発表概要 H28 年度 熊本大学工学部マテリアル工学科「マテリアル工学演習」 氏名(学籍番号) 池田晃三(131-t2703) 論文題目 Growth of Linear Carbon Chains inside Thin Double-Wall Carbon Nanotubes 著者 C. Zhao, R. Kitaura, H. Hara, S. Irle, and H. Shinohara 論文出典 J. Phys. Chem. C, 115, 13166-13170 (2011). 【Introduction】 直鎖状 C 鎖(カルビン)は、ダイヤモンド、グラファイト(グラフェン)、フラーレン(カーボンナノチューブ)に 次ぐ四つ目の同素体として近年関心を集めている。しかし、長い C 鎖は高い化学反応性及び不安定性により 合成が困難であるため、実際の構造や特性は明らかになっていない。したがって、今回、カーボンナノチュー ブ(CNT)内の 1 次元ナノ空間を用いて直鎖状 C 鎖(カルビン)の合成を行う。この合成された直鎖状 C 鎖(カル ビン)はグラフェン壁によって守られているため、高温でも安定している。このことを活かし、さらに長い C 鎖を得ることを目的とする。 【Experimental Procedure】 試料作製.C₁₀H₂分子は、グラファイト微粒子の LA(Laser Ablation) を行った後に,HPLC(High-Performance Liquid Chromatography)によっ て精製を行う。DWCNT は、CVD 法による合成を行い、30 分間乾燥 空気中(823K)で加熱する。その後、C₁₀H₂分子を DWCNT(約 0.2g)内 に封入するために、24 時間 353K で保持されたポリインのメタノー ル溶液中に浸しておく。最後に IR 加熱炉で高真空状態(10⁻⁶Torr 程 度)、24 時間、1073~1273K でアニーリングを行う。 ラマン測定. 488nm,514nm,633nm で発振する Ar イオンと He-Ne レ ーザーが備えてある HR-800 によって測定を行う。 HRTEM(高分解透過型電子顕微鏡)観察. 高真空下(10⁻⁸Torr)、室温 で 80keV の加速電圧を動作させた JEOL を用いて行う。 量子化学 MD シミュレーション.MD 時間調整及び核温度をそれぞ れ 0.48fs と 2700K にセットし、シミュレーションを行う。 Figure 1. Raman spectra measured with excitation energy of 514nm. (a, b, and c) Raman spectra of pristine DWCNTs, C ₁ ₀H ₂ @DWCNTs, and annealed C₁₀H₂@DWCNTs, respectively. 【Result and Discussion】 Figure 1 は、514nm の励起エネルギーによって測定されたラマンス ペクトルを示している。b )に注目すると新奇なラマンバンド(P バン ド)が 2000~2200 cm⁻¹で現れていることがわかる。以前の報告[1] [2]に よると、このピークは DWCNT 内の C₁₀H₂分子の伸縮振動に起因し ていると考えられている。さらに、c )では、P バンドが消えて、新奇 なラマンバンド(L バンド)が現れる。この L バンドの起源は高温反応 生成物であり、L バンドの強度は長時間加熱と超音波処理の後でさえ 変化しない。これはグラフェン壁によって守られているためである。 また、理論的には生成された C 鎖は約 50 個であると考えられる。 興味深いことに、約 1.4nm の大きい直径を持つ CNT では、L バン Figure 2. Raman spectra of annealed C ₁ ₀H ₂ @DWCNTs with different excitation energy; red, ドが観察されなかった。 green, and blue lines corresponds to Raman Figure 2 は、3 つの異なる励起波長(633nm,514nm,488nm)によって測 spectra measured with 633, 514, and 488 nm, respectively. 定した 1473K でのアニールされた C₁₀H₂@DWCNT のラマンスペク トルを示している。全てのケースで L バンドは観察されたが、周波数 はレーザーの波長に依存するため変化する。また、C 鎖の異なる長さが、異なる L バンドのラマンシフトを引 き起こすため、Figure 2 に示されている観察されたラマン測定の結果は、今回の融合反応で形成された生成物 がさまざまな長さの C 鎖を含んでいるという事を示唆している。 【Conclusion】 今回の C 鎖の合成では、DWCNT の極小空間が理想的かつ有能な反応場を提供するのに必要不可欠な役割 を果たしている。また、現時点で直鎖状 C 鎖(カルビン)約 50 個の炭素原子と見積もられているが、原理的に は DWCNT の長さと一致する数千の炭素原子まで拡張することが可能である。 【References】 [1]Nishide, D.et al. Chem. Phys. Lett. 2006,428,356-360. [2]Nishide, D.et al. J. Phys. Chem. C 2007,111,5178-5183.
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