第1問 虚偽表示によって権利者として仮装された者から直接に権利を

伊 藤 塾
第1問
虚偽表示によって権利者として仮装された者から直接に権利を譲り受けた第三者が善意
であった場合において,その「善意の第三者」からの転得者等も民法第94条第2項によっ
て保護されるか否かという問題については,「転得者等が善意の場合にのみ保護する」と
いう見解がある。次のアからオまでの記述のうち,
この見解に対する批判として不適切な
ものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア
この見解によれば,転得者が前主である善意の第三者に対して担保責任を追及するこ
とができることとなって,善意の第三者に不利益が生じる可能性がある。
イ
この見解によれば,悪意の転得者も,いったん善意の第三者に権利を取得させた上で,
この善意の第三者から権利を譲り受ければ,当該権利を取得することができることにな
る。
ウ
この見解によれば,善意の第三者が,悪意の第三者のために虚偽表示の対象となった
財産に抵当権を設定した場合に,法律関係が複雑になるおそれがある。
エ
この見解によれば,善意の第三者が虚偽表示の対象となった財産を処分したり,当該
財産に担保権を設定したりすることが,事実上大幅に制約されることになる。
オ
この見解によれば,保護の対象から転得者を例外的に除外することを検討しなければ
ならなくなるが,その識別基準にあいまいなところがある。
1
アウ
2
アエ
3
イウ
-1-
4
イオ
5
エオ
第1問
正解4
Date
/
/
/
Che
Check
通謀虚偽表示と転得者
ア 批判として適切である。
設問の見解によると,悪意の転得者等は,民94条2項によって保護されないので,前主に対して担保
責任(追奪担保責任〔民561〕)を追及することが考えられる。しかし,これでは,「善意の第三者」と
して保護された前主に不利益が生じる可能性がある。
イ 批判として不適切である。
設問の見解は,「転得者等が善意の場合にのみ保護する」としているから,悪意の転得者は,権利を
取得することができない。
ウ 批判として適切である。
設問の見解によれば,善意の第三者が取得した財産に抵当権を設定しても,抵当権の設定を受けた債
権者が悪意であるときは,原所有者は当該抵当権の無効を主張できるので,法律関係が複雑になるおそ
れがある。
エ 批判として適切である。
設問の見解によれば,善意の第三者が民94条2項により財産を取得しても,悪意の転得者等は保護さ
れず,原所有者は,当該転得者等に対しては無効を対抗できる。その結果,善意の第三者は,取得した
財産を処分したり,担保権を設定したりすることが事実上大幅に制限されることになる。
オ 批判として不適切である。
設問の見解は,「転得者等が善意の場合にのみ保護する」としているから,保護の対象から転得者を
例外的に除外することを検討しなければならなくなるということはない。かかる批判が妥当するのは,
絶対的構成に立ちつつ,信義則上,転得者等を除外すべき場合があると考える見解である。
以上により,批判として不適切なものはイ・オであり,正解は4となる。
推論問題の解法手順
を伝授する講義
-2-
伊 藤 塾
1-1 解法ノート~技術編~
推論問題の解法手順
【解法テクニック総論】
本問題は組み合わせ問題なので,全ての肢の正誤判断ができる必要はない。
自信をもって正解できる肢を選んで消去法で正誤判断をしていこう。
まず,何が論点となっているか,すなわち,問題作成者が受験者に対し,何を答えさせたいかを考察する。
その上で,2つの見解を噛み砕いて要約し,簡単な肢に当てはめていく。
そして,肢レベルでは,問題文の中からキーワードを抽出し(要件抽出),要約した説に当てはめて答え
を導いていく。
STEP1 【対立点の把握】
対立点 ⇒ 悪意の転得者が保護されるかどうか
STEP2 【設問見解の把握・要約】
否定説…悪意の転得者は保護されない←設問見解(相対的構成説)
肯定説…悪意の転得者も保護される(絶対的構成説)
STEP3 【選択肢の絞込み】
✍ 設問見解は,悪意の転得者は保護せず,権利取得を認めない。
イ この見解によれば,悪意の転得者も,いったん善意の第三者に権利を取得させた上で,この善意の第
三者から権利を譲り受ければ,当該権利を取得することができることになる。
悪意者でも権利取得することができる→設問見解ではない(絶対的構成説)
☞ 「この見解」は,設問見解への批判として不適切であり,記述イを含む選択肢が正解である。
∴ 1 アウ
2 アエ
3 イウ
4 イオ
5 エオ
オ この見解によれば,保護の対象から転得者を例外的に除外することを検討しなければならなくなる
が,その識別基準にあいまいなところがある。
原則としてすべての転得者が保護されることが前提となっている→設問見解ではない(絶対的構成説)
