羅的行動解析を行いました。
その結果、脳構造には軽微な異常が観察されるとともに、多動、作業記憶障害、孤
立傾向、高所を怖がらない、などの行動異常が生じることが判明しました。これらの
異常は、人間の精神疾患患者、中でも統合失調症、躁うつ病、自閉症においてしばし
ば観察されます。よって、リーリン遺伝子のわずかな異常が精神疾患発症につながる
ことがわかりました。
研究成果の意義および今後の展開
この遺伝子改変マウスは既に、大手製薬企業での研究に使用されることが決まって
います。また、研究チームは現在、別の大手製薬会社と共同して、リーリン遺伝子の
機能を上昇させる研究を進めています。リーリンの機能を上昇させる薬ができれば、
今は限定的にしか治療法がない精神神経疾患の新たな薬物となることが期待されます。
<掲載される論文の詳細>
掲載誌:
「サイエンティフィック・リポーツ Scientific Reports」電子版
Scientific Reports, in press. (Impact Factor = 5.228)
題 名 : Mice that lack the C-terminal region of Reelin exhibit behavioral
abnormalities related to neuropsychiatric disorders.
著 者: Kaori Sakai*, Hirotaka Shoji*, Takao Kohno, Tsuyoshi Miyakawa and
Mitsuharu Hattori.
*equal contribution
酒井かおり(名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程2年・病態生化学分野)
昌子浩孝(藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門・博士研究員)
河野孝夫(名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学分野・助教)
宮川 剛(藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門・教授、
自然科学研究機構生理学研究所行動様式解析室・客員教授)
服部光治(名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学分野・教授)
以 上
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