PRESS RELEASE 平成 29 年 2 月 20 日 名古屋市立大学事務局企画広報課広報係 文部科学記者会、科学記者会、名古屋教育医療記者会、名古屋市政記者クラブ 〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄 1 TEL:052-853-8328 FAX:052-853-0051 MAIL: [email protected] と同時発表 HP URL:http://www.nagoya-cu.ac.jp/ 精神神経疾患の改善につながる酵素の発見 研究成果は、北米神経科学会の「The Journal of Neuroscience」 (ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)電子版に 2017 年 2 月 17 日(米国東部時間)掲載 名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学分野の服部光治教授、荻野ひまり(大学院生) 、久永有紗(元大学 院生)と、東京医科歯科大学および生理学研究所の共同研究チームは、脳の機能を向上させるタンパク質を分解・ 不活化する酵素の同定に成功しました。この酵素の阻害剤は脳の機能を向上させ、アルツハイマー病や統合失調 症に対する新薬となることが期待されます。 【研究成果の概要】 人間の精神神経疾患、中でも記憶能力が低下していくアルツハイマー病や、妄想や幻聴を示す統合失調症は、 患者数も多く、大きな社会問題になっています。これらの病気は一見全く異なりますが、その根底には脳の機能 を司る遺伝子やタンパク質の異常が共通メカニズムとして存在することが知られています。しかし人間の脳の機 能やその異常に関してはまだ謎も多く、新薬開発も容易ではありません。 研究チームは、多くの精神神経疾患で異常が報告されているタンパク質「リーリン」に着目しました。リーリ ンが脳で非常に重要なタンパク質であることは古くから知られており、その機能や量が充分でない場合、統合失 調症やゕルツハイマー病が発症するリスクが高まると想定されています。マウスでは、リーリンタンパク質を脳 に投与したり、遺伝子改変を行ってリーリン量を増やしたりすると、統合失調症やゕルツハイマー病の症状が改 善することが多くのグループから報告されています。しかし治療のために人間の脳にリーリンタンパク質を注射 したり、人間の遺伝子を改変したりすることは現実的ではありません。 1/4 そこで研究チームは、リーリンタンパク質を分解する(すなわち、リーリンの機能を低下させる)酵素に着目 しました。そのような酵素が存在することは10年以上前から知られていましたが、その正体については謎とさ れてきました。研究チームは5年以上の時間をかけてこの酵素の単離に成功し、ADAMTS-3 という名前が付け られていたタンパク質であることを見出しました。さらに遺伝子組み換え技術を用いて、ADAMTS-3 を欠損す るマウス(ノックアウトマウス)を作出したところ、このマウスの脳ではリーリンの量と活性が上昇しており、 また、神経機能が上昇していることを示す証拠を得ました。既に特許も取得しています。 研究チームは現在、名古屋市立大学医学部および製薬会社と共同して、この酵素の阻害剤の開発を行っていま す。リーリンの機能を上昇させる薬ができれば、今は限定的にしか治療法がない精神神経疾患の新たな治療薬と なることが期待されます。 2/4 特殊用語等の説明 用語 説 リーリン 明 古典的な脳異常の突然変異マウス「リーラー」で欠損するとして同定された、タンパク質。一 部の神経細胞から分泌され、他の神経細胞の機能を制御する。巨大なこと、脊椎動物にしか存在 しないこと、などの特徴をもつ。ゕルツハイマー病や統合失調症を改善する効果がある。 ADAMTS-3 A Disintegrin and Metalloproteinase with Thrombospondin Motifs (ADAMTS)という分 泌型(細胞外で機能する)プロテゕーゼフゔミリーに属する分子の一つ。プロコラーゲンを分解 することが報告されているが、それ以外に機能や基質についてはほとんど報告されていない。 ノックゕウト マウス 特殊な遺伝子改変技術を利用し、マウスの遺伝子(総数約 25,000)のうち、1種類だけの機 能を欠失させたマウス。今回の実験では、ADAMTS-3 の遺伝子を欠失させたマウスを用いた解 析を行った。 統合失調症 かつては「精神分裂病」と呼ばれ、思考や感情の安定性や一貫性を欠き、幻覚、幻聴、妄想な どを典型的な症状とする精神疾患。障害有病率が約 1%(国内患者数約80万人)とされ、明確 な原因は不明である。薬物治療が中心となるが、現在存在する薬物では改善しない場合も多く、 大きな問題となっている。 ゕルツハイマ ー病 脳の神経細胞が死んでいき、認知機能低下や人格変化を起こす疾患。国内患者数は 200 万人 以上とも言われる。ゕミロイドβと呼ばれるペプチドの蓄積や毒性が主因と考えられているが、 現在、治療法や改善法はほぼない。 【掲載された論文の詳細】 【掲載学術誌】 「The Journal of Neuroscience」(ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)電子版 【論文タイトル】 Secreted Metalloproteinase ADAMTS-3 Inactivates Reelin 「分泌型メタロプロテゕーゼ ADAMTS-3 はリーリンを不活化する」 【著 者】 Himari Ogino*, Arisa Hisanaga*, Takao Kohno, Yuta Kondo, Kyoko Okumura, Takana Kamei, Tempei Sato, Hiroshi Asahara, Hitomi Tsuiji, Masaki Fukata, and Mitsuharu Hattori. *equal contribution 荻野ひまり(名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程2年・病態生化学分野) 久 永 有 紗(名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程修了・現在製薬会社勤務) 河 野 孝 夫(名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学分野・講師) 3/4 近 藤 佑 多(名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程2年・病態生化学分野) 奧 村 恭 子(名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程修了・現在製薬会社勤務) 亀 井 隆 奈(名古屋市立大学薬学部薬学科卒業・現在製薬会社勤務) 佐 藤 天 平(東京医科歯科大学 大学院医歯学部総合研究科 システム発生・再生医学分野・特任助教) 浅 原 弘 嗣(東京医科歯科大学 大学院医歯学部総合研究科 システム発生・再生医学分野・教授) 築 地 仁 美(名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学分野・講師) 深 田 正 紀(自然科学研究機構生理学研究所 分子細胞生理研究領域生体膜研究部門・教授) 服 部 光 治(名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学分野・教授) 【お問い合わせ先】 《研究に関するお問い合わせ先》 名古屋市立大学大学院薬学研究科 病態生化学分野 教授 服部 光治 Tel:052-836-3465 E-mail:[email protected] 以 4/4 上
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