☞ 「この見解」は,設問見解への批判として不適切であり,記述オを含む選択肢が正解である。
∴ 1 アウ
2 アエ
3 イウ
4 イオ
5 エオ
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1-2 解法ノート~解析編~
1 解答へのアプローチ
⑴ 設問見解
善意の第三者からの転得者等が善意の場合にのみ民法第94条第2項によって保護する〔相対的構成説〕
A
①94Ⅰ
B
②譲渡
C
善意
③譲渡 転得者
D
悪意
□ 対立点 ⇒ 悪意の転得者が保護されるかどうか
□ 解答に必要な条文の抽出 ⇒ 民法94条2項
⑵ 条文の検討
・民法94条2項は,「善意」という各人の主観を保護要件としている。
☞ 各人に民法第94条第2項を当てはめて,保護に値するかを個別に(相対的に)判断するのが条文の
文言に素直といえる〔相対的構成説〕。
★ 過去問チェック
☑ Aは,Bと協議の上,譲渡の意思がないにもかかわらず,その所有する甲土地をBに売り渡す旨の仮
装の売買契約を締結した。この場合において,Bは,AB間の協議の内容を知らないCに甲土地を転売
し,さらに,Cは,その協議の内容を知っているDに甲土地を転売したときは,Aは,Dに対し,AB
間の売買契約の無効を主張することができる。
正 誤:×(大判昭6.10.24,通説)
∵ 絶対的構成説によれば,甲土地を善意のCに転売した時点でAは確定的に甲土地の所有権
を喪失するため。
出 題:平11-3オ
推論問題の解法手順
を伝授する講義
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2 各説の主張の整理
相対的構成説(設問見解)
❶【主張】
転得者Dが善意の場合は保護し,悪意の場合は保
護しない
絶対的構成説(大判昭6.10.24,通説)
❷【批判】(記述アエ)
転得者Dが悪意の場合,DはAからの返還請求を
拒めず,善意者Cが追奪担保責任(民561条)を追
及されることになる
↓その結果
Cは,善意者としか取引をすることができず,C
の財産処分権が事実上制約され,Cを保護した意
味がなくなる
❸【批判】(記述ウ)
Aとの関係で,相対的にDの権利取得の効果を決
すると,法律関係が複雑になる
❺【批判】(記述イ)
❹【主張】
善意者Cを“わら人形”として介在させれば,悪 ひとたび善意者Cが現れれば,転得者Dは,たと
意者Dも保護されることになるが,この結論は妥 え悪意であっても保護されるべきである
当ではない
❼【批判】(記述オ)
❻【反論】
信義則などの一般条項に違反するかどうかの基準 Cが“わら人形”に過ぎない等の不都合が生じる
が曖昧であって,紛争解決基準である民法の解釈 場合には,信義則(民1条2項)などの一般条項
論として妥当ではない
を適用して,Dの権利取得を否定すればよい
3 補充解説
絶対的構成説が主張する信義則を用いた処理とは,具体的には“わら人形”に過ぎないCとDを一体と
みて悪意者と扱う法律構成を意味する。
①94Ⅰ
②譲渡
C D
A
B
善意 悪意
悪意者
-5-
☞参考資料
★ 推論問題出題実績データ ~民法編~(総則・物権)★
出題分野
意思表示
無権代理及び表見代理
条件期限
時
効
物権総則
不動産物権変動
登記請求権
推論問題の解法手順
を伝授する講義
出題年度
内 容
パターン別
パターン別
H12-4
94 条2項の第三者と転得者
知識中心型問題
H17-5
表見代理と無権代理人の責任
知識中心型問題
H10-2
表見代理と無権代理人の責任
知識中心型問題
H8-3
無権代理の追認権の性質
H14-3
条件,期限の性質
国語問題
知識中心型問題
H24-6
時効の利益及び中断
知識中心型問題
H21-6
割賦払いの期限の利益
知識中心型問題
H17-7
抗弁権の永久性
知識中心型問題
H13-4
消滅時効の起算点
知識中心型問題
H12-2
仮差押えによる中断の効力
知識中心型問題
H9-4
時効の援用
知識中心型問題
H8-2
時効学説
知識中心型問題
H19-8
二重譲渡の法的構成
知識中心型問題
H18-9
物権的請求権
国語問題
H18-8
一物一権主義
国語問題
H15-8
公信の原則
H11-17
物権的請求権
知識中心型問題
国語問題
H9-9
一物一権主義
国語問題
H7-11
不動産物権の公示制度
国語問題
H3-7
物権的請求権
国語問題
H23-7
取消後の第三者
知識中心型問題
H22-7
解除と登記
知識中心型問題
H21-8
遺産分割と第三者
知識中心型問題
H13-5
詐欺と第三者
知識中心型問題
H12-9
取得時効と登記
知識中心型問題
H11-15
賃料請求と登記
知識中心型問題
H11-13
二重譲渡と登記
知識中心型問題
H9-16
177 条の第三者
H20-8
登記請求権の法的性質
国語問題
知識中心型問題
-6-