薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年5月)

質疑応答
2016年5月
薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年5月)
【医薬品一般】
Q:肺炎マイコプラズマ肺炎の治療に使用する抗菌薬は?(薬局)
A:病原体の肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は細胞壁がないので、ペニシリン系
薬やセフェム系薬等の細胞壁合成阻害作用の抗菌薬には感受性がなく、蛋白合成阻害作用のマ
クロライド系薬やテトラサイクリン系薬、核酸合成阻害作用のニューキノロン系薬が有効であ
る。
第1選択薬は、副作用等の問題からマクロライド系薬が推奨される。 効果は、投与後
小 48~72時間の解熱で概ね評価できる。無効の肺炎には、使用する必要があると判断さ
児 れる場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬(8歳未満には原則禁
( 忌)の投与を考慮する。
15
推奨投与期間:エリスロマイシン14日間、クラリスロマイシン10日間、アジスロマイ
歳
シン3日間、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬(ミノサイクリン)
以
7~14日間。
下
) 重篤症例には、ステロイドの全身投与が考慮されるが、安易なステロイド投与は控え
る。
第1選択薬は、マクロライド系薬の7~10日間投与〔アジスロマイシンは3日間(徐
放製剤は1日間) 〕が推奨される。効果は、投与後48~72時間の解熱で評価する。無
成 効の場合には、テトラサイクリン系薬、または、ニューキノロン系薬の7~10日間の
人 投与が推奨される。
呼吸不全を伴う重症マイコプラズマ肺炎では、ステロイドの全身投与の併用が推奨さ
れる。
(肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針:日本マイコプラズマ学会(2014年初版)より)
Q:嚥下困難でデパケン TM Rの服用が困難となった場合、細粒やシロップへ変更する方法は?
(薬局)
A:薬剤服用により症状が安定している場合、安易な剤形変更は推奨されない。やむを得ず変更す
る場合、血中濃度の日内変動を近い状態で変更する目安は、1日投与量は変えずに服用回数を
1回増やす方法がある。しかし、1日2回服用していた場合は、1日投与量は変えずに服用回
数を変更するに際し、2つの考え方がある(表)。いずれの方法にしても剤形を切り替える際
は、血中濃度モニタリングをしながら慎重に投与方法を決定する。
変更前
デパケン TM R錠
1日2回投与
変更後
考え方
薬物動態学的比較検討のシミュレーションでは、デ
デパケン TM 細粒・ パケン TM R錠1日1回投与とデパケン TM 細粒・シロ
シロップ
ップ1日2回投与の日内変動がほぼ同程度であるこ
1日3回投与
とから、投与回数を1回増やすとほぼ同様の日内変
動のパターンを示すと推定される。
TM
デパケン 細粒・ 投与回数を増やすことでコンプライアンスの低下が
シロップ
懸念されるため、無理に投与回数を増やさずに切り
1日2回投与
替える。
(協和発酵キリンホームページより)
Q:芍薬甘草湯を高プロラクチン血症に使用するか?(薬局)
A:芍薬甘草湯は、高プロラクチン血症・高テストステロン血症に効果があることが最近の研究で
明らかにされている。作用機序は、有効成分のグリチルレチン酸が、テストステロンの合成を
阻害し、また、下垂体のドパミン受容体に作用してプロラクチン分泌を抑制すると示唆されて
いる(保険適応外使用)。
(報告)不妊を主訴に来院し、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)負荷テストで潜在
性高プロラクチン血症と診断された51例に、芍薬甘草湯エキス7.5g/日を8週間以上投与
し、TRH負荷テストにおけるプロラクチン30分値を、投与前と8週間後で比較した。8
週間以上服用し、TRH負荷テストの再検を行った症例は22例で、血中プロラクチンは治
療前79.7±14.9ng/mLから65.3±20.9ng/mLに有意に低下した(p<0.001)。服用中、悪心
や嘔吐等の副作用が出現した症例はなかった。
Q:薬物が胆汁排泄されるための条件は?(薬局)
A:一般には薬物が胆汁中へ排泄されるためには、血管側・胆管側の2つの細胞膜を通過するため、
①ある程度の極性と脂溶性を持つ、②ヒトでは一定以上の分子量500~1,000を持つことが必要
とされる。脂溶性薬物は、肝臓で肝ミクロソームの薬物代謝酵素により水酸化され、次いでグ
ルクロン酸抱合または硫酸抱合を受けて適当な極性を持ち分子量が大きくなった代謝物とし
て胆汁中に排泄されることが多い。一方、水溶性の高い薬物の胆汁排泄には、アニオン性の薬
物およびグルクロン酸抱合代謝物を認識するMRP2、極めて多岐にわたる薬を輸送できるP糖タンパク質やBCRP等のトランスポーターの関与が明らかにされている。
【安全性情報】
Q:副腎皮質ステロイドを含有する痔疾患治療の外用薬は、ドーピング禁止になるか?(薬局)
A:副腎皮質ステロイドは、経口使用、経直腸使用、静脈内使用、筋肉内使用は競技会(時)に禁
止となるが、それ以外の使用経路(皮膚外用、点眼、点鼻等)は禁止とならない。これまで 副
腎皮質ステロイドを含有する痔疾患治療の外用薬(軟膏、注入軟膏、および坐剤)は禁止され
ないと解釈されてきたが、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)も参加している薬の検索
システム「Global DRO」において、副腎皮質ステロイドを含有する痔疾患治療の外用薬の
うち注入軟膏および坐剤の解釈について、JADAと他国との間に齟齬があることが判明した。
JADAが世界アンチ・ドーピング機構の見解を問い合わせたところ、副腎皮質ステロイドを
含有する痔疾患治療の外用薬のうち注入軟膏および坐剤については「経直腸使用」として禁止
方法に該当するとの回答を得た。従って、副腎皮質ステロイドを含有する痔疾患治療の外用薬
のうち注入軟膏および坐剤を競技会(時)に治療目的で使用する場合は、治療使用特例(TU
E)が必要となる。肛門塗布については禁止とならず、TUEは必要ない(JADA2016年3月
10日)。
【その他】
Q:ジストニアとは?(一般)
A:「反復性・捻転性の持続する一定のパターンをもった筋収縮により、特定の異常な姿勢や動作
が障害される病態」と定義される不随意運動疾患である。
(原因)原因が明らかでない一次性と他疾患等に続発する二次性(症候性)に分類され、一次
性はさらに遺伝性、非遺伝性(特発性)に分類される。二次性は、パーキンソン病や脳梗
塞等の他疾患を原因とする続発性ジストニア、統合失調症、うつ病等の精神疾患治療薬等
(ドパミン拮抗作用のある薬剤に多い)に関連して起こる遅発性薬剤性ジストニア、交通
事故等での外傷を誘因とした外傷性ジストニア等がある。
(症状)異常な筋緊張により筋肉が自分の意思通りに動かなくなり、異常な動作や姿勢になる。
具体的には、瞼が勝手に閉じようとする、首が上下・左右に傾くあるいは捻れる、鉛筆や
ピアノ・ギター演奏など特定の動作が出来ない、体がゆがむ等の症状を呈する。ジストニ
アの特徴として、典型的には体の一部に自身の手等で感覚入力を与えることにより症状が
軽快する「感覚トリック」や、朝起床後に症状が軽快する「早朝効果」がみられ、特定の
動作や姿勢で症状が変動する。一般的には知的機能障害や視力・聴力など感覚機能異常は
なく、死に至ることは少ない。
(難病情報センターホームページより)
Q:癌の骨髄転移とは?(薬局)
A:骨髄は悪性腫瘍が転移する臓器の1つであり、癌腫剖検例の約20~30%に骨髄転移が認められ
る。骨髄転移は主に血行性のため、赤色髄を有する部位への転移が多く、脊椎骨、骨盤骨、肋
骨、胸骨、頭蓋、大腿骨等への転移が知られている。一般に骨髄転移の機序は、①原発巣から
の浸潤、②血管内侵入、③移動、④骨髄血管内定着、⑤血管外脱出、⑥転移巣形成がある。悪
性腫瘍の骨髄転移の頻度は、①乳腺(42.1%)、②リンパ節(36.7%)、③肺・気管支(30.4%)、
④膀胱(23.3%)、⑤前立腺(22.7%)、⑥骨髄(21.3%)、⑦腎臓(17.6%)、⑧子宮(17.5%)、
⑨小腸(14.4%)、⑩胃(12.4%)である。
(九州がんセンターホームページより